自宅は長男、預貯金は長女に。財産ごとの分け方と協議書の書き方
「父の自宅は長男が相続し、預貯金は長女が相続することになった」
「財産の分け方は決まったけれど、遺産分割協議書にはどう書けばいいの?」
「不動産や銀行口座は、どこまで詳しく記載する必要がある?」
相続人全員で財産の分け方が決まっても、その内容を遺産分割協議書にどのように記載すればよいのか、迷うことがあります。
特に、不動産と預貯金では、財産を特定するために必要な情報が異なります。
また、財産の記載が不正確だと、相続登記や金融機関の相続手続きで、協議書の修正や追加書類を求められる場合があります。
今回は、不動産や預貯金を相続人ごとに分ける場合の遺産分割協議書の書き方を、具体例を使って整理します。
① 自宅は長男、預貯金は長女に分けてもいい?
例えば、父が亡くなり、相続人が長男と長女の2人だったとします。
母はすでに亡くなっています。
父が残した財産は、次のとおりです。
自宅の土地と建物:評価額2,000万円
A銀行の普通預金:500万円
B信用金庫の定期預金:300万円
合計2,800万円です。
長男は父と同居しており、今後も自宅に住み続けたいと考えています。
一方、長女は遠方に住んでいるため、不動産を取得するつもりはありません。
そこで、2人は次のように話し合いました。
自宅の土地と建物は長男が取得する
A銀行とB信用金庫の預貯金は長女が取得する
このような分け方はできるのでしょうか。
相続人全員が合意していれば、原則として可能です。
遺産分割は、必ずしも法定相続分どおりに財産を分けなければならないわけではありません。
今回の例では、長男と長女の法定相続分はそれぞれ2分の1ですが、全員の合意により、それとは異なる割合で分けることもできます。
ただし、相続税などの問題が生じる場合や、判断能力に問題のある相続人がいる場合などには、別の注意が必要です。
② 不動産は住所を書くだけでは足りない?
長男が自宅を取得することになった場合、遺産分割協議書にはどのように記載すればよいのでしょうか。
例えば、
「父の自宅は長男が取得する」
という書き方です。
相続人同士ではどの不動産を指しているのか分かるかもしれません。
しかし、不動産の相続登記に利用する場合には、これだけでは不十分なことがあります。
不動産を正確に特定するためには、登記事項証明書に記載されている不動産の表示を確認することが重要です。
土地の場合には、
所在
地番
地目
地積
などを記載します。
建物の場合には、
所在
家屋番号
種類
構造
床面積
などを記載します。
例えば、土地と建物を長男が取得する場合には、次のような記載方法が考えられます。
【記載例】
第1条 次の不動産は、相続人山田一郎が取得する。
(土地)
所在 〇〇市〇〇町一丁目
地番 12番3
地目 宅地
地積 123.45平方メートル
(建物)
所在 〇〇市〇〇町一丁目12番地3
家屋番号 12番3
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階65.00平方メートル、2階45.00平方メートル
※上記は架空の記載例です。
実際には、対象となる不動産の登記事項証明書に記載された内容を確認して作成します。
また、マンションの場合には、敷地権や専有部分の表示なども関係するため、一般的な土地・建物とは記載方法が異なることがあります。
③ 自宅の住所と登記上の地番は違うことがある
不動産の記載で注意したいのが、住所と地番の違いです。
例えば、普段使用している住所が、
「〇〇市〇〇町一丁目5番10号」
だったとします。
しかし、土地の登記事項証明書には、
「〇〇市〇〇町一丁目12番3」
と記載されていることがあります。
これは、住居表示と登記上の地番が異なるためです。
遺産分割協議書に不動産を記載する際には、普段使っている住所をそのまま書くのではなく、登記記録を確認することが大切です。
また、父が所有していた土地が1筆だけとは限りません。
自宅の敷地が複数の土地に分かれていたり、道路部分の共有持分を所有していたりすることもあります。
こうした不動産の記載漏れにも注意が必要です。
④ 預貯金はどのように記載する?
続いて、長女が預貯金を取得する場合です。
例えば、
「銀行預金は長女が取得する」
と記載する方法も考えられます。
しかし、金融機関で相続手続きをする際には、対象となる預貯金が明確に分かるように記載しておく方が確実です。
一般的には、
金融機関名
支店名
預金の種類
口座番号
取得する相続人
などを記載します。
【記載例】
第2条 次の預金は、相続人山田花子が取得する。
1.〇〇銀行〇〇支店
普通預金 口座番号1234567
2.△△信用金庫△△支店
定期預金 口座番号7654321
なお、実際には通帳や残高証明書などを確認し、金融機関名や口座番号を正確に記載します。
ゆうちょ銀行の場合には、記号・番号を用いて貯金を特定する方法があります。
金融機関によって協議書に求められる記載内容が異なる場合があるため、事前に確認しておくことが大切です。
⑤ 預貯金の金額も書かなければならない?
ここは、よく疑問になるところです。
例えば、A銀行の普通預金が500万円あったとします。
遺産分割協議書に、
「A銀行〇〇支店の普通預金500万円は長女が取得する」
と記載した方がよいのでしょうか。
実は、口座を十分に特定できるのであれば、預貯金の残高を必ず記載しなければならないわけではありません。
なぜなら、預貯金の残高は変動することがあるからです。
例えば、死亡日時点では500万円だった預金について、相続手続きが完了するまでに利息が付いたり、引落しなどが行われたりする場合です。
そうすると、協議書に記載した金額と実際の払戻金額が一致しなくなることがあります。
そのため、預金の金額を固定せず、対象となる口座の預金債権全体を取得することが分かるように記載する方法があります。
例えば、
「〇〇銀行〇〇支店の普通預金(口座番号1234567)に係る預金債権の全部を相続人山田花子が取得する」
という書き方です。
必要に応じて、付随する利息などの取扱いも明確にしておくことが考えられます。
ただし、預貯金の一部分だけを取得する内容で合意している場合には、取得金額や割合などを明確にする必要があります。
⑥ 不動産と預貯金を一つの協議書にまとめてもいい?
不動産と預貯金について、それぞれ別々に遺産分割協議書を作らなければならないわけではありません。
例えば、長男が不動産を取得し、長女が預貯金を取得する場合には、一つの協議書にまとめることができます。
具体的には、
第1条 長男が取得する不動産
第2条 長女が取得する預貯金
というように、取得する相続人や財産ごとに整理する方法です。
また、不動産が複数ある場合には、土地や建物を番号で区分することも考えられます。
ただし、一つの協議書にまとめる場合でも、それぞれの財産が正確に特定できている必要があります。
金融機関によっては、遺産分割協議書とは別に、所定の相続届などの提出が必要になることがあります。
⑦ 長男と長女の取り分が違っても大丈夫?
先ほどの例では、長男が2,000万円相当の不動産を取得し、長女が800万円の預貯金を取得することになります。
法定相続分で計算すれば、2人の取り分はそれぞれ1,400万円です。
しかし、相続人全員が納得しているのであれば、必ずしも同じ金額になるように分ける必要はありません。
ただし、ここで気を付けたいことがあります。
例えば、
「長男が自宅を取得することには賛成だけれど、財産の価値に差がありすぎる」
と長女が考えている場合です。
このようなときには、不動産を取得する長男が、長女に一定の金銭を支払う方法もあります。
これを代償分割といいます。
⑧ 代償分割をする場合は、どう書く?
例えば、先ほどの相続財産が合計2,800万円で、長男と長女が最終的に同じ1,400万円ずつ取得するようにしたい場合です。
長男が2,000万円相当の不動産を取得し、長女が800万円の預貯金を取得すると、600万円の差が生じます。
そこで、長男が長女へ300万円を支払うことにします。
すると、
長男:不動産2,000万円から代償金300万円を負担し、実質1,700万円
長女:預貯金800万円と代償金300万円で、合計1,100万円
となります。
この場合、まだ300万円の差があります。
2人の取得額を同額にするには、長男から長女へ600万円の代償金を支払う必要があります。
その結果、
長男:2,000万円-600万円=1,400万円
長女:800万円+600万円=1,400万円
となります。
このような代償分割をする場合には、遺産分割協議書に代償金の支払義務を記載します。
【記載例】
第3条 相続人山田一郎は、第1条記載の不動産を取得する代償として、相続人山田花子に対し、金600万円を令和〇年〇月〇日限り、山田花子が指定する金融機関の口座へ振り込む方法により支払う。振込手数料は山田一郎の負担とする。
このように、代償金の金額や支払期限、支払方法などを明確にしておくことが大切です。
なお、代償分割には相続税の計算などが関係する場合もあるため、金額が大きい場合には税務上の確認も必要になります。
⑨ 自宅を売却して、代金を分ける場合は?
相続人の誰も自宅を取得する予定がない場合には、不動産を売却して、その代金を分配することもあります。
この方法を換価分割といいます。
例えば、父名義の自宅を売却し、売却代金から必要な費用を差し引いた残額を、長男と長女で2分の1ずつ取得する場合です。
このようなケースでは、遺産分割協議書に、
売却する不動産
売却手続きを進める人
売却代金から控除する費用
残金の分配割合
などを明確にしておくことが考えられます。
ただし、不動産を売却する場合には、相続登記だけでなく、売買契約や譲渡所得税などの問題も関係します。
また、売却のために相続人の一人の名義にする場合には、その名義変更の目的や分配方法を明確にしておくことが重要です。
⑩ 後から新しい財産が見つかったら?
遺産分割協議書を作成した後に、別の預貯金や不動産が見つかることもあります。
例えば、父の財産について協議書を作成した後、別の信用金庫に定期預金があることが分かった場合です。
このようなときには、新しく見つかった財産について、改めて相続人全員で協議が必要になることがあります。
そのため、遺産分割協議書を作成するときに、後から見つかった財産の取扱いを定めておく方法も考えられます。
ただし、
「記載されていない財産はすべて長男が取得する」
というような条項を安易に入れると、相続人が想定していなかった財産まで対象になる可能性があります。
後から見つかった財産を誰が取得するかについても、相続人全員の意思を確認しておくことが大切です。
⑪ 借金についても協議書で決められる?
亡くなった方に借金がある場合、相続人間で負担方法を話し合うことがあります。
例えば、
「父の借金は長男が全部引き受ける」
と合意する場合です。
しかし、このような合意を遺産分割協議書に記載したからといって、当然に債権者に対してもその内容を主張できるわけではありません。
相続人間の内部的な負担の合意と、債権者に対する債務の取扱いは別の問題だからです。
債務の引受けには、債権者の承諾などが必要になる場合があります。
そのため、預貯金などのプラスの財産と、借入金などのマイナスの財産は、同じように考えないことが重要です。
⑫ 遺産分割協議書を完成させる前に確認したいこと
最後に、協議書を作成する際の確認事項を整理します。
1.相続人が全員参加しているか
戸籍などによって法定相続人を確認します。
2.不動産の表示は正しいか
登記事項証明書と照合し、土地や建物の記載漏れがないか確認します。
3.預貯金を正確に特定できているか
金融機関名、支店名、預金種別、口座番号などを確認します。
4.誰がどの財産を取得するか明確か
取得者や取得割合を確認します。
5.代償金がある場合、支払条件は明確か
金額、期限、支払方法などを確認します。
6.後から財産が見つかった場合の扱いを考えているか
追加の財産について、どのように協議するかを確認します。
7.相続手続きに利用できる形式になっているか
不動産の相続登記や金融機関での手続きに使う場合には、署名・実印の押印・印鑑証明書なども確認します。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人全員で合意した財産の分け方を記録する重要な書類です。
今回のポイントを整理すると、
自宅は長男、預貯金は長女という分け方もできる
相続人全員が合意していれば、法定相続分と異なる分け方も可能
不動産は登記事項証明書に基づいて正確に記載する
預貯金は金融機関名・支店名・預金種別・口座番号などで特定する
預貯金の残高は必ずしも記載する必要はない
不動産と預貯金を一つの協議書にまとめることもできる
代償分割では代償金の金額や支払方法などを明確にする
後から財産が見つかった場合の取扱いにも注意する
協議書の内容と提出先の手続条件を確認しておく
ということになります。
遺産分割協議書は、財産の分け方が決まったからといって、簡単な文章だけで済ませればよいというものではありません。
特に、不動産や預貯金については、誰がどの財産を取得するのかが明確になるように記載する必要があります。
相続登記や金融機関での手続きが円滑に進められるよう、財産の内容を正確に確認したうえで協議書を作成することが大切です。
相続登記や遺産分割協議書については、こちらのページでも紹介しています。
