親の自宅を売る・貸す・残す。どの方法が適切?
「母が施設に入所して、実家が空き家になった。売却した方がいいのだろうか?」
「家を残しておきたいけれど、誰も住まないなら賃貸に出した方がいい?」
兵庫県芦屋市の司法書士・松岡文和のブログです。相続や遺言、成年後見、死後事務、不動産登記など、身近な法律や手続きについてわかりやすく紹介しています。日々の仕事のことや、ちょっとした出来事なども気ままに綴っています。
「80代の母が一人暮らしをしている。今は元気だけれど、将来の自宅について何か準備しておいた方がいいの?」
「認知症になってからでは家を売却できないと聞いたけれど、元気なうちなら何ができる?」
「任意後見契約や家族信託という制度があるらしいけれど、どちらを利用すればいいの?」
高齢の親が自宅を所有している場合、将来の住まいや財産管理について考えておくことが大切です。
今は元気に生活していても、病気や転倒による入院、介護施設への入所などをきっかけに、自宅での生活を続けることが難しくなる場合があります。
また、認知症などによって判断能力が低下すると、自宅を売却するために成年後見制度などの利用が必要になることもあります。
前回までは、親が施設へ入所した場合や、認知症になった後の自宅売却について説明しました。
では、親が元気で、自分の財産について十分に判断できるうちであれば、どのような準備ができるのでしょうか。
今回は、高齢の親が元気なうちに自宅について確認しておきたいこと、任意後見契約や財産管理等委任契約、家族信託などの制度、将来の売却に備える方法について説明します。
これまでのシリーズで取り上げてきた家庭を考えてみましょう。
母:83歳。芦屋市内に一戸建て住宅を所有
長男:55歳。西宮市在住
長女:52歳。神戸市在住
父:10年前に死亡
母は長年、自宅で一人暮らしをしていました。
しかし、転倒による入院をきっかけに施設へ入所し、その後、認知症が進行しました。
現在は、自宅を売却することについて十分に判断できない状態になっています。
そこで長男と長女は、成年後見制度の利用を検討することになりました。
ところが、長男はふと考えました。
「母が元気だった頃に、何か準備しておけばよかったのではないか?」
例えば、母がまだ自宅で元気に生活していた頃です。
その時点では、母自身が将来の住まいや自宅の売却について判断できる状態にありました。
もし、その頃に家族で今後のことを話し合っていたら、違った対応ができた可能性があります。
ただし、親が高齢だからといって、必ず任意後見契約や家族信託などを利用しなければならないわけではありません。
まずは、本人の希望や財産状況を確認することから始めることが大切です。
高齢の親の自宅について考える場合、まず確認したいのは、本人が今後どのような生活を望んでいるかということです。
例えば、次のような希望が考えられます。
できるだけ今の自宅に住み続けたい
一人暮らしが難しくなったら施設に入りたい
施設へ入所しても、自宅は残しておきたい
自宅に戻れなくなった場合には売却してもよい
自宅を売却した代金を施設費用に使いたい
将来は子どもに自宅を相続してほしい
これらの希望によって、必要な準備は異なります。
例えば、母が「施設に入っても、できれば自宅へ戻りたい」と考えているのであれば、将来の売却だけでなく、自宅をどのように管理するかを考えておく必要があります。
一方、母が「もう住めなくなったら売却して、施設の費用に使ってほしい」と希望しているのであれば、売却に備えた準備を検討することになります。
ここで注意したいのは、子どもの希望と親の希望が必ずしも一致するとは限らないことです。
長男は自宅の売却を希望していても、母は長年暮らした家を残しておきたいと考えているかもしれません。
自宅は単なる不動産ではなく、本人が長年生活してきた場所です。
そのため、子どもが将来の相続を考えて自宅の処分を決めるのではなく、まず所有者である親自身の希望を確認することが重要です。
親が元気なうちに確認しておきたいことの一つが、不動産の登記内容です。
例えば、母が長年住んでいる自宅について、子どもたちは当然に母の名義になっていると思っていたとします。
ところが、登記事項証明書を取得してみると、亡くなった父の名義が残っていたということも考えられます。
この場合には、まず父の相続について確認する必要があります。
また、母と父の共有名義になっている場合もあります。
自宅の売却などを検討する際には、誰が所有者なのか、共有者がいるのかを確認することが必要です。
そのため、次のような事項を調べておきましょう。
土地と建物の登記名義人
共有名義になっていないか
亡くなった方の名義が残っていないか
抵当権などの登記が残っていないか
登記簿上の住所と現在の住所が一致しているか
特に、2026年4月1日からは、不動産所有者の住所・氏名の変更登記が義務化されています。
所有者の住所や氏名に変更があった場合には、原則として変更日から2年以内に登記する必要があります。
また、2026年4月1日より前に住所などを変更していた場合にも、原則として2028年3月31日までに変更登記を行う必要があります。
なお、検索用情報の申出によって、法務局が職権で住所等変更登記を行う「スマート変更登記」という制度も始まっています。
親が施設に入所して住所を変更する場合などには、この制度も関係することがあります。
自宅の権利関係や登記の状況を早めに確認しておくことは、将来の売却や相続の準備にもつながります。
親が元気なうちに、自宅に関する重要書類の保管場所を確認しておくことも大切です。
例えば、次のような書類です。
登記済証または登記識別情報通知
不動産を購入したときの売買契約書
固定資産税の納税通知書
建築確認関係の書類
建物の図面
住宅ローンに関する書類
火災保険などの契約書類
リフォームや修繕に関する資料
これらの書類が、将来の自宅売却や建物の管理に必要になる場合があります。
例えば、母が昔購入した自宅について、登記済証がどこにあるのか分からない場合です。
登記済証や登記識別情報通知を紛失していても、それだけで自宅を売却できなくなるわけではありません。
ただし、所有権移転登記の際には、本人確認情報の作成など、別の手続きが必要になる場合があります。
そのため、今のうちに書類の保管場所を確認しておくとよいでしょう。
また、自宅を売却することになった場合には、家財道具の整理も必要になります。
特に、古い写真や貴重品、重要な書類などについては、本人の希望を確認しながら整理することが大切です。
将来、自宅を売却するかどうかを判断する際には、親の財産や生活費の状況も重要になります。
例えば、母の収入が年金だけで、今後施設へ入所することになった場合です。
施設利用料や医療費などが毎月必要になります。
母の年金と預貯金で費用を十分に負担できるのであれば、急いで自宅を売却する必要がない場合もあります。
一方、施設費用を負担するために預貯金が不足する見込みであれば、自宅の売却を検討することも考えられます。
そのため、次のような事項を整理しておくとよいでしょう。
年金などの収入
預貯金の状況
毎月の生活費
医療費や介護費用
固定資産税
自宅の修繕費や維持管理費
将来の施設費用
ただし、親の財産状況を子どもが一方的に調べてよいというわけではありません。
本人の了解を得て、必要な範囲で確認することが基本です。
また、親の預貯金は親自身の財産です。
将来の相続人だからといって、子どもが自由に使えるわけではありません。
自宅を売却するかどうかを考える際には、まず親自身の今後の生活を支えるために、どの程度の資金が必要になるのかを確認することが大切です。
将来の自宅について考える場合、親が元気なうちに売却するという方法もあります。
例えば、母が次のように考えている場合です。
「一戸建ては管理が大変になってきた。今のうちに売って、駅に近いマンションへ引っ越したい」
このような場合、母自身が売却の内容を理解し、判断できるのであれば、通常の不動産売買の手続きを進めることが考えられます。
また、施設への入所が具体的に決まっており、本人も自宅を売却したいと考えている場合には、入所に合わせて売却を検討することもできます。
ただし、将来認知症になるかもしれないという理由だけで、急いで売却する必要はありません。
例えば、母がまだ自宅での生活を希望している場合です。
このような場合には、住宅の安全性を確認したり、今後の管理方法を検討したりすることも考えられます。
重要なのは、本人が十分に判断できるうちに売却するという選択肢があることを知っておくことです。
将来の判断能力の低下に備えるための方法は、必ずしも何らかの契約を結ぶことだけではありません。
本人が希望するのであれば、元気なうちに住み替えや自宅の売却を検討することも一つの方法です。
高齢の親が元気なうちに、財産管理について一定の事務を子どもなどに任せる方法として、財産管理等委任契約があります。
例えば、母は自分で物事を判断できますが、足腰が弱くなり、銀行や役所へ出向くことが難しくなった場合です。
このような場合、本人が信頼できる方と委任契約を締結し、必要な手続きを任せることが考えられます。
例えば、
預貯金に関する一定の手続き
公共料金などの支払い
役所への届出
自宅の管理に関する事務
各種契約に関する手続き
などです。
ただし、委任契約を締結すれば、どのような行為でも自由にできるわけではありません。
代理人が行えることは、契約で定められた権限の範囲によります。
また、金融機関などでは、委任状や委任契約書があっても、所定の手続きや本人確認が必要になる場合があります。
特に不動産の売却については、本人の意思や代理権の有無などを慎重に確認する必要があります。
さらに、財産管理等委任契約は、将来の判断能力の低下に対応する任意後見契約とは別のものです。
一般の委任契約については、本人の判断能力が低下しただけで当然に終了するとは限りませんが、そのまま従来どおりに利用できるかは別の問題です。
本人が適切に監督できなくなった場合には、財産管理の安全性にも注意が必要になります。
財産管理等委任契約は、親が判断能力を有している間の事務を支援する方法として考える必要があります。
親が元気なうちに検討できる制度の一つが、任意後見契約です。
任意後見契約は、将来、認知症などによって判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ信頼できる方に財産管理などを任せる契約です。
例えば、母が次のように考えている場合です。
「将来、認知症になって自分で財産の管理ができなくなったら、長男に手続きを任せたい」
このような場合、母と長男が任意後見契約を締結することが考えられます。
任意後見契約は、公正証書によって作成する必要があります。
また、契約を締結しただけで、すぐに任意後見人として活動できるわけではありません。
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することによって、任意後見契約の効力が生じます。
そして、任意後見人は、契約で定められた代理権の範囲で、本人の財産管理などを行います。
例えば、契約の内容に応じて、次のような事務が考えられます。
預貯金の管理
生活費や施設費用の支払い
介護施設への入所契約
不動産の管理
不動産の売却に関する手続き
ただし、不動産売却について適切な代理権が与えられていることが必要です。
また、任意後見人には任意後見監督人による監督があります。
そのため、任意後見契約を締結しておけば、将来どのような財産処分でも自由にできるというわけではありません。
任意後見契約を検討する際には、誰に任せるのか、どこまでの権限を与えるのかを十分に考える必要があります。
財産管理等委任契約と任意後見契約は、どちらも他人に財産管理などを任せるための契約ですが、役割が異なります。
財産管理等委任契約
主に、本人が判断能力を有している間に、財産管理などの事務を他人に任せるための契約です。
例えば、入院して銀行へ行けなくなったときに、一定の手続きを代理人に任せることが考えられます。
任意後見契約
将来、本人の判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ財産管理などを任せる人と権限を決めておく契約です。
家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されてから効力が生じます。
この2つの契約を組み合わせる方法もあります。
例えば、母が元気な間は財産管理等委任契約によって一定の事務を長男に任せ、将来判断能力が不十分になった場合には任意後見契約に移行するという方法です。
このような契約の組み合わせは、一般に「移行型」と呼ばれています。
ただし、財産管理等委任契約と任意後見契約を組み合わせなければならないわけではありません。
また、家族による財産管理で問題が生じないように、代理権の範囲や管理状況の報告方法などを明確にすることも重要です。
本人の財産状況や必要な支援によって、どのような契約が適切かは異なります。
将来の自宅の管理や売却に備える方法として、家族信託という仕組みもあります。
家族信託は、信託法に基づいて、本人の財産を信頼できる家族などに託し、あらかじめ定めた目的に従って管理や処分を行う仕組みです。
例えば、母が元気なうちに、長男との間で自宅について信託契約を締結する場合です。
母が委託者となり、長男が受託者となります。
そして、母自身を受益者として、自宅を信託財産にする方法が考えられます。
この場合、信託契約の内容に従って、長男が自宅を管理したり、必要に応じて売却したりする仕組みを設けることができます。
例えば、将来母が施設に入所し、自宅へ戻る見込みがなくなった場合に、長男が信託契約に従って自宅を売却することを想定する方法です。
ただし、家族信託には注意点もあります。
まず、本人が信託契約の内容を理解して判断できることが必要です。
また、不動産を信託する場合には、受託者への所有権移転登記と信託の登記などが必要になります。
さらに、信託財産と受託者自身の財産は区別して管理しなければなりません。
信託契約の内容によっては、信託終了後の財産の帰属や税務上の問題についても検討する必要があります。
また、家族信託は財産管理の仕組みであり、介護施設への入所契約など、本人の生活に関するすべての法律行為を当然に代理できる制度ではありません。
家族信託は自宅の管理や売却に役立つ場合がありますが、すべての家庭に必要な制度ではありません。
信託する財産の内容や家族関係、契約後の管理方法などを十分に検討する必要があります。
高齢の親の自宅について、子どもから次のような提案が出ることがあります。
「母が元気なうちに、実家を私の名義に変更しておけばいいのでは?」
例えば、母の自宅を長男に贈与する場合です。
贈与が有効に成立すれば、自宅の所有権を長男に移すことができます。
しかし、単に名義を変更すれば、将来の問題がすべて解決するわけではありません。
まず、贈与税の問題があります。
親から子どもに不動産を贈与した場合、贈与税が課税されることがあります。
また、不動産取得税や登録免許税なども関係します。
さらに、贈与によって自宅の所有者が長男になった場合、母はその自宅の所有権を失うことになります。
そのため、母が引き続き自宅に住む場合には、居住についてどのような権利関係になるのかも確認する必要があります。
また、長男が母より先に亡くなった場合や、長男に債務の問題が生じた場合などには、新たな問題が発生する可能性もあります。
将来、認知症になるかもしれないという理由だけで、自宅を子どもに贈与することが適切とは限りません。
贈与を検討する場合には、税務面だけでなく、贈与後の所有権や親の居住についても慎重に考える必要があります。
高齢の親が元気なうちに、遺言書を作成しておくことも考えられます。
例えば、母が次のように希望している場合です。
「私が亡くなったら、この自宅は長女に相続してほしい」
このような場合、遺言書によって、自分の死亡後の財産の承継について意思を示すことができます。
しかし、ここで注意したいことがあります。
遺言書は、原則として亡くなった後の財産の承継などについて定めるものであり、生前の自宅売却を子どもに任せるためのものではありません。
例えば、母が認知症になり、施設費用を確保するために自宅を売却する必要が生じた場合です。
母が遺言書を作成していたとしても、その遺言書だけで長女が母の自宅を売却できるわけではありません。
生前の財産管理と、死亡後の財産承継は別の問題だからです。
そのため、将来の自宅について考える場合には、次の2つを区別しておくことが重要です。
生前に自宅をどうするか
本人による売却、適切な代理人への委任、任意後見契約、家族信託などを検討します。
亡くなった後に自宅を誰に承継させるか
遺言書の作成などを検討します。
両方の問題を整理しておくことで、将来の財産管理と相続について考えやすくなります。
高齢の親の自宅については、法律上の契約だけでなく、家族の協力体制も重要になります。
例えば、母が一人暮らしをしており、長男と長女が別々の場所に住んでいる場合です。
今後、母が入院したり、施設に入所したりすることになれば、さまざまな対応が必要になります。
例えば、
誰が母の様子を定期的に確認するのか
病院や施設からの連絡を誰が受けるのか
自宅の鍵を誰が管理するのか
自宅の修繕や管理を誰が担当するのか
重要な書類をどこに保管しているのか
財産管理について誰が相談窓口になるのか
といったことです。
このような事項をあらかじめ話し合っておくだけでも、将来の負担を減らせる場合があります。
ただし、家族内で役割を決めたことと、法律上の代理権が与えられたことは別です。
例えば、長男を財産管理の担当者と決めたからといって、長男が当然に母の不動産を売却できるわけではありません。
また、子ども同士の間で、親の財産管理について意見が対立することもあります。
そのため、親自身の意思を確認し、誰に何を任せるのかを明確にしておくことが大切です。
例えば、母に物忘れが増えてきたものの、まだ自宅について自分の希望を話せる場合です。
このような場合、任意後見契約などを締結できるのでしょうか。
認知症と診断されたことだけで、必ず契約できなくなるわけではありません。
ただし、契約の内容を理解し、判断するために必要な意思能力があることが前提です。
例えば、任意後見契約では、誰にどのような権限を与えるのか、将来どのような場合に契約の効力が生じるのかなどを理解できる必要があります。
また、家族信託についても、信託する財産や受託者の権限などを理解して判断できることが必要です。
そのため、本人の判断能力に不安がある場合には、医師の診断なども参考にしながら、契約が可能かどうかを慎重に検討する必要があります。
一方、すでに契約内容を理解して判断できない状態であれば、有効に新たな契約を締結することはできません。
このような場合には、成年後見制度などの利用を検討することになります。
認知症になる前でなければ絶対に準備できないというわけではありませんが、本人が十分に判断できるうちに検討しておく方が選択肢を広げやすくなります。
なお、成年後見制度については、2026年6月24日に改正法が公布されています。
この改正では、従来の後見・保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化し、本人に必要な範囲で制度を利用できるようにすることなどが予定されています。
また、必要な支援がなくなった場合には、家庭裁判所の判断によって制度の利用を終了できる仕組みも設けられます。
例えば、将来、不動産の売却など特定の法律行為について支援が必要になった場合に、必要な範囲で代理権を付与することが考えられます。
ただし、2026年10月時点では、成年後見制度の見直しに関する改正部分はまだ施行されていません。
そのため、現在は後見・保佐・補助の制度が適用されています。
また、今回の改正が施行されれば、任意後見契約が不要になるというわけではありません。
任意後見契約には、本人が判断能力を有しているうちに、将来の支援者や代理権の内容を決めておけるという特徴があります。
一方、法定後見制度は、本人の判断能力が不十分になった場合に、家庭裁判所が必要な支援について判断する制度です。
改正後も、それぞれの制度の役割を理解し、本人の事情に合った方法を検討することが必要になります。
最初の事例に戻ってみましょう。
母は83歳で、現在は認知症が進行し、介護施設で生活しています。
自宅を売却するために、成年後見制度の利用を検討している状況です。
では、母がまだ元気だった頃であれば、どのような準備ができたのでしょうか。
まず、母が今後も自宅に住み続けたいのか、それとも施設へ入所することになったら売却したいのかを確認することが考えられます。
次に、自宅の登記名義や重要書類の保管場所を確認します。
さらに、母の年金や預貯金などから、将来施設へ入所した場合の生活費を検討します。
そのうえで、母が自宅を売却したいと希望するのであれば、元気なうちに売却や住み替えを検討することもできます。
一方、将来必要になったときに自宅を売却したいのであれば、任意後見契約や家族信託などの利用を検討することも考えられます。
また、母が判断能力を有しているものの、外出が難しくなってきた場合には、一定の事務について財産管理等委任契約を利用する方法もあります。
ただし、これらの契約をすべて締結する必要はありません。
例えば、母の年金や預貯金が十分にあり、将来自宅を売却する必要がないのであれば、特別な契約を締結せず、本人の希望や家族の連絡体制を整理しておくだけでも意味があります。
今回の家庭では、まず母の希望と財産状況を確認し、将来の自宅売却に備えて法的な仕組みが必要かどうかを検討するという進め方が考えられます。
高齢の親が元気なうちであれば、将来の自宅の管理や売却について、さまざまな準備を検討することができます。
ただし、親が高齢になったからといって、必ず任意後見契約や家族信託などを利用しなければならないわけではありません。
今回のポイントを整理すると、
まず親自身が将来の自宅についてどう考えているかを確認する
不動産の登記名義や権利関係を確認しておく
登記済証や固定資産税関係書類などの保管場所を確認する
年金や預貯金、将来の施設費用などを整理する
本人が希望する場合には、元気なうちに自宅を売却する方法もある
財産管理等委任契約によって、判断能力がある間の事務を任せることができる
任意後見契約によって、将来判断能力が不十分になった場合の支援者や代理権を決めておくことができる
家族信託によって、自宅の管理や売却に備える仕組みを設けられる場合がある
自宅を子どもに贈与する場合には、税金や所有権の移転について注意する
遺言書は死亡後の財産承継に備えるものであり、生前の売却を任せるためのものではない
家族内で役割分担を決めても、それだけで法律上の代理権が生じるわけではない
判断能力が低下してからでは、利用できない契約がある
成年後見制度の改正についても、今後の施行状況を確認する必要がある
ということになります。
高齢の親の自宅については、将来の管理や売却を心配するあまり、早く何かの契約を結ばなければならないと考えてしまうことがあります。
しかし、最初に必要なのは、必ずしも契約ではありません。
親がどのような生活を望んでいるのか、自宅を将来どうしたいのか、生活費や財産の状況はどうなっているのか。
こうしたことを家族で確認し、必要な情報を整理しておくことが大切です。
そのうえで、本人が希望する生活を実現するために、任意後見契約や家族信託などの仕組みが必要であれば、利用を検討することになります。
親が元気なうちに大切なのは、制度の利用を急ぐことではなく、本人の意思を確認し、将来どのような状況になっても対応できるように準備しておくことです。
参考資料