高齢の親が一人暮らし。自宅は今後どうすればいい?
「80代の母が一人暮らしをしているけれど、いつまで今の家で生活できるだろう?」
「親が施設に入ったら、誰も住まなくなる実家はどうすればいいの?」
「親が認知症になったら、自宅を売却できなくなるの?」
高齢の親が一人暮らしをしている家庭では、これからの住まいについて考える機会が増えてきます。
今は元気に生活していても、転倒や病気、入院などをきっかけに、それまでの生活を続けることが難しくなる場合があります。
また、親が施設へ入所した場合には、長年住み慣れた自宅が空き家になることもあります。
そのとき、子どもが実家を売却したり、賃貸に出したりすることはできるのでしょうか。
実は、高齢の親の自宅について考える際には、建物の管理だけでなく、所有者である親の意思や判断能力、将来の生活費など、さまざまな問題が関係します。
今回は、高齢の親が一人暮らしをしている場合に、自宅を今後どうするのか、元気なうちに確認しておきたいことや、将来に向けた準備について説明します。
① 80代の母が一人暮らし。今は元気だけれど……
例えば、次のような家庭を考えてみましょう。
母:83歳。一人暮らし
長男:55歳。西宮市在住
長女:52歳。神戸市在住
父:10年前に死亡
母は芦屋市内の一戸建て住宅に住んでいます。
この家は、亡くなった父と母が長年暮らしてきた自宅です。
父が亡くなった際に相続登記を済ませ、現在は母の単独名義になっています。
母は今のところ大きな病気もなく、買い物や食事の支度も自分でしています。
長男と長女は、時々母の様子を見に行っています。
しかし、最近は階段の上り下りがつらそうで、庭の手入れもあまりできなくなってきました。
長男は、今後のことを考えて母に尋ねました。
「もし一人で暮らせなくなったら、この家はどうする?」
すると母は、こう答えました。
「まだまだ元気やから、そんなこと考えんでええよ」
このような家庭は、決して珍しくありません。
親としては、長年暮らしてきた自宅を離れたくないという気持ちがあるでしょう。
一方、子どもとしては、親の安全や今後の住まいについて心配になるものです。
では、このような場合、何から考えればよいのでしょうか。
② まず大切なのは、親がどうしたいのかを確認すること
高齢の親の自宅について考えるとき、最初に確認したいのは、親自身の希望です。
例えば、母が次のように考えている場合があります。
できるだけ今の家に住み続けたい
一人暮らしが難しくなったら施設に入りたい
施設に入っても自宅は残しておきたい
もう自宅には戻らないのであれば売却してもよい
将来は子どもの誰かに住んでもらいたい
これらの希望によって、検討する方法は変わります。
特に注意したいのは、子どもの考えと親の考えが必ずしも一致するとは限らないことです。
例えば、子どもは「古い家を売って、便利なマンションに引っ越した方がよい」と考えているかもしれません。
しかし、親は「多少不便でも、住み慣れた家で暮らしたい」と考えていることがあります。
自宅は単なる財産ではありません。
長年の生活や思い出が詰まった場所でもあります。
そのため、子どもの都合だけで自宅の処分を決めるのではなく、まず親がどのような生活を望んでいるのかを確認することが大切です。
③ 自宅の名義は誰になっている?
高齢の親の自宅について考える際には、まず不動産の登記名義を確認しておきましょう。
例えば、母が長年住んでいる自宅について、子どもたちは当然に母の名義だと思っていたとします。
ところが、登記事項証明書を取得してみると、10年前に亡くなった父の名義のままだったということも考えられます。
この場合、まず父の相続について確認する必要があります。
父の相続人が母と長男、長女であれば、遺言書の有無や遺産分割協議の状況などを確認し、必要な相続登記を検討することになります。
また、母と父の共有名義になっている場合もあります。
自宅の売却などを検討する際には、誰が所有者なのか、共有者がいるのかを確認することが重要です。
そのため、まず次のような事項を調べておくとよいでしょう。
土地と建物の登記名義人
共有名義になっていないか
亡くなった方の名義が残っていないか
抵当権などの登記が残っていないか
登記されている住所と現在の住所が一致しているか
自宅の名義を確認することは、将来の売却や相続の準備にもつながります。
なお、2024年4月1日から相続登記が義務化されています。
亡くなった父などの名義が残っている場合には、相続登記の期限についても確認が必要です。
④ 今の家に住み続けられるかを考える
高齢の親が自宅に住み続けたいと希望している場合には、今後も安全に生活できる環境かどうかを確認することが大切です。
例えば、次のような問題が考えられます。
自宅の階段が急である
浴室やトイレに段差がある
近くに買い物ができる店がない
通院に時間がかかる
庭木の手入れが難しくなっている
建物が古く、修繕が必要になっている
このような問題があるからといって、直ちに自宅を売却しなければならないわけではありません。
手すりの設置や段差の解消、生活支援サービスなどを利用することで、住み続けられる場合もあります。
また、介護保険制度による住宅改修費の支給対象となる工事もあります。
例えば、要介護認定などを受けた方について、一定の条件のもとで手すりの取付けや段差の解消などが対象になることがあります。
ただし、対象となる工事や支給条件には定めがあります。
工事を始める前に、担当のケアマネジャーや市区町村の窓口などに確認する必要があります。
自宅を売るかどうかを考える前に、まず今の家で安全に暮らし続ける方法がないか検討することも大切です。
⑤ 将来、施設へ入所することになったら?
例えば、83歳の母が転倒して入院し、退院後は一人暮らしが難しくなったとします。
家族で話し合い、介護施設への入所を検討することになりました。
この場合、母がそれまで住んでいた自宅について、どうするかという問題が生じます。
考えられる方法としては、次のようなものがあります。
1.自宅をそのまま残しておく
母が将来、自宅へ戻る可能性がある場合には、そのまま残しておくことが考えられます。
ただし、誰も住まない住宅については、定期的な管理が必要になります。
2.自宅を売却する
施設への入所によって自宅に戻る予定がなく、今後の生活費や施設費用を確保する必要がある場合には、売却を検討することがあります。
3.自宅を賃貸に出す
自宅を残したまま、賃料収入を得る方法もあります。
ただし、貸し出した場合には、将来母が自宅に戻りたいと考えたときに、すぐに明け渡してもらえるとは限りません。
そのため、賃貸借契約の内容や、将来の利用予定についても慎重に検討する必要があります。
このように、施設に入所したからといって、必ず自宅を売却しなければならないわけではありません。
今後、自宅へ戻る可能性があるのか、施設費用をどのように負担するのかによって、適切な対応は変わります。
⑥ 空き家になった自宅をそのままにしておいてもいい?
母が施設に入所して自宅が空き家になった場合、しばらくそのまま残しておくことも考えられます。
ただし、誰も住んでいない住宅には、さまざまな問題が生じる可能性があります。
例えば、
建物の老朽化が進む
雨漏りや設備の故障に気づきにくい
庭木や雑草が伸びる
郵便物がたまる
不法侵入などの防犯上の問題が生じる
固定資産税や維持管理費がかかり続ける
といったことです。
また、空き家の管理状態によっては、周囲の住宅に迷惑をかけてしまう場合もあります。
そのため、自宅を残しておくのであれば、誰が管理するのかを決めておく必要があります。
例えば、長男と長女が交代で自宅を確認する方法もあります。
また、空き家管理サービスなどを利用することも考えられます。
国土交通省も、空き家になる前から家族で今後の利用方針を話し合い、登記の確認や家財の整理を進めておくことを勧めています。
自宅を残す場合には、単に売却しないというだけでなく、誰が、どのように管理していくのかを考えておくことが重要です。
⑦ 親が元気なうちなら、自宅を売却できる?
親が自宅の所有者であり、売却の内容を理解して判断できるのであれば、本人の意思に基づいて自宅を売却することが考えられます。
例えば、母が自宅での一人暮らしを終え、施設へ入所することを決めた場合です。
母自身が自宅の売却を希望し、売買契約の内容を理解して判断できるのであれば、通常の不動産売却の手続きを進めることになります。
ただし、親が高齢である場合には、年齢だけで判断するのではなく、売却に必要な意思能力があるかどうかが重要です。
例えば、85歳であっても売買契約の内容を十分に理解して判断できる方もいます。
一方、年齢が比較的若くても、病気などによって判断能力が低下している場合があります。
つまり、高齢であることや認知症と診断されたことだけで、直ちに売却できる・できないと決まるわけではありません。
実際には、本人が売却の意味や契約内容を理解し、適切に判断できるかを確認する必要があります。
また、自宅を売却した場合の代金は、原則として所有者である親自身の財産です。
子どもが売却の手続きを手伝ったからといって、売却代金を自由に使ってよいわけではありません。
⑧ 親が認知症になったら、自宅を売却できなくなる?
高齢の親の自宅について、特に注意したいのが判断能力の低下です。
例えば、母が認知症になり、自宅の売却について十分に判断できない状態になった場合です。
この場合、長男と長女が話し合って「実家を売ろう」と決めたとしても、それだけで売却できるわけではありません。
自宅の所有者は母だからです。
親子であるという理由だけで、子どもに自宅を売却する権限が与えられるわけではありません。
本人が売買契約を有効に締結できない状態にある場合には、成年後見制度などの利用を検討することになります。
ただし、成年後見人が選任されれば、必ず自宅を売却できるというわけでもありません。
成年後見人が本人の居住用不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。
また、施設へ入所して現在は住んでいない自宅であっても、居住用不動産に該当する場合があります。
この問題については、第3回と第4回で詳しく説明します。
⑨ 判断能力が低下する前に、準備できることは?
親が元気で、将来について十分に判断できるうちであれば、いくつかの準備を検討することができます。
例えば、次のような方法です。
任意後見契約
将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ信頼できる方に財産管理などを任せる契約です。
任意後見契約は、公正証書によって作成します。
ただし、契約を締結しただけで直ちに任意後見人として活動できるわけではありません。
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することによって効力が生じます。
また、任意後見人が行える行為は、契約で付与された代理権の範囲によります。
財産管理等委任契約
本人の判断能力がある間に、預貯金の管理や各種手続きなどを信頼できる方へ委任する契約です。
ただし、委任した事務の範囲や契約内容によって、代理人が行えることは異なります。
将来の判断能力の低下に備える任意後見契約とは、役割が異なります。
家族信託
本人が判断能力を有しているうちに、一定の財産について信託契約を締結し、受託者に管理や処分を任せる仕組みです。
ただし、家族信託はすべての家庭に適しているわけではありません。
契約内容や信託財産、税務上の問題なども検討する必要があります。
これらの制度は、それぞれ目的や仕組みが異なります。
また、自宅を将来売却したいという理由だけで、必ず何らかの契約を締結しなければならないわけではありません。
まず親自身の希望や財産状況を確認し、そのうえで必要な制度を検討することが大切です。
⑩ 子どもが親の代わりに自宅を管理してもいい?
例えば、母が高齢になり、長男が自宅の維持管理を手伝っているとします。
長男は、母に代わって庭木の手入れをしたり、修理業者を手配したりしています。
このような日常的な管理については、母の了解を得て手伝うことが考えられます。
しかし、同じ親の自宅に関することでも、次のような行為は性質が異なります。
自宅を売却する
自宅を第三者へ賃貸する
自宅を子どもの名義に変更する
自宅に担保を設定する
これらは、所有者の財産に大きな影響を与える行為です。
そのため、単に親子であるというだけで、子どもが自由に行えるものではありません。
本人の意思や判断能力、適切な代理権の有無などを確認する必要があります。
また、親の自宅を子どもの名義に変更する場合には、贈与税などの税務上の問題が生じることもあります。
家族だから自由に処分できるというわけではないことを理解しておく必要があります。
⑪ 兄弟姉妹で意見が違う場合は?
高齢の親の自宅については、子ども同士の意見が異なる場合もあります。
例えば、長男は「母が施設に入ったら実家を売却した方がよい」と考えています。
一方、長女は「母が長年暮らした家だから残しておきたい」と考えています。
このような場合、子ども同士で意見が分かれることがあります。
しかし、自宅が母の単独名義であれば、原則として、その自宅をどうするかを決めるのは所有者である母自身です。
子どもたちが将来の相続人になる予定だからといって、母の生前から所有権を持っているわけではありません。
また、子どもたちが協力して母の生活を支えることと、自宅を処分する権限があることは別の問題です。
そのため、まず母の希望を確認したうえで、家族それぞれがどのような役割を担えるのかを話し合うことが大切です。
例えば、
誰が定期的に自宅を訪問するのか
入院した場合、誰が対応するのか
自宅の管理を誰が担当するのか
施設入所が必要になった場合、誰が相談窓口になるのか
自宅の将来について、本人の希望をどう確認するのか
といったことを整理しておくとよいでしょう。
⑫ 自宅を売却するかどうかは、生活費も考えて判断する
高齢の親の自宅について考える際には、財産としての価値だけでなく、今後の生活費も重要になります。
例えば、母が施設に入所する場合です。
施設の種類や契約内容によっては、入居時の費用や毎月の利用料などが必要になります。
母の年金や預貯金で費用を負担できるのであれば、急いで自宅を売却する必要がない場合もあります。
一方、今後の生活費が不足する見込みであれば、自宅の売却を検討することも考えられます。
ただし、売却した代金については、母自身の生活や介護のためにどのように管理するのかを考える必要があります。
また、自宅を売却した場合には、譲渡所得に対する課税が問題になることもあります。
税務上の特例が利用できるかどうかは、居住状況や売却時期などの条件によって異なります。
そのため、売却を検討する場合には、必要に応じて税務面も確認することが大切です。
自宅を残すか売却するかは、相続人となる子どもの希望だけでなく、親自身の今後の生活を支えるという観点から考える必要があります。
⑬ 親が元気なうちに確認しておきたいこと
高齢の親の自宅について、今すぐ売却などの具体的な手続きを行う必要がない場合でも、確認しておきたいことがあります。
例えば、次のような事項です。
自宅について
土地と建物の名義は誰になっているか
登記済証や登記識別情報通知はどこにあるか
固定資産税の納税通知書はどこに保管しているか
住宅ローンなどの借入れが残っていないか
建物に修繕が必要な部分はないか
親の生活について
今後も自宅に住み続けたいか
一人暮らしが難しくなった場合はどうしたいか
施設への入所についてどう考えているか
自宅に戻れなくなった場合、家をどうしたいか
家族の対応について
誰が日常的に親の様子を確認するか
入院や施設入所の際に誰が対応するか
自宅の管理を誰が担当するか
必要になったときにどこへ相談するか
これらについて、一度にすべてを決める必要はありません。
まずは親の希望を聞き、必要な情報を少しずつ整理しておくことが大切です。
また、親が自宅について希望を話してくれた場合には、その内容を家族で共有しておくことも考えられます。
ただし、家族で希望を共有したことと、法的な代理権が成立することは別です。
将来、具体的な契約や財産の処分が必要になった場合には、その時点で適切な手続きを確認する必要があります。
⑭ このケースでは、どのように進めるのがよい?
最初の事例に戻ってみましょう。
83歳の母は、芦屋市内の一戸建て住宅で一人暮らしをしています。
今のところ日常生活に大きな支障はありません。
本人は、できるだけ現在の自宅で暮らしたいと希望しています。
このような場合には、直ちに自宅の売却を進めるのではなく、次のような対応が考えられます。
まずは、母の希望を尊重して自宅での生活を続ける方法を考えます。
そのうえで、住宅の安全性や日常生活の状況を確認し、必要に応じて手すりの設置や生活支援サービスなどを検討します。
次に、自宅の登記名義や財産の状況を確認しておきます。
さらに、将来、入院や施設入所が必要になった場合に備えて、家族で今後の対応を話し合っておきます。
母が将来、自宅の売却を希望する可能性があるのであれば、判断能力が十分にあるうちに、どのような準備が必要か検討することも考えられます。
ただし、この段階で必ず任意後見契約や家族信託などを利用しなければならないというわけではありません。
重要なのは、今すぐ自宅をどうするか決めることではなく、今後どのような状況になったら、どのような対応を検討するのかを整理しておくことです。
まとめ
高齢の親が一人暮らしをしている場合、自宅を今後どうするのかという問題は、いずれ考える必要が出てくることがあります。
しかし、親が高齢になったからといって、直ちに自宅を売却した方がよいというわけではありません。
今回のポイントを整理すると、
まず親自身が今後どのような生活を希望しているか確認する
自宅の登記名義や権利関係を確認しておく
今の自宅で安全に暮らし続ける方法を検討する
将来、施設へ入所した場合の自宅の取扱いを考えておく
自宅を残す場合には、管理方法や費用も考える
親が元気なうちであれば、本人の意思による売却を検討できる
判断能力が低下した場合には、成年後見制度などが関係することがある
子どもだからといって、親の自宅を自由に売却できるわけではない
任意後見契約など、将来に備える制度を検討できる場合もある
自宅を売却するかどうかは、親自身の生活費や希望を踏まえて判断する
ということになります。
高齢の親の自宅は、家族にとって大切な財産です。
同時に、親が長年生活してきた場所でもあります。
そのため、単に不動産としての価値だけで判断するのではなく、親の希望や今後の暮らしを踏まえて考える必要があります。
親が元気なうちに、自宅の状況を確認し、将来の生活について話し合っておくことが、いざというときに慌てないための準備につながります。
