2026年9月26日土曜日

高齢の親の自宅をどうする?⑥ 親の自宅を売る・貸す・残す。どの方法が適切?

 


親の自宅を売る・貸す・残す。どの方法が適切?

「母が施設に入所して、実家が空き家になった。売却した方がいいのだろうか?」

「家を残しておきたいけれど、誰も住まないなら賃貸に出した方がいい?」

「将来、母が自宅に戻るかもしれない。今はそのまま残しておくべき?」

高齢の親が一人暮らしを続けることが難しくなり、介護施設へ入所することになった場合、それまで暮らしていた自宅をどうするかという問題が生じます。

自宅を売却して今後の生活費を確保する方法もあれば、賃貸に出して家賃収入を得る方法もあります。

また、将来親が自宅へ戻る可能性がある場合には、そのまま残しておくことも考えられます。

しかし、どの方法にもメリットと注意点があります。

例えば、自宅を売却すればまとまった資金を確保できますが、原則としてその家に戻ることはできなくなります。

一方、賃貸に出せば家賃収入を得られる可能性がありますが、建物の維持管理や賃貸借契約に伴う問題が生じます。

また、自宅を残しておく場合には、固定資産税や維持管理費などを負担し続けることになります。

では、どのような状況で、どの方法を選ぶのがよいのでしょうか。

今回は、高齢の親の自宅について、売却する・賃貸に出す・そのまま残すという3つの選択肢を比較し、親の希望や財産状況、判断能力、将来の生活などに応じた対応方法を説明します。


① 83歳の母が施設へ入所。実家をどうする?

これまでのシリーズで取り上げてきた家庭を考えてみましょう。

  • 母:83歳。芦屋市内に一戸建て住宅を所有

  • 長男:55歳。西宮市在住

  • 長女:52歳。神戸市在住

  • 父:10年前に死亡

母は長年、芦屋市内の自宅で一人暮らしをしていました。

しかし、転倒による入院をきっかけに介護施設へ入所し、自宅には誰も住まなくなりました。

自宅の土地と建物は、母の単独名義になっています。

長男は、自宅を売却して施設費用に充てた方がよいと考えています。

一方、長女は、母が長年暮らしてきた家を残しておきたいと考えています。

また、母自身も、できれば自宅を残しておきたいという気持ちがあるようです。

このような場合、子どもたちはどう対応すればよいのでしょうか。

まず大切なのは、自宅の処分方法を決める前に、いくつかの事項を確認することです。

特に重要なのが、母自身の希望と今後の生活の見通しです。


② まず確認したい5つのポイント

自宅を売却するか、賃貸に出すか、そのまま残すかを検討する前に、次の5つの事項を確認しておきましょう。

1.親自身はどうしたいのか

今後も自宅に住みたいのか、施設で生活を続けたいのかを確認します。

自宅を売却したくないという希望がある場合には、その気持ちを尊重しながら対応方法を考える必要があります。

2.自宅へ戻る可能性があるか

施設への入所が一時的なものなのか、今後も継続して施設で生活する予定なのかを確認します。

3.施設費用を負担できるか

年金や預貯金などで今後の施設費用を負担できるのかを確認します。

4.自宅を管理できるか

長男や長女が定期的に自宅を確認できるのか、管理を外部へ依頼する必要があるのかを考えます。

5.親に必要な判断能力があるか

自宅を売却したり、賃貸借契約を締結したりするために、本人が契約内容を理解して判断できるかを確認します。

この5つの事項を整理することで、自宅についてどのような方法が考えられるのか、判断しやすくなります。


③ 自宅を売却する方法が適している場合

まず、自宅を売却する方法について考えてみましょう。

例えば、母が施設での生活に慣れ、今後自宅へ戻る予定がない場合です。

また、母自身も自宅の売却を希望しており、売却代金を施設費用や医療費に充てたいと考えている場合です。

このような場合には、自宅の売却が一つの選択肢になります。

自宅を売却する主なメリットは、まとまった資金を確保できることです。

例えば、自宅を売却して得た資金を、今後の施設利用料や医療費、生活費などに充てることが考えられます。

また、自宅を売却すれば、その後の建物の維持管理や固定資産税などの負担から離れることができます。

ただし、売却には注意点もあります。

自宅を売却すると、原則としてその家に戻ることはできなくなります。

そのため、本人が将来自宅へ戻ることを希望している場合には、慎重に検討する必要があります。

また、売却価格が適切かどうかも重要です。

不動産会社の査定価格と、実際に売却できる価格が必ず一致するわけではありません。

さらに、売却によって利益が生じた場合には、譲渡所得に対する税金が問題になることもあります。

本人が自宅へ戻る予定がなく、今後の生活費を確保する必要がある場合には、売却が適切な方法となることがあります。


④ 自宅を売却するときに確認したい費用

自宅を売却する場合、売買代金の全額がそのまま手元に残るわけではありません。

例えば、不動産会社の仲介によって売却する場合には、仲介手数料が必要になることがあります。

また、建物の状態によっては、残置物の撤去費用や修繕費用などが必要になることもあります。

主に確認したいのは、次のような費用です。

  • 不動産会社の仲介手数料

  • 売買契約書の印紙税

  • 抵当権抹消登記などに必要な費用

  • 登記名義人の住所変更登記などの費用

  • 家財道具の処分費用

  • 必要に応じた測量費用

  • 建物の修繕や解体に関する費用

  • 譲渡所得に対する税金

ただし、これらの費用がすべての売却で発生するわけではありません。

また、不動産の売却価格だけでなく、売却までにどの程度の期間が必要になるかも考慮する必要があります。

例えば、施設費用の支払いのために早急に資金が必要な場合には、売却までの期間が問題になることがあります。

そのため、自宅を売却する場合には、売却価格だけでなく、費用を差し引いた後にどれだけの資金が残るのかを確認することが大切です。


⑤ 施設入所後の自宅売却には税金の特例がある?

高齢の親が施設へ入所した後に自宅を売却する場合、税務上の特例が関係することがあります。

例えば、母が自宅から介護施設へ移り、その後、自宅を売却する場合です。

マイホームを売却した場合には、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

この特例は、現在住んでいる家屋だけでなく、以前住んでいた家屋にも適用できる場合があります。

国税庁によると、以前住んでいた家屋については、原則として、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することが、特例の要件の一つとされています。

例えば、母が2026年中に自宅から施設へ移り、その後自宅に住まなくなった場合です。

この場合、ほかの要件を満たせば、原則として2029年12月31日までの売却が特例の対象となり得ます。

ただし、これは単純化した例です。

実際には、いつ居住しなくなったと判断されるのか、建物を取り壊していないか、ほかの適用要件を満たすかなどを確認する必要があります。

また、自宅を売却しても、必ず譲渡所得が発生するわけではありません。

譲渡所得は、取得費や譲渡費用なども考慮して計算します。

そのため、施設入所後の自宅売却を検討する場合には、売却の時期だけでなく、税務上の条件も確認しておくことが重要です。


⑥ 自宅を賃貸に出す方法が適している場合

次に、自宅を賃貸に出す方法について考えてみましょう。

例えば、母が施設へ入所したものの、自宅を売却することには抵抗がある場合です。

母自身も、できれば自宅を残しておきたいと考えています。

しかし、誰も住まないままでは、固定資産税や維持管理費がかかり続けます。

このような場合には、自宅を第三者に貸し出して家賃収入を得る方法が考えられます。

賃貸に出す主なメリットは、自宅の所有権を残したまま、収入を得られる可能性があることです。

例えば、家賃収入を施設費用の一部に充てることが考えられます。

ただし、賃貸には注意点もあります。

まず、借主が見つかるとは限りません。

また、建物の状態によっては、貸し出す前に修繕や設備の交換などが必要になることがあります。

さらに、賃貸借契約を締結した後は、貸主として建物の管理や修繕などに対応する必要があります。

そのため、自宅を売却したくないという理由だけで、安易に賃貸に出すことは避けた方がよいでしょう。

建物の状態や賃貸需要、管理体制などを確認してから判断することが大切です。


⑦ 家賃収入があれば、施設費用をまかなえる?

例えば、母の自宅を月額10万円で賃貸に出すことができた場合です。

単純に計算すると、年間の家賃収入は120万円になります。

しかし、この120万円がそのまま母の生活費に使えるわけではありません。

賃貸住宅には、次のような費用がかかることがあります。

  • 固定資産税

  • 火災保険などの保険料

  • 建物や設備の修繕費

  • 不動産管理会社への管理委託料

  • 入居者募集に関する費用

  • 退去後の原状回復費用

また、借主が退去して次の入居者が決まるまでの間は、家賃収入が得られません。

例えば、給湯器やエアコンなどの設備が故障した場合には、修理や交換が必要になることがあります。

また、屋根や外壁などに大規模な修繕が必要になれば、まとまった費用がかかることもあります。

税務上も、不動産の貸付けによって得た収入は、原則として不動産所得の対象になります。

不動産所得は、家賃などの総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。

そのため、自宅を賃貸に出す場合には、家賃収入の金額だけでなく、必要な費用や空室になる可能性も考慮することが重要です。

毎月の家賃収入があるという理由だけで、賃貸が売却より有利になるとは限りません。


⑧ 賃貸に出した自宅へ、親が戻ることはできる?

自宅を賃貸に出す場合、特に注意したいのが、将来親が自宅へ戻りたいと考えた場合です。

例えば、母が施設へ入所したため、自宅を第三者に貸し出したとします。

その後、母の体調が回復し、自宅へ戻りたいと希望した場合です。

このとき、貸主の都合だけで、借主にすぐ退去してもらえるとは限りません。

一般的な普通建物賃貸借契約では、貸主から契約の更新を拒絶する場合などに正当事由が必要になります。

そのため、「親が戻ることになった」という理由だけで、当然に契約を終了できるわけではありません。

一方、一定の要件を満たす定期建物賃貸借契約という制度もあります。

定期建物賃貸借契約は、契約期間が満了すると、更新されることなく契約が終了する仕組みです。

ただし、契約の締結には、所定の方式や事前説明などが必要になります。

また、定期建物賃貸借契約であっても、契約期間中に貸主の都合で自由に終了できるわけではありません。

そのため、将来親が自宅へ戻る可能性がある場合には、賃貸借契約の内容について慎重に検討する必要があります。

自宅へ戻る可能性が高い場合には、賃貸に出さず、そのまま残しておく方が適切なこともあります。


⑨ 自宅をそのまま残す方法が適している場合

3つ目は、自宅を売却せず、賃貸にも出さず、そのまま残しておく方法です。

例えば、母が施設へ入所して間もない場合です。

今後、自宅へ戻ることができるのか、施設で生活を続けることになるのか、まだ分からない状態です。

このような場合には、急いで自宅を処分せず、しばらく様子を見ることも考えられます。

また、母が自宅を強く残したいと希望している場合もあります。

自宅を残す主なメリットは、将来の選択肢を残しておけることです。

例えば、母が自宅へ戻ることになった場合でも、家が残っていれば生活を再開できる可能性があります。

一方、建物の維持管理や固定資産税などの費用はかかり続けます。

また、長期間誰も住まない状態が続くと、建物の老朽化が進むことがあります。

そのため、自宅を残しておく場合には、定期的な管理が必要になります。

将来自宅へ戻る可能性があり、維持管理を続けられる場合には、そのまま残しておくことも合理的な選択肢です。


⑩ 自宅を残す場合、いつまで空き家にしておいていい?

自宅を残すことにした場合、いつまでそのままにしておいてよいのでしょうか。

空き家になったからといって、一定期間内に必ず売却しなければならないという一般的な義務があるわけではありません。

しかし、長期間放置することで建物の状態が悪化する可能性があります。

例えば、窓を閉めたままにしていると、湿気によって建物が傷むことがあります。

また、庭木が伸びたり、外壁や屋根が損傷したりする場合もあります。

空き家については、空家等対策の推進に関する特別措置法による制度があります。

適切に管理されていない空き家については、市区町村から指導や勧告を受ける場合があります。

特に、管理不全空家等や特定空家等について勧告を受けた場合には、土地の固定資産税などに関する住宅用地特例の対象から外れることがあります。

ただし、単に空き家になったという理由だけで、直ちに住宅用地特例が適用されなくなるわけではありません。

問題となるのは、建物の状態や管理状況などです。

そのため、自宅を残す場合には、次のような対応を考えておく必要があります。

  • 定期的に建物を点検する

  • 換気や通水などを行う

  • 庭木や雑草を管理する

  • 郵便物を確認する

  • 建物の修繕が必要な場合には対応する

  • 火災保険などの契約内容を確認する

また、家族だけで管理することが難しい場合には、空き家管理サービスなどの利用を検討することもできます。


⑪ 親の判断能力が低下している場合、どの方法を選べる?

自宅を売却する、賃貸に出す、そのまま残すという3つの方法を考える際には、親の判断能力も重要になります。

例えば、母が認知症になり、自宅について十分に判断できない状態になっている場合です。

長男と長女が話し合って、自宅の売却を決めたとしても、それだけで売却できるわけではありません。

自宅の所有者は母だからです。

また、賃貸に出す場合も同様です。

賃貸借契約を締結するには、本人の有効な意思表示や、適切な代理権を有する方による手続きが必要になります。

本人が契約内容を理解して判断できず、適切な代理人もいない場合には、成年後見制度などの利用を検討することになります。

ここで注意したいのは、成年後見人が本人の居住用不動産を処分する場合です。

成年後見人が本人の居住用不動産を売却したり、賃貸に出したりする場合には、民法第859条の3に基づき、家庭裁判所の許可が必要になります。

また、施設に入所する前に本人が住んでいた自宅についても、居住用不動産に該当する場合があります。

そのため、現在空き家になっているからといって、家庭裁判所の許可が不要になるわけではありません。

この問題については、第3回と第4回で詳しく説明しました。

本人の判断能力が低下している場合には、自宅をどうしたいかだけでなく、誰が法律上その手続きを行えるのかを確認する必要があります。


⑫ 施設費用が足りない場合には、売却を優先するべき?

例えば、母の年金収入だけでは施設利用料を負担できず、預貯金も少なくなってきた場合です。

このような場合には、自宅の売却を検討する必要性が高くなることがあります。

ただし、売却が唯一の方法とは限りません。

例えば、自宅を賃貸に出すことで、施設費用の一部を確保できる場合もあります。

しかし、賃貸には空室や修繕費用などのリスクがあります。

そのため、毎月の施設費用を安定して支払う必要がある場合には、賃貸収入だけに頼ることが適切でないこともあります。

一方、自宅を売却すれば、まとまった資金を確保できる可能性があります。

ただし、売却までには時間がかかる場合があります。

例えば、買主がなかなか見つからない場合や、建物の状態が悪く修繕や解体が必要になる場合などです。

そのため、施設費用が不足し始めてから売却を検討するのではなく、ある程度余裕を持って準備しておくことが大切です。

なお、売却する場合には、本人が有効に契約できるか、必要な代理権があるかという点も確認する必要があります。

今後の生活費が不足する見込みであれば、資金をいつまでに、どの程度確保する必要があるのかを整理したうえで、売却や賃貸などの方法を検討することが重要です。


⑬ 兄弟姉妹で意見が分かれる場合はどうする?

高齢の親の自宅については、子ども同士で意見が分かれることがあります。

例えば、長男は自宅を売却したいと考えています。

一方、長女は母が長年暮らしてきた自宅を残しておきたいと考えています。

このような場合、まず確認したいのは、自宅の所有者が誰なのかということです。

母の単独名義であれば、自宅についての基本的な決定権は母にあります。

長男と長女が将来の相続人になる予定だからといって、母の生前から自宅の処分を自由に決められるわけではありません。

また、子ども同士の話し合いで多数決をすればよいという問題でもありません。

まず、母自身の希望を確認する必要があります。

そして、母が自宅を残したいと希望している場合には、実際にその希望を実現できるかを検討します。

例えば、長男と長女が交代で自宅を管理できるのであれば、当面の間は残しておくことも考えられます。

一方、誰も管理できず、修繕費用なども負担できない場合には、ほかの方法を検討する必要があります。

家族で話し合う際には、単に「売りたい」「残したい」という希望だけでなく、実際に管理や費用負担ができるのかを確認することが大切です。

親自身の希望を出発点として、家族がどこまで協力できるのかを具体的に考えることが重要です。


⑭ 具体的な状況別に、どの方法が考えられる?

ここまで説明した内容を踏まえて、具体的な状況ごとに考えてみましょう。

ケース1:親が施設に入ったばかりで、自宅へ戻る可能性がある

この場合には、急いで自宅を売却する必要はないかもしれません。

まずは自宅を適切に管理しながら、今後の生活状況を確認することが考えられます。

ただし、管理費用や建物の状態も確認しておく必要があります。

考えられる対応:当面は自宅を残し、定期的に状況を見直す。

ケース2:親が施設での生活を続ける予定で、自宅へ戻る見込みがない

本人も自宅の売却を希望している場合には、売却を検討することが考えられます。

特に、今後の施設費用や医療費を確保する必要がある場合には、まとまった資金を得られることがメリットになります。

考えられる対応:売却価格や税金、本人の意思を確認し、売却を検討する。

ケース3:親は自宅を残したいが、今後住む予定はない

この場合には、賃貸に出す方法が考えられます。

ただし、建物の状態や賃貸需要、管理費用などを確認する必要があります。

また、将来親が自宅へ戻る可能性がある場合には、賃貸借契約の内容にも注意が必要です。

考えられる対応:賃貸収入と管理費用、将来の利用予定を比較して判断する。

ケース4:自宅が古く、修繕に多額の費用がかかる

建物の老朽化が進んでいる場合には、そのまま賃貸に出すことが難しい場合があります。

また、誰も住まないまま残しておくと、さらに建物の状態が悪化する可能性があります。

このような場合には、現状のまま売却する方法や、建物を解体して土地を売却する方法なども考えられます。

ただし、解体費用や解体後の固定資産税などについても確認する必要があります。

考えられる対応:修繕費用と売却価格を比較し、建物を残すかどうかを検討する。

ケース5:親が認知症になり、自宅について判断できない

この場合には、売却や賃貸の方法を考える前に、法律上誰が手続きを行えるのかを確認する必要があります。

本人に必要な意思能力がなく、適切な代理人もいない場合には、成年後見制度などの利用を検討することになります。

また、成年後見人が居住用不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。

考えられる対応:本人の判断能力と代理権を確認し、必要に応じて成年後見制度を検討する。


⑮ 自宅を売るか残すか、すぐに決められない場合は?

親の自宅について、家族で話し合っても結論が出ないことがあります。

例えば、母が施設へ入所したばかりで、今後の生活がどうなるのか分からない場合です。

このような場合、無理に売却するかどうかを決める必要はありません。

ただし、何も決めずに放置することは避けたいところです。

例えば、次のような準備が考えられます。

まず、自宅の管理方法を決める

長男と長女のどちらが自宅を確認するのか、管理会社に依頼するのかを整理します。

次に、自宅の資産価値を確認する

不動産会社に査定を依頼し、売却価格の目安を確認しておきます。

査定を受けたからといって、必ず売却しなければならないわけではありません。

さらに、今後の生活費を確認する

母の年金や預貯金、施設費用などから、今後の資金状況を検討します。

そのうえで、改めて判断する時期を決める

例えば、施設での生活が落ち着いた段階や、今後の介護方針が明確になった段階で、再度話し合う方法も考えられます。

重要なのは、今すぐ結論を出すことではなく、判断するために必要な情報をそろえておくことです。


⑯ 親が亡くなった後まで、自宅を残す場合は?

親が自宅を売却せず、そのまま亡くなった場合には、相続の問題が生じます。

例えば、母が自宅を所有したまま亡くなり、長男と長女が相続人になった場合です。

遺言書がない場合などには、相続人同士で遺産分割協議を行い、誰が自宅を取得するのかを決めることになります。

その際には、自宅を売却するのか、長男または長女が取得するのか、共有名義にするのかといった問題が生じることがあります。

ただし、共有名義にした場合には、将来の売却や管理について共有者間の調整が必要になることがあります。

また、2024年4月1日から相続登記が義務化されています。

相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則として3年以内に相続登記を行う必要があります。

さらに、相続人が自宅を売却する場合には、相続した空き家に関する譲渡所得の特例が問題になることもあります。

この特例は、親が生前に自宅を売却する場合の特例とは別の制度です。

例えば、被相続人が老人ホームなどに入所していた場合でも、一定の要件を満たすことで、相続した空き家の売却に関する特例が適用されることがあります。

ただし、建物の建築時期や利用状況、売却時期などの要件があるため、相続した空き家であれば必ず適用されるわけではありません。

また、親の生前に自宅を賃貸に出すことが、将来の相続後の税務上の特例に影響する場合もあります。

そのため、親の生前に自宅をどうするか考える場合には、将来の相続や売却についても、必要に応じて検討しておくことが大切です。


⑰ 最初の83歳の母のケースでは、どうするのがよい?

最後に、これまで取り上げてきた83歳の母のケースを整理してみましょう。

母は芦屋市内に自宅を所有しています。

現在は介護施設へ入所しており、自宅は空き家になっています。

長男は売却を希望していますが、長女は自宅を残しておきたいと考えています。

母自身も、自宅を残したいという気持ちがあるようです。

このような場合、まず確認したいのは母の現在の判断能力と、自宅についての希望です。

本人が自宅に戻りたいと考えており、その可能性もあるのであれば、当面は自宅を残す方法が考えられます。

ただし、その間も建物の管理や費用負担について対応する必要があります。

一方、施設での生活を続けることが決まり、母自身も売却を希望しているのであれば、売却を検討することになります。

また、自宅を残したいものの、今後住む予定がなく、建物の状態や管理体制などに問題がなければ、賃貸という選択肢も考えられます。

ただし、母がすでに契約内容を理解して判断できない状態になっている場合には、本人の有効な意思表示や代理権の問題を確認する必要があります。

そのため、この家庭では、最初から売却を前提にするのではなく、次のような順番で考えることが適切でしょう。

まず、母の希望と現在の生活状況を確認します。

次に、今後自宅へ戻る可能性があるかを検討します。

そして、施設費用や自宅の管理費用、売却価格、賃貸に出した場合の収支などを確認します。

最後に、本人の判断能力と必要な法律上の手続きを確認したうえで、具体的な方法を決めることになります。

今回のケースでは、母の今後の生活を中心に考え、自宅を残す・売る・貸すという方法の中から、本人にとって適切な選択肢を検討することが大切です。


まとめ

高齢の親が施設へ入所し、自宅が空き家になった場合、売却する、賃貸に出す、そのまま残しておくという3つの方法があります。

しかし、どの方法が適切かは、親自身の希望や判断能力、今後の生活費、自宅の状態などによって異なります。

今回のポイントを整理すると、

  • 自宅をどうするか考える際には、まず親自身の希望を確認する

  • 今後、自宅へ戻る可能性があるかを確認する

  • 施設費用を確保する必要がある場合には、売却を検討することがある

  • 自宅を売却する場合には、売却価格だけでなく諸費用や税金にも注意する

  • 施設入所後の売却では、マイホームの譲渡所得に関する特例が利用できる場合がある

  • 賃貸に出す場合には、家賃収入だけでなく修繕費や管理費なども考える

  • 将来自宅へ戻る可能性がある場合には、賃貸借契約の内容に注意する

  • 自宅を残す場合には、定期的な管理と維持費用の負担が必要になる

  • 空き家の管理状態が悪い場合には、行政による指導や勧告の対象となることがある

  • 親の判断能力が低下している場合には、適切な代理権や成年後見制度などが問題になる

  • 成年後見人が居住用不動産を売却・賃貸する場合には、家庭裁判所の許可が必要になる

  • 家族の意見が分かれる場合にも、まず所有者である親自身の意思を尊重する

  • 親が亡くなった後まで自宅を残す場合には、相続登記や遺産分割についても考える必要がある

  • 今すぐ結論が出ない場合でも、管理方法や資金計画などを準備しておくことが大切

ということになります。

高齢の親の自宅について考えるとき、売却することが常に正解というわけではありません。

また、思い出のある自宅を残しておくことが、必ずしも本人にとって最もよい方法になるとも限りません。

重要なのは、親がこれからどのような生活を送りたいのか、その生活を支えるために自宅をどのように活用するのが適切なのかを考えることです。

自宅を売る・貸す・残すという選択肢の中から、親自身の意思と生活状況、財産の状態を踏まえて、本人にとって最も適切な方法を選ぶことが大切です。


「高齢の親の自宅をどうする?」シリーズを終えて

今回で「高齢の親の自宅をどうする?」シリーズは全6回の終了となります。

第1回では、高齢の親が一人暮らしをしている場合に、自宅について何を考えておく必要があるのかを説明しました。

第2回では、親が施設へ入所し、自宅が空き家になった場合の対応について取り上げました。

第3回では、親が認知症になった場合に、自宅を売却できるのかという問題を説明しました。

第4回では、成年後見制度を利用して自宅を売却する場合の手続きについて解説しました。

第5回では、親が元気なうちに、自宅についてどのような準備ができるのかを説明しました。

そして今回の第6回では、自宅を売る・貸す・残すという3つの選択肢について、それぞれの判断のポイントを整理しました。

高齢の親の自宅については、施設入所、認知症、成年後見、財産管理、相続など、さまざまな問題が関係します。

しかし、これらをすべて一度に決める必要はありません。

まずは親の希望を確認し、自宅の状況や今後の生活を考えながら、必要な準備を少しずつ進めていくことが大切です。

高齢の親の自宅をどうするかという問題は、不動産をどう処分するかという問題であると同時に、親のこれからの暮らしをどう支えるかという問題でもあります。

参考資料

国土交通省|空き家対策 特設サイト

国土交通省|管理不全空家等と固定資産税の住宅用地特例

国土交通省|定期建物賃貸借 Q&A

国税庁|No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき

国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき

国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

国税庁|No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合

裁判所|成年被後見人等の居住用不動産の処分についての許可

法務省|相続登記の申請義務化について