遺産分割協議に応じてもらえない場合、調停はどう進める?
「兄に何度も連絡しているのに、遺産分割の話し合いに応じてくれない」
「相続人の一人が財産の分け方に反対している」
「話し合いができないまま、相続手続きが何年も止まっている」
相続では、このような問題が生じることがあります。
遺産分割協議は、原則として相続人全員の合意が必要です。
そのため、一人でも協議に応じない相続人がいると、不動産の名義変更や預貯金の分配などの手続きが進まなくなることがあります。
しかし、相続人全員の話し合いがまとまらないからといって、いつまでも手続きを進められないわけではありません。
このような場合に利用できるのが、家庭裁判所の「遺産分割調停」です。
今回は、遺産分割調停の仕組み、申立ての方法、相手が出席しなかった場合の対応などについて整理します。
① 遺産分割調停とは?
遺産分割調停とは、相続人同士で財産の分け方について話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所を利用して解決を目指す手続きです。
例えば、父が亡くなり、相続人が長男・次男・長女の3人だったとします。
相続財産は次のとおりです。
実家の土地建物:2,000万円
預貯金:1,000万円
合計:3,000万円
長男は実家を取得したいと考えています。
長女もその方法に賛成していますが、次男が話し合いに応じてくれません。
長男と長女だけで遺産分割協議を成立させることはできません。
しかし、このような場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停では、裁判官と調停委員が関与し、相続人それぞれの事情や希望を確認しながら、合意による解決を目指します。
相続人だけで解決できない問題について、家庭裁判所で話し合いを進める制度です。
② 相手が話し合いを拒否していても申し立てられる?
遺産分割調停は、相続人全員が申立てに賛成していなければ利用できない、という制度ではありません。
例えば、相続人が3人いて、長男と長女は話し合いを希望しているものの、次男だけが協議を拒否している場合です。
このとき、長男だけでも調停を申し立てることができます。
また、長男と長女の2人が申立人となり、次男を相手方として申し立てることもできます。
原則として、申立人にならなかった相続人全員を相手方とします。
つまり、相手方が遺産分割協議に同意していなくても、調停の申立て自体は可能なのです。
ただし、遺言書などによってすでに財産の取得者が決まっている場合には、そもそも遺産分割を必要としないことがあります。
申立ての前に、遺言書の有無や過去の遺産分割協議の状況も確認しておきたいところです。
③ どこの家庭裁判所に申し立てる?
遺産分割調停は、どこの家庭裁判所にでも申し立てられるわけではありません。
原則として、相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
また、当事者が合意した家庭裁判所に申し立てることもできます。
例えば、
長男は兵庫県芦屋市に住んでいる
次男は東京都に住んでいる
長女は大阪府に住んでいる
という場合です。
長男と長女が申立人となり、次男を相手方とするのであれば、原則として次男の住所地を管轄する家庭裁判所が申立先になります。
申立人の住所地や、亡くなった父の住所地が必ず申立先になるわけではありません。
相手方が複数いる場合には、そのうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所を選ぶことができます。
④ 調停の申立てには何が必要?
遺産分割調停を申し立てる場合には、相続人や相続財産に関する書類を準備します。
一般的には、次のような書類が必要になります。
申立てに関する書類
遺産分割調停申立書
当事者目録
遺産目録
事情説明書
相続関係図
その他、裁判所が指定する書類
相続関係を確認する書類
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の住民票または戸籍の附票
相続財産に関する書類
不動産の登記事項証明書
固定資産評価証明書
預貯金の通帳の写しや残高証明書
有価証券などの資料
必要書類は、相続人の構成や財産の内容によって異なります。
また、裁判所によって提出する書式や取扱いが異なる場合もあります。
例えば、神戸家庭裁判所では、申立書や遺産目録、相続関係図などの書式や、必要書類の一覧表を公開しています。
⑤ 遺産分割調停にはいくらかかる?
遺産分割調停の申立手数料は、原則として被相続人1人につき収入印紙1,200円です。
このほかに、連絡用の郵便切手などが必要になります。
郵便料は、家庭裁判所や当事者の人数などによって異なります。
また、戸籍謄本や登記事項証明書などの取得費用も必要です。
弁護士に依頼する場合には、別途弁護士費用がかかります。
不動産の評価について鑑定が必要になれば、その費用が生じる場合もあります。
したがって、申立手数料そのものは比較的少額ですが、手続き全体の費用は事案によって異なることになります。
⑥ 調停ではどのような話し合いをする?
家庭裁判所へ申立てを行うと、必要な確認などを経て、調停期日が指定されます。
調停では、調停委員会が当事者それぞれの事情や希望を聞きながら、解決に向けた話し合いを進めます。
例えば、
「長男は実家に住んでいるので、そのまま取得したい」
「次男は不動産はいらないので、預貯金を取得したい」
「長女は法定相続分に応じた公平な分割を希望している」
といった事情です。
こうした希望を確認しながら、財産の評価や分割方法を検討します。
不動産の分け方については、例えば次のような方法が考えられます。
一人が不動産を取得する
一人が不動産を取得し、ほかの相続人に代償金を支払う
不動産を売却して代金を分配する
複数の相続人が共有で取得する
どの方法が適切かは、財産の内容や相続人の事情などによって異なります。
調停では、法律上の相続分だけでなく、それぞれの事情も確認しながら、合意できる方法を探っていくことになります。
⑦ 相手が調停にも出席しなかったら?
ここは特に気になるところだと思います。
例えば、次男が遺産分割協議に応じないため、長男が調停を申し立てたとします。
しかし、次男は家庭裁判所から連絡を受けても、調停に出席しません。
この場合、どうなるのでしょうか。
まず、相手が調停を欠席したからといって、申立人の希望どおりに遺産分割が決まるわけではありません。
調停は、原則として当事者の合意によって解決する手続きだからです。
相手方が欠席を続け、話し合いによる合意の見込みがない場合には、調停が不成立となることがあります。
そして、遺産分割調停が不成立となった場合には、原則として自動的に審判手続きへ移行します。
ただし、相手方に適切な通知ができているかなど、手続きを進めるために必要な条件を確認することになります。
相手が出席しない場合でも、法律に定められた手続きを通じて解決を目指すことができます。
⑧ 調停が不成立になった後の「審判」とは?
遺産分割調停で話し合いがまとまらなかった場合には、審判手続きに移行します。
例えば、長男・次男・長女の3人が相続人で、次男が協議に応じない場合です。
調停が成立しなかったときには、裁判官が相続財産の内容や評価額、各相続人の事情などを確認し、遺産分割の方法を判断することになります。
そのため、相続人全員の合意が得られない場合であっても、審判によって遺産分割の内容が定められることがあります。
ただし、裁判官が必ず申立人の希望を認めてくれるわけではありません。
提出された資料や法律上の相続分などを踏まえて判断されます。
また、審判の内容に不服がある場合には、法律で定められた期間内に即時抗告をすることができる場合があります。
⑨ 家庭裁判所が財産を全部調べてくれる?
遺産分割調停を申し立てれば、家庭裁判所が亡くなった方の財産をすべて調査してくれると思われるかもしれません。
しかし、そういうわけではありません。
調停では、基本的に当事者が相続財産に関する資料を提出し、それをもとに話し合いを進めます。
例えば、
預貯金の残高証明書
不動産の登記事項証明書
固定資産評価証明書
株式や投資信託などの資料
といったものです。
相続人の一人が財産を隠しているのではないかという疑いがあっても、家庭裁判所が当然にすべてを調査してくれるわけではありません。
また、亡くなった方の借金についても、原則として遺産分割の対象にはならないなど、調停で扱える事項には一定の範囲があります。
調停の前に、分かる範囲で相続財産を整理しておくことが重要です。
⑩ 調停が成立したら、相続登記はできる?
調停で相続人全員が合意すると、その内容を記載した調停調書が作成されます。
例えば、
「実家の土地建物は長男が取得する」
「長男は次男に代償金を支払う」
「預貯金は長女が取得する」
といった内容で調停が成立した場合です。
不動産については、調停調書を利用して相続登記を申請できる場合があります。
そのため、調停が成立した後に、改めて相続人全員の実印を押した遺産分割協議書を作成する必要は、通常ありません。
ただし、調停調書には、不動産の表示や取得者などが正確に記載されている必要があります。
登記に必要な事項が不足していたり、記載に誤りがあったりすると、そのままでは登記申請に利用できない場合があります。
調停が成立するときには、その後の相続登記まで見据えて内容を確認することが大切です。
なお、審判の場合には、確定した審判書などを利用して相続登記を行うことがあります。
⑪ 司法書士や弁護士に依頼できる?
遺産分割調停の申立ては、相続人自身が行うこともできます。
ただし、戸籍の収集や相続関係の整理、申立書の作成などに負担を感じる場合もあるでしょう。
司法書士は、法律で認められた範囲で、家庭裁判所へ提出する申立書などの書類作成を行うことができます。
ただし、司法書士は、遺産分割調停において相続人の代理人として活動することはできません。
認定司法書士であっても、この点は同じです。
相続人の代理人として調停に出席し、法律上の主張や交渉を行うことを希望する場合には、弁護士への依頼を検討することになります。
特に、相続人同士の意見が大きく対立している場合や、財産の評価・特別受益・寄与分などが争われている場合には、弁護士への相談が適していることがあります。
⑫ 長期間放置している相続にも注意
遺産分割については、2023年4月1日から新しいルールが施行されています。
原則として、相続開始から10年が経過すると、特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分による遺産分割が制限されることがあります。
ただし、期間内に家庭裁判所へ遺産分割の申立てをしていた場合などには例外があります。
また、制度施行前に開始した相続については、経過措置も設けられています。
長年連絡が取れない相続人がいる場合でも、何もせず放置していると、適用されるルールが変わる可能性があります。
さらに、不動産がある場合には、相続登記の義務化による期限にも注意が必要です。
相続人の一人が話し合いに応じない場合でも、利用できる手続きや期限を確認しておくことが大切です。
まとめ
相続人の一人が遺産分割協議に応じない場合でも、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することができます。
今回のポイントを整理すると、
遺産分割調停は、相続人間の話し合いがまとまらない場合に利用できる
相手が協議を拒否していても、ほかの相続人から申し立てることができる
原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる
申立手数料は被相続人1人につき1,200円
戸籍や遺産目録、相続財産の資料などが必要
相手が調停を欠席しても、自動的に申立人の希望どおりになるわけではない
調停が不成立となった場合には、原則として審判に移行する
調停調書や確定した審判書を利用して相続登記を進められる場合がある
司法書士による書類作成と、弁護士による調停代理は役割が異なる
ということになります。
相続人同士で話し合うことができれば、それが最も円滑な解決方法かもしれません。
しかし、長年疎遠になっていたり、意見が対立していたりすると、当事者だけでは解決できないこともあります。
そのような場合には、家庭裁判所の制度を利用することが一つの選択肢になります。
相続人の一人が協議に応じないからといって、いつまでも手続きを止めておく必要はありません。
相続財産や相続人の状況を整理し、適切な方法を検討することが大切です。
相続手続きについては、こちらのページでも紹介しています。
