未支給年金は誰が受け取る?相続財産との違いと請求手続き
「父が亡くなったけれど、まだ振り込まれていない年金がある」
「亡くなった後に振り込まれた年金は、相続人で分けるの?」
「一緒に暮らしていなかった子どもでも、未支給年金を受け取れる?」
年金を受給している方が亡くなった場合、まだ受け取っていない年金が残っていることがあります。
このような年金を「未支給年金」といいます。
未支給年金については、亡くなった方の預貯金などと同じように、相続人全員で遺産分割しなければならないと思われることがあります。
しかし、未支給年金は、通常の相続財産とは法律上の取扱いが異なります。
また、未支給年金を受け取れる人は、法律上の相続人と必ずしも一致しません。
今回は、未支給年金を受け取れる人の範囲や順位、生計同一の条件、請求手続き、相続放棄との関係について説明します。
① 未支給年金とは?
未支給年金とは、年金を受けていた方が亡くなった際に、まだ支払われていなかった年金などのことです。
公的年金は、原則として亡くなった月の分まで支給されます。
例えば、父が7月10日に亡くなった場合です。
年金は7月分まで支給対象となりますが、実際には7月分の年金がまだ振り込まれていないことがあります。
このような年金について、一定の条件を満たす遺族が請求できる制度が未支給年金です。
なお、亡くなった日より後に年金が振り込まれた場合でも、そのうち死亡月分までの年金については、未支給年金の対象となる場合があります。
一方、死亡した月の翌月以降の分など、本来受け取る権利のない年金が支払われた場合には、返還が必要になることがあります。
② 年金は亡くなった月の分までもらえる?
公的年金は、原則として偶数月の15日に、前2か月分が支払われます。
例えば、8月に支払われる年金は、通常、6月分と7月分です。
ここで、父が7月10日に亡くなったケースを考えてみましょう。
父は7月分までの年金を受け取る権利があります。
しかし、8月の支払日にはすでに亡くなっています。
そのため、父自身が受け取れなかった年金について、一定の遺族が未支給年金として請求することになります。
注意したいのは、死亡月の分までは支給対象となるものの、死亡月の翌月以降については原則として年金を受け取れないという点です。
亡くなった後に振込みがあった場合には、どの月の分の年金なのかを確認する必要があります。
③ 未支給年金は相続財産になる?
ここは、今回の記事で特に重要なところです。
未支給年金は、原則として亡くなった方の相続財産にはなりません。
例えば、父が亡くなり、相続人が長男と長女の2人だったとします。
父には銀行預金300万円と、まだ受け取っていない年金20万円がありました。
銀行預金300万円は、原則として相続財産になります。
しかし、未支給年金20万円は、通常の預貯金とは異なります。
未支給年金は、法律で定められた条件を満たす遺族が、自分自身の権利として請求するものだからです。
そのため、原則として遺産分割協議の対象にはなりません。
この取扱いについては、最高裁判所の1995年11月7日の判決でも、国民年金の未支給年金請求権の相続性が否定されています。
つまり、亡くなった方に未支給年金があるからといって、相続人全員で法定相続分どおりに分けるわけではないのです。
④ 未支給年金は誰が受け取れる?
未支給年金を受け取れるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた一定の遺族です。
国民年金や厚生年金については、次の順番で請求できる人が定められています。
配偶者
子
父母
孫
祖父母
兄弟姉妹
その他の3親等内の親族
この順位は、相続人の順位とは異なります。
例えば、亡くなった方に配偶者と子どもがいた場合です。
配偶者が未支給年金を受け取れる条件を満たしていれば、通常、子どもよりも配偶者が優先されます。
また、子どもが複数いる場合でも、配偶者が先順位者として請求できるのであれば、子どもたちが法定相続分に応じて請求する仕組みではありません。
なお、ここでいう配偶者には、一定の要件を満たす事実婚の配偶者も含まれます。
また、一部の共済年金などでは取扱いが異なる場合があります。
⑤ 相続人なら誰でも受け取れる?
未支給年金について、特に注意したいのが「生計を同じくしていた」という条件です。
例えば、父が亡くなり、相続人が長男と長女の2人だったとします。
長男は父と同居して生活していました。
一方、長女は遠方で独立して生活しており、父とは生活上の関わりがほとんどありませんでした。
この場合、長男が未支給年金を請求できる条件を満たしていても、長女が同じように請求できるとは限りません。
未支給年金では、法定相続人であることに加えて、生計同一の条件を確認する必要があるからです。
つまり、相続人だから当然に未支給年金を受け取れるというわけではありません。
反対に、通常の相続では相続人にならない親族でも、法律で定められた範囲と条件を満たせば、未支給年金を受け取れる場合があります。
⑥ 別居していた子どもでも受け取れる?
「父とは別居していたから、未支給年金は受け取れないのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、別居していることだけを理由に、生計同一の条件を満たさないと決まるわけではありません。
例えば、高齢の父が一人暮らしをしており、長女が近くに住んでいた場合です。
長女は定期的に父の自宅を訪問し、生活費を援助したり、通院や買い物を手伝ったりしていました。
このような場合には、生活の実態などを踏まえて、生計を同じくしていたと認められる可能性があります。
また、別の住所に住んでいても、生活費を継続的に負担するなど、経済的なつながりがある場合も考えられます。
ただし、親子であることや、時々連絡を取っていたことだけで、必ず生計同一と認められるわけではありません。
実際の生活状況や援助の内容などによって判断されます。
⑦ 生計を同じくしていたことはどう証明する?
同居していた場合には、住民票などによって生計同一の関係を確認することがあります。
一方、別居していた場合には、追加の書類が必要になることがあります。
日本年金機構では、別住所の場合に「生計同一関係に関する申立書」などの提出を求めています。
例えば、次のような事情を確認することがあります。
定期的に訪問していたか
生活費や療養費などを援助していたか
日常生活に関する継続的な関わりがあったか
どのような経済的なつながりがあったか
また、申立書について第三者による証明が必要になる場合もあります。
単に住民票の住所が違うというだけで、請求を諦める必要はありません。
ただし、生計同一の関係を認めてもらうには、具体的な事情に応じた資料を準備することが重要です。
⑧ 同じ順位の遺族が複数いる場合は?
例えば、父が亡くなり、配偶者はすでに亡くなっていたとします。
父には長男と長女がいて、2人とも未支給年金を受け取れる条件を満たしていました。
この場合、未支給年金はどのように請求するのでしょうか。
日本年金機構では、同じ順位の遺族が複数いる場合、そのうちの1人が代表して請求することとされています。
例えば、長男が代表して未支給年金を請求する方法です。
これは、未支給年金を通常の遺産分割と同じように処理するという意味ではありません。
未支給年金は、法律に基づき、請求権者の範囲や順位が定められている制度だからです。
そのため、誰が請求できるのか、同順位者が複数いる場合には誰が代表するのかを確認する必要があります。
⑨ 未支給年金を受け取るにはどんな書類が必要?
未支給年金を請求する場合には、一般的に次のような書類が必要になります。
1.未支給年金の請求書
日本年金機構所定の「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」などを使用します。
2.亡くなった方の年金証書
年金証書が残っている場合には、確認しておきます。
3.請求する方の本人確認書類
マイナンバーカードなど、所定の確認書類が必要になります。
4.亡くなった方との続柄を確認できる書類
戸籍謄本などを利用します。
法定相続情報一覧図を利用できる場合もあります。
5.生計同一を確認できる書類
住民票や、必要に応じて生計同一関係に関する申立書などを準備します。
6.振込先の口座が分かる書類
請求する方の預貯金口座を確認できる通帳などを準備します。
ただし、請求する方や亡くなった方の状況によって、必要書類は異なります。
また、マイナンバーを利用することによって、一部の書類を省略できる場合があります。
⑩ 請求先はどこ?
未支給年金の請求は、原則として年金事務所や街角の年金相談センターなどで行います。
ただし、亡くなった方が受け取っていた年金の種類によって、手続き先が異なる場合があります。
例えば、障害基礎年金や遺族基礎年金のみを受け取っていた方については、市区町村の国民年金窓口で手続きできる場合があります。
また、共済年金に関係する場合には、請求先や必要書類が異なることがあります。
そのため、まず亡くなった方がどのような年金を受給していたのかを確認することが大切です。
⑪ 死亡届を提出すれば未支給年金も受け取れる?
年金を受給していた方が亡くなった場合には、死亡に関する手続きが必要になることがあります。
ただし、年金の死亡届と、未支給年金の請求は区別して考える必要があります。
現在、日本年金機構に亡くなった方のマイナンバーが収録されている場合には、年金受給権者死亡届を原則として省略できます。
しかし、死亡届を省略できる場合でも、未支給年金を受け取りたいときには請求手続きが必要です。
つまり、市区町村へ死亡届を出しただけで、未支給年金が自動的に遺族へ振り込まれるわけではありません。
また、死亡後も本来受け取れない年金が振り込まれた場合には、返還が必要になることがあります。
⑫ 未支給年金の請求に期限はある?
未支給年金には請求期限があります。
日本年金機構では、未支給年金を受ける権利について、原則として5年間の時効があると案内しています。
具体的な起算日は、亡くなった方の年金の支払日の翌月の初日とされています。
そのため、亡くなってから長期間経過している場合には、請求できるかどうかを確認する必要があります。
また、戸籍や住民票などの取得に時間がかかる場合もあります。
未支給年金の存在が分かった場合には、早めに必要書類を確認し、請求手続きを進めることが大切です。
⑬ 相続放棄をしても未支給年金は受け取れる?
相続放棄との関係も重要です。
例えば、父が亡くなり、長男が家庭裁判所で相続放棄をした場合です。
父には借金が多かったため、長男は相続放棄をしました。
しかし、父にはまだ受け取っていない年金がありました。
この場合、長男は未支給年金を受け取れるのでしょうか。
長男が未支給年金の請求権者としての条件を満たしていれば、相続放棄をしていても、原則として未支給年金を請求できます。
なぜなら、未支給年金は、亡くなった方から相続によって取得する財産ではなく、法律で定められた遺族が自分自身の権利として請求するものだからです。
そのため、適法に相続放棄をした方であっても、生計同一などの条件を満たせば、未支給年金を請求できる場合があります。
また、請求権者が未支給年金を受け取ること自体は、通常、亡くなった方の相続財産を処分する行為には当たりません。
ただし、亡くなった方の銀行預金を引き出す行為とは、法律上の取扱いが異なることに注意が必要です。
⑭ 未支給年金には相続税がかかる?
未支給年金は、原則として亡くなった方の相続財産ではありません。
そのため、通常、未支給年金請求権は相続税の課税対象にはなりません。
例えば、父が亡くなり、長男が未支給年金20万円を受け取った場合です。
この20万円について、父から相続した預貯金などと同じように、相続税の課税対象として取り扱うわけではありません。
ただし、税金が一切関係しないという意味ではありません。
未支給年金は、原則として受け取った方の一時所得に該当します。
一時所得には、原則として年間最高50万円の特別控除があります。
そのため、ほかに一時所得がないなどの条件によっては、所得税が生じない場合もあります。
ただし、ほかの一時所得との合計額や受け取った方の所得状況などによって、税務上の取扱いは変わります。
なお、ここで説明しているのは公的年金の未支給年金についてです。
企業年金や個人年金保険などでは、異なる課税関係が問題になる場合があります。
⑮ 未支給年金と遺族年金は何が違う?
未支給年金と遺族年金は、名前が似ていますが、別の制度です。
未支給年金
亡くなった方が本来受け取ることができた年金のうち、まだ受け取っていないものを、一定の遺族が請求する制度です。
遺族年金
亡くなった方によって生計を維持されていた配偶者や子などが、所定の条件を満たす場合に受け取る年金です。
例えば、父が亡くなり、母が遺族厚生年金の受給要件を満たしている場合です。
母は、父の未支給年金の請求に加えて、遺族厚生年金の受給手続きが必要になる場合があります。
また、未支給年金は原則として一時所得になりますが、公的年金制度に基づく遺族年金は原則として非課税です。
このように、請求できる人の条件や支給内容、税務上の取扱いなどが異なります。
⑯ 未支給年金を請求できる遺族がいない場合は?
例えば、亡くなった方に法定相続人はいるものの、生計を同じくしていた親族がいない場合です。
このようなときには、未支給年金を請求できる人がいないことがあります。
未支給年金は、単に相続人であるという理由だけで請求できるものではないからです。
そのため、未支給年金の請求権者がいない場合に、未支給年金を通常の相続財産として相続人全員で分配することはできません。
また、未支給年金を受け取れる遺族がいない場合には、必要に応じて年金受給権者死亡届を提出することになります。
⑰ 未支給年金の請求前に確認したいこと
未支給年金の請求を進める場合には、次の事項を整理しておくとよいでしょう。
1.亡くなった方が受けていた年金の種類
老齢基礎年金、老齢厚生年金など、受給していた年金を確認します。
2.死亡した年月日
未支給年金は原則として死亡月分までが対象になります。
3.未支給年金を請求できる遺族
配偶者、子、父母など、法律で定められた順位を確認します。
4.生計同一の関係
同居していたのか、別居していた場合にはどのような生活上の関係があったのかを確認します。
5.請求に必要な書類
戸籍謄本、住民票、年金証書、振込先口座などを確認します。
6.相続放棄の有無
相続放棄をしていても未支給年金を請求できる場合があるため、通常の相続財産とは区別して確認します。
7.税務上の取扱い
未支給年金は原則として相続税の対象にはなりませんが、受け取った方の一時所得に該当します。
こうした点を整理しておくことで、誰がどのような手続きを行う必要があるのかを確認しやすくなります。
まとめ
年金を受給していた方が亡くなった場合、まだ受け取っていない年金が残っていることがあります。
この未支給年金は、通常の預貯金などとは異なり、原則として相続財産にはなりません。
今回のポイントを整理すると、
年金は原則として亡くなった月の分まで支給される
未支給年金は、法律で定められた一定の遺族が請求できる
受け取れる遺族には順位が定められている
法定相続人であることだけでは、必ずしも請求できない
未支給年金を請求するには、生計同一の条件を満たす必要がある
別居していても、生計同一が認められる場合がある
未支給年金は原則として遺産分割の対象にならない
同順位者が複数いる場合には、代表者が請求する
未支給年金の請求には、原則として5年間の時効がある
相続放棄をしていても、請求できる場合がある
未支給年金は原則として相続税の対象にならず、受け取った方の一時所得になる
未支給年金と遺族年金は別の制度
ということになります。
未支給年金については、亡くなった方が受け取るはずだったお金だから、相続人全員で分けるものだと思われることがあります。
しかし、未支給年金は、相続によって引き継ぐ財産ではなく、法律で定められた遺族が自分自身の権利として請求するものです。
そのため、通常の相続財産とは分けて考える必要があります。
亡くなった方が年金を受給していた場合には、未支給年金がないか、誰が請求できるのかを確認し、必要な手続きを進めることが大切です。
参考資料
