複数の銀行に預金がある場合、解約・払戻しはどう進める?
「亡くなった父が、いくつもの銀行に口座を持っていた」
「銀行ごとに相続手続きが必要なの?」
「戸籍や印鑑証明書は、銀行の数だけ用意しなければならない?」
ご家族が亡くなった後、預貯金を調べてみると、複数の金融機関に口座が見つかることがあります。
例えば、都市銀行に普通預金、地元の信用金庫に定期預金、ゆうちょ銀行にも貯金があるという場合です。
それぞれの金融機関で相続手続きを行う必要がありますが、書類の準備や提出方法などは必ずしも同じではありません。
今回は、複数の金融機関に預貯金がある場合の相続手続きの流れと、効率よく進めるためのポイントを整理します。
① 銀行が複数あれば、それぞれ相続手続きが必要?
例えば、亡くなった父に次のような預貯金があったとします。
A銀行の普通預金:240万円
B銀行の普通預金:160万円
C信用金庫の定期預金:110万円
ゆうちょ銀行の通常貯金:90万円
合計600万円です。
この場合、A銀行で相続手続きを完了したからといって、ほかの金融機関の預貯金まで自動的に払い戻されるわけではありません。
原則として、金融機関ごとに相続手続きを行う必要があります。
一方、同じ銀行の複数の支店に口座がある場合には、一つの相続手続きの中でまとめて処理できることもあります。
ただし、取引内容や金融機関の取扱いによって異なるため、最初に確認しておきたいところです。
② 最初に金融機関と預貯金の内容を整理する
複数の金融機関で相続手続きを行う場合には、最初に取引先を整理しておくと便利です。
例えば、
A銀行:必要書類の案内待ち
B銀行:戸籍などを準備中
C信用金庫:書類提出済み
ゆうちょ銀行:相続確認表を提出済み
というように、金融機関ごとの状況をメモしておきます。
さらに、支店名や口座番号、死亡日時点の残高、書類提出日、払戻金の入金日なども記録しておくと、後から確認しやすくなります。
複数の金融機関で手続きを進めていると、どこまで終わったのか分からなくなることがあります。
金融機関ごとの進捗を確認できるようにしておくことが大切です。
③ 各金融機関へ必要書類を確認する
まず、それぞれの金融機関の相続手続き窓口に連絡します。
このとき、次のような情報を整理しておくと手続きが進めやすくなります。
亡くなった方の氏名と死亡年月日
取引のある支店や口座番号
遺言書の有無
相続人の人数
遺産分割協議書の有無
預貯金を取得する予定の人
金融機関によっては、インターネットから相続手続きを申し込める場合もあります。
また、ゆうちょ銀行のように、相続確認表などで相続関係を確認したうえで、必要書類の案内を受ける金融機関もあります。
必要書類や受付方法は、金融機関によって異なります。
ある銀行で手続きできたからといって、別の銀行でも同じ書類だけで手続きできるとは限りません。
④ 戸籍は銀行の数だけ取得しなければならない?
ここは、よく疑問になるところです。
例えば、4つの金融機関で相続手続きをする場合、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を4組用意しなければならないのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
金融機関によっては、戸籍謄本などの原本を確認した後、返却してくれる場合があります。
例えば、A銀行に戸籍一式を提出し、返却してもらった後、その戸籍をB銀行でも使用するという方法です。
ただし、金融機関によって原本の取扱いが異なることがあります。
また、郵送で手続きする場合には、原本が返送されるまで次の金融機関へ提出できないこともあります。
そのため、戸籍を何組も取得する前に、各金融機関へ原本返却の方法を確認することが大切です。
⑤ 法定相続情報一覧図を利用すると便利
金融機関が複数ある場合には、法定相続情報証明制度の利用も検討したいところです。
この制度は、亡くなった方と法定相続人の関係を一覧図にまとめ、法務局で認証を受けるものです。
法務局から交付される認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを利用することで、戸籍謄本一式の提出を省略できる場合があります。
例えば、A銀行、B信用金庫、ゆうちょ銀行の3つで相続手続きを行う場合です。
それぞれの金融機関へ法定相続情報一覧図の写しを提出することで、戸籍一式を何度も提出する負担を減らせることがあります。
また、法定相続情報一覧図の写しは、法務局から必要な通数を無料で交付してもらうことができます。
そのため、複数の金融機関で同時に手続きを進めたい場合にも役立ちます。
ただし、法定相続情報一覧図は、法定相続人の関係を確認するためのものです。
遺産分割協議の内容や相続放棄の事実まで証明するものではありません。
そのため、遺産分割協議書や印鑑証明書などが別途必要になる場合があります。
また、金融機関によっては追加の戸籍などを求められることもあります。
⑥ 印鑑証明書も使い回せる?
預貯金の相続手続きでは、相続人の印鑑証明書が必要になる場合があります。
印鑑証明書についても、金融機関によっては原本を確認した後に返却してもらえることがあります。
そのため、同じ印鑑証明書を別の金融機関で利用できる場合もあります。
ただし、注意したいのが発行日です。
例えば、金融機関によっては、発行後6か月以内の印鑑証明書を求めることがあります。
また、取引内容などによって、異なる期間が指定される場合もあります。
相続手続きに時間がかかると、別の金融機関へ提出する時点で、印鑑証明書の取り直しが必要になることがあります。
戸籍・印鑑証明書・遺産分割協議書については、原本返却の有無と提出条件を確認しておくことが大切です。
⑦ 複数の銀行の手続きを同時に進めてもいい?
複数の金融機関の相続手続きは、必ず一つずつ終わらせなければならないわけではありません。
必要書類がそろっていれば、並行して進めることもできます。
例えば、法定相続情報一覧図の写しを複数用意できれば、A銀行とB銀行、C信用金庫の手続きを同時に進められる場合があります。
一方、戸籍や遺産分割協議書の原本が1組しかない場合には、返却を待ってから別の金融機関へ提出する必要が生じることもあります。
そのため、次のように進める方法が考えられます。
すべての金融機関へ相続手続きを申し込む
各金融機関の必要書類を確認する
共通して使える書類を準備する
原本返却の取扱いに応じて提出する
書類の不足があれば追加提出する
手続き完了後、払戻金を確認する
金融機関によって処理期間が異なるため、必ずしも申込み順に完了するとは限りません。
⑧ 払い戻された預貯金は、誰の口座に振り込まれる?
ここも重要なところです。
例えば、父の預貯金600万円について、相続人が長男・次男・長女の3人だったとします。
遺産分割協議により、それぞれ200万円ずつ取得することになった場合です。
このとき、金融機関によっては、各相続人の口座に直接振り込む方法が利用できる場合があります。
一方、相続人の代表者がいったん払戻金を受け取り、その後、ほかの相続人へ分配する方法をとることもあります。
ただし、金融機関によって払戻方法が異なるため、必ず希望する方法を選べるとは限りません。
また、代表者が払戻金を受け取る場合には、相続人全員の合意内容と、受け取ったお金の管理方法を明確にしておくことが大切です。
代表者が受け取ったからといって、そのお金が当然に代表者個人の財産になるわけではありません。
⑨ 代表者が払戻金を預かる場合の注意点
複数の金融機関から払い戻された預貯金を、一人の相続人がまとめて管理することもあります。
例えば、長男がA銀行とB銀行の預金を受け取り、遺産分割協議で決めた金額を次男と長女へ送金する場合です。
このようなときには、次の点を整理しておきたいところです。
どの金融機関からいくら払い戻されたか
払戻金をいつ、どの口座で受け取ったか
振込手数料などの費用を誰が負担するか
各相続人へいくら送金するか
実際にいつ送金したか
特に、代表者が自分の生活費などを管理している口座で相続財産を預かる場合には、入出金が混在して分かりにくくなることがあります。
そのため、できるだけ取引記録を残し、相続財産のお金の動きを明確にしておくことが大切です。
また、払戻しと分配を行う代表者については、相続人間で役割や権限を確認しておくことが望ましいでしょう。
⑩ 払戻しが終わったら、何を確認する?
金融機関で相続手続きが完了したら、それで終わりというわけではありません。
例えば、次のような点を確認しておきたいところです。
1.払戻金額は合っているか
手続き前に確認した残高と、実際の払戻金額を照合します。
死亡後に利息の入金や口座振替などがあった場合には、金額が変わっていることもあります。
2.すべての口座について手続きが終わっているか
普通預金だけでなく、定期預金や積立預金などが残っていないか確認します。
3.金融機関から返却された書類はそろっているか
戸籍や遺産分割協議書、印鑑証明書などの原本が返却されているか確認します。
4.各相続人への分配が終わっているか
代表者が払戻金を預かっている場合には、遺産分割協議の内容に従って送金します。
5.手続きの記録を保存しているか
払戻明細や振込記録などを保管しておくと、後から確認が必要になった場合にも役立ちます。
⑪ 預貯金の手続きが複雑になる場合は?
相続人の人数や財産の内容によっては、預貯金の相続手続きが複雑になることがあります。
例えば、
相続人が多数いる
相続人の一人が亡くなり、数次相続になっている
海外に住んでいる相続人がいる
遺産分割協議書がまだ作成されていない
金融機関が多数ある
相続人の間で預貯金の取得方法について意見が分かれている
といった場合です。
このようなケースでは、必要書類の確認だけでも時間がかかることがあります。
また、相続人の間で意見が対立している場合には、単に金融機関の相続手続きを進めるだけでは解決できないこともあります。
相続の状況を確認し、必要に応じて適切な手続きを検討することが大切です。
まとめ
亡くなった方が複数の金融機関に預貯金を持っていた場合には、原則としてそれぞれの金融機関で相続手続きを行う必要があります。
今回のポイントを整理すると、
金融機関ごとに相続手続きが必要になる
必要書類や受付方法は金融機関によって異なる
戸籍や印鑑証明書は、原本返却によって別の金融機関でも利用できる場合がある
法定相続情報一覧図の写しを利用すると便利な場合がある
書類がそろえば、複数の金融機関で手続きを並行して進められる
払戻金を誰が受け取り、どのように分配するかを明確にしておく
代表者が払戻金を預かる場合には、入出金や送金の記録を残す
すべての金融機関で手続きが完了したか確認する
ということになります。
預貯金の相続手続きは、金融機関が一つだけであれば比較的分かりやすい場合もあります。
しかし、金融機関が複数あると、書類の準備や返却、払戻金の管理など、確認する事項が増えていきます。
最初に金融機関ごとの手続方法を確認し、共通する書類を効率よく利用しながら進めることが大切です。
預貯金の相続手続きを含む遺産承継については、こちらのページでも紹介しています。
▶ 遺産承継業務・預貯金の相続手続きについて(松岡司法書士事務所)
参考資料
