銀行の相続手続きだけを司法書士に依頼できる?
「父が亡くなったけれど、残された財産は銀行預金だけ」
「不動産はないので、司法書士に依頼するような手続きはないと思っていた」
「銀行が何行もあって、仕事を休んで手続きするのが大変」
相続が発生すると、不動産の名義変更だけでなく、預貯金の解約や払戻しなど、さまざまな手続きが必要になります。
司法書士というと、不動産の登記をする専門家というイメージを持っている方も多いかもしれません。
しかし、司法書士が取り扱う相続関係の業務は、不動産登記だけではありません。
相続人からの依頼に基づき、預貯金の解約・払戻しなどの遺産承継業務を取り扱う司法書士事務所もあります。
今回は、預貯金の相続手続きだけを依頼できるのか、どのような手続きを任せられるのか、依頼する際の注意点などについて整理します。
① 不動産がなくても司法書士に依頼できる?
結論からいうと、不動産がなく、預貯金だけの相続であっても、司法書士に手続きを依頼できる場合があります。
例えば、父が亡くなり、次のような財産が残されていたとします。
A銀行の普通預金:300万円
B信用金庫の定期預金:200万円
ゆうちょ銀行の通常貯金:100万円
預貯金の合計は600万円です。
不動産はありません。
相続人は長男と長女の2人で、預貯金を半分ずつ取得することに合意しています。
このような場合でも、預貯金を取得するには、それぞれの金融機関で相続手続きを行う必要があります。
戸籍謄本などを集め、金融機関所定の書類を準備し、解約や払戻しの手続きを進めなければなりません。
こうした事務を司法書士に委任し、手続きを進めてもらう方法があります。
ただし、遺産承継業務を取り扱っているかどうかや、依頼できる具体的な範囲は事務所によって異なります。
② 司法書士にはどのような手続きを任せられる?
預貯金の相続手続きについて、司法書士に依頼できる業務には、例えば次のようなものがあります。
1.戸籍謄本などの収集
亡くなった方の出生から死亡までの戸籍や、相続人の戸籍などを確認・収集します。
2.相続人の調査と確認
収集した戸籍をもとに、誰が法定相続人になるのかを確認します。
3.法定相続情報一覧図の作成と申出
必要に応じて法定相続情報一覧図を作成し、法務局で認証文付きの写しの交付を受けます。
4.金融機関への相続手続きの申込み
亡くなった方が取引していた金融機関へ連絡し、必要書類や手続方法を確認します。
5.預貯金の解約・払戻し
必要な委任や書類が整っている場合に、金融機関での解約・払戻手続きを進めます。
6.払戻金の引渡しや精算
委任された業務内容に応じて、払い戻された預貯金を相続人へ引き渡し、必要な精算を行います。
ただし、すべての事務を一律に引き受けられるわけではありません。
遺言書の内容や相続人の状況、委任された権限、金融機関の取扱いなどによって、対応できる範囲が異なります。
③ 銀行が1行だけでも依頼できる?
「預金があるのは1行だけだけれど、それでも依頼できる?」
という疑問もあるかもしれません。
例えば、亡くなった母の預貯金がA銀行に500万円だけある場合です。
このような場合でも、預貯金の相続手続きだけを依頼できる事務所があります。
また、すでに戸籍や遺産分割協議書がそろっていて、銀行での解約・払戻手続きだけを依頼したいという場合も考えられます。
一方、戸籍の収集からすべて任せたいという場合もあるでしょう。
どの段階から依頼できるのか、銀行1行だけでも対応しているのかは、事務所ごとに確認する必要があります。
相続手続きの全部を依頼することも、必要な部分だけを依頼することも、選択肢として考えられます。
④ 相続人の一人だけが依頼すればよい?
ここは、預貯金の相続手続きを依頼するうえで重要なところです。
例えば、父が亡くなり、相続人が長男・次男・長女の3人だったとします。
長男が、「銀行の相続手続きは全部、司法書士に任せたい」と考えた場合です。
このとき、長男一人が司法書士に依頼しただけで、当然にほかの相続人の分も含めた預貯金の解約・分配まで行えるわけではありません。
相続預貯金については、誰が取得するのか、誰が払戻しを請求するのか、誰に手続きの権限を与えるのかという点を確認する必要があるからです。
例えば、相続人全員が預貯金の解約・分配を司法書士へ委任する場合には、相続人全員との委任関係を明確にし、必要な委任状などを準備する方法が考えられます。
一方、有効な遺言書によって預貯金の取得者や遺言執行者が指定されている場合には、必要な権限や書類が異なります。
また、相続人の一人だけから依頼を受けて行える調査・書類準備などと、相続人全員の権利に関わる解約・分配の手続きは区別する必要があります。
誰から、どのような権限について委任を受けるのかを明確にすることが大切です。
⑤ 遺産分割協議が終わっていなくても依頼できる?
例えば、相続人が3人いて、まだ預貯金を誰が取得するか決まっていない場合です。
この段階でも、相続人の調査や預貯金の確認、必要書類の収集など、進められる事務があります。
ただし、相続人全員の合意が必要な預貯金の解約・分配については、必要な合意や権限が整っていなければ進めることができません。
また、司法書士が一部の相続人の代理人となって、ほかの相続人と遺産分割の条件を交渉することは、原則として司法書士の業務範囲外です。
例えば、
「長男が全財産を取得するよう、次男を説得してほしい」
「ほかの相続人の要求額を減らす交渉をしてほしい」
といった依頼については、弁護士への相談を検討する必要があります。
司法書士による遺産承継業務は、紛争のない相続手続きを適切に進めることと、相続人間の紛争を代理して解決することを区別して考える必要があります。
⑥ 預貯金が高額でも依頼できる?
「司法書士は140万円以下の事件しか扱えないと聞いたことがある」
という方もいるかもしれません。
しかし、140万円という金額は、主に認定司法書士による簡易裁判所の民事事件などの代理権限に関係するものです。
紛争のない遺産承継業務として、委任に基づいて預貯金の相続手続きを行う場合の金額上限と、同じ意味ではありません。
例えば、相続人全員で遺産分割の内容が決まっており、必要な委任や金融機関の手続条件が整っている場合には、預貯金が140万円を超えるという理由だけで、当然に取扱いができなくなるわけではありません。
ただし、預貯金の額が大きければ、どのような業務でも司法書士が取り扱えるという意味ではありません。
財産額だけではなく、業務の内容、委任関係、紛争の有無などを踏まえて判断する必要があります。
⑦ 金融機関によって必要書類や手続方法が違う
預貯金の相続手続きを司法書士に依頼する場合でも、金融機関ごとの確認は必要です。
例えば、
金融機関所定の相続届
委任状の様式
相続人の印鑑証明書
遺産分割協議書
法定相続情報一覧図
通帳や証書
払戻金の振込先
などです。
同じような相続であっても、銀行と信用金庫、ゆうちょ銀行では手続きの進め方が異なる場合があります。
また、司法書士が代理人として手続きを行う場合にも、金融機関が所定の委任状や本人確認資料などを求めることがあります。
そのため、司法書士に依頼したからといって、金融機関で必要な確認や書類が省略されるわけではありません。
各金融機関の案内に従って、必要な手続きを進めることになります。
⑧ 払戻金はどのように相続人へ渡される?
例えば、3つの銀行に預貯金があり、相続人全員が司法書士に解約・払戻しと分配を委任した場合です。
業務内容や金融機関の取扱いに応じて、払戻金を相続人の口座へ直接振り込む方法や、受任者がいったん受領して精算・分配する方法が考えられます。
受任者が預貯金を管理する場合には、委任された権限や預り金の管理方法を明確にしておくことが必要です。
また、手続きが完了した際には、例えば次のような事項を確認します。
各金融機関からの払戻金額
預り金の入金額
金融機関の振込手数料
司法書士の報酬と実費
各相続人への送金額
預り金の残額
こうした内容を整理し、必要な報告と精算を行います。
預貯金を払い戻すだけでなく、その後の引渡しまで明確にしておくことが重要です。
⑨ 司法書士に依頼すると費用はいくらかかる?
司法書士へ預貯金の相続手続きを依頼する場合には、報酬と実費がかかります。
報酬の定め方は事務所によって異なります。
例えば、
金融機関1行ごとに報酬を設定する方法
預貯金の額に応じて報酬を計算する方法
戸籍収集や財産調査を含めて一括で報酬を設定する方法
最低報酬額を設ける方法
などがあります。
また、相続人の人数や金融機関の数、手続きの複雑さによって、報酬が変わることもあります。
実費としては、戸籍謄本などの取得費用、郵送料、金融機関の証明書発行手数料、振込手数料などが考えられます。
そのため、預貯金が少額の場合には、司法書士へ依頼する報酬と、ご自身で手続きする場合の負担を比較して考えることも大切です。
依頼する際には、どこまでの手続きが報酬に含まれているのか、別途必要になる費用は何かを確認しておきたいところです。
⑩ 相続人自身で手続きすることもできる?
もちろん、預貯金の相続手続きは、必ず司法書士などの専門家に依頼しなければならないわけではありません。
相続人自身で金融機関の相続手続きを行うこともできます。
例えば、
金融機関が1行だけ
相続人が少ない
遺言書や遺産分割協議書がそろっている
平日に手続きする時間がある
といった場合には、ご自身で進めやすいこともあります。
一方、次のような場合には、手続きの負担が大きくなる可能性があります。
複数の銀行や信用金庫に預貯金がある
相続人が多数いる
戸籍の収集が複雑
相続人が遠方に住んでいる
相続が何世代にもわたっている
平日に金融機関へ行く時間が取れない
払戻金の分配や精算まで任せたい
どの方法が適しているかは、相続人の状況や財産の内容によって異なります。
⑪ 相続税の申告も任せられる?
預貯金の相続手続きを司法書士に依頼する場合、相続税の申告まで任せられると考える方もいるかもしれません。
しかし、相続税の申告書の作成や税務代理は、原則として税理士の業務です。
司法書士が預貯金の相続手続きを行っていても、相続税の申告まで当然に行えるわけではありません。
相続税の申告が必要な場合には、税理士への相談や依頼を検討することになります。
また、相続税の申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
預貯金の解約が終わるまで待っていると、申告期限に間に合わなくなる可能性もあります。
預貯金の相続手続きと相続税の申告は、必要に応じて並行して進めることが大切です。
⑫ 依頼する前に確認しておきたいこと
司法書士に預貯金の相続手続きを依頼する場合には、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
1.預貯金だけの相続手続きに対応しているか
不動産がなくても依頼できるかを確認します。
2.どこまで任せられるか
戸籍収集、金融機関への照会、解約・払戻し、分配など、業務の範囲を確認します。
3.誰からの委任が必要か
相続人全員の委任が必要なのか、どのような委任状を準備するのかを確認します。
4.報酬と実費はいくらか
金融機関の数や財産額に応じた報酬、追加費用の有無を確認します。
5.払戻金を誰が受け取るか
相続人への直接振込なのか、受任者が受領して精算するのかを確認します。
6.手続き完了後の報告はどうなるか
払戻明細や送金記録など、どのような報告を受けられるか確認します。
依頼内容や費用、払戻金の管理方法などについて、事前に説明を受けておくことが大切です。
まとめ
司法書士の業務は、不動産の相続登記だけではありません。
相続人からの依頼に基づき、預貯金の解約・払戻しなどの遺産承継業務を取り扱うこともあります。
今回のポイントを整理すると、
不動産がなく、預貯金だけの相続でも司法書士に依頼できる場合がある
戸籍収集や相続人調査から依頼する方法がある
銀行の解約・払戻手続きだけを依頼できる場合もある
相続人全員の権利に関わる手続きでは、必要な委任や合意を確認する
司法書士が相続人間の紛争交渉を代理することは原則としてできない
金融機関によって必要書類や手続方法が異なる
払戻金の管理や分配方法を明確にしておく
報酬や実費は、事務所や業務内容によって異なる
相続税の申告が必要な場合には、税理士への依頼などを検討する
ということになります。
預貯金の相続手続きは、ご自身で進めることもできます。
しかし、複数の金融機関に口座があったり、相続人が多かったりすると、必要書類の準備や金融機関とのやり取りに時間がかかることがあります。
そのような場合には、必要な手続きだけを専門家に依頼することも、一つの方法です。
不動産がないから司法書士に依頼できないと考える必要はありません。
預貯金の相続についても、手続きの内容や委任の範囲を確認したうえで、適切な方法を選ぶことが大切です。
預貯金の相続手続きを含む遺産承継については、こちらのページでも紹介しています。
▶ 遺産承継業務・預貯金の相続手続きについて(松岡司法書士事務所)
