遺産承継業務と遺言執行の違いとは?司法書士に依頼できる範囲を解説
ご家族が亡くなられた後、相続手続きを専門家へ依頼しようとすると、「遺産承継業務」や「遺言執行」という言葉を見かけることがあります。
「遺産承継業務と遺言執行は同じものなの?」
「遺言書がある場合でも、司法書士に相続手続きを依頼できる?」
「遺言執行者は相続人の代わりに何でもできるの?」
このような疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
前回までは、遺産承継業務の基本や、預貯金の相続手続きについてご紹介してきました。
今回は、混同されやすい「遺産承継業務」と「遺言執行」の違いについて説明します。
どちらも相続財産に関する手続きですが、実は大きな違いがあります。
遺産承継業務と遺言執行は何が違う?
簡単にいうと、次のような違いがあります。
遺産承継業務
相続人などから依頼を受け、戸籍の収集、預貯金の解約、不動産の相続登記など、必要な相続手続きを進める業務です。
遺言執行
亡くなった方が残した遺言の内容を実現するため、遺言執行者が必要な手続きを行うことです。
つまり、
遺産承継業務は、相続人などからの依頼に基づく業務。
遺言執行は、遺言者の意思を実現するための業務。
という違いがあります。
遺産承継業務は相続人からの依頼で進めます
例えば、父が亡くなり、相続人が長男と長女の2人だったとします。
父には、
自宅の土地と建物
A銀行の普通預金
B銀行の定期預金
が残されていました。
遺言書はありません。
この場合、相続人が遺産の分け方を話し合い、その結果に従って各種手続きを行うことになります。
そこで司法書士が相続人から依頼を受け、
戸籍の収集
相続人の確認
相続財産の確認
遺産分割協議書の作成
預貯金の解約・払戻し
不動産の相続登記
などを進めるのが、遺産承継業務です。
遺産全体の手続きをまとめて進める場合には、基本的に相続人全員の協力や委任が必要になります。
ただし、一部の相続手続きだけを個別に依頼することもできます。
遺言執行は遺言の内容を実現するための手続きです
一方、亡くなった方が遺言書を残していた場合はどうでしょうか。
例えば、
「A銀行の預金を長男に相続させる」
「B銀行の預金を長女に相続させる」
という遺言があったとします。
この場合、遺言の内容に従って財産を承継するための手続きを進めることになります。
遺言書に遺言執行者が指定されている場合には、その遺言執行者が遺言の内容を実現するために必要な手続きを行います。
民法第1012条では、遺言執行者について、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な行為をする権利義務があると定めています。
つまり、遺言執行者は単なる手続きの代行者ではなく、法律上の権限と義務を持つ立場です。
遺言執行者はどのような仕事をする?
遺言執行者の仕事は、遺言の内容によって異なります。
一般的には、
相続人への遺言内容の通知
相続財産の調査
相続財産目録の作成・交付
預貯金の解約・払戻し
遺贈に関する手続き
不動産の登記に関する手続き
遺言で指定された方への財産の引渡し
などがあります。
ただし、遺言執行者だからといって、亡くなった方の財産について無制限に何でもできるわけではありません。
遺言の内容を実現するために必要な範囲で権限を行使することになります。
また、遺言執行者には、相続人への通知や相続財産目録の作成・交付など、法律上の義務もあります。
遺言執行者は相続人全員の代理人なの?
ここも重要な違いです。
以前の民法には、遺言執行者を「相続人の代理人とみなす」という規定がありました。
しかし、2019年7月1日に施行された相続法改正によって、この規定は見直されています。
現在の民法第1015条では、遺言執行者が権限内で遺言執行者であることを示して行った行為について、その効果が相続人に直接生じることを定めています。
つまり、遺言執行者は相続人全員の代理人として行動するのではなく、遺言者が残した意思を実現する立場です。
相続人の誰か一人の利益を優先することも、遺言の内容を勝手に変更することもできません。
相続人全員の同意が必要なの?
遺産承継業務と遺言執行では、この点も異なります。
遺産承継業務では、相続人全員の協力を得ながら遺産分割や財産の承継を進めることが一般的です。
一方、遺言執行者には、遺言の内容を実現するための法律上の権限があります。
そのため、適法な遺言があり、遺言執行者にその手続きを行う権限がある場合には、遺言執行のための行為について、相続人全員から改めて委任や同意を得る必要がないことがあります。
ただし、どのような手続きができるかは遺言の内容や法律上の権限によって異なります。
遺言書があれば、必ずあらゆる手続きを単独で進められるという意味ではありません。
遺言書があれば必ず遺言執行者が必要?
遺言書があるからといって、必ず遺言執行者を置かなければならないわけではありません。
遺言の内容によっては、財産を取得する相続人自身が必要な手続きを進めることもできます。
また、遺言書に遺言執行者が指定されていない場合でも、必要に応じて利害関係人の請求により家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことができます。
したがって、
「遺言書がある=必ず遺言執行者がいる」
というわけではありません。
遺言の内容と遺言執行者の有無を確認して、必要な手続きを判断することになります。
司法書士も遺言執行者になれる?
司法書士が遺言執行者に就任することも可能です。
遺言書を作成する段階で、司法書士を遺言執行者として指定しておく方法があります。
例えば、
「相続人に遺言執行の負担をかけたくない」
「預貯金や不動産の手続きを専門家に任せたい」
「相続人が遠方に住んでいる」
といった場合です。
司法書士が遺言執行者に就任した場合には、遺言の内容に従い、法律上の権限と義務に基づいて遺言執行事務を進めます。
また、相続人や受遺者などが遺言執行者に指定されている場合に、司法書士がその事務を支援することも考えられます。
ただし、司法書士自身が遺言執行者になる場合と、遺言執行者から依頼を受けて業務を行う場合では、立場が異なります。
相続人同士でもめている場合はどうなる?
遺産承継業務では、相続人間に争いがないことが基本的な前提となります。
例えば、
「兄と妹で財産の分け方について争っている」
「特定の相続人が遺産分割に応じない」
といった場合、司法書士が一方の相続人の代理人として他の相続人と遺産分割交渉を行うことはできません。
一方、遺言執行の場合には、遺言執行者が法律上の権限に基づいて事務を進めますが、遺言の有効性や遺留分などをめぐって紛争が生じることもあります。
そのような場合には、司法書士の業務範囲を超える法律上の紛争への対応が必要になることがあります。
遺言執行者に就任していることと、相続人や受遺者の代理人として紛争の交渉を行えることは別問題です。
必要に応じて弁護士への相談や依頼を検討することになります。
遺産承継業務と遺言執行のどちらを依頼すればいい?
これは、遺言書の有無や内容、依頼する方の立場によって変わります。
例えば、
遺言書がなく、相続人全員で遺産を整理したい場合
→ 遺産承継業務を検討します。
遺言書があり、遺言執行者が指定されている場合
→ 遺言執行者が中心となって、遺言内容を実現するための手続きを進めます。
遺言書はあるけれど、遺言執行者が指定されていない場合
→ 遺言の内容に応じて相続人などが手続きを進める方法や、必要に応じて遺言執行者の選任を検討します。
いずれの場合も、まずは遺言書の有無と内容を確認することが大切です。
大切なのは最初に相続全体を整理すること
相続手続きを始めるときには、
誰が相続人なのか
どのような財産があるのか
遺言書があるのか
遺言執行者が指定されているのか
という点を確認する必要があります。
そのうえで、
「相続人からの依頼による遺産承継業務として進めるのか」
「遺言執行者による遺言執行として進めるのか」
を整理します。
どちらも相続手続きを進めるための方法ですが、依頼する相手、業務の目的、権限の根拠が異なります。
この違いを理解しておくことで、誰に何を依頼すればよいのか判断しやすくなります。
遺産承継・遺言執行についてお考えの方へ
松岡司法書士事務所では、芦屋市・西宮市・神戸市を中心に、遺産承継業務や遺言執行、相続登記、預貯金の相続手続きなどのご相談を承っています。
「相続手続きをまとめてお願いしたい」
「遺言書が見つかったけれど、どう進めればいいか分からない」
「遺言執行者に指定されているが、手続きが分からない」
「銀行の払戻しや相続登記を専門家に任せたい」
といった段階からでもご相談いただけます。
まずは相続人、相続財産、遺言書の有無などを確認し、必要となる手続きを整理します。
初回相談は無料です。
ご自宅などへの出張相談にも対応しています。
相続手続きでお困りの場合には、お気軽にご相談ください。
松岡司法書士事務所
