生活保護を受けていた親が亡くなった。葬儀や相続はどうなる?
「生活保護を受けていた母が亡くなった。葬儀費用は市役所が負担してくれるの?」
「母には預貯金がほとんどない。子どもが自分のお金で葬儀をしなければならない?」
「生活保護を受けていた人が亡くなった場合、相続手続きは必要なの?」
親が生活保護を受けていた場合、亡くなった後の葬儀や相続について、どのように対応すればよいのか分からないことがあります。
特に、親にまとまった財産がなく、子ども自身も経済的に余裕がない場合には、葬儀費用が大きな負担になることがあります。
生活保護には「葬祭扶助」という制度があります。
しかし、生活保護を受けていた方が亡くなれば、誰でも葬祭扶助を利用できるというわけではありません。
また、生活保護を受けていた方が亡くなった場合でも、通常の相続と同じように、預貯金や借金、未払金などの問題が生じることがあります。
さらに、亡くなった方の生活保護費について、返還が必要になる場合もあります。
今回は、生活保護を受けていた親が亡くなった場合の葬儀費用、葬祭扶助、残された財産や借金、生活保護費の返還、相続放棄などについて、具体的な事例をもとに説明します。
① 生活保護を受けていた80歳の母が亡くなった
例えば、次のような家庭を考えてみましょう。
母:80歳。芦屋市内の賃貸住宅で一人暮らし
長男:54歳。西宮市在住
長女:50歳。神戸市在住
父:すでに死亡
母は長年、一人暮らしをしていました。
年金収入だけでは生活費をまかなうことが難しく、生活保護を受けていました。
ある日、母が体調を崩して入院し、その後、病院で亡くなりました。
長男と長女が母の財産を確認したところ、銀行預金は約2万円しかありませんでした。
不動産はなく、ほかにまとまった財産も見当たりません。
長男は母の葬儀について、葬儀社に相談しようと考えました。
しかし、自分自身にも家族があり、生活に余裕があるわけではありません。
長男は長女に尋ねました。
「母は生活保護を受けていたけど、葬儀費用は市役所が負担してくれるのかな?」
長女も分かりません。
「生活保護を受けていた人の葬儀は、無料でできると聞いたことがあるけど……」
このような場合、まず何を確認すればよいのでしょうか。
② まず、生活保護の担当窓口へ連絡する
生活保護を受けていた方が亡くなった場合、まず確認したいのが、生活保護を担当していた福祉事務所への連絡です。
通常、生活保護を受けている方には、担当のケースワーカーがいます。
例えば、今回の母が芦屋市で生活保護を受けていた場合には、芦屋市の生活保護担当窓口へ連絡することになります。
母が亡くなったことを伝え、必要な手続きについて確認します。
具体的には、次のような事項です。
母が亡くなったことの連絡
生活保護に関する手続き
支給済みの生活保護費の取扱い
葬祭扶助を利用できる可能性
賃貸住宅についての確認事項
返却が必要な書類などの有無
一人暮らしの方が亡くなった場合には、本人を対象とする生活保護は終了することになります。
ただし、死亡の連絡が遅れると、死亡後も生活保護費が振り込まれる場合があります。
このような場合には、過払いとなった保護費の返還が問題になることがあります。
そのため、母が亡くなったことは早めに担当窓口へ伝える必要があります。
また、葬祭扶助の利用を希望する場合には、葬儀を進める前に相談することが重要です。
③ 葬祭扶助とは、どのような制度?
生活保護法には、葬祭扶助という制度があります。
生活保護法第18条では、葬祭扶助について定めています。
葬祭扶助は、経済的な理由により葬祭に必要な費用を負担することが困難な場合などに、法律上の要件に従って行われる扶助です。
対象となるのは、主に次のような費用です。
死亡診断や死体検案などに関する費用
遺体の運搬に必要な費用
火葬または埋葬に必要な費用
納骨その他葬祭に必要な費用
ただし、実際に支給対象となる費用には、国が定める基準があります。
例えば、通常の葬儀で行われる通夜や告別式、会食、返礼品、宗教者への謝礼などが、すべて葬祭扶助の対象になるわけではありません。
一般的には、必要最小限の葬祭を行うための制度と考える必要があります。
そのため、葬祭扶助を利用する場合には、一般的な家族葬などとは異なり、火葬を中心とした簡素な葬祭になることが多くあります。
また、支給される費用には地域などに応じた基準があり、希望する葬儀費用の全額が必ず認められるというわけではありません。
葬祭扶助は、生活保護を受けていた方の葬儀費用を無条件で負担する制度ではなく、法律上の要件に従って必要な葬祭費用を扶助する制度です。
④ 生活保護を受けていた親なら、必ず葬祭扶助を利用できる?
ここは特に注意したいところです。
例えば、母が生活保護を受けていた場合です。
長男は、母が生活保護受給者だったのだから、市役所が当然に葬儀費用を負担してくれると考えていました。
しかし、生活保護を受けていた方が亡くなったという理由だけで、葬祭扶助が自動的に支給されるわけではありません。
生活保護法第18条第2項第1号では、生活保護を受けていた方が亡くなり、その葬祭を行う扶養義務者がいない場合について、葬祭扶助を行うことができると定めています。
例えば、亡くなった方に葬祭を行う扶養義務者がおらず、知人や民生委員などが葬祭を行う場合です。
このような場合には、葬祭扶助の対象になることがあります。
一方、長男や長女などの扶養義務者が自ら葬儀を行う場合には、この規定がそのまま適用されるわけではありません。
ただし、葬儀を行う子ども自身が経済的に困窮している場合には、生活保護法第18条第1項による葬祭扶助を検討できる場合があります。
つまり、次の2つは区別する必要があります。
亡くなった方が生活保護を受けていた場合
葬祭を行う扶養義務者の有無など、法律上の要件を確認します。
葬儀を行う方自身が経済的に困窮している場合
その方の経済状況などに基づいて、葬祭扶助の対象になるかを確認します。
この違いを理解しておくことが重要です。
⑤ 子どもに葬儀費用を支払う余裕がない場合は?
今回の長男と長女は、それぞれ仕事をして生活しています。
しかし、生活費や住宅ローンなどの負担があり、急にまとまった葬儀費用を用意することは難しい状況です。
このような場合には、福祉事務所へ相談することが考えられます。
例えば、長男が葬儀を行いたいと考えているものの、葬儀費用を負担することで生活が困難になる場合です。
生活保護法第18条第1項による葬祭扶助について、長男自身の収入や資産、世帯の状況などから、利用できるかを判断することになります。
ただし、子どもに十分な預貯金がないというだけで、必ず葬祭扶助が認められるわけではありません。
その方の経済状況などについて、福祉事務所が確認する必要があります。
また、亡くなった母が生活保護を受けていた自治体と、葬儀を行う長男が住んでいる自治体が異なる場合もあります。
このような場合には、どちらの福祉事務所が手続きを担当するのかも確認する必要があります。
例えば、母は芦屋市に住み、長男は西宮市に住んでいた場合です。
この場合、長男自身の経済状況に基づいて葬祭扶助を申請するのであれば、長男の住所地を管轄する福祉事務所への相談が必要になることがあります。
子どもが葬儀費用を負担できない場合には、故人が生活保護受給者だったかどうかだけでなく、葬儀を行う方自身の経済状況を踏まえて相談することが大切です。
⑥ 葬祭扶助を利用したい場合、いつ相談すればいい?
葬祭扶助を利用する可能性がある場合には、葬儀社と正式に契約する前に福祉事務所へ相談することが重要です。
例えば、長男が葬儀社に依頼し、30万円の葬儀契約を締結した場合です。
その後、葬儀を終えてから福祉事務所へ行き、葬祭扶助を申請したとします。
しかし、葬祭扶助は、葬儀費用を支払った後に、当然にその費用を払い戻してもらえる制度ではありません。
申請前に葬儀費用を支払った場合などには、扶助を受けられない可能性があります。
そのため、葬儀費用を負担することが難しい場合には、早い段階で福祉事務所へ相談することが大切です。
具体的には、次のような事項を確認するとよいでしょう。
葬祭扶助の対象になる可能性があるか
どこの福祉事務所へ申請するのか
誰が申請者になるのか
必要な書類は何か
どのような葬祭が対象になるのか
葬儀社への依頼はどの段階で行えばよいか
なお、葬祭扶助の申請や支給の判断は、個別の事情によって異なります。
葬祭扶助を検討している場合には、先に葬儀を契約するのではなく、まず福祉事務所へ相談することが大切です。
⑦ 葬儀をする子どもがいない場合はどうなる?
例えば、母には長男と長女がいるものの、二人とも長年母とは連絡を取っておらず、葬儀を行う意思がない場合です。
あるいは、そもそも亡くなった方に親族がいない場合もあります。
このような場合、葬儀を行う方がいなければ、亡くなった方の遺体をそのままにしておいてよいわけではありません。
誰が遺体の引取りや火葬などを行うのかという問題が生じます。
厚生労働省の資料では、生活保護受給者が亡くなり、葬祭を行う意思のある扶養義務者がいない場合には、生活保護法第18条第2項第1号による葬祭扶助が問題になると説明されています。
また、葬祭を行う方がいない場合には、墓地、埋葬等に関する法律第9条に基づいて、市区町村長が埋葬または火葬を行う場合があります。
ただし、どの制度を適用するかは、扶養義務者や葬祭を行う方の有無などによって異なります。
例えば、親族ではない知人が自発的に葬祭を行う場合と、葬祭を行う方が全くいない場合とでは、適用される制度が異なることがあります。
そのため、親族が葬儀を行わない場合には、病院や施設、福祉事務所などと連絡を取り、適切な対応を確認することが必要になります。
⑧ 子どもには、親の葬儀費用を支払う義務がある?
ここで、もう一つ確認しておきたいことがあります。
それは、親が亡くなった場合に、子どもが当然に葬儀費用を支払わなければならないのかという問題です。
例えば、母が生活保護を受けており、預貯金が2万円しかなかった場合です。
長男は母の葬儀を行いましたが、葬儀費用は30万円かかりました。
この場合、長男が葬儀社と契約を締結していれば、通常、その契約に基づく支払義務が生じます。
しかし、これは長男自身が葬儀社と契約したことによる支払義務です。
母が生前に負っていた債務を相続することとは別の問題になります。
葬儀費用は、一般に、亡くなった後に発生する費用です。
そのため、母が生前に負っていた借金や未払金と同じように考えることはできません。
また、長男と長女が相続人だからといって、葬儀費用を必ず半分ずつ負担しなければならないという一律の決まりがあるわけでもありません。
葬儀費用の負担については、誰が葬儀社と契約したのか、家族間でどのような合意があったのかなどによって判断する必要があります。
親子関係があることと、葬儀社に対して契約上の支払義務を負うことは、区別して考える必要があります。
⑨ 国民健康保険の葬祭費5万円は受け取れる?
一般に、国民健康保険の被保険者が亡くなった場合には、葬儀を行った方に葬祭費が支給される制度があります。
例えば、芦屋市の国民健康保険では、一定の要件を満たす場合、葬祭費として5万円が支給されます。
しかし、ここで注意したいことがあります。
生活保護を受けている方は、原則として国民健康保険の適用対象から除かれています。
また、後期高齢者医療制度についても、生活保護を受けている世帯に属する方は、原則として被保険者になりません。
そのため、亡くなった方が生活保護を受けていた場合には、国民健康保険や後期高齢者医療制度の葬祭費を、当然に受け取れるわけではありません。
つまり、次の2つは異なる制度です。
葬祭扶助
生活保護法に基づき、法律上の要件を満たす場合に葬祭に必要な費用を扶助する制度です。
葬祭費
国民健康保険や後期高齢者医療制度など、加入していた医療保険の制度に基づいて、一定の要件を満たす場合に支給されるものです。
今回の母は、死亡時に生活保護を受けていた設定です。
そのため、国民健康保険の葬祭費5万円を当然に受け取れるものとして、葬儀費用を計算することはできません。
生活保護の葬祭扶助と健康保険の葬祭費は別の制度であり、亡くなった方の加入状況を確認する必要があります。
⑩ 生活保護を受けていた母の預貯金は相続できる?
今回の母の銀行口座には、約2万円が残っていました。
長男は、このお金について疑問を持ちました。
「生活保護でもらったお金が残っているなら、相続できないのかな?」
しかし、生活保護を受けていた方が亡くなったからといって、残された預貯金がすべて当然に国や自治体のものになるわけではありません。
亡くなった方が所有していた預貯金や現金などは、原則として相続財産になります。
ただし、生活保護を受けていた方については、別途確認すべき事項があります。
例えば、死亡後に支給された生活保護費が含まれていないかという問題です。
また、生前に生活保護費の返還決定などがされていた場合には、その返還義務が相続に関係することがあります。
さらに、生活保護法第18条第2項に基づいて葬祭扶助が行われる場合には、同法第76条により、亡くなった方の遺留金品を葬祭扶助の費用に充てることができる仕組みがあります。
そのため、母の銀行預金が2万円あるからといって、そのお金を長男と長女が直ちに自由に使ってよいとは限りません。
まず、預貯金の内容や生活保護費の精算、葬祭扶助の適用などについて確認することが大切です。
⑪ 生活保護費は、親が亡くなったら返還しなければならない?
生活保護を受けていた方が亡くなった場合、家族が次のように心配することがあります。
「母は何年も生活保護を受けていたけれど、そのお金を子どもが返さなければならないの?」
結論として、親が生活保護を受けていたという事実だけで、相続人が過去の生活保護費の全額を返還しなければならないわけではありません。
生活保護は、生活に困窮する方に対し、法律に基づいて必要な保護を行う制度です。
適正に支給された生活保護費について、本人が亡くなったという理由だけで、当然に全額返還する仕組みではありません。
ただし、一定の場合には返還や徴収の問題が生じます。
例えば、生活保護法第63条では、資力があるにもかかわらず、急迫した事情などにより保護を受けた場合の費用返還について定めています。
また、生活保護法第78条では、不実の申請その他不正な手段によって保護を受けた場合などの費用徴収について定めています。
例えば、母が生前に資産を保有していたことなどにより、法令上の返還義務が発生していた場合です。
このような返還義務については、相続人に承継されることがあります。
そのため、福祉事務所から返還を求められた場合には、何の法律上の根拠に基づく請求なのかを確認する必要があります。
生活保護を受けていたから返還が必要なのではなく、法令上の返還義務が発生していたかどうかが重要です。
⑫ 亡くなった後に生活保護費が振り込まれたら?
例えば、母が10月20日に亡くなったとします。
しかし、死亡の連絡が遅れ、11月分の生活保護費が母の銀行口座に振り込まれた場合です。
このような場合、死亡後に支給された生活保護費について、返還が必要になることがあります。
特に、死亡月の翌月以降に支給された生活保護費については、過払いとして返還処理が問題になります。
そのため、死亡後に入金された生活保護費を、相続人がそのまま引き出して使用することは避ける必要があります。
まず、担当の福祉事務所へ連絡し、入金されたお金の取扱いについて確認しましょう。
なお、生活保護費は通常、毎月一定の時期に支給されますが、死亡月の支給額や過払いの有無については、具体的な支給状況を確認する必要があります。
死亡した月の保護費が、すべて当然に返還対象になるというわけではありません。
死亡後の振込みがあった場合には、入金日と対象月を確認し、福祉事務所の説明を受けることが大切です。
⑬ 母が住んでいた賃貸住宅はどうなる?
今回の母は、芦屋市内の賃貸住宅で一人暮らしをしていました。
生活保護を受けていたため、家賃については住宅扶助を利用していました。
では、母が亡くなった後の賃貸住宅はどうなるのでしょうか。
一般的な賃貸借契約では、借主が亡くなっただけで契約が自動的に終了するわけではありません。
そのため、母が亡くなった後も、賃貸借契約の終了や部屋の明渡しについての手続きが必要になる場合があります。
ここで注意したいのは、生活保護を受けていたからといって、福祉事務所が当然に部屋の片付けや家財道具の処分を行ってくれるわけではないことです。
例えば、母の部屋に家具や家電、衣類などが残っていた場合です。
これらの家財は、原則として相続財産になります。
そのため、相続人がどのように対応するかを検討する必要があります。
また、賃貸借契約が継続している間は、家賃が発生する場合があります。
ただし、子どもが相続放棄を検討している場合には、賃貸借契約の解約や家財の処分について慎重な対応が必要です。
この問題は、第2回「賃貸アパートで一人暮らしの父が死亡。家賃や部屋の片付けは誰がする?」でも詳しく説明しました。
生活保護を受けていた方の死亡後であっても、賃貸借契約や残置物の問題は、相続関係とは別に適切な対応を検討する必要があります。
⑭ 生活保護を受けていた親にも、借金があることはある?
生活保護を受けていた方については、財産がほとんどないと思われることがあります。
しかし、生活保護を受けていたからといって、借金などの債務が全くないとは限りません。
例えば、生活保護を受ける前から借金が残っていた場合です。
また、家賃や公共料金などの未払金が残っていることも考えられます。
そのため、母が亡くなった場合には、次のような事項を確認する必要があります。
銀行などからの借入金
クレジットカードの未払金
家賃の未払金
電気・ガス・水道料金
携帯電話の利用料金
税金などの未納分
生活保護法に基づく返還金などの有無
ただし、すべての請求について、子どもが当然に支払義務を負うわけではありません。
亡くなった方が負っていた債務が相続の対象になるか、相続放棄をしているか、子ども自身が保証人になっていないかなどを確認する必要があります。
例えば、母の預貯金が2万円しかなく、借金が50万円残っていた場合です。
このような場合には、相続放棄を検討することも考えられます。
生活保護を受けていたという理由だけで借金がないと判断せず、確認できる範囲で債務を調べておくことが重要です。
⑮ 財産がほとんどないなら、相続放棄した方がいい?
今回の母には、約2万円の預貯金しかありませんでした。
不動産もなく、ほかにまとまった財産も見当たりません。
このような場合、長男と長女は相続放棄をした方がよいのでしょうか。
相続放棄をするかどうかは、財産が少ないという理由だけで決めるものではありません。
まず、借金や未払金などの債務があるかを確認する必要があります。
例えば、母に借金がなく、預貯金が2万円だけ残っている場合です。
このような場合には、必ずしも相続放棄をする必要があるとは限りません。
一方、母に多額の借金や返還義務が残っている場合には、相続放棄を検討する必要性が高くなることがあります。
相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
また、相続放棄をすると、原則として初めから相続人ではなかったものとして扱われます。
そのため、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金などのプラスの財産も相続できなくなります。
なお、相続放棄を検討している場合には、母の預貯金や家財道具などを安易に処分しないよう注意が必要です。
相続財産の処分が、民法第921条に定める単純承認に該当する可能性があるためです。
生活保護を受けていた親が亡くなった場合でも、ほかの相続と同じように、財産と債務の状況を確認して相続放棄の必要性を判断することが大切です。
⑯ 年金など、ほかに確認しておくことはある?
生活保護を受けていた方でも、年金を受給している場合があります。
例えば、母が少額の老齢年金を受給しており、不足する生活費について生活保護を利用していた場合です。
このような場合、母が亡くなった後に、未支給年金が発生することがあります。
未支給年金とは、亡くなった方に支払われるべき年金のうち、まだ支払われていないものです。
ただし、未支給年金を受け取れる方には条件があります。
亡くなった方と生計を同じくしていた一定の範囲の遺族が対象となります。
例えば、別居している長男や長女が、必ず未支給年金を受け取れるわけではありません。
また、母が生活保護を受けていた場合には、年金収入との調整や死亡後の保護費の精算が関係することがあります。
そのため、未支給年金については日本年金機構などへ確認するとともに、生活保護費との関係については福祉事務所へ確認することが大切です。
なお、生活保護を受けていた方が亡くなった場合でも、死亡届など、一般の死亡後の手続きが不要になるわけではありません。
市区町村役場で必要な手続きを確認しておきましょう。
⑰ 今回のケースでは、どのように進めればよい?
それでは、最初の事例に戻ってみましょう。
80歳の母が、芦屋市内で生活保護を受けながら一人暮らしをしていました。
母が亡くなった後、預貯金は2万円しかないことが分かりました。
相続人は、長男と長女の二人です。
長男は葬儀を行いたいと考えていますが、費用を負担する余裕がありません。
このような場合には、次のような順番で対応することが考えられます。
1.生活保護の担当窓口へ連絡する
母が亡くなったことを伝え、必要な手続きについて確認します。
死亡後の保護費の取扱いについても確認しておきます。
2.葬祭扶助を利用できるか相談する
長男が葬儀を行う予定であること、葬儀費用を負担することが難しいことを伝えます。
そのうえで、長男自身の経済状況などから葬祭扶助の対象になるかを確認します。
3.葬儀社と契約する前に、費用の範囲を確認する
葬祭扶助を利用できる場合には、対象となる葬祭の内容や費用を確認してから手続きを進めます。
扶助の対象になるか不明な段階で、高額な葬儀契約を締結しないよう注意します。
4.母の預貯金や家財を確認する
銀行預金2万円のほかに財産がないか確認します。
また、死亡後に生活保護費が振り込まれていないかも確認します。
5.母の債務を確認する
借金や未払金、生活保護費の返還義務などが残っていないかを確認します。
6.相続放棄を検討する必要があるか判断する
債務が多い場合には、相続放棄を検討します。
原則として3か月の期間に注意する必要があります。
7.賃貸住宅について対応する
母が住んでいた賃貸住宅について、契約内容や解約方法、残された家財の取扱いなどを確認します。
相続放棄を検討している場合には、解約や家財の処分を安易に進めないよう注意します。
8.年金などの手続きを確認する
未支給年金などの対象になるか確認し、必要に応じて申請します。
今回のケースでは、母が生活保護を受けていたという理由だけで、葬儀費用が当然に公費で負担されるわけではありません。
しかし、長男自身が葬儀費用を負担することが難しい場合には、葬祭扶助について相談する意味があります。
また、母の預貯金が少ない場合でも、相続財産や債務の確認は必要になります。
まずは福祉事務所へ相談し、葬儀と相続の問題を分けて整理することが重要です。
まとめ
生活保護を受けていた親が亡くなった場合、葬儀費用や生活保護費の精算、相続財産など、さまざまな問題が生じることがあります。
しかし、生活保護を受けていたという理由だけで、特別な相続制度が適用されるわけではありません。
今回のポイントを整理すると、
生活保護受給者が亡くなった場合には、担当の福祉事務所へ早めに連絡する
葬祭扶助は、生活保護を受けていた方が亡くなれば必ず支給される制度ではない
葬祭扶助の対象になるかは、葬祭を行う方や経済状況などによって異なる
子ども自身が経済的に困窮している場合には、葬祭扶助を検討できることがある
葬祭扶助を利用したい場合には、葬儀社と契約する前に福祉事務所へ相談する
葬祭扶助の対象となる費用には、法律上の範囲と支給基準がある
葬儀を行う扶養義務者がいない場合には、生活保護法による葬祭扶助などが問題になる
子どもだからという理由だけで、当然に葬儀社への支払義務を負うわけではない
葬儀社と契約した方は、その契約に基づく支払義務を負うことがある
生活保護受給者は、原則として国民健康保険や後期高齢者医療制度の対象から除かれる
生活保護を受けていた方の預貯金も、原則として相続財産になる
葬祭扶助が行われる場合には、遺留金品の取扱いについて確認が必要になることがある
生活保護を受けていたという理由だけで、過去の保護費の全額を返還する必要はない
法律上の返還義務が発生していた場合には、相続人に承継されることがある
死亡後に支給された生活保護費については、返還が必要になる場合がある
生活保護受給者が亡くなっても、賃貸借契約が当然に終了するわけではない
借金などの債務が残っている場合には、相続放棄を検討する必要がある
年金など、死亡後に必要な手続きについても確認する
ということになります。
生活保護を受けていた親が亡くなった場合、子どもが最初に心配するのは、葬儀費用かもしれません。
親には財産がほとんどなく、自分自身にも経済的な余裕がない場合には、どのように葬儀を行えばよいのか困ることがあります。
しかし、葬祭扶助という制度があるからといって、すべての葬儀費用が無条件で負担されるわけではありません。
まず、葬祭扶助の対象になるかを確認することが必要です。
また、葬儀が終わった後には、預貯金や借金、賃貸住宅の解約など、相続に関する問題が残ることがあります。
そのため、葬儀と相続の問題を分けて考えることが大切です。
生活保護を受けていた親が亡くなった場合に重要なのは、葬儀費用を一人で抱え込まず、まず福祉事務所へ相談すること、そして残された財産や債務については通常の相続と同じように確認していくことです。
