亡くなった父の車が残っている。売却や廃車はどうすればいい?
「父が亡くなって、駐車場に車が残っている。誰も乗らないので売却したいけれど、どうすればいい?」
「10年以上前の古い車だから、ほとんど価値がない。それでも相続手続きが必要なの?」
「車を廃車にしたいけれど、所有者が亡くなっていても手続きできる?」
親が亡くなった後、預貯金や不動産だけでなく、自動車が残されていることがあります。
例えば、高齢の父が日常の買い物や通院に使っていた車です。
父が亡くなった後、子どもたちはすでに自分の車を持っており、誰もその車に乗る予定がないという場合もあります。
また、長年使用していた古い車で、ほとんど価値がない場合もあります。
しかし、自動車も財産の一つです。
そのため、所有者が亡くなったからといって、家族が自由に売却したり、廃車にしたりできるとは限りません。
さらに、自動車には登録制度があり、普通車と軽自動車では手続きの内容が異なります。
また、車を使用していなくても、自動車税や駐車場代などの負担が続く場合があります。
今回は、亡くなった親の車を売却する場合、家族が引き続き使用する場合、廃車にする場合の手続きと、普通車・軽自動車の違いや税金の問題について説明します。
① 80歳の父が亡くなり、駐車場に車が残っていた
例えば、次のような家庭を考えてみましょう。
父:80歳。神戸市内で一人暮らし
長男:55歳。芦屋市在住
長女:52歳。西宮市在住
母:すでに死亡
父は長年、車を運転していました。
主に買い物や病院への通院に使用していましたが、最近は運転する機会も少なくなっていました。
父が亡くなった後、長男と長女が自宅を整理していると、駐車場に父の車が残されていました。
車は12年前に購入した普通乗用車です。
走行距離も多く、外装には傷があります。
長男も長女もそれぞれ車を所有しているため、父の車を引き継いで使用する予定はありません。
そこで長男は、中古車買取業者に査定を依頼しました。
すると、査定額は8万円でした。
長男は長女に尋ねました。
「8万円で売れるらしいけど、父の名義のまま売ってもいいのかな?」
長女も分かりません。
「名義変更が必要なら、その手続きだけでお金がかかりそうだね。いっそ廃車にした方がいいのかな?」
しかも、父が借りていた駐車場には、毎月1万2,000円の駐車場代がかかっています。
このような場合、まず何を確認すればよいのでしょうか。
② 自動車も相続財産になる?
自動車も、預貯金や不動産などと同じように、相続財産になる場合があります。
例えば、父が自分で購入し、所有していた車です。
父が亡くなると、その車の所有権は原則として相続人に承継されます。
今回の事例では、長男と長女が相続人です。
遺産分割が成立するまでは、原則として二人の共有状態になると考えられます。
そのため、長男が父の車を見つけたからといって、当然に長男だけのものになるわけではありません。
また、父が亡くなった後、長男が車の鍵を保管しているとしても、それだけで長男が車の所有者になるわけではありません。
自動車を誰が相続するのかについて、相続人間で確認する必要があります。
例えば、長男と長女が話し合い、長男が車を相続することに合意する方法が考えられます。
その後、長男が車を売却し、売却代金について相続人間で取り決めた方法により精算することもできます。
ただし、売却代金をどう分けるかについても、事前に合意しておくことが大切です。
自動車の価値が数万円しかない場合でも、原則として相続財産であることに変わりはありません。
③ 最初に車検証の「所有者」を確認する
自動車の相続で、最初に確認したいのが車検証です。
車検証には、自動車の登録番号や車台番号、所有者、使用者などの情報が記録されています。
例えば、父が日常的に使用していた車であっても、必ず父が所有者になっているとは限りません。
自動車をローンで購入した場合などには、所有者が自動車販売店や信販会社になっていることがあります。
そのため、次のような事項を確認しておきましょう。
車の登録番号
車台番号
所有者の氏名または名称
使用者の氏名または名称
車検の有効期間
普通車か軽自動車か
車の保管場所
なお、現在は電子車検証が導入されています。
電子車検証では、所有者の氏名や住所などが車検証の券面に記載されず、ICタグに記録されている場合があります。
そのため、電子車検証の場合には、国土交通省の「車検証閲覧アプリ」や「自動車検査証記録事項」などを利用して所有者を確認することができます。
まずは、実際の所有者が亡くなった父なのか、それとも販売店や信販会社などなのかを確認することが重要です。
④ 長男と長女のどちらが車を相続する?
今回の車が父の単独所有だった場合を考えてみましょう。
相続人は長男と長女の二人です。
二人とも車を使用する予定はありません。
この場合、どちらか一人が車を相続し、その後に売却する方法が考えられます。
例えば、次のような内容です。
「父が所有していた車については長男が相続し、売却手続きを行う。売却代金は、必要な費用を精算した後、長男と長女で半分ずつ取得する」
このように、相続人間で車の取得者と売却代金の取扱いを決めておくことが考えられます。
もちろん、長女が車を取得することにしても構いません。
また、車を相続人の共有としたうえで、手続きを進める方法もあります。
ただし、普通車の場合には登録手続きの際に必要となる書類が異なります。
そのため、できれば車を誰が取得するのか、相続人間で早めに方針を決めておくとよいでしょう。
なお、相続人の一人が勝手に車を売却した場合には、ほかの相続人との間で問題になる可能性があります。
車の価値が少額であっても、誰が取得し、売却代金をどう扱うのかを相続人間で確認しておくことが大切です。
⑤ 普通車を相続するときは、どのような手続きが必要?
父が所有していた車が普通車だった場合、原則として相続による移転登録が必要になります。
これは、亡くなった父から相続人へ、自動車の登録上の所有者を変更する手続きです。
移転登録は、運輸支局や自動車検査登録事務所などで行います。
例えば、長男が車を単独で相続する場合です。
一般的には、次のような書類が必要になります。
自動車検査証
移転登録申請書
父が亡くなったことを確認できる戸籍謄本など
相続人の範囲を確認できる戸籍謄本など
遺産分割協議書など
新しい所有者の印鑑登録証明書
必要に応じた自動車保管場所証明書
代理人が申請する場合の委任状など
ただし、これらの書類がすべての場合に必要になるわけではありません。
例えば、相続人が一人しかいない場合や、遺言書がある場合などには、必要な書類が異なります。
また、車を相続した後に第三者へ売却する場合には、相続による移転登録と売買による移転登録を同時に申請できる場合もあります。
このような方法を利用すれば、相続人名義の車検証をいったん交付してもらい、その後改めて売却手続きを行うという流れを省略できることがあります。
ただし、必要な登録申請や書類がなくなるわけではありません。
普通車を相続する場合には、車の所有者を誰にするのか、今後使用するのか売却するのかによって、必要な登録手続きを確認することが大切です。
⑥ 100万円以下の普通車には、簡略化された手続きがある?
普通車の相続には、一定の条件を満たす場合に利用できる簡略化された手続きがあります。
例えば、今回の父の車は、査定価格が8万円でした。
通常、複数の相続人のうち一人が普通車を相続する場合には、相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書などが必要になります。
しかし、相続する自動車の価格が100万円以下で、遺産分割協議が成立している場合には、「遺産分割協議成立申立書」を利用できることがあります。
この書類は、自動車の登録手続きにおいて使用されるものです。
例えば、長男と長女が話し合い、長男が車を相続することに合意した場合です。
車の査定価格が100万円以下であることを確認できる資料などを添付し、長男が遺産分割協議成立申立書を提出する方法が考えられます。
この方法では、通常の遺産分割協議書に代えて、車を取得する相続人の申立書によって登録できる場合があります。
ただし、注意点があります。
100万円以下の車であれば、ほかの相続人の同意なく自由に名義変更できるという制度ではありません。
あくまで、遺産分割協議が成立していることが前提です。
また、車の価格が100万円以下であることを確認できる査定資料などが必要になります。
単に古い車だから100万円以下だろうと考えるだけでは足りません。
さらに、遺産分割協議成立申立書は、通常の普通車の相続による登録手続きを簡略化するための書類であり、相続人間の権利関係を自由に変更するものではありません。
少額の車を相続する場合には、この制度を利用できるかどうかを運輸支局などへ確認するとよいでしょう。
⑦ 軽自動車の場合は、手続きが違う?
父が所有していた車が軽自動車だった場合には、普通車とは手続きが異なります。
軽自動車の名義変更は、軽自動車検査協会で行います。
軽自動車検査協会では、相続による名義変更について、亡くなった所有者と新しい所有者との相続関係を確認する書類などを案内しています。
例えば、次のようなものです。
自動車検査証
亡くなった所有者と新所有者の相続関係を確認できる戸籍謄本など
法定相続情報一覧図
新所有者の住所を確認できる書類
必要な申請書類
実際に必要な書類は、所有者と使用者が同じかどうか、住所や使用の本拠が変わるかどうかなどによって異なります。
また、普通車と軽自動車では、相続による名義変更の際に求められる書類の仕組みが異なります。
軽自動車の相続による名義変更では、通常の普通車の相続手続きと同じように、相続人全員の実印を押印した遺産分割協議書が必ず必要になるわけではありません。
ただし、これは相続人間の合意が不要という意味ではありません。
例えば、長男と長女が相続人であるにもかかわらず、長男が勝手に軽自動車を自分のものとして処分すれば、相続人間の問題が生じる可能性があります。
軽自動車は普通車より必要書類が少なく済む場合がありますが、相続人間で取得者を決めることは別に考える必要があります。
⑧ 長男がそのまま父の車に乗り続けてもいい?
例えば、長男が次のように考えた場合です。
「まだ十分に走れる車だから、売却せずに自分が乗ろうかな」
この場合には、長男が車を相続して使用する方法が考えられます。
ただし、父の名義のまま長期間使用することは避け、必要な名義変更を行う必要があります。
また、自動車保険についても確認が必要です。
例えば、父が契約していた任意保険です。
保険契約者や記名被保険者、運転者の範囲などによって、事故が起きた際の補償が異なります。
そのため、父が亡くなった後に長男が運転する場合には、事前に保険会社へ連絡し、補償内容を確認することが重要です。
また、車検の有効期間や自賠責保険の有効期間なども確認する必要があります。
車検が切れている車を、そのまま公道で運転することはできません。
自賠責保険についても、必要な手続きを確認しておく必要があります。
さらに、車の保管場所が変わる場合には、車庫証明などが必要になることがあります。
父が使用していた車を家族が引き続き使用する場合には、相続による名義変更だけでなく、保険や車検などの取扱いも確認する必要があります。
⑨ 車を売却する場合、どのような流れになる?
今回の父の車について、長男と長女は売却することにしました。
中古車買取業者の査定価格は8万円です。
このような場合には、次のような流れが考えられます。
まず、車の所有者が父になっているか確認します。
次に、長男と長女で話し合い、誰が車を相続するのかを決めます。
その後、中古車買取業者などに査定を依頼し、売却条件を確認します。
そして、必要な相続関係書類や登録書類を準備し、車の売却と名義変更を進めます。
普通車については、相続による移転登録と第三者への移転登録を同時に申請できる場合もあります。
そのため、買取業者へ依頼する場合には、相続した車であることを最初に伝えておくとよいでしょう。
また、車の売却代金は相続財産に関係するお金です。
例えば、売却価格が8万円だった場合です。
長男が売却代金を受け取ったとしても、当然に長男だけが8万円を取得できるわけではありません。
長女との間で、売却代金の精算について取り決めているのであれば、その内容に従って処理する必要があります。
また、売却に伴って費用が生じた場合には、どの費用を売却代金から差し引くのかも確認しておくとよいでしょう。
車を売却する場合には、相続人間の合意、登録手続き、売却代金の取扱いをまとめて整理しておくことが大切です。
⑩ 車のローンが残っていた場合は?
ここで、別の状況を考えてみましょう。
父の車は比較的新しく、まだローンが残っていました。
車検証を確認すると、所有者は父ではなく、自動車販売店や信販会社になっています。
一方、使用者には父の名前が記録されています。
このような場合には、通常の相続による名義変更とは異なる問題が生じます。
自動車をローンで購入した場合には、代金の完済まで販売店や信販会社などが所有権を留保していることがあります。
このような仕組みを「所有権留保」といいます。
所有権留保がある場合、父が亡くなったからといって、相続人が当然に車の所有者として自由に売却できるわけではありません。
また、ローンの残債についても確認が必要です。
例えば、父がローン契約の債務者だった場合、その支払義務は相続に関係することがあります。
ただし、契約内容によっては、死亡時にローン残債を保障する保険が付いている場合なども考えられます。
そのため、次のような事項を確認する必要があります。
車検証上の所有者
ローン契約の内容
ローンの残高
保険による残債の保障の有無
所有権留保を解除できる条件
売却や廃車に必要な手続き
すでにローンを完済しているにもかかわらず、車検証上の所有者が販売店のままになっている場合もあります。
このような場合には、所有権留保を解除するための手続きが必要になることがあります。
車検証の所有者が販売店や信販会社になっている場合には、勝手に売却や廃車を進めず、まず契約先へ確認することが大切です。
⑪ 古い車で売れない場合、廃車にできる?
例えば、今回の父の車がさらに古く、走行距離も多かった場合です。
買取業者に査定を依頼しても、値段が付かないと言われました。
また、車検も近づいており、今後も維持するためには費用がかかります。
このような場合には、廃車を検討することになります。
ただし、「廃車」という言葉には、いくつかの意味があります。
例えば、普通車の場合には、車の使用を一時的に中止する「一時抹消登録」と、車を解体した場合などに行う「永久抹消登録」があります。
一時抹消登録は、車を公道で使用しない状態にするための手続きです。
一方、車を解体して処分する場合には、永久抹消登録などの手続きが必要になります。
軽自動車については、普通車とは手続きの名称や窓口が異なります。
例えば、軽自動車を解体した場合には、軽自動車検査協会で「解体返納」などの手続きを行います。
また、車を解体する場合には、自動車リサイクル法に基づく手続きも必要になります。
車に値段が付かない場合でも、単に車を処分業者へ引き渡せば、すべての手続きが終了するとは限りません。
⑫ 父の名義のまま、直接廃車にすることはできる?
普通車を相続する場合には、原則として相続による名義変更が必要になります。
しかし、ここで一つ例外があります。
それは、亡くなった所有者の車を永久抹消登録する場合です。
国土交通省の登録実務では、所有者が死亡している場合に、相続人のうち一人が永久抹消登録を申請できる取扱いがあります。
この場合、相続による移転登録を行わずに、永久抹消登録の手続きを進められることがあります。
例えば、父の古い車を解体し、長男が永久抹消登録を申請する場合です。
必要な条件を満たせば、長男が相続人であることを証明する戸籍謄本などを提出して申請する方法が考えられます。
そのため、亡くなった父の車を廃車にする場合、必ずいったん長男名義に変更しなければならないというわけではありません。
ただし、これは永久抹消登録についての取扱いです。
車を一時的に使用しないことにする一時抹消登録とは、手続きが異なります。
また、登録手続き上、相続人の一人による申請が認められることと、相続人間で自由に車を処分できることは別の問題です。
特に、ほかの相続人が車を使用したいと考えている場合などには、事前に合意を確認する必要があります。
なお、車検証上の所有者が父ではなく販売店や信販会社の場合には、さらに別の確認が必要になります。
⑬ 車を使っていなくても、自動車税はかかる?
車を残しておく場合、注意したいのが税金です。
例えば、父が亡くなった後、誰も車を運転しないまま駐車場に置いていた場合です。
このような場合でも、車を使用していないという理由だけで、自動車税がかからなくなるわけではありません。
普通車の自動車税は、原則として毎年4月1日現在の所有者などに課税されます。
なお、2026年4月1日から、従来の「自動車税種別割」は「自動車税」に名称が変更されています。
今回の父が所有していた普通車について、相続による名義変更や抹消登録が行われていない場合には、死亡後も納税通知書が届くことがあります。
例えば、4月1日より前に父が亡くなった場合には、相続人などの状況に応じて、納税義務者を確認する必要があります。
兵庫県では、納税義務者が亡くなった場合の取扱いについて、県税事務所への連絡を案内しています。
また、普通車について年度の途中で抹消登録をした場合には、原則として月割りによる自動車税の還付を受けられる場合があります。
一方、単に名義変更しただけでは、その年度の自動車税が月割りで還付されるわけではありません。
そのため、車を使用しない場合には、登録をそのままにしておくのではなく、今後の使用予定に応じて適切な手続きを検討する必要があります。
⑭ 軽自動車は、年度の途中で廃車しても税金が戻らない?
軽自動車の場合には、普通車とは税金の取扱いが異なります。
軽自動車には、市区町村が軽自動車税を課税します。
軽自動車税は、原則として毎年4月1日現在の所有者などに対して、1年分が課税されます。
例えば、父が所有していた軽自動車について、4月1日現在の課税関係により、その年度の軽自動車税が発生している場合です。
その後、5月に廃車手続きをしたとしても、普通車の自動車税のような月割りの還付制度はありません。
そのため、原則として、その年度分の軽自動車税が減額されたり、還付されたりすることはありません。
一方、翌年度の4月1日までに適切な廃車手続きが完了していれば、通常、翌年度分の軽自動車税は課税されません。
ただし、単に車を解体業者へ引き渡しただけで、必要な手続きが完了していなければ、課税関係に問題が残る可能性があります。
軽自動車については、年度の途中で廃車しても税金が月割りで戻らないという点に注意が必要です。
⑮ 廃車にすると、戻ってくるお金はある?
古い車を廃車にする場合、費用がかかることばかりではありません。
一定の条件を満たすと、税金の還付などを受けられる場合があります。
例えば、普通車の自動車税です。
年度の途中で抹消登録をした場合には、原則として月割りによる還付の対象になります。
また、自動車重量税についても、還付制度があります。
自動車リサイクル法に基づいて車が適正に解体され、必要な手続きを行った場合には、車検の残存期間に応じて自動車重量税が還付されることがあります。
ただし、車検の残存期間が1か月以上あることなど、所定の要件があります。
また、解体を伴わない一時抹消登録を行っただけでは、自動車重量税の廃車還付の対象にはなりません。
さらに、自賠責保険についても、契約の有効期間が残っている場合には、解約に伴う保険料の返還が問題になることがあります。
ただし、実際の返還額や必要な手続きは、契約内容や残存期間によって異なります。
なお、自動車を解体する場合には、登録を受けた引取業者へ引き渡す必要があります。
その際には、使用済自動車引取証明書などの書類を受け取り、必要な登録手続きを進めます。
また、車の売却と廃車では、自動車リサイクル料金の取扱いも異なります。
廃車を検討する場合には、処分費用だけでなく、還付される税金や保険料などがないかも確認するとよいでしょう。
⑯ 駐車場代や自動車保険はどうなる?
今回の父は、月額1万2,000円の駐車場を借りていました。
父が亡くなった後、車はそのまま駐車場に置かれています。
しかし、父が亡くなったからといって、駐車場の契約が当然に終了するとは限りません。
一般的な駐車場賃貸借契約では、契約内容や相続関係に応じて、解約や明渡しの手続きが必要になることがあります。
例えば、駐車場を借り続けている間は、誰も車を使用していなくても駐車場代が発生する場合があります。
そのため、管理会社や貸主へ連絡し、契約の終了方法や解約予告期間などを確認する必要があります。
また、自動車保険についても注意が必要です。
父が契約していた任意保険については、保険会社へ死亡の連絡を行い、今後の取扱いを確認します。
例えば、長男が車を相続して使用する場合には、保険契約の変更や新たな契約が必要になることがあります。
一方、車を売却または廃車する場合には、保険契約の解約などを検討することになります。
ただし、車の売却や廃車が完了する前に保険を解約すると、車を移動させる際などに問題が生じる場合があります。
そのため、今後の車の使用や移動の予定も踏まえて、保険会社へ確認することが大切です。
車を処分する場合には、車そのものの手続きだけでなく、駐車場や保険などの契約も整理する必要があります。
⑰ 相続放棄を考えている場合、車を売却してもいい?
ここで、今回の家庭に別の事情があった場合を考えてみましょう。
父の銀行預金は5万円しかありません。
しかし、車のほかにも借金があり、長男と長女は相続放棄を検討することになりました。
このような場合、父の車を売却してもよいのでしょうか。
相続放棄を検討している場合には、車の売却や廃車について慎重な対応が必要です。
民法第921条では、相続人が相続財産を処分した場合、一定の例外を除き、単純承認をしたものとみなされると定められています。
例えば、父の車を売却し、その売却代金を長男自身のために使用した場合です。
このような行為は、相続財産の処分として問題になる可能性があります。
また、古い車だから価値がないと考えて廃車にした場合でも、その処分内容や事情によって問題が生じることがあります。
そのため、相続放棄を検討している場合には、安易に売却や廃車を進めないことが大切です。
ただし、相続財産の保存に必要な行為など、具体的な事情によって取扱いが異なる場合があります。
また、車を放置しておけばよいというわけでもありません。
例えば、駐車場代が発生している場合や、車が他人の土地に置かれている場合には、別の問題が生じることがあります。
そのため、相続放棄を検討している場合には、車の保管状況や今後の対応について、必要に応じて法律専門家へ相談することが考えられます。
相続放棄を検討している場合には、価値が少ない車であっても、勝手に処分しないよう注意が必要です。
⑱ 今回のケースでは、どのように進めればよい?
最後に、最初の事例を整理してみましょう。
父は80歳で、神戸市内に住んでいました。
父が亡くなった後、12年前に購入した普通車が駐車場に残されていました。
相続人は長男と長女の二人です。
二人とも車を使用する予定はありません。
中古車買取業者の査定価格は8万円でした。
また、駐車場代として毎月1万2,000円が発生しています。
このような場合には、次のような順番で進めることが考えられます。
1.車検証を確認する
まず、車の所有者が父になっているか確認します。
所有者が販売店や信販会社の場合には、所有権留保などについて確認が必要です。
2.相続人間で車の取扱いを決める
長男と長女で話し合い、車を誰が相続するのか、売却するのか、廃車にするのかを決めます。
3.車の価格を確認する
中古車買取業者などへ査定を依頼し、車の価値を確認します。
今回のように査定価格が8万円であれば、100万円以下の普通車の相続に関する簡略化された手続きを利用できる可能性があります。
4.売却か廃車かを検討する
売却できる場合には、売却価格と必要な費用を確認します。
一方、ほとんど値段が付かない場合には、廃車費用や還付金なども含めて比較します。
5.必要な相続・登録手続きを進める
売却する場合には、相続による移転登録などを行います。
第三者への移転登録と同時に手続きできる場合もあります。
廃車する場合には、永久抹消登録など、車の状態に応じた手続きを確認します。
6.駐車場の解約を進める
車の移動や処分の日程を確認し、管理会社へ連絡します。
駐車場代がいつまで発生するのかについても確認します。
7.自動車保険や税金について確認する
保険契約の解約や変更、自動車税の精算などを確認します。
必要に応じて、還付の手続きも行います。
8.売却代金を精算する
車を売却した場合には、長男と長女の合意内容に従って売却代金を精算します。
今回のケースでは、査定価格が8万円である一方、駐車場代が毎月1万2,000円かかっています。
そのため、手続きを先延ばしにすると、車の価値に対して維持費用が大きくなってしまう可能性があります。
一方、急いで処分しようとして相続関係を確認せずに売却してしまうと、後から問題になることもあります。
まずは所有者と相続人を確認し、売却または廃車の方針を決めたうえで、必要な手続きを進めることが大切です。
まとめ
親が亡くなった後に自動車が残されていた場合、その車も原則として相続財産になります。
車の価値が数万円しかない場合でも、売却や廃車には一定の手続きが必要になることがあります。
今回のポイントを整理すると、
自動車も原則として相続財産になる
車の鍵を持っているだけで、その人の所有物になるわけではない
まず車検証で所有者と使用者を確認する
電子車検証では、所有者情報を閲覧アプリなどで確認する場合がある
普通車は、原則として相続による移転登録が必要になる
一定の条件を満たす100万円以下の普通車では、遺産分割協議成立申立書を利用できることがある
100万円以下の車でも、相続人間の合意が不要になるわけではない
軽自動車は普通車と必要書類や手続きが異なる
相続した車を引き続き使用する場合には、名義変更や保険の確認が必要になる
売却する場合には、相続関係書類や登録手続きを確認する
車のローンが残っている場合には、所有権留保の有無を確認する
車を使用しない場合には、一時抹消登録や永久抹消登録などを検討する
亡くなった所有者の車について、相続人の一人が直接永久抹消登録できる場合がある
普通車は年度の途中で抹消登録すると、自動車税が月割りで還付される場合がある
軽自動車税には、年度の途中で廃車しても月割りで還付される制度がない
廃車時には、自動車重量税や自賠責保険料の返還が関係する場合がある
車を処分する場合には、駐車場や自動車保険の契約についても確認する
相続放棄を検討している場合には、車の売却や廃車を安易に進めない
ということになります。
親が亡くなった後、古い車が残されていると、預貯金や不動産に比べて、それほど重要な財産ではないと考えるかもしれません。
しかし、車には登録制度があり、所有者の変更や廃車について手続きが必要になることがあります。
また、車の価値が少なくても、自動車税や駐車場代、保険料などの費用が発生する場合があります。
そのため、車を誰も使用しないのであれば、売却や廃車について早めに検討することが大切です。
ただし、相続人間で合意ができていない場合や、相続放棄を検討している場合には、急いで車を処分することが適切とは限りません。
まず、車の所有者を確認し、相続人間で取扱いを決め、そのうえで必要な登録手続きを進めることが重要です。
亡くなった親の車をどうするか考える際には、車の価値だけでなく、相続関係、登録手続き、維持費用、税金などを確認し、売却・使用・廃車の中から適切な方法を選ぶことが大切です。
なお、自動車の名義変更や抹消登録などの申請手続きを専門家に依頼する場合には、行政書士など、当該手続きを取り扱う資格のある専門家へ相談することができます。
参考資料
国土交通省 関東運輸局|相続人のうち一人が普通車を相続する場合
国土交通省 関東運輸局|相続と第三者への名義変更を同時に行う場合
