親が誰かの連帯保証人になっていた!子どもにも責任がある?
「亡くなった父が、友人の借金の連帯保証人になっていたことが分かった」
「父自身の借金ではないのに、子どもが返済しなければならないの?」
「保証人になったことを家族は誰も知らなかった。それでも相続するの?」
親が亡くなった後、預貯金や不動産などの相続手続きを進めていると、思いがけない問題が見つかることがあります。
その一つが、亡くなった親が誰かの借金の保証人や連帯保証人になっていたという問題です。
本人がお金を借りていたわけではないため、家族が保証契約の存在を知らないこともあります。
また、親が亡くなった時点では借主がきちんと返済していて、何の問題も生じていない場合もあります。
ところが、親の死亡後に借主が返済できなくなり、金融機関などから相続人へ突然請求が届くことがあります。
このような場合、子どもは「自分が保証人になったわけではない」と考えるかもしれません。
しかし、相続では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も原則として引き継ぐことになります。
連帯保証債務についても、原則として相続の対象になります。
ただし、保証契約の種類や内容によって、責任の範囲が異なることがあります。
今回は、亡くなった親が連帯保証人になっていた場合の相続人の責任、保証債務の分担、契約内容の確認方法、根保証契約、相続放棄などについて、具体的な事例をもとに説明します。
① 亡くなった父に、500万円の連帯保証債務が見つかった
例えば、次のような家庭を考えてみましょう。
父:79歳。神戸市内で一人暮らし
長男:54歳。芦屋市在住
長女:50歳。西宮市在住
母:すでに死亡
父は会社員を退職してから、年金を受け取りながら暮らしていました。
大きな借金もなく、生活は比較的安定していました。
ところが、父が亡くなって約1か月後、長男のもとに金融機関から手紙が届きました。
手紙には、亡くなった父が知人の借入金について連帯保証人になっており、借主が返済を滞納しているため、保証債務について連絡したいと書かれていました。
金融機関に確認すると、借入金の残額は約500万円あるということでした。
長男は驚きました。
「父が誰かの連帯保証人になっていたなんて、聞いたことがない」
長女にも尋ねましたが、長女も全く知りませんでした。
父が残した預貯金は約120万円です。
不動産はなく、ほかにまとまった財産もありません。
長男は長女に相談しました。
「父自身が借りたお金ではないのに、私たちが500万円を返さないといけないのかな?」
長女も心配になりました。
「保証人になることを私たちは承諾していないのに、責任を負うの?」
このような場合、相続人はどのように対応すればよいのでしょうか。
② 連帯保証人とは、どのような立場?
まず、連帯保証人について確認しましょう。
例えば、Aさんが金融機関から500万円を借りたとします。
Aさんがお金を返済できなくなった場合に備えて、Bさんが連帯保証人になったとします。
この場合、お金を借りた本人であるAさんを「主たる債務者」といいます。
そして、借金について連帯して保証するBさんが「連帯保証人」です。
通常の保証人と連帯保証人には、重要な違いがあります。
通常の保証人には、一定の場合に、まず主たる債務者へ請求するよう求める「催告の抗弁権」や、主たる債務者の財産から回収するよう求める「検索の抗弁権」が認められています。
一方、連帯保証人には、これらの権利が認められていません。
民法第454条では、連帯保証人は催告の抗弁権と検索の抗弁権を有しないと定めています。
つまり、債権者は、主たる債務者に先に請求したり、その財産から回収を試みたりすることなく、連帯保証人に履行を請求できる場合があります。
そのため、連帯保証人は、他人の借金について非常に重い責任を負うことになります。
ただし、連帯保証人が負う責任の具体的な範囲は、保証契約や主たる債務の内容によって決まります。
連帯保証人は、自分が借金をしたわけではなくても、保証契約に基づいて返済を求められる立場にあります。
③ 連帯保証人が亡くなると、保証債務も消える?
今回の父は、知人の借金について連帯保証人になっていました。
では、父が亡くなったことによって、その保証債務も消えるのでしょうか。
結論として、連帯保証人が亡くなったという理由だけで、保証債務が当然に消滅するわけではありません。
民法第896条では、相続人は、相続開始の時から、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。
ただし、亡くなった方だけに認められる一身専属的な権利義務については、相続の対象になりません。
一般的な連帯保証債務は、原則として相続されるものと考えられています。
例えば、父が500万円の借金について有効な連帯保証契約を締結していた場合です。
その後、父が亡くなったからといって、金融機関が保証債務を請求できなくなるわけではありません。
相続人である長男と長女に、保証債務が引き継がれることがあります。
また、父が亡くなった時点では借主が返済を続けており、父に対して現実の支払請求がされていなかった場合でも、問題がなくなるとは限りません。
保証契約の内容によっては、後から借主が返済できなくなった場合に、相続人が保証債務の履行を求められることがあります。
ただし、将来発生する不特定の債務を保証する契約などについては、別の取扱いが問題になる場合があります。
亡くなった時点で保証債務の請求がなかったからといって、相続人に責任が生じないとは限らないのです。
④ 子どもが保証契約書に署名していなくても責任がある?
今回の長男と長女は、父が連帯保証人になっていたことを知りませんでした。
もちろん、二人とも保証契約書に署名していません。
では、本人の承諾なく保証債務を引き継ぐことになるのでしょうか。
相続による債務の承継は、新たに保証契約を締結することとは異なります。
例えば、父が生前に有効な連帯保証契約を締結していた場合です。
父の死亡によって相続が開始すると、相続人は原則として父の権利義務を承継します。
この場合、相続人が改めて保証契約書に署名することは、通常、保証債務を承継するための条件ではありません。
そのため、長男や長女が保証契約に同意していなかったという理由だけで、相続による保証債務の承継を否定することはできません。
ただし、父の保証契約そのものが有効に成立していたかどうかは、別の問題です。
例えば、父が署名したとされる保証契約書が存在しない場合や、契約の有効性に疑問がある場合です。
このような場合には、保証契約が有効に成立していたのかを確認する必要があります。
子ども自身が保証契約に署名していなくても相続によって責任を負う場合がありますが、そもそも有効な保証債務が存在することが前提です。
⑤ 相続人が二人なら、500万円を半分ずつ負担する?
今回の相続人は、長男と長女の二人です。
母はすでに亡くなっています。
そのため、長男と長女の法定相続分は、それぞれ2分の1です。
では、父が負っていた500万円の連帯保証債務について、長男と長女はそれぞれどの程度の責任を負うのでしょうか。
一般的な金銭債務は、相続が開始すると、原則として各相続人の法定相続分に応じて分割承継されます。
連帯保証債務についても、原則として同様に考えます。
例えば、父が500万円の連帯保証債務を負担していた場合です。
長男と長女がそれぞれ2分の1ずつ相続するのであれば、各自が承継する保証債務は、基本的には次のようになります。
長男:250万円
長女:250万円
ここで注意したいのは、父が「連帯保証人」だったからといって、長男と長女がそれぞれ500万円全額の保証債務を相続するわけではないということです。
父が負っていた金銭債務は、原則として法定相続分に応じて分割されます。
ただし、父自身の保証債務の範囲や、ほかの相続人の有無、相続放棄の状況などによって、実際の承継額は異なります。
また、主たる債務者との関係では、承継した範囲で連帯保証人としての責任を負うことになります。
一人の連帯保証人が亡くなり、複数の相続人がいる場合には、原則として各相続人が法定相続分に応じて保証債務を承継します。
⑥ 長男が預貯金を全部相続すれば、保証債務も長男だけが負担する?
例えば、今回の父が残した預貯金120万円について、長男と長女が次のように話し合った場合です。
「父の預貯金は長男が全部相続する。その代わり、父の借金や保証債務も長男が引き受ける」
このような合意をすれば、長女は金融機関に対して保証債務を支払わなくてもよくなるのでしょうか。
ここは注意が必要です。
相続人間で債務の負担について合意をしたとしても、その合意だけで、当然に債権者に対する責任が変更されるわけではありません。
例えば、長男と長女が「保証債務は長男が全部負担する」と決めた場合です。
この合意は相続人間では意味を持ちますが、金融機関がその内容を承諾していなければ、長女に対する請求を当然に排除できるわけではありません。
金融機関は、原則として長女に対し、その法定相続分に応じた保証債務の履行を請求することができます。
長女を保証債務から免れさせるためには、債権者との関係で適切な手続きを行う必要があります。
遺産分割協議で債務を負担する相続人を決めても、債権者に対する責任まで当然に変更できるわけではありません。
⑦ 父が亡くなった後に、初めて請求が来た場合は?
今回の長男と長女が金融機関から請求を受けたのは、父が亡くなって約1か月後でした。
では、父の死亡後に初めて請求が届いたという理由で、支払いを拒否できるのでしょうか。
一般的な連帯保証契約では、父が亡くなった時点で現実に請求されていなかったとしても、保証債務を相続することがあります。
そのため、死亡後に初めて請求が来たという事情だけで、責任がなくなるわけではありません。
ただし、請求内容については慎重に確認する必要があります。
例えば、次のような事項です。
父がいつ保証契約を締結したのか
どの借入金を保証していたのか
主たる債務者は誰なのか
借入金の残額はいくらなのか
いつから返済が滞っているのか
利息や遅延損害金はいくらなのか
保証契約の範囲に今回の請求が含まれるのか
消滅時効などの問題がないか
また、保証人が死亡した後に新たな借入れが行われている場合には、その借入れまで保証の対象になるのかを確認する必要があります。
これは、通常の特定された債務についての保証なのか、根保証契約なのかなどによって異なります。
死亡後に請求が来た場合には、すぐに支払うのではなく、保証契約と請求内容を確認することが大切です。
⑧ 保証契約書が見つからない場合はどうする?
今回の長男と長女は、父の自宅を整理しました。
しかし、保証契約書は見つかりませんでした。
父が誰かの連帯保証人になっていたことを示す書類も、金融機関からの通知が届くまでは見つかっていません。
このような場合、まず金融機関などの債権者へ確認することが考えられます。
例えば、次のような資料の提示を求めることです。
保証契約書の写し
借入契約書などの資料
保証契約の締結日
保証の対象となる債務の内容
借入金の残高が分かる資料
返済状況が分かる資料
利息や遅延損害金の計算内容
民法第446条第2項では、保証契約は書面でしなければ効力を生じないと定めています。
また、同条第3項では、一定の電磁的記録による保証契約について、書面によるものとみなす規定があります。
そのため、父が口頭で「保証人になってもいい」と話していたというだけで、当然に有効な保証契約が成立するわけではありません。
ただし、保証契約書が父の自宅から見つからないという理由だけで、保証契約が存在しなかったと判断することもできません。
債権者側で契約書や電子的な記録を保管している場合もあります。
保証契約書が見つからない場合には、債権者に契約の根拠となる資料を確認することが重要です。
⑨ 連帯保証人の責任には、必ず上限がある?
保証契約の内容を確認する際には、保証する金額にも注意が必要です。
例えば、父が500万円の借入金について連帯保証人になっていた場合です。
この場合には、保証の対象となる借入金や利息、遅延損害金などを確認する必要があります。
一方、将来発生する不特定の債務を保証する契約もあります。
例えば、知人が事業のために金融機関と継続的な取引をしており、その取引から発生する一定の範囲の債務を保証する場合です。
このような契約は、一般に「根保証契約」と呼ばれます。
根保証契約では、保証契約を締結する時点で、将来どの程度の債務が発生するのか分からない場合があります。
そのため、保証人が予想していなかった大きな債務を負担する危険があります。
そこで、2020年4月1日に施行された改正民法では、個人が根保証契約を締結する場合について、保証人を保護するための規定が拡充されました。
民法第465条の2では、個人根保証契約について、保証人が責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、その効力を生じないとされています。
例えば、極度額が300万円と定められている個人根保証契約であれば、保証人の責任は、元本や利息、損害金などを含めて、その極度額の範囲に制限されます。
ただし、すべての保証契約に一律の極度額を定めなければならないわけではありません。
また、2020年4月1日より前に締結された保証契約については、契約時期や経過措置、契約内容によって適用される規律が異なります。
古い保証契約について、現在の規定をそのまま当てはめて判断しないよう注意が必要です。
⑩ 根保証人が亡くなった場合、その後の借金も保証する?
個人根保証契約については、もう一つ重要な規定があります。
それは、保証人が亡くなった場合の取扱いです。
民法第465条の4では、個人根保証契約について、主たる債務者または保証人が死亡した場合などには、保証する主たる債務の元本が確定すると定めています。
例えば、父が知人の事業上の取引について、一定の範囲の債務を保証していた場合です。
その後、父が亡くなったとします。
現行民法の個人根保証に関する規定が適用される契約では、父の死亡によって保証対象となる主たる債務の元本が確定します。
そのため、原則として、その後に新たに発生した主たる債務まで保証の対象が広がることはありません。
ただし、ここで重要なのは、元本が確定することと、保証債務が消滅することは異なるという点です。
例えば、父が亡くなった時点で、すでに保証対象となる借入金が300万円発生していた場合です。
父の死亡によって元本が確定しても、その300万円についての保証責任が当然になくなるわけではありません。
また、元本確定後も、保証対象となる債務について利息や遅延損害金などが発生する場合があります。
これらについても、契約内容や極度額の範囲などを確認する必要があります。
個人根保証契約では、保証人の死亡により元本が確定する場合がありますが、それまでの保証責任まで当然に消滅するわけではありません。
⑪ 事業の借金の保証には、特別な規制がある?
父が知人の事業資金について保証人になっていた場合には、別の問題もあります。
例えば、知人が会社を経営しており、その会社が金融機関から事業資金を借りる際に、父が連帯保証人になった場合です。
2020年4月1日に施行された改正民法では、事業のために負担する一定の貸金等債務について、個人が保証人になる場合の規制が設けられました。
民法第465条の6では、原則として、保証契約の締結前に、公正証書によって保証する意思を明らかにすることが必要とされています。
これは、保証人となる方が、保証の意味や危険性を十分に理解しないまま、他人の事業上の借金を保証してしまうことを防ぐための制度です。
ただし、すべての事業資金の保証で保証意思宣明公正証書が必要になるわけではありません。
例えば、会社の取締役など、法律で定められた一定の立場にある方については、例外があります。
また、制度の施行前に締結された契約については、現在の規定をそのまま適用できない場合があります。
そのため、父が事業の借金を保証していた場合には、次の事項を確認する必要があります。
保証契約の締結日
保証対象となる借入金の目的
主たる債務者が個人か法人か
父と主たる債務者との関係
保証意思宣明公正証書の要否
法律上の例外に該当しないか
事業資金の保証については、契約が有効に成立していたかどうかを確認するうえで、保証契約の締結時期や父の立場が重要になることがあります。
⑫ 金融機関から請求が来たら、すぐに支払うべき?
今回の長男と長女は、金融機関から保証債務についての連絡を受けました。
しかし、父がどのような保証契約を締結していたのか、まだ確認できていません。
このような段階で、すぐに支払う必要があるのでしょうか。
まず、保証債務の内容を確認することが重要です。
例えば、金融機関から500万円の請求が来た場合です。
その金額が、元本だけなのか、利息や遅延損害金などを含む金額なのかを確認する必要があります。
また、父が保証した借入金と、今回請求されている借入金が同じものなのかも確認します。
さらに、保証契約の有効性や消滅時効の問題がないかについても、必要に応じて検討します。
債務の存在や金額に疑問がある場合には、事情を十分に確認しないまま、支払義務を認める書面に署名したり、一部を支払ったりすることは避けた方がよい場合があります。
債務を認める行為などが、その後の法律関係に影響することがあるためです。
ただし、確認をせずに請求を放置すればよいというわけでもありません。
金融機関からの通知や請求書には、回答期限などが記載されている場合があります。
そのため、通知を受けた場合には、内容と期限を確認し、必要な対応を検討することが大切です。
保証債務の請求を受けた場合には、すぐに支払うのでも、何もせず放置するのでもなく、契約内容と請求の根拠を確認することが重要です。
⑬ 保証債務を支払えば、借主に返してもらえる?
例えば、長男が父から承継した連帯保証債務250万円を金融機関へ支払った場合です。
長男自身が借りたお金ではありません。
では、実際にお金を借りた知人に対して、支払った250万円を返してもらえるのでしょうか。
保証人が主たる債務者に代わって弁済した場合には、原則として、主たる債務者に対して求償することができます。
これを「求償権」といいます。
父が持っていた保証契約上の地位を相続した長男が、保証債務について弁済した場合にも、求償権が問題になります。
ただし、求償できる具体的な範囲や手続きについては、保証契約の内容や保証の委託の有無、弁済の状況などによって異なります。
また、求償権があるからといって、実際にお金を回収できるとは限りません。
例えば、知人が事業に失敗し、借金を返済できない状態だった場合です。
長男が金融機関へ250万円を支払ったとしても、知人に資力がなければ、実際には回収できない可能性があります。
そのため、保証債務を相続するかどうかを考える際には、求償できる可能性だけでなく、実際に回収できる見込みも考慮する必要があります。
保証債務を支払った後に借主へ求償できる場合でも、そのお金を実際に回収できるとは限りません。
⑭ 保証債務が大きい場合、相続放棄はできる?
今回の父が残した預貯金は120万円です。
一方、金融機関からは500万円の連帯保証債務について連絡が来ています。
相続人は長男と長女の二人です。
仮に、二人がそれぞれ250万円の保証債務を承継する場合、父の預貯金を相続したとしても、保証債務の負担が大きくなる可能性があります。
このような場合には、相続放棄を検討することが考えられます。
相続放棄とは、亡くなった方の権利義務を相続しないことを選択する手続きです。
相続放棄をする場合には、家庭裁判所へ申述する必要があります。
相続放棄が認められれば、原則として初めから相続人ではなかったものとみなされます。
そのため、父が負っていた保証債務についても、相続によって承継しないことになります。
ただし、相続放棄をすると、保証債務だけでなく、預貯金などのプラスの財産も相続することができません。
例えば、父が残した120万円の預貯金だけ相続して、500万円の保証債務だけ放棄するということはできません。
また、長男と長女は、それぞれ自分自身について相続放棄をするかどうかを判断することになります。
保証債務が大きい場合には、プラスの財産だけでなく、保証債務の内容も確認したうえで、相続放棄を検討することが重要です。
⑮ 保証債務の調査が終わらないまま、3か月が過ぎそうな場合は?
相続放棄には、原則として期間の制限があります。
民法第915条では、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続を承認するか放棄するかを判断することとされています。
例えば、父が亡くなってから約1か月後に、保証債務の存在が分かった場合です。
金融機関から契約書などの資料を取り寄せているうちに、3か月の期間が迫ってくることがあります。
このような場合には、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法があります。
これは、相続財産の調査が終わらず、相続するか放棄するかを判断できない場合などに、家庭裁判所へ期間の伸長を求める手続きです。
ただし、申し立てれば必ず希望どおりの期間が認められるわけではありません。
また、期間の伸長を申し立てる場合にも、原則として熟慮期間内に手続きを行う必要があります。
例えば、金融機関から保証契約書の提出を待っている場合でも、資料が届くまで何もしないでよいわけではありません。
必要に応じて、早めに期間伸長の申立てを検討することが大切です。
なお、相続人が複数いる場合には、熟慮期間はそれぞれの相続人ごとに判断されます。
保証債務の内容が確認できないまま3か月の期限が迫っている場合には、期間の伸長を検討する必要があります。
⑯ 父の死亡から何年もたって保証債務が見つかった場合は?
例えば、父が亡くなってから3年後、突然、金融機関から保証債務の請求が届いた場合です。
長男と長女は、父が誰かの連帯保証人になっていたことを全く知りませんでした。
では、父の死亡から3か月以上が経過しているため、相続放棄は絶対にできないのでしょうか。
相続放棄の熟慮期間については、例外的な判断が問題になる場合があります。
最高裁判所の昭和59年4月27日判決では、相続人が相続財産は全く存在しないと信じ、そのように信じたことについて相当な理由があるなど、一定の特別な事情がある場合には、熟慮期間の起算点について例外的な取扱いが認められることを示しています。
ただし、借金や保証債務の存在を後から知ったというだけで、その時点から必ず新たに3か月の期間が始まるわけではありません。
例えば、父に預貯金や不動産があることを知っていた場合や、すでに相続財産を処分している場合などには、問題が複雑になります。
また、相続財産の存在を知ることができなかった事情や、死亡後の相続人の行動なども関係します。
そのため、死亡から長期間経過した後に保証債務が判明した場合には、個別の事情に基づく慎重な検討が必要です。
一方、請求された保証債務について、消滅時効などが問題になる場合もあります。
保証債務の消滅時効は、契約の内容や債権者の行為、主たる債務の状況などによって判断が異なります。
そのため、古い保証債務について請求が来た場合には、相続放棄だけでなく、保証債務そのものの有効性や消滅時効についても確認する必要があります。
父の死亡から3か月以上経過している場合でも、すべての対応方法がなくなるとは限りませんが、相続放棄ができるかどうかは個別の判断になります。
⑰ 長男だけが相続放棄した場合、長女の責任はどうなる?
今回の相続人は、長男と長女の二人です。
例えば、長男だけが相続放棄をした場合です。
相続放棄をした長男は、初めから相続人ではなかったものとみなされます。
その結果、ほかに同順位の相続人がいなければ、長女が単独の相続人となります。
この場合、父の保証債務についても、長女が承継する範囲が変わることになります。
つまり、長男が相続放棄をしたからといって、父の保証債務のうち長男が負担するはずだった部分が当然に消えるわけではありません。
長女が相続を承認する場合には、原則として父の保証債務全体を承継することになります。
一方、長男と長女の二人が相続放棄をした場合には、次の順位の相続人が問題になることがあります。
例えば、父の両親がすでに亡くなっている場合には、父の兄弟姉妹などが相続人になる可能性があります。
このような場合、次順位の相続人についても、相続放棄をするかどうかの判断が必要になることがあります。
なお、子どもが相続放棄をした場合、その子どもの子、つまり亡くなった方の孫が当然に代襲相続するわけではありません。
相続放棄は各相続人が個別に判断する手続きですが、一人が相続放棄すると、ほかの相続人や次順位の相続人にも影響することがあります。
⑱ 今回のケースでは、どのように進めればよい?
それでは、最初の事例に戻ってみましょう。
79歳の父が亡くなり、約1か月後に金融機関から連帯保証債務についての連絡がありました。
父は知人の借入金について連帯保証人になっていたようです。
金融機関が説明する借入金の残額は約500万円です。
父の預貯金は120万円で、不動産などのまとまった財産はありません。
相続人は長男と長女の二人です。
このような場合には、次のような順番で対応することが考えられます。
1.金融機関からの通知内容を確認する
まず、誰が請求しているのか、何についての請求なのかを確認します。
保証債務の金額や回答期限についても確認しておきます。
2.父が締結した保証契約を確認する
保証契約書の写しなどを求め、父がいつ、誰の、どのような借入れについて保証人になったのかを確認します。
3.保証契約の種類を確認する
通常の特定された債務についての連帯保証なのか、根保証契約なのかなどを確認します。
根保証契約の場合には、極度額や元本確定の問題についても検討します。
4.保証債務の内容と金額を確認する
借入金の残額、返済状況、利息や遅延損害金などを確認します。
また、保証契約の有効性や消滅時効など、法律上の問題がないかについても必要に応じて確認します。
5.父のほかの財産と債務を調べる
預貯金120万円のほかに、財産がないか確認します。
また、保証債務以外の借金や未払金などがないかについても確認します。
6.相続放棄を検討する
保証債務の負担が大きい場合には、相続放棄を検討します。
ただし、相続放棄をすると、父の預貯金なども相続できなくなることに注意が必要です。
7.3か月の熟慮期間を確認する
長男と長女それぞれについて、熟慮期間がいつまでなのかを確認します。
保証債務の調査が終わらない場合には、期間伸長の申立てを検討します。
8.相続人間で状況を共有する
長男だけで判断せず、長女にも保証債務の内容や調査状況を伝えます。
相続放棄をするかどうかは、それぞれが判断する必要があります。
今回のケースでは、父の預貯金が120万円ある一方、約500万円の保証債務が問題になっています。
そのため、保証契約が有効であり、実際に相続人が大きな保証債務を負担する可能性があるのであれば、相続放棄は重要な選択肢になります。
ただし、保証債務の存在や金額が確認できていない段階で、直ちに500万円の支払義務があると決めつける必要はありません。
まず、契約内容と請求の根拠を確認し、相続財産の状況とあわせて判断することが大切です。
まとめ
親が誰かの連帯保証人になっていた場合、その保証債務は原則として相続の対象になります。
子どもが保証契約に署名していなかったとしても、相続によって責任を負う場合があります。
今回のポイントを整理すると、
連帯保証人は、主たる債務者が返済できない場合などに、保証契約に基づいて履行を求められる
連帯保証人には、原則として催告の抗弁権や検索の抗弁権がない
連帯保証人が亡くなっても、保証債務が当然に消滅するわけではない
保証債務は原則として相続人に引き継がれる
子どもが保証契約書に署名していなくても、相続によって責任を負う場合がある
保証債務は、原則として法定相続分に応じて各相続人へ分割承継される
遺産分割協議で保証債務の負担者を決めても、債権者に対する責任を当然に変更できるわけではない
父の死亡後に初めて請求が来た場合でも、保証債務を負うことがある
保証契約書が見つからない場合には、債権者に契約の根拠となる資料を確認する
保証契約の有効性や請求額、消滅時効などを確認する必要がある
個人根保証契約には、極度額を定めなければ効力を生じないという規定がある
個人根保証契約では、保証人の死亡によって元本が確定する場合がある
事業資金の保証については、保証意思宣明公正証書が必要となる場合がある
保証債務を弁済した場合には、主たる債務者への求償権が問題になる
求償権があっても、実際に回収できるとは限らない
保証債務が大きい場合には、相続放棄を検討することが考えられる
相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う
調査が終わらない場合には、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法がある
死亡後長期間経過してから保証債務が判明した場合には、熟慮期間の起算点などについて個別の判断が必要になる
一人の相続人が相続放棄すると、ほかの相続人や次順位の相続人に影響することがある
ということになります。
親が亡くなった後、突然、連帯保証債務の存在が分かった場合、相続人は大きな不安を感じるかもしれません。
特に、本人が借りたお金ではないのに、相続人が返済を求められるという点は、理解しにくいところです。
しかし、連帯保証債務は、原則として相続の対象になります。
また、親が亡くなった時点で請求が来ていなかったからといって、責任が生じないとは限りません。
一方、すべての保証契約について、相続人が無条件に請求額を支払わなければならないというわけでもありません。
保証契約の有効性や内容、相続人が承継する範囲、根保証契約の規制、消滅時効など、確認すべき事項があります。
そして、保証債務の負担が大きい場合には、相続放棄という選択肢もあります。
そのため、金融機関などから請求が届いた場合には、慌てて支払うのではなく、まず保証契約と請求内容を確認することが重要です。
親が誰かの連帯保証人になっていたことが分かった場合には、保証債務の内容を確認するとともに、相続放棄の期限に注意しながら、相続するかどうかを慎重に判断することが大切です。
