必要な書類は何?戸籍・印鑑証明書・遺産分割協議書の準備
「銀行から戸籍謄本を用意してくださいと言われたけれど、どこまで必要なの?」
「相続人全員の印鑑証明書が必要なの?」
「遺産分割協議書があれば、銀行の書類は書かなくていい?」
亡くなった方の預貯金について相続手続きを始めると、このような疑問が出てくることがあります。
銀行などの金融機関では、口座名義人が亡くなった場合、相続人や預貯金を取得する方を確認したうえで、解約・払戻しなどの手続きを行います。
そのため、戸籍謄本や印鑑証明書など、さまざまな書類が必要になります。
ただし、預貯金の相続手続きに必要な書類は、すべての金融機関で同じというわけではありません。
また、遺言書や遺産分割協議書の有無によっても異なります。
今回は、預貯金の相続手続きで必要になる書類と、準備する際の注意点を整理します。
① 預貯金の相続手続きでは、どんな書類が必要?
まず、一般的な相続手続きで必要になりやすい書類を見てみましょう。
| 書類 | 主な目的 |
|---|---|
| 亡くなった方の戸籍謄本等 | 死亡の事実と相続人の確認 |
| 相続人の戸籍謄本 | 相続関係の確認 |
| 相続人等の印鑑証明書 | 手続きに必要な意思確認 |
| 遺産分割協議書 | 誰が預貯金を取得するかの確認 |
| 遺言書 | 遺言による取得内容の確認 |
| 金融機関所定の相続届等 | 解約・払戻しなどの請求 |
| 通帳・証書・キャッシュカード等 | 対象となる口座の確認 |
| 払戻先の口座情報 | 相続預貯金の振込先の確認 |
ただし、これらがすべて必要になるわけではありません。
例えば、遺言書がない場合には遺言書を提出する必要はありません。
また、遺産分割協議書が作成されていなくても、金融機関所定の書類によって手続きできる場合があります。
まずは、どのような相続方法で預貯金を取得するのかを確認することが大切です。
② 亡くなった方の戸籍は、どこまで集める?
預貯金の相続手続きでは、亡くなった方の戸籍謄本等が必要になります。
一般的には、次のような書類です。
戸籍謄本
除籍謄本
改製原戸籍謄本
遺言書がなく、法定相続人を確認する必要がある場合には、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍を求められることが多くあります。
例えば、父が亡くなった場合です。
父の死亡時の戸籍に母と子ども2人が記載されていたとしても、それだけで相続人全員を確認できるとは限りません。
過去の婚姻や養子縁組などによって、ほかにも相続人がいる可能性があるためです。
そのため、古い戸籍までさかのぼって確認する必要があります。
ただし、実際に提出を求められる戸籍の範囲は金融機関や相続の内容によって異なります。
例えば、ゆうちょ銀行では、一定の相続手続きについて、亡くなった方の婚姻時から死亡までの戸籍などを案内しています。
一方、出生から死亡までの戸籍を求める銀行もあります。
遺言書があり、預貯金を取得する人が明確な場合には、死亡の事実が分かる戸籍などで足りることもあります。
必ず出生から死亡までの戸籍が必要と決めつけず、金融機関の案内を確認することが大切です。
③ 相続人全員の戸籍も必要になる?
遺言書がなく、複数の相続人がいる場合には、原則として相続人全員を確認する必要があります。
例えば、父が亡くなり、相続人が母・長男・長女の3人だったとします。
この場合、父の戸籍だけでなく、相続人の現在の戸籍謄本などが必要になることがあります。
もっとも、父の出生から死亡までの戸籍によって相続関係を確認できる場合には、別途取得する必要がない書類もあります。
また、相続人の一人が父より先に亡くなっている場合には、代襲相続が問題になることがあります。
反対に、父の死亡後、預貯金の相続手続きが終わる前に相続人の一人が亡くなった場合には、数次相続が発生することがあります。
このような場合には、通常より多くの戸籍が必要になることがあります。
相続関係が複雑な場合には、戸籍を集め始める前に、誰が相続人になるのかを整理しておくとよいでしょう。
④ 印鑑証明書は誰のものが必要?
預貯金の相続手続きでは、印鑑登録証明書が必要になる場合が多くあります。
ただし、誰の印鑑証明書が必要になるかは、相続の方法によって異なります。
例えば、遺言書も遺産分割協議書もなく、金融機関所定の相続届で手続きを行う場合です。
この場合には、相続人全員の署名・実印による押印と、全員分の印鑑証明書を求められることがあります。
一方、相続人全員で作成した遺産分割協議書がある場合には、金融機関所定の相続届について、預貯金を取得する方だけの署名・押印で足りる場合もあります。
ただし、その場合でも、遺産分割協議書に署名・押印した相続人全員の印鑑証明書を求められることがあります。
さらに、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者の印鑑証明書を提出することで手続きを進められる場合があります。
つまり、相続人が3人だからといって、どのような相続でも必ず3人全員の印鑑証明書が必要になるわけではありません。
⑤ 印鑑証明書は発行から何か月以内のもの?
印鑑証明書には、もう一つ注意点があります。
それは、金融機関が求める発行日からの期間です。
例えば、三菱UFJ銀行や三井住友銀行などでは、一般的な相続手続きについて、発行後6か月以内の印鑑証明書を案内しています。
ただし、金融機関や取引内容によっては、異なる期間が指定されることがあります。
同じ金融機関でも、亡くなった方に借入れがある場合などには、通常の預貯金相続とは異なる取扱いになることがあります。
そのため、
「相続人全員の印鑑証明書を早めに取っておこう」
と考えて準備しても、実際に銀行へ提出する時点で、指定された期間を過ぎてしまう可能性があります。
特に、複数の金融機関で手続きを行う場合には注意が必要です。
印鑑証明書は、必要な人と発行日について確認してから取得する方が、取り直しを防ぎやすくなります。
⑥ 遺産分割協議書があれば、手続きは簡単になる?
遺言書がなく、相続人が複数いる場合には、相続人全員で財産の分け方を話し合うことがあります。
その結果を記載した書面が、遺産分割協議書です。
例えば、父の預貯金について、
A銀行の預金は母が取得する
B銀行の預金は長男が取得する
C銀行の預金は長女が取得する
と決めた場合です。
この内容を遺産分割協議書に記載し、相続人全員が実印で押印する方法が考えられます。
銀行では、その協議書を確認し、誰が預貯金を取得するのかを判断します。
ただし、遺産分割協議書があれば、銀行所定の書類がすべて不要になるわけではありません。
金融機関によっては、預貯金の取得者に相続届などの所定書類への署名・押印を求めます。
また、協議書に単に「預貯金は長男が取得する」と書かれている場合など、どの預貯金が対象か明確でないときには、追加確認が必要になることもあります。
遺産分割協議書には、金融機関名や財産の内容、取得者などを明確にしておくことが大切です。
⑦ 遺産分割協議書を作らずに銀行の手続きはできる?
遺産分割協議書が必ず必要というわけではありません。
例えば、父が亡くなり、相続人が母・長男・長女の3人だったとします。
相続人全員で、
「父のA銀行の預金は母が受け取る」
と合意している場合です。
このようなケースでは、金融機関所定の相続届や相続手続依頼書などに、相続人全員が必要な署名・押印をすることで手続きできる場合があります。
つまり、別途遺産分割協議書を作成しなくても、金融機関の書類を利用して預貯金の払戻しを受けられることがあります。
ただし、注意したいことがあります。
銀行の相続届は、その金融機関の預貯金についての手続きに用いられるものです。
そのため、銀行所定の書類だけでは、不動産やほかの金融機関の預貯金についてまで遺産分割が整理されるとは限りません。
複数の財産がある場合には、相続財産全体について遺産分割協議書を作成した方が、手続きを進めやすいこともあります。
⑧ 遺言書がある場合、必要書類はどう変わる?
遺言書がある場合には、遺産分割協議による手続きとは必要書類が異なります。
例えば、
「A銀行の預金を長男に相続させる」
という有効な遺言書がある場合です。
このときには、一般的に次のような書類が必要になります。
遺言書
亡くなった方の死亡が確認できる戸籍謄本等
預貯金を取得する方の印鑑証明書
金融機関所定の相続届等
通帳・証書など
ただし、遺言書の種類によっても異なります。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言の正本や謄本などを使用します。家庭裁判所での検認は不要です。
自宅などで保管されていた自筆証書遺言の場合
原則として家庭裁判所での検認が必要です。金融機関から検認済証明書などを求められることがあります。
法務局で保管されていた自筆証書遺言の場合
遺言書情報証明書を利用します。家庭裁判所での検認は不要です。
なお、家庭裁判所の検認は、遺言書の内容が法律上有効であることを保証する手続きではありません。
また、遺言書があっても、預貯金の取得者が明確でない場合などには、別途確認や手続きが必要になることがあります。
⑨ 遺言執行者がいる場合は?
遺言書で遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者が預貯金の払戻しなどの手続きを進めることがあります。
例えば、
「遺言者の預貯金を友人Aに遺贈する」
という遺言があり、遺言執行者Bが指定されている場合です。
このような場合には、一般的に次のような書類が必要になります。
遺言書
亡くなった方の死亡を証明する戸籍謄本等
遺言執行者の印鑑証明書
金融機関所定の相続届等
通帳・証書など
家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合には、選任審判書謄本なども必要になります。
ただし、遺言書の内容によっては、受遺者の署名・押印や印鑑証明書などを求められることもあります。
また、遺言執行者が指定されているからといって、遺言の対象になっていない預貯金まで当然に払い戻せるわけではありません。
遺言書の内容と、遺言執行者の権限を確認する必要があります。
⑩ 法定相続情報一覧図を利用すると便利?
複数の金融機関で相続手続きを行う場合には、戸籍謄本を何度も提出することになる場合があります。
そこで利用を検討できるのが、法定相続情報証明制度です。
これは、亡くなった方と法定相続人の関係を一覧図にまとめ、法務局で認証を受ける制度です。
法務局から交付された認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを利用することで、金融機関への戸籍謄本一式の提出を省略できる場合があります。
例えば、
A銀行
B信用金庫
ゆうちょ銀行
の3つで相続手続きを行う場合です。
それぞれの金融機関へ戸籍一式を提出する代わりに、法定相続情報一覧図の写しを利用できる場合があります。
ただし、法定相続情報一覧図は、誰が法定相続人かを確認するためのものです。
遺産分割協議が成立したことや、相続放棄をしたことまで証明するものではありません。
そのため、遺産分割協議書や相続放棄関係の書類などが別途必要になることがあります。
また、法定相続情報一覧図の作成後に相続人が亡くなった場合などには、追加の戸籍が必要になることがあります。
⑪ 戸籍や遺産分割協議書の原本は返してもらえる?
複数の金融機関で手続きを行う場合には、提出した書類を返してもらえるかも気になるところです。
例えば、遺産分割協議書の原本が1通しかない場合です。
A銀行へ提出した後、その協議書をB銀行でも使いたいことがあります。
金融機関によっては、原本を確認したうえで写しを取り、原本を返却してくれる場合があります。
戸籍謄本や法定相続情報一覧図についても、原本返却の取扱いがある金融機関があります。
ただし、すべての書類について必ず返却されるとは限りません。
また、原本返却の申出方法や、返却までの期間なども異なります。
原本を返してもらう必要がある場合には、書類を提出するときに確認しておくことが大切です。
⑫ 金融機関ごとに必要書類が違うことに注意
ここまで説明してきたように、預貯金の相続手続きでは、金融機関ごとに取扱いが異なることがあります。
例えば、次のような点です。
| 確認する項目 | 金融機関によって異なる点 |
|---|---|
| 戸籍謄本 | 必要な取得範囲 |
| 印鑑証明書 | 必要な人・発行日からの期間 |
| 遺産分割協議書 | 必要性・記載内容の確認 |
| 相続届 | 書式・署名押印する人 |
| 法定相続情報一覧図 | 利用条件・追加資料 |
| 書類の原本 | 返却方法・取扱い |
| 手続方法 | 店頭・郵送・オンライン等 |
例えば、三菱UFJ銀行では、遺言書の有無や遺産分割協議書の有無に応じて、必要書類を区分して案内しています。
一方、ゆうちょ銀行では、相続確認表などで相続関係を確認したうえで、必要書類の案内を受ける仕組みがあります。
このように、同じ預貯金の相続手続きでも、進め方は一つではありません。
また、同じ金融機関でも、亡くなった方に借入れや投資信託などの取引がある場合には、別の書類が必要になることがあります。
別の銀行で使えた書類だから、今回も必ず使えるとは限らないという点に注意したいところです。
⑬ 書類を集める前に確認しておきたいこと
預貯金の相続手続きで、書類の取り直しや手続きの遅れを防ぐためには、最初に次の点を確認しておくとよいでしょう。
1.遺言書はあるか
遺言書がある場合には、その種類と内容を確認します。
2.遺産分割協議書は作成されているか
作成済みの場合には、対象となる預貯金や取得者が明確に記載されているか確認します。
3.誰が預貯金を取得するのか
取得者や手続きを進める人によって、必要書類が異なることがあります。
4.どの金融機関で手続きするのか
銀行や信用金庫、ゆうちょ銀行など、取引先を整理します。
5.印鑑証明書は誰のものが必要か
発行日からの期間も確認します。
6.戸籍や協議書の原本は返却してもらえるか
複数の金融機関で同じ書類を利用する場合には、確認しておきたい事項です。
このように、金融機関の案内を確認してから必要書類を準備することで、効率よく相続手続きを進めやすくなります。
まとめ
預貯金の相続手続きでは、戸籍謄本や印鑑証明書などの書類が必要になります。
ただし、必要な書類は相続の方法や金融機関によって異なります。
今回のポイントを整理すると、
遺言書の有無によって必要書類が変わる
遺産分割協議書がある場合とない場合でも手続きが異なる
戸籍は出生から死亡まで必要になることが多いが、金融機関や相続の内容によって異なる
相続人全員の印鑑証明書が必要になる場合がある
印鑑証明書の発行日についても金融機関の指定を確認する
遺産分割協議書があっても、銀行所定の書類が必要になる場合がある
法定相続情報一覧図を利用すると、戸籍の提出負担を減らせる場合がある
書類の原本返却についても確認しておく
複数の金融機関で手続きをする場合には、それぞれの必要書類を確認する
ということになります。
預貯金の相続手続きでは、戸籍や印鑑証明書を用意することも大切ですが、それ以上に重要なのが、相続の状況に応じて、どの書類が必要なのかを最初に確認することです。
必要な書類を整理してから手続きを進めることで、書類不足による再提出や、何度も金融機関へ足を運ぶ負担を減らすことができます。
預貯金の相続手続きを含む遺産承継については、こちらのページでも紹介しています。
▶ 遺産承継業務・預貯金の相続手続きについて(松岡司法書士事務所)
