一人暮らしの方が遺言を作るとき、遺言執行者は誰に頼む?
「遺言書は作っておきたいけれど、亡くなった後に誰が手続きをしてくれるのだろう?」
「子どもがいないし、親族ともあまり付き合いがない」
「友人に財産を残したいけれど、その友人にすべての手続きを任せても大丈夫?」
一人暮らしの方や、子どもがいない方が遺言書を作成するときには、このような問題も考えておきたいところです。
遺言書には、財産を誰に残すのかを定めることができます。
しかし、遺言書を作成するだけで、預貯金の払戻しや不動産の名義変更がすべて自動的に行われるわけではありません。
亡くなった後には、遺言の内容を実現するための手続きが必要になります。
そこで重要になるのが、**「遺言執行者」**です。
今回は、遺言執行者の役割や選び方、頼める親族がいない場合の対応について整理します。
① 遺言執行者とは何をする人?
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実現するために、必要な手続きを行う人のことです。
例えば、次のような遺言書があったとします。
「私の預貯金を友人Aに遺贈する」
「自宅の土地建物を甥Bに遺贈する」
この場合、遺言者が亡くなった後には、預貯金の払戻しや不動産の所有権移転登記などの手続きが必要になります。
遺言執行者は、遺言の内容や法律で定められた権限に従って、これらの手続きを進めます。
遺言書の内容によって異なりますが、一般的には、
相続人への通知
相続財産の調査
財産目録の作成
金融機関での預貯金の手続き
不動産の遺贈に関する手続き
受遺者への財産の引渡し
相続人などへの報告
といった仕事があります。
遺言執行者は、遺言書を実際の手続きにつなげる役割を担う人といえます。
② 遺言執行者は必ず指定しなければならない?
遺言書を作成するときに、必ず遺言執行者を指定しなければならないわけではありません。
遺言執行者が指定されていなくても、そのことだけで遺言書が無効になるわけではありません。
しかし、遺言内容によっては、遺言執行者がいないことで手続きが難しくなる場合があります。
例えば、友人に不動産を遺贈する場合です。
遺言執行者がいなければ、原則として相続人の協力を得て所有権移転登記を進めることになります。
その相続人が遠方に住んでいたり、長年交流がなかったりすると、手続きが進みにくくなる可能性があります。
また、預貯金を複数の人に遺贈するような場合にも、誰が金融機関で手続きを行うのかが問題になります。
そのため、相続人以外の人に財産を遺贈する場合や、親族関係が複雑な場合には、遺言執行者を指定しておくことが特に重要です。
③ 遺言執行者は誰でもなれる?
遺言執行者は、必ずしも弁護士や司法書士などの専門家でなければならないわけではありません。
例えば、
配偶者
兄弟姉妹
甥や姪
友人
財産を受け取る受遺者
弁護士や司法書士などの専門家
といった方を指定することができます。
法律上、未成年者や破産者は遺言執行者になることができませんが、それ以外について特別な国家資格が一律に必要とされているわけではありません。
また、相続人や受遺者自身を遺言執行者に指定することも可能です。
例えば、友人Aに預貯金を遺贈する場合に、その友人A自身を遺言執行者として指定する方法もあります。
ただし、遺言執行者には法律上の義務があり、実際に金融機関などで手続きを行う必要があります。
遺言執行者になれることと、その仕事を無理なく引き受けられることは別の問題です。
④ 友人や親族に頼む場合の注意点は?
一人暮らしの方の中には、親しい友人や甥・姪などに遺言執行者を頼もうと考える方もいらっしゃると思います。
ただし、遺言執行者の仕事は、単に財産を受け取る人に連絡すれば終わるものではありません。
例えば、
「預貯金は複数の銀行にある」
「自宅を売却して、その代金を友人に渡したい」
「相続人が全国各地に住んでいる」
という場合には、手続きに相当な時間や労力がかかる可能性があります。
また、遺言執行者には、任務を開始した際に遺言の内容を相続人へ通知する義務があります。
相続財産の状況に応じて、財産目録の作成や交付なども必要になります。
そのため、友人や親族に依頼する場合には、事前に仕事内容を説明し、引き受けてもらえるか確認しておくことが大切です。
遺言書で一方的に指定したからといって、指定された人に必ず就任してもらえるわけではありません。
⑤ 頼める親族や友人がいない場合は?
では、親族との付き合いがなく、遺言執行者を頼める友人もいない場合はどうすればよいのでしょうか。
このような場合には、弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に指定する方法があります。
例えば、
預貯金を解約して、指定した受遺者に送金する
自宅を売却し、その売却代金を遺贈する
複数の相続人や受遺者に財産を引き渡す
公益財団法人などへの遺贈寄付を実行する
といった内容です。
専門家を指定する場合には、遺言書の内容を実際に執行できるか、どこまでの業務を引き受けてもらえるかを事前に確認しておくことが重要です。
また、遺言執行の途中で相続人との間に紛争が生じた場合には、遺言執行者の権限だけで解決できるとは限りません。
必要に応じて弁護士への相談や依頼が必要になることもあります。
⑥ 遺言執行者の報酬はどうなる?
専門家などに遺言執行を依頼する場合、気になるのが報酬です。
遺言執行者の報酬は、遺言書の中で定めておくことができます。
例えば、
「遺言執行者の報酬は金〇〇万円とする」
といった方法です。
また、遺産の額に一定の割合を乗じて計算する方法を定める場合もあります。
報酬について遺言書に定めがない場合には、家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情を考慮して報酬を定める制度があります。
遺言執行に必要な費用は、原則として相続財産の負担となります。ただし、遺留分との関係などには注意が必要です。
そのため、財産を受け取る人に実際に渡る金額は、遺言執行に必要な費用などを考慮して見込んでおく必要があります。
遺言書を作る段階で、遺言執行者の報酬や実費について確認しておくことが大切です。
⑦ 遺言執行者を指定していなかった場合は?
遺言書に遺言執行者を指定していなかった場合でも、必要に応じて家庭裁判所に選任を申し立てることができます。
民法第1010条では、遺言執行者がいない場合や、いなくなった場合には、利害関係人の申立てによって家庭裁判所が遺言執行者を選任できるとされています。
例えば、遺言書によって財産を受け取る予定の受遺者などが、申立てを行うことが考えられます。
ただし、家庭裁判所に申し立てれば自動的に手続きが進むわけではありません。
申立書や必要書類を準備する必要がありますし、遺言執行者が選任された後も、財産の調査や払戻しなどの手続きが必要です。
また、遺言書で指定した遺言執行者が先に亡くなった場合や、就任できなくなった場合にも、同様の問題が生じることがあります。
そのため、最初から適切な遺言執行者を指定しておくことに加え、必要に応じて予備的な遺言執行者を指定しておく方法も考えられます。
⑧ 遺言執行者を指定すれば、葬儀や納骨もしてくれる?
ここは、特に一人暮らしの方に知っておいていただきたいところです。
遺言執行者を指定したからといって、亡くなった後のすべての手続きを任せられるわけではありません。
遺言執行者の主な役割は、あくまでも遺言の内容を実現することです。
一方、亡くなった後には、
葬儀や火葬の手配
納骨
病院や施設への対応
賃貸住宅の解約
家財道具や遺品の整理
電気・ガス・水道などの解約
携帯電話などの各種契約の解約
といった事務が必要になることもあります。
これらは、遺言執行者の一般的な職務にすべて含まれるわけではありません。
そのため、亡くなった後の生活関係の事務まで準備しておきたい場合には、死後事務委任契約などを別に検討する方法があります。
遺言書と死後事務委任契約は、目的や役割が異なります。
⑨ 遺言書と死後事務委任契約はどう違う?
それぞれの違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 主な役割 |
|---|---|
| 遺言書 | 財産を誰に引き継ぐかなどを定める |
| 遺言執行者 | 遺言の内容を実現する |
| 死後事務委任契約 | 葬儀・納骨・各種解約など、契約で定めた死後事務を行う |
例えば、一人暮らしの方が、
「預貯金は友人に残したい」
「自宅を売却して、残ったお金は公益財団法人に寄付したい」
「葬儀は簡素にして、納骨までお願いしたい」
と考えていた場合です。
このような希望があるときには、遺言書だけですべてを実現しようとするのではなく、遺言執行者の指定と死後事務委任契約を組み合わせて準備することが考えられます。
ただし、誰がどの手続きを担当するのか、費用をどの財産から支払うのかなどを整理しておくことが重要です。
⑩ 遺言書の存在を誰も知らなかったら?
最後に、見落としやすい問題があります。
それは、せっかく遺言書を作成しても、その存在を誰も知らなかった場合です。
例えば、独身で一人暮らしをしている方が、自筆証書遺言を作成して自宅の引き出しに保管していたとします。
その方が亡くなった後、誰も遺言書の存在を知らなければ、遺言書の発見までに時間がかかる可能性があります。
また、遺言執行者を指定していても、その人が遺言者の死亡を知らなければ、手続きを開始できません。
そのため、遺言書を作成した後には、
遺言書をどこに保管しているか
遺言執行者には誰を指定したか
遺言者の死亡を誰が遺言執行者へ知らせるか
財産に関する資料をどこに保管しているか
といった点も考えておきたいところです。
公正証書遺言や法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することも、遺言書の紛失や発見の遅れを防ぐための選択肢となります。
ただし、保管制度を利用すれば自動的にすべての遺言執行手続きが始まるわけではありません。
遺言書の存在を関係者が確認し、必要な手続きを行えるように準備しておくことが大切です。
まとめ
一人暮らしの方や、子どもがいない方が遺言書を作成するときには、財産を誰に残すかだけでなく、誰がその内容を実現するのかも考えておく必要があります。
今回のポイントを整理すると、
遺言執行者は、遺言の内容を実現するための手続きを行う人
親族や友人でも遺言執行者になれる
相続人や受遺者自身を指定することもできる
頼める親族などがいない場合には、司法書士や弁護士などの専門家を指定する方法がある
遺言執行者の報酬は、遺言書で定めておくことができる
遺言執行者がいない場合には、家庭裁判所による選任制度がある
葬儀や納骨などは、死後事務委任契約などを別に検討する
遺言書の保管場所や、遺言執行者への連絡方法も考えておく
ということになります。
遺言書は、財産を誰に残したいのかという意思を形にする大切なものです。
しかし、その意思を実現するためには、亡くなった後に必要な手続きを行う人がいなければなりません。
特に、子どもがいない方や一人暮らしの方の場合には、「誰に財産を残すか」と同じくらい「誰に手続きを任せるか」も重要です。
遺言書を作成する際には、財産の行き先だけでなく、その実現方法まで考えておきたいところです。
子どもがいない方の遺言については、こちらのページでも紹介しています。
