2026年10月17日土曜日

子どものいない方の遺言⑤ 財産を残す相手が先に亡くなったら?予備的遺言の重要性

 


財産を残す相手が先に亡くなったら?予備的遺言の重要性

「妻に全財産を相続させるという遺言書を作った」

「お世話になった友人に預貯金を残すつもりでいる」

「でも、その相手が自分より先に亡くなったら、遺言書はどうなるのだろう?」

遺言書を作成するときには、財産を誰に残すかを考えます。

しかし、財産を受け取る予定の方が、必ず自分より長生きするとは限りません。

特に、子どもがいないご夫婦や単身の方では、配偶者や兄弟姉妹、友人などが高齢になっていることもあります。

そのため、財産を残す予定の相手が自分より先に亡くなった場合に、どうするかを考えておくことが大切です。

今回は、そのような場合の遺言書の取扱いと、予備的遺言について整理します。

① 妻に全財産を相続させる遺言書を作っていたら?

例えば、子どもがいない夫婦がいたとします。

夫には自宅と預貯金があり、妻にすべて引き継いでもらいたいと考えています。

そこで、夫は次のような遺言書を作成しました。

「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を妻〇〇に相続させる。」

この遺言書が有効で、夫が先に亡くなれば、原則として妻は遺言の内容に従って財産を取得することになります。

では、妻が夫より先に亡くなった場合はどうでしょうか。

この場合、妻に全財産を相続させるという遺言の条項は、原則として効力を生じません。

妻は夫の死亡時点ですでに亡くなっているため、夫の財産を相続することができないからです。

つまり、遺言書を作っていても、財産を取得する予定の人が先に亡くなれば、その内容を実現できなくなる場合があるのです。


② 妻が先に亡くなったら、妻の親族が財産を引き継ぐ?

ここで誤解しやすいのが、妻の親族との関係です。

例えば、妻が先に亡くなった場合に、

「妻に相続させる予定だった財産だから、妻の兄弟姉妹に渡るのでは?」と考える方もいるかもしれません。

しかし、そうとは限りません。

夫が亡くなる前に妻が死亡していた場合、妻は夫の相続人にはなりません。

また、夫の財産が当然に妻の兄弟姉妹へ引き継がれるわけでもありません。

夫に子どもがおらず、父母や祖父母などの直系尊属もすでに亡くなっていれば、夫自身の兄弟姉妹が法定相続人になることがあります。

その結果、

「妻に全財産を残すつもりだったのに、結局は夫の兄弟姉妹が相続することになった」

という事態も考えられます。

遺言書を作成した当初の希望とは、違う結果になる可能性があるのです。


③ 遺言書で指定した人が先に亡くなったら、子どもが代わりに取得する?

では、財産を残す予定だった相手に子どもがいた場合はどうでしょうか。

例えば、兄に財産を相続させるという遺言書を作っていたところ、兄が先に亡くなり、その兄には子どもがいた場合です。

「兄が亡くなったのだから、その子どもである甥が代わりに取得できるのでは?」

と思われるかもしれません。

しかし、遺言書で指定した人が先に亡くなったからといって、その人の子どもが当然に遺言による財産取得者となるわけではありません。

最高裁判所は、2011年2月22日の判決で、「相続させる」旨の遺言について、指定された相続人が遺言者より先に亡くなった場合、代襲者などに相続させる意思があったと認められる特段の事情がない限り、その遺言の条項は効力を生じないと判断しています。

したがって、代わりに誰に財産を取得させるのかを、遺言書に明確に定めておくことが大切です。


④ 友人に遺贈する場合も同じ?

友人など、法定相続人ではない人に財産を残す場合にも注意が必要です。

例えば、

「友人Aに預貯金1,000万円を遺贈する」

という遺言書を作成していたとします。

ところが、友人Aが遺言者より先に亡くなってしまいました。

この場合、民法第994条では、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したとき、その遺贈は効力を生じないと定められています。

また、民法第995条では、遺贈が効力を生じない場合、その財産は原則として相続人に帰属するとされています。ただし、遺言者が別の意思を表示していた場合は、その意思に従います。

つまり、友人に財産を残す遺言書を作成していても、友人が先に亡くなった場合には、希望していた遺贈が実現できなくなることがあります。


⑤ 予備的遺言とは?

このような事態に備える方法が、予備的遺言です。

予備的遺言とは、最初に財産を取得する予定だった人が遺言者より先に亡くなった場合などに備えて、別の取得者をあらかじめ定めておくことです。

例えば、子どもがいない夫婦で、夫が妻に全財産を相続させたいと考えている場合です。

その一方で、妻が先に亡くなったときには、長年お世話になった友人に財産を残したいと考えているとします。

この場合、次のような遺言内容を検討できます。

【記載例】

第1条

遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻〇〇に相続させる。

第2条

妻〇〇が遺言者より先に死亡した場合、又は遺言者と同時に死亡した場合には、遺言者は、その有する一切の財産を友人△△に遺贈する。

※これは予備的遺言の仕組みを説明するための例です。実際には、受遺者の特定、財産の内容、相続人の状況、遺留分などを踏まえて作成します。

このように定めておけば、妻が先に亡くなった場合でも、遺言書に記載した別の相手へ財産を引き継いでもらうことができます。


⑥ 予備的遺言は夫婦以外でも使える?

予備的遺言は、子どもがいない夫婦に限ったものではありません。

例えば、独身の方が次のように考えている場合です。

「妹に全財産を相続させたい」

「でも、妹が先に亡くなったら、妹の子どもに残したい」

このような場合にも、妹が先に亡くなったときの取得者を指定しておくことができます。

また、

「友人Aに遺贈したいが、Aが先に亡くなっていたら公益財団法人Bに遺贈したい」

という内容も考えられます。

大切なのは、最初の取得者だけでなく、その人が財産を取得できない場合のことも想定しておくことです。

なお、代わりの取得者として法人や団体を指定する場合には、その法人が遺贈を受け付けているかを確認しておくことも重要です。


⑦ 夫婦が同時に亡くなった場合は?

配偶者が先に亡くなる場合だけでなく、夫婦が同じ事故や災害などで亡くなる可能性もあります。

民法では、複数の人が死亡した場合に、その死亡の前後が明らかでないときは、同時に死亡したものと推定する規定があります。

同時に死亡したものと扱われる場合、夫婦の間で相互に相続が発生することはありません。

そのため、予備的遺言では、

「配偶者が遺言者より先に死亡した場合、又は同時に死亡した場合」

というように、同時死亡の場合も含めて定めることがあります。

子どもがいないご夫婦では、この点についても確認しておきたいところです。


⑧ 遺言執行者が先に亡くなった場合は?

予備的な指定を考えるのは、財産を受け取る人だけではありません。

遺言執行者についても、予備的に指定しておく方法があります。

例えば、

「遺言執行者を友人Aとする」

と定めていた場合です。

しかし、友人Aが先に亡くなったり、遺言執行者への就任を辞退したりすることもあります。

そのような場合に備えて、

「Aが遺言執行者となることができない場合には、Bを遺言執行者とする」

というように定めておくことが考えられます。

特に、遺贈先が法人であったり、不動産の売却が必要だったりする場合には、遺言執行者の役割が重要になります。

遺言執行者がいない場合には、必要に応じて家庭裁判所に選任を申し立てる方法もありますが、あらかじめ予備的な指定をしておくことで、手続きを進めやすくなる場合があります。


⑨ 遺言書を作った後は、見直しも大切

予備的遺言を定めておけば、それだけで将来のすべての問題を解決できるわけではありません。

遺言書を作成した後には、さまざまな事情が変わることがあります。

例えば、

  • 配偶者が亡くなった

  • 財産を残す予定だった友人が亡くなった

  • 指定していた法人が解散した

  • 自宅を売却した

  • 預貯金の内容が大きく変わった

  • 財産を残したい相手が変わった

といった場合です。

このような事情が生じたときには、遺言書の内容を確認し、必要に応じて作り直すことを検討します。

遺言は、法律で定められた方式に従って撤回したり、新しい遺言を作成したりすることができます。

ただし、古い遺言書と新しい遺言書の内容が矛盾している場合などには、解釈上の問題が生じることもあります。

そのため、遺言内容を変更する際には、以前の遺言との関係も整理しておくことが大切です。


⑩ 子どもがいない方ほど、将来の変化を考えておきたい

子どもがいないご夫婦や単身の方では、遺言書によって財産を残す予定の相手が、配偶者や兄弟姉妹、友人など、比較的年齢の近い方になることがあります。

そのため、遺言書を作成してから実際に相続が発生するまでの間に、財産を受け取る予定の方が亡くなる可能性もあります。

また、身近な親族が少ない場合には、遺言の一部が効力を生じなくなったとき、その後の財産の帰属や手続きが複雑になることもあります。

遺言書を作成するときには、現在の希望だけでなく、将来の事情の変化についても考えておきたいところです。


まとめ

遺言書で財産を取得する予定だった方が、遺言者より先に亡くなった場合には、その遺言の条項が効力を生じなくなることがあります。

今回のポイントを整理すると、

  • 配偶者に全財産を相続させる遺言でも、配偶者が先に亡くなれば、その条項は原則として効力を生じない

  • 指定された人の子どもが、当然に遺言による財産取得者になるわけではない

  • 友人などへの遺贈も、受遺者が先に亡くなれば原則として効力を生じない

  • 予備的遺言によって、別の財産取得者をあらかじめ定めておくことができる

  • 配偶者との同時死亡も想定しておくとよい

  • 遺言執行者についても予備的な指定を検討できる

  • 遺言書を作った後も、事情が変わったら内容を見直すことが大切

ということになります。

遺言書は、作成した時点の希望を形にするものです。

しかし、その後に家族関係や財産の状況が変わることもあります。

特に、子どもがいない方の遺言では、財産を残す予定の相手が先に亡くなることまで考えておくことで、自分の希望に沿った財産の承継を実現しやすくなります。

「もし、この人が自分より先に亡くなったら?」

遺言書を作成するときには、この点も一度考えておきたいですね。

子どもがいない方の遺言については、こちらのページでも紹介しています。

▶ 子どもがいない方の遺言について(松岡司法書士事務所)