お世話になった人や団体に財産を残したいときは?
「長年お世話になった友人に財産を残したい」
「一緒に暮らしている内縁のパートナーに自宅を残したい」
「自分が亡くなった後、財産を福祉団体などの活動に役立ててほしい」
独身の方や子どもがいない方の中には、このような希望を持っている方もいらっしゃると思います。
法律上の相続人がいても、必ずしもその人に財産を残したいとは限りません。
また、相続人が誰もいない場合には、自分の財産が最終的にどうなるのか気になることもあるでしょう。
そのようなときに考えられる方法の一つが、遺言書による「遺贈(いぞう)」です。
今回は、お世話になった人や団体に財産を残す方法と、遺言書を作成する際の注意点について整理します。
① 相続人以外の人にも財産を残せる?
結論からいうと、遺言書によって、法定相続人以外の人に財産を残すことができます。
例えば、次のような方です。
長年お世話になった友人
一緒に暮らしている内縁の配偶者
親族ではないものの、身の回りの世話をしてくれた方
法定相続人ではない親戚
財産を役立ててほしい法人や団体
このように、遺言書によって財産を無償で譲り渡すことを「遺贈」といいます。
遺贈を受ける人や法人を「受遺者」といいます。
遺言書を有効に作成しておけば、法律上の相続人以外にも、自分の希望する相手に財産を引き継いでもらうことができます。
② 「相続させる」と「遺贈する」はどう違う?
遺言書を作成するときには、言葉の使い方にも注意が必要です。
例えば、配偶者や子どもなど、法定相続人に財産を取得させる場合には、
「妻〇〇に相続させる」
という表現が用いられます。
一方、友人などの法定相続人ではない人に財産を残す場合には、
「友人〇〇に遺贈する」
という表現を用います。
また、公益財団法人などの法人に財産を残す場合も、遺贈する旨を記載します。
遺言書には、財産を受け取る人や法人と、対象となる財産をできるだけ明確に記載しておくことが大切です。
③ お世話になった友人に預貯金を残すには?
例えば、独身で一人暮らしをしている方が、長年親しくしてきた友人に100万円を残したいと考えた場合です。
遺言書には、次のような内容を定めることが考えられます。
【記載例】
「遺言者は、遺言者の有する預貯金のうち金100万円を、友人〇〇(生年月日〇年〇月〇日)に遺贈する。」
※実際には、財産の内容や受遺者を特定できる情報などに応じて記載方法を検討します。
このような遺言書が有効に作成されていれば、友人は遺言に基づいて財産を受け取ることができます。
ただし、遺贈を受ける友人が自分で金融機関の手続きをしなければならない場合、必要書類の収集や払戻しなどに戸惑うこともあります。
そのため、遺贈する内容だけでなく、誰がその手続きを進めるのかも考えておくとよいでしょう。
④ 内縁の配偶者に自宅を残したい場合は?
婚姻届を提出せず、長年一緒に暮らしている方もいらっしゃると思います。
しかし、内縁の配偶者は、原則として法律上の配偶者には当たらず、法定相続人にはなりません。
例えば、長年二人で暮らしてきた自宅が本人の単独名義だったとします。
本人が遺言書を残さずに亡くなった場合、その自宅を内縁の配偶者が当然に相続できるわけではありません。
そこで、
「自宅の土地建物を内縁の配偶者〇〇に遺贈する」
という内容の遺言書を作成しておく方法があります。
ただし、不動産を遺贈する場合には、遺言書の記載だけで手続きがすべて完了するわけではありません。
亡くなった後には、遺贈による所有権移転登記などの手続きが必要になります。
また、不動産の取得に伴う税金についても確認しておく必要があります。
⑤ 公益財団法人などに財産を寄付することはできる?
遺言書によって、法人や団体に財産を遺贈することもできます。
例えば、
公益財団法人
公益社団法人
社会福祉法人
特定非営利活動法人(NPO法人)
学校法人
などが考えられます。
このように、遺言書によって亡くなった後の財産を団体などに寄付することを、一般に**「遺贈寄付」**と呼びます。
例えば、
「自分が亡くなった後、財産の一部を子どもたちの支援活動に役立ててほしい」
「長年支援してきた団体に預貯金を残したい」
といった希望を、遺言書によって実現する方法です。
ただし、ここで一つ重要な注意点があります。
遺贈先として指定した団体が、必ず財産を受け取ってくれるとは限りません。
⑥ 団体への遺贈は、事前に確認しておくことが大切
遺贈寄付を希望する場合、遺言書を作る前に、寄付先の団体へ確認しておきたいことがあります。
例えば、
遺贈寄付を受け付けているか
預貯金以外の財産も受け取れるか
不動産をそのまま受け取ってくれるか
現金化してから寄付する必要があるか
遺言書の形式や記載内容に指定があるか
といった点です。
団体によっては、現金による寄付は受け付けていても、不動産や有価証券をそのまま受け取ることはできない場合があります。
また、全財産を遺贈するような内容について、受入れを制限している団体もあります。
そのため、寄付先の団体名を書けばそれで安心、というわけではありません。
希望する団体がどのような遺贈を受け付けているのかを確認したうえで、遺言書の内容を考えることが大切です。
⑦ 不動産を売却して、その代金を寄付する方法もある
例えば、独身の方が自宅を所有していて、亡くなった後、その財産を公益財団法人に寄付したいと考えた場合です。
しかし、寄付先の団体が自宅の土地建物をそのまま受け取れないこともあります。
そのような場合には、遺言執行者が不動産を売却し、必要な費用などを清算したうえで、その残額を遺贈する方法が考えられます。
一般に「清算型遺贈」や「換価型遺贈」と呼ばれることがあります。
例えば、
遺言者が亡くなる
遺言執行者が財産を調査する
不動産の売却手続きを進める
必要な費用や税金などを清算する
残った金銭を遺贈先へ引き渡す
という流れです。
ただし、不動産が必ず売却できるとは限りません。
売却に長期間を要する場合や、想定より低い価格でしか売れない場合もあります。
また、売却や税務処理に必要な手続きも発生します。
こうした事情から、清算型遺贈を考える場合には、売却が難しい場合の取扱いや費用負担についても検討しておきたいところです。
⑧ 「全財産を遺贈する」と書く場合は注意
遺贈には、大きく分けて「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。
特定遺贈とは、例えば「預貯金のうち100万円」「特定の不動産」といった、財産を指定して遺贈する方法です。
一方、包括遺贈とは、財産の全部や一定の割合を遺贈する方法です。
例えば、
「全財産を友人Aに遺贈する」
という場合です。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有することになるため、財産だけでなく、債務も承継することがあります。
そのため、友人や団体に財産を残す場合、単に「全財産を遺贈する」とすればよいとは限りません。
特に団体への遺贈寄付では、債務の承継を伴う包括遺贈を受け付けていない場合もあります。
特定遺贈にするのか、包括遺贈にするのかは、財産や債務の状況、受遺者の希望などを踏まえて考える必要があります。
⑨ 遺留分や税金の問題は?
遺贈を考える場合には、遺留分や税金にも注意が必要です。
遺留分について
配偶者や子ども、父母などの一定の相続人には遺留分があります。
例えば、独身で子どもがいない方でも、父母が健在であれば遺留分の問題が生じることがあります。
一方、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分がありません。
そのため、兄弟姉妹だけが相続人となる場合には、希望する友人や団体に財産を遺贈する内容を実現しやすい場合があります。
税金について
友人などの個人が遺贈を受ける場合には、相続税の対象になることがあります。
相続税が発生する場合、友人などについては相続税額の2割加算が適用されるのが原則です。
また、法人へ財産を遺贈する場合には、個人に遺贈する場合と税務上の取扱いが異なります。
特に、土地・建物や株式などを法人へ遺贈する場合には、時価で譲渡したものとみなされる「みなし譲渡所得課税」が問題になることがあります。
公益法人などへの寄付については、一定の要件を満たす場合に非課税となる制度もありますが、どの団体への遺贈でも自動的に適用されるわけではありません。
不動産や有価証券を含む遺贈寄付では、遺言書を作成する段階で税理士などに税務上の取扱いを確認しておくことが重要です。
⑩ 遺言執行者を決めておくことも大切
友人や団体へ財産を遺贈する場合には、その財産を実際に引き渡す手続きも必要になります。
例えば、
相続人への通知
預貯金や不動産などの財産調査
財産目録の作成
金融機関での払戻手続き
不動産の名義変更や売却
受遺者への財産の引渡し
などです。
こうした手続きを行うため、遺言書で遺言執行者を指定しておく方法があります。
特に、寄付先が法人であったり、不動産の売却が必要だったりする場合には、遺言執行者の役割が重要になります。
また、一人暮らしの方であれば、遺言書とは別に、葬儀や納骨、住居の片付けなどの死後事務についても考えておくとよいでしょう。
財産を誰に残すかだけでなく、亡くなった後に誰がその手続きを進めるのかまで考えておくことが大切です。
まとめ
お世話になった友人や、活動を支援したい団体に財産を残したい場合には、遺言書による遺贈という方法があります。
今回のポイントを整理すると、
法定相続人ではない友人や内縁の配偶者にも財産を遺贈できる
法人や団体への遺贈寄付も可能
遺言書では、受遺者と財産を明確にすることが大切
寄付先の団体が、必ず財産を受け取ってくれるとは限らない
不動産は売却して現金化したうえで遺贈する方法もある
包括遺贈では、債務の承継にも注意が必要
遺留分や税金についても確認しておきたい
遺言執行者を指定しておくことで、手続きを進めやすくなる
ということになります。
自分の財産を、誰に、どのように引き継いでほしいのか。
それは必ずしも法律上の相続人に限られるものではありません。
ただし、遺贈先の事情や財産の内容によっては、希望どおりの引渡しが難しくなる場合もあります。
財産を残す相手のことだけでなく、その人や団体が実際に受け取れる方法まで考えて遺言書を作成しておくことが大切です。
子どもがいない方の遺言については、こちらのページでも紹介しています。
