何十年も前の抵当権が登記簿に残っていたら?
祖父から父へ、そして自分へと引き継がれてきた土地。
そろそろ売却しようと思い、不動産会社に相談したところ、こんなことを言われた。
「この土地、昔の抵当権が残っていますね」
登記簿を確認すると、そこには昭和の時代に設定された抵当権が。
「えっ? こんな昔の借金、もう終わっているんじゃないの?」
「そもそも抵当権者って誰? もう亡くなっているのでは?」
「何十年も前の抵当権って、まだ消せるの?」
そんな疑問が出てくるかもしれません。
実は、何十年も前に設定された抵当権が、現在も登記簿に残っていることがあります。
このような古い担保権は、一般に「休眠担保権」などと呼ばれることがあります。
そして、古い抵当権だからといって、何もしなくても自動的に登記簿から消えるわけではありません。
今回は、昔の抵当権が登記簿に残っていた場合の対処方法について、分かりやすくご紹介します。
そもそも抵当権とは?
抵当権とは、お金を貸した人や金融機関などが、借金の返済を確保するために、不動産に設定する担保権のことです。
例えば、住宅ローンを借りて家を購入する場合。
金融機関は、住宅ローンの担保として土地や建物に抵当権を設定します。
もし返済が行われなくなった場合には、抵当権に基づいて不動産を競売にかけ、売却代金から優先的に返済を受けることができます。
ところが、住宅ローンを完済しても、抵当権の登記は自動的には消えません。
法務局に抵当権抹消登記を申請する必要があります。
そのため、借金自体は昔に返済されているのに、登記簿には抵当権が残っているというケースがあるのです。
何十年も前の抵当権が残っているのはなぜ?
例えば、次のようなケースが考えられます。
① 借金を返済したのに抹消登記をしていなかった
すでに借金は完済していたものの、抵当権抹消登記を行わないまま長期間経過していた場合です。
② 抵当権者が亡くなっていた
昔、お金を貸していた個人が亡くなり、その相続人も分からなくなっている場合です。
③ 抵当権者だった会社が解散していた
昔の金融会社や組合などが解散し、現在では連絡先が分からなくなっている場合です。
④ 所有者が変わるたびに、そのまま引き継がれていた
祖父から父へ、父から子どもへと相続される中で、古い抵当権が残ったままになっていた場合です。
いずれの場合も、登記簿に抵当権が残っているのであれば、その内容を調べる必要があります。
昔の抵当権は、放っておいても消えない?
ここが今回の大切なポイントです。
例えば、昭和30年に設定された抵当権。
すでに70年以上経過しているとしても、それだけで法務局が自動的に抵当権の登記を消してくれるわけではありません。
登記から何十年経過したかということと、抵当権を抹消できるかどうかは別の問題です。
また、借金には消滅時効という制度がありますが、単純に年月が経過しただけで、必ず抵当権が消滅するとも限りません。
抵当権と借金の関係、消滅時効に関する法律上の条件などを確認する必要があります。
そして、実際に抵当権が消滅していたとしても、その登記を消すためには、原則として抵当権抹消登記が必要になります。
古い抵当権が残っていると、土地を売れない?
「抵当権が残っていたら、土地を売却できないの?」
これも気になるところです。
法律上、抵当権が残っている不動産でも売買契約を結ぶこと自体は可能です。
しかし、通常の不動産売買では、売主が抵当権を抹消してから買主へ引き渡すことが求められます。
買主としても、昔の抵当権が残っている土地をそのまま購入することには不安があります。
住宅ローンなどを利用する場合には、金融機関の融資にも影響する可能性があります。
そのため、古い抵当権が見つかった場合には、売却前に抹消できるかどうかを確認しておくことが大切です。
抵当権者が現在も存在している場合は?
まず確認したいのは、抵当権者が現在も存在しているかどうかです。
例えば、昔の銀行が合併して、別の銀行になっている場合です。
このようなケースでは、現在の承継先の金融機関を確認し、必要な書類を取得して抹消登記を行える場合があります。
また、昔お金を貸していた個人が亡くなっている場合には、その相続人などを調査する必要が生じることもあります。
相手が亡くなっているからといって、直ちに抵当権が消えるわけではありません。
抵当権者の権利関係を調べ、通常の抹消登記ができるかどうかを検討します。
抵当権者が見つからない場合はどうする?
問題になるのが、昔の抵当権者の所在が分からない場合です。
例えば、
「登記簿に書かれている住所には、もう誰も住んでいない」
「抵当権者はずいぶん前に亡くなっているようだ」
「会社の名前は分かるけれど、現在は存在しない」
といった場合です。
抵当権抹消登記は、原則として不動産の所有者と抵当権者が共同で申請します。
しかし、相手の所在が分からなければ、通常の方法では手続きを進められません。
そこで、法律では、一定の条件のもとで所有者が単独で抵当権抹消登記を申請できる仕組みが設けられています。
① 一定の条件で、供託して抹消する方法
古い抵当権の抹消方法として、「供託」を利用できる場合があります。
供託とは、一定の法律上の目的のために、金銭などを法務局の供託所に預ける制度です。
不動産登記法第70条では、抵当権者の所在が分からない場合、一定の条件を満たすことで、供託による抵当権抹消登記が認められています。
主な条件には、次のようなものがあります。
抵当権者の所在が分からず、共同で抹消登記を申請できないこと
担保されている借金の弁済期から20年を経過していること
借金の元本、利息、遅延損害金の全額に相当する金銭を供託すること
これらの条件を満たせば、不動産の所有者が単独で抵当権抹消登記を申請できる場合があります。
ただし、注意点もあります。
20年というのは、抵当権を設定した日からではなく、原則として借金の弁済期から数える期間です。
また、供託する金額は、登記簿に記載された借金の元本だけとは限りません。
利息や遅延損害金の計算が必要になるため、古い抵当権では供託額が大きくなることもあります。
供託が必要かどうか、いくら供託する必要があるかは、具体的な事情を確認して判断することになります。
② 解散した会社の抵当権なら、別の方法もある?
実は、2023年4月1日から、古い担保権の抹消に関する新しい仕組みが利用できるようになっています。
不動産登記法第70条の2です。
これは、抵当権者などが解散した法人で、一定の条件を満たしている場合に、所有者が単独で担保権の抹消登記を申請できる制度です。
例えば、昔の金融会社や組合などが抵当権者になっていて、その法人がすでに解散している場合です。
主な条件は、次のようなものです。
抵当権者である法人が解散していること
法律で定められた方法で調査しても、清算人の所在が分からないこと
担保されている借金の弁済期から30年を経過していること
その法人の解散の日から30年を経過していること
こうした条件を満たす場合には、供託をせずに、所有者が単独で抵当権の抹消登記を申請できる場合があります。
ただし、古い会社だからという理由だけで利用できる制度ではありません。
会社が単に合併した場合や、現在も権利を承継した会社が存在している場合には、別の手続きを検討することになります。
また、30年という期間についても、借金の弁済期と法人の解散日の両方から計算する必要があります。
③ 裁判所の手続きが必要になる場合も
抵当権者の所在が分からず、通常の抹消登記ができない場合には、裁判所の手続きを利用する方法もあります。
例えば、法律に定められた「公示催告」という手続きを行い、除権決定を得て抵当権を抹消する方法です。
また、事情によっては、訴訟によって抵当権抹消登記を求めることを検討する場合もあります。
どの方法が適しているかは、抵当権の内容、借金が消滅しているかどうか、抵当権者の所在などによって異なります。
古い抵当権の抹消方法は、一つだけではないのです。
登記簿に「債権額100円」と書かれていたら?
例えば、昔の抵当権について、登記簿に非常に少額の債権額が記載されている場合です。
「たった100円なら、すぐ消せそう!」
と思われるかもしれません。
しかし、登記簿に記載された債権額が少額だからといって、簡単に抹消できるとは限りません。
例えば、供託によって抹消する場合には、元本だけでなく、利息や遅延損害金も問題になります。
また、抵当権者の所在調査や、借金の弁済期を確認するための資料が必要になることもあります。
反対に、条件がそろえば、比較的整理しやすいケースもあります。
金額だけで判断せず、抵当権の設定内容や経緯を確認することが大切です。
抵当権を抹消するには、何を調べればいい?
まず必要なのは、不動産の登記事項証明書を確認することです。
古い抵当権が残っている場合には、次のような点を調べます。
① 抵当権はいつ設定されたのか?
抵当権の設定日を確認します。
② 抵当権者は誰なのか?
個人なのか、金融機関なのか、すでに解散した法人なのかを確認します。
③ どのような借金の担保なのか?
債権額、債務者、利息、損害金、弁済期など、登記されている内容を確認します。
④ 抵当権者の現在の状況は?
亡くなっているのか、会社が合併・解散しているのか、連絡が取れるのかを調べます。
⑤ 借金が返済された資料は残っているか?
古い領収書や返済に関する書類などが残っていれば、確認します。
登記簿だけでは詳しい事情が分からない場合には、閉鎖登記簿など、過去の登記資料を調査することもあります。
古い抵当権の抹消には、いくらかかる?
抵当権抹消登記には、登録免許税がかかります。
登録免許税は、原則として不動産1個につき1,000円です。
例えば、土地1筆と建物1個について抵当権を抹消する場合、通常は合計2,000円となります。
ただし、古い抵当権の場合には、これだけで手続きが終わるとは限りません。
抵当権者の所在調査に必要な費用
戸籍や法人登記などの証明書取得費用
供託を行う場合の供託金
裁判所の手続きが必要な場合の費用
司法書士などへ依頼する場合の報酬
といった費用が必要になることがあります。
特に、古い抵当権の抹消は、通常の住宅ローン完済後の手続きと比べて、調査に手間がかかる場合があります。
費用も事案によって大きく変わるため、まずは登記簿を確認したうえで、手続きの見通しを立てることが大切です。
まとめ 何十年も前の抵当権でも、抹消できる場合があります!
祖父や父親から相続した土地に、何十年も前の抵当権が残っていた。
借金は昔に返済されているはずなのに、登記簿にはそのまま記載されている。
そんな場合でも、抵当権を抹消するための方法が用意されています。
ただし、抵当権者の所在や、借金の弁済期、会社の解散状況などによって、必要な手続きは異なります。
「昔の抵当権が登記簿に残っている」
「抵当権者が亡くなっていて、連絡先が分からない」
「抵当権者だった会社がすでに解散している」
「相続した土地を売却しようとしたら、古い抵当権が見つかった」
そんな場合は、まず現在の登記内容を確認してみましょう。
古い抵当権が残っているからといって、土地の売却や活用をあきらめる必要はありません。
▶ 不動産登記法(第70条・第70条の2)|e-Gov法令検索
