財産管理委任契約で何を頼める?できること・できないこと
「銀行まで行くのが大変になってきた」
「入院中の支払いを誰かに頼みたい」
「自宅の管理を信頼できる人に任せたい」
このような場合に検討できるのが、財産管理委任契約です。
ただし、実際に契約を考えると、
「銀行の預金を引き出してもらえるの?」
「自宅の売却もお願いできる?」
「病院での手続きはどこまで任せられる?」
など、さまざまな疑問が出てくるのではないでしょうか。
財産管理委任契約では、本人が任せたい事務を契約によって定めることができます。しかし、何でも自由に代理できるわけではありません。
今回は、財産管理委任契約でできること・できないことを、具体的な例を使ってご紹介します。
まず大切なのは「何を任せるか」を決めること
財産管理委任契約は、本人と受任者との間で、財産管理などに関する事務を委任する契約です。
例えば、足腰が弱くなった母親が、長女に預貯金の管理や公共料金の支払いをお願いする場合です。
このとき、どのような事務を任せるのかを、契約で具体的に決めることができます。
一方で、契約書に記載していない事務まで、受任者が当然に行えるわけではありません。
また、本人から委任されている場合でも、金融機関などの相手方が独自の確認や手続きを求めることがあります。
「本人との間で代理権を与えていること」と「実際に相手方で手続きが認められること」は、必ずしも同じではないのです。
① 預貯金の管理や銀行での手続き
財産管理委任契約で検討されることが多いのが、預貯金の管理です。
例えば、
生活費の払戻し
家賃や公共料金の支払い
施設利用料の振込み
通帳の入出金の確認
必要な振込手続き
などがあります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
財産管理委任契約書があれば、どの銀行でも自由に預金を引き出せるというわけではありません。
銀行によっては、本人による事前の代理人登録や、銀行指定の委任状、本人確認などが必要になります。
また、代理人による取引の範囲が制限されている場合もあります。
例えば、三井住友銀行では、代理人キャッシュカードや代理人指名手続などを案内していますが、所定の事前手続きが必要です。
本人の意思確認が難しくなった場合には、取扱いが異なることもあります。
そのため、預貯金の管理を依頼したい場合は、契約書を作る前に、利用している金融機関でどのような手続きが認められるか確認しておくことが大切です。
② 公共料金や生活費の支払い
財産管理委任契約では、日常生活に必要な支払いを委任することも考えられます。
例えば、
電気・ガス・水道料金
家賃やマンション管理費
医療費や薬代
介護サービスの利用料
施設入所費用
税金や社会保険料
などです。
一人暮らしの高齢者が入院した場合、自宅の公共料金やマンション管理費などの支払いを続けなければならないことがあります。
このようなとき、あらかじめ支払いに関する事務を委任しておけば、受任者が手続きを進められる場合があります。
ただし、本人のお金を扱う以上、何にいくら使ったのかを明確にしておく必要があります。
領収書や振込明細などを保管し、支出内容を確認できるようにしておくことが重要です。
③ 自宅や賃貸不動産の管理
財産管理委任契約では、不動産の管理に関する事務を委任することも考えられます。
例えば、本人が所有する賃貸マンションについて、
賃料の入金状況を確認する
管理会社との連絡を行う
修繕の手続きを進める
必要な管理費用を支払う
といった事務です。
また、本人が施設に入所した後、自宅の維持管理に必要な事務を任せる場合もあります。
ただし、不動産の管理と売却は、分けて考える必要があります。
自宅の管理を委任したからといって、受任者が自由にその不動産を売却できるわけではありません。
不動産を売却するためには、その行為についての適切な代理権が必要です。
また、売買契約の締結や所有権移転登記では、本人の意思や代理権の内容、必要書類などについて慎重な確認が行われます。
高額な財産の処分については、日常的な管理事務とは区別して考えることが大切です。
④ 入院や施設入所に関する手続き
本人が入院したり、介護施設に入所したりする場合にも、さまざまな事務が必要になります。
例えば、
入院費用の支払い
施設利用料の振込み
必要書類の提出
施設との事務的な連絡
入所契約に関する手続き
などです。
こうした事務のうち、代理に適したものについては、契約内容に応じて委任することが考えられます。
ただし、施設や医療機関が本人による手続きや独自の書式を求める場合もあります。
また、施設入所契約の代理と、施設から求められる身元保証人になることは別の問題です。
契約手続きを任せたからといって、受任者が当然に身元保証人や連帯保証人になるわけではありません。
ここは区別しておきたいところです。
⑤ 医療行為への同意もお願いできる?
「入院の手続きを任せられるなら、手術への同意もお願いできるの?」
この点は、特に注意が必要です。
財産管理委任契約は、主に財産管理や生活に必要な事務を委任するものです。
例えば、入院費用の支払いや医療機関との事務的な連絡などは、委任内容として考えられます。
しかし、手術や治療などの医療行為について、本人に代わって同意することは別の問題です。
財産管理委任契約を結んだからといって、受任者に医療行為への包括的な同意権が与えられるわけではありません。
なお、成年後見人であっても、手術等の医療行為に本人の代わりに同意する権限は認められていません。
医療に関する本人の希望については、財産管理委任契約とは別に、医療機関や家族などと事前に話し合っておくことが大切です。
⑥ 財産を自由に贈与したり、使ったりできる?
財産管理を任された人は、本人の財産を自分の判断で自由に使ってよいのでしょうか?
もちろん、そのようなことはありません。
例えば、母親から預貯金の管理を任された長男が、
「いずれ相続するお金だから」
という理由で、母親の預金を自分の生活費に使うことはできません。
また、受任者が本人の財産を親族に贈与したり、自分のために利用したりすることも、通常の財産管理の範囲に含まれるものではありません。
財産管理委任契約は、本人の財産を本人のために管理する契約です。
受任者は、契約の内容に従い、本人の利益を考えて事務を行う必要があります。
なお、民法では、受任者に善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務や、本人への報告義務が定められています。
⑦ 遺言書の作成も任せられる?
財産管理を委任していても、本人に代わって遺言を作成することはできません。
遺言は、本人自身の意思によって行う法律行為だからです。
例えば、父親が長男に財産管理を委任していたとしても、長男が父親の代理人として父親の遺言書を作成することはできません。
また、婚姻や離婚など、本人自身の意思が重要になる身分上の行為についても、一般的な財産管理委任契約で代理できるものではありません。
財産管理を任せることと、本人にしかできない法律行為を任せることは違うのです。
本人が亡くなった後も、契約は続く?
ここも知っておきたい点です。
一般的な委任契約では、本人が亡くなることが契約の終了事由になります。
民法第653条にも、委任者または受任者の死亡が委任の終了事由として定められています。
そのため、通常の財産管理委任契約を結んでいたからといって、本人の死亡後も当然に財産管理や各種手続きを続けられるわけではありません。
一方、本人が亡くなった後の葬儀や納骨、公共料金の解約などについては、「死後事務委任契約」という別の契約を検討する方法があります。
ただし、財産管理委任契約と死後事務委任契約では、目的や契約内容が異なります。
死亡後の事務を希望する場合には、別途その内容を検討することが大切です。
契約書には具体的に書いておくことが大切!
財産管理委任契約を結ぶ場合、委任する内容をできるだけ具体的に定めておくことが重要です。
例えば、
「預貯金の管理を任せる」
という記載だけでは、どのような取引を想定しているのか分かりにくいことがあります。
そこで、
どの金融機関の口座を対象にするか
どのような支払いを任せるか
一度に取り扱う金額に制限を設けるか
重要な財産の処分は本人の個別承諾を必要とするか
管理状況をいつ、どのように報告するか
といった点を具体的に検討します。
また、財産の管理状況を確認するため、定期的な報告や領収書の保管方法などを定めておくことも大切です。
受任者に任せる権限が広ければ広いほど安心、というものではありません。
本人にとって必要な範囲に限定し、管理状況が分かる仕組みを整えることが重要です。
まとめ できることと、できないことを分けて考えましょう
財産管理委任契約では、本人の希望に応じて、預貯金の管理、生活費の支払い、不動産の管理、入院や施設入所に伴う事務などを委任することが考えられます。
ただし、契約書を作れば、すべての手続きを自由に代理できるわけではありません。
特に、銀行での取引、不動産の売却、医療行為への同意、死亡後の手続きなどには注意が必要です。
「銀行の手続きを誰かにお願いしたい」
「入院中の支払いを任せたい」
「自宅や賃貸不動産の管理をお願いしたい」
そんな場合には、まず何を任せたいのかを具体的に整理してみましょう。
大切なのは、必要な事務を明確にし、本人の意思と財産を守れる契約内容にすることです。
