財産管理委任契約と任意後見契約・見守り契約はどう違う?
将来の生活や財産管理について調べていると、いろいろな契約の名前を目にすることがあります。
例えば、
「財産管理委任契約」
「任意後見契約」
「見守り契約」
どれも高齢になったときの生活を支えるための仕組みですが、
「名前が似ていて、違いがよく分からない」
「全部契約しないといけないの?」
「今は元気だけれど、将来の認知症に備えるにはどれがいい?」
と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、この3つの契約には、それぞれ違う役割があります。
大きな違いは、いつ利用するのか、どのような支援を受けるのか、という点です。
今回は、財産管理委任契約と任意後見契約・見守り契約の違いを、分かりやすくご紹介します。
① 見守り契約とは?
見守り契約は、本人と定期的に連絡を取ったり、訪問したりすることで、生活状況や健康状態などを確認する契約です。
例えば、一人暮らしをしている高齢の女性。
現在は元気で、銀行や役所の手続きも自分でできています。
しかし、近くに親族がいないため、将来の生活に少し不安を感じています。
そこで、定期的に電話や訪問をしてもらう見守り契約を結ぶことが考えられます。
見守り契約では、例えば、
月に1回、電話で近況を確認する
定期的に自宅を訪問する
生活上の困りごとについて相談する
心身の状態に変化がないか確認する
といった内容を契約で定めることがあります。
特に、将来の任意後見契約を結んでいる場合には、見守りを通じて本人の状態の変化を把握し、任意後見を開始する時期を検討することにも役立ちます。
ただし、ここで注意したいことがあります。
見守り契約を結んだだけでは、銀行の預金を引き出したり、本人に代わって財産を管理したりする権限が当然に与えられるわけではありません。
見守り契約は、基本的に本人の状況を確認し、必要な支援につなげるための契約です。
② 財産管理委任契約とは?
財産管理委任契約は、本人が自分の財産管理や生活に必要な事務について、信頼できる人に委任する契約です。
例えば、判断能力は十分にあるものの、足腰が弱くなって外出が難しくなった男性の場合です。
銀行での手続きや公共料金の支払いなどを、信頼できる人にお願いしたいと考えています。
このような場合、財産管理委任契約によって、必要な事務を委任する方法があります。
見守り契約との大きな違いは、契約内容に応じて、本人の代わりに具体的な事務を行うことを予定している点です。
例えば、
預貯金に関する手続き
生活費や医療費の支払い
公共料金の支払い
不動産の管理
介護サービスに関する事務
などが考えられます。
ただし、契約で代理権を与えていても、金融機関などが独自の確認や手続きを求める場合があります。
そのため、契約書を作ればどのような手続きでも自由に代理できる、というわけではありません。
③ 任意後見契約とは?
任意後見契約は、将来、認知症などによって判断能力が不十分になった場合に備えるための契約です。
例えば、現在は元気な70歳の男性。
将来、認知症になって自分で財産管理や契約手続きを行うことが難しくなった場合に備えて、信頼できる人をあらかじめ決めておきたいと考えています。
このような場合に検討できるのが任意後見契約です。
任意後見契約では、本人が判断能力のあるうちに、将来の任意後見人となる人や、委任する事務の内容を決めておきます。
ただし、契約書を作成しただけで、すぐに任意後見が始まるわけではありません。
任意後見契約は、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が生じます。
また、任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって締結する必要があります。
任意後見契約は、契約しただけでは始まらない!
ここは特に重要です。
例えば、70歳のときに任意後見契約を結んだとします。
その後、80歳になっても判断能力が十分にあるのであれば、任意後見契約による代理権はまだ発生していません。
反対に、判断能力が不十分になってきた場合には、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てることになります。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が生じます。
このときから、任意後見人が契約で定められた範囲の事務を行うことになります。
つまり、
「任意後見契約を結んだ日」と「任意後見が実際に始まる日」は違うのです。
また、認知症と診断されただけで、自動的に任意後見が始まるわけでもありません。
3つの契約で「監督の仕組み」は違う?
もう一つ、大切な違いがあります。
それは、受任者の仕事を誰が確認するのか、という点です。
見守り契約の場合
見守り契約は、当事者間で定めた内容に従って、電話や訪問などを行うものです。
任意後見制度のように、家庭裁判所が監督人を選任する制度ではありません。
財産管理委任契約の場合
財産管理委任契約も、原則として当事者間の契約に基づいて行われます。
本人が受任者に報告を求めたり、通帳の入出金を確認したりすることができます。
また、契約によって報告方法や第三者による確認の仕組みを定めることも考えられます。
しかし、通常の財産管理委任契約では、任意後見制度のように家庭裁判所が任意後見監督人を選任して監督する仕組みはありません。
そのため、本人が判断能力を低下させ、財産管理の状況を確認できなくなった場合には、問題が生じる可能性があります。
任意後見契約の場合
任意後見が開始すると、家庭裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人の事務を監督します。
任意後見監督人は、任意後見人から財産管理の状況などについて報告を受け、必要に応じて確認を行います。
そして、任意後見監督人は家庭裁判所に報告します。
このように、任意後見制度には、法律に基づく監督の仕組みがあります。
ただし、その分、家庭裁判所での手続きや任意後見監督人への報酬なども考慮する必要があります。
財産管理委任契約と任意後見契約は一緒に結べる?
はい。両方の契約を結ぶ方法があります。
例えば、現在は判断能力が十分にあるものの、身体が不自由になっている方の場合です。
今の銀行手続きや生活費の支払いについては、財産管理委任契約によって委任します。
一方、将来の認知症などに備えて、任意後見契約も結んでおきます。
そして、本人の判断能力が不十分になったときには、家庭裁判所への申立てを経て任意後見制度を利用します。
このような組み合わせは、一般に**「移行型」**と呼ばれています。
ただし、財産管理委任契約から任意後見契約へ、自動的に切り替わるわけではありません。
任意後見を開始するには、家庭裁判所による任意後見監督人の選任が必要です。
また、財産管理委任契約がどの時点で終了するのかについても、あらかじめ契約内容を整理しておくことが大切です。
3つの契約を全部結ばないといけない?
必ずしも、その必要はありません。
例えば、現在は自分で何でもできていて、定期的な連絡や相談だけを希望している場合には、見守り契約を検討できます。
判断能力は十分にあるものの、身体的な事情で財産管理の一部を他人に任せたい場合には、財産管理委任契約を検討できます。
将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ支援する人を決めておきたい場合には、任意後見契約が選択肢になります。
また、複数の契約を組み合わせる方法もあります。
しかし、契約を増やせば必ず安心できるというものではありません。
契約ごとに必要な事務や費用が発生するため、本人の希望や生活状況に応じて検討することが大切です。
例えば、一人暮らしの場合はどう考える?
具体例で考えてみましょう。
75歳の女性が、一人暮らしをしています。
現在は元気で、預貯金の管理や日常生活にも問題はありません。
ただ、近くに頼れる親族がいないため、将来のことが心配になってきました。
このような場合、まず定期的に連絡を取ってもらう見守り契約を検討することが考えられます。
その後、身体が不自由になり、銀行や役所への外出が難しくなった場合には、必要な財産管理の事務を委任する方法があります。
さらに、将来の認知症などに備えて、任意後見契約をあらかじめ結んでおくことも考えられます。
ただし、どの契約が必要かは、本人の希望や家族関係、財産の状況によって異なります。
大切なのは、現在の困りごとと、将来への備えを分けて考えることです。
まとめ 3つの契約は目的が違います!
財産管理委任契約、任意後見契約、見守り契約は、いずれも将来の生活を支えるために利用される仕組みですが、それぞれ役割が異なります。
見守り契約は、定期的な連絡や訪問によって、本人の生活状況を確認するための契約です。
財産管理委任契約は、本人が判断能力を有している段階で、必要な財産管理や生活に関する事務を委任する契約です。
任意後見契約は、将来、判断能力が不十分になった場合に備え、支援する人や代理権の内容をあらかじめ決めておく契約です。
「今は元気だけれど、将来が不安」
「身体が不自由になってきたので、手続きを任せたい」
「認知症になった場合の財産管理に備えておきたい」
そんな場合には、まず自分がどのような支援を必要としているのかを整理してみましょう。
契約の名前で選ぶのではなく、現在の生活状況と将来の希望に合った仕組みを選ぶことが大切です。
