財産管理委任契約の費用と注意点|認知症になったらどうなる?
「財産管理委任契約を結ぶと、毎月お金がかかるの?」
「家族に頼む場合も報酬を支払わないといけない?」
「契約した後に認知症になったら、どうなるんだろう?」
財産管理委任契約について調べていると、契約の内容だけでなく、費用や将来のことも気になってくるのではないでしょうか。
財産管理委任契約は、本人が自分の財産管理や生活に必要な事務を、信頼できる人に任せるための契約です。
ただし、契約したらそれで一生安心、というわけではありません。
特に大切なのが、費用の取決め、財産管理の報告方法、そして本人の判断能力が低下した場合の対応です。
シリーズ最終回となる今回は、財産管理委任契約を結ぶ前に知っておきたい費用と注意点についてご紹介します。
財産管理委任契約には、いくらかかる?
まず知っておきたいのは、財産管理委任契約には、法律で一律に決められた報酬額がないということです。
費用は、誰に依頼するのか、どこまでの事務を任せるのか、どのくらいの頻度で対応してもらうのかなどによって変わります。
例えば、月に一度、公共料金や施設利用料の支払いをお願いする場合と、複数の銀行口座や賃貸不動産の管理までお願いする場合とでは、必要な仕事が異なります。
そのため、単純に「財産管理委任契約の費用はいくら」と決めることはできません。
費用を確認するときは、次の3つに分けて考えると分かりやすくなります。
① 契約を結ぶときの費用
まず、契約書を作成する際の費用です。
財産管理委任契約は、任意後見契約と異なり、公正証書で作成することが法律上必須とされているわけではありません。
しかし、財産という大切なものを他人に任せる契約ですから、内容を明確にした書面を作成しておくことが重要です。
契約書の作成を専門家に依頼する場合には、その報酬が必要になることがあります。
また、公正証書にする場合には、公証役場での手数料などが必要になります。
ただし、公正証書にすれば、すべての金融機関で自由に代理取引ができるわけではありません。
どのような書類を作成するのか、実際に必要な手続きに対応できるのかを確認しておくことが大切です。
② 毎月の財産管理にかかる報酬
契約を結んだ後、継続的に財産管理をお願いする場合には、受任者への報酬が必要になることがあります。
例えば、
預貯金の入出金を確認する
生活費や施設利用料を支払う
領収書や通帳を整理する
財産管理の状況を報告する
必要に応じて銀行や関係機関に出向く
といった仕事です。
報酬は、月額で定める場合もあれば、個別の事務ごとに定める場合もあります。
なお、民法では、受任者は特約がなければ委任事務について報酬を請求できないことが原則とされています。
そのため、親族に無報酬で依頼することも考えられます。
一方、専門家や事業者へ依頼する場合には、具体的な業務内容と報酬の取決めを確認する必要があります。
毎月の報酬にどこまでの事務が含まれるのかを、契約前に確認しておくことが大切です。
③ 交通費や書類取得費用などの実費
報酬以外にも、必要な実費が発生することがあります。
例えば、
金融機関や役所へ出向く交通費
証明書などの取得費用
郵送料
振込手数料
その他、委任事務に必要な費用
などです。
報酬に実費が含まれているのか、別途請求されるのかは、契約によって異なります。
また、遠方への出張や特別な手続きが必要になった場合に、追加費用が発生することもあります。
契約書には、こうした費用の負担についても定めておくとよいでしょう。
預金通帳やキャッシュカードを預けても大丈夫?
財産管理委任契約では、場合によっては預金通帳などの重要なものを受任者に預けることがあります。
ただし、通帳やキャッシュカードを預ければ、それだけで財産管理を任せられるというわけではありません。
金融機関には、それぞれ代理人による取引に関する取扱いがあります。
また、キャッシュカードや暗証番号の管理方法にも注意が必要です。
本人の暗証番号を受任者に教え、自由に預金を引き出してもらうような方法は、金融機関の規定や安全管理の面から慎重に考える必要があります。
財産管理を依頼する場合には、金融機関が認める代理人手続きなどを確認することが大切です。
財産管理を任せたら、報告してもらえる?
ここは非常に重要です。
例えば、母親が長男に財産管理を任せたとします。
長男が毎月、母親の口座から生活費や医療費を支払っています。
しかし、何にいくら使ったのか、母親には分からない状態だったらどうでしょうか。
たとえ親子であっても、お金の管理が不透明なままでは、後から問題が生じる可能性があります。
民法第645条では、受任者は本人から請求があれば委任事務の処理状況を報告し、委任終了後には経過や結果を報告しなければならないと定めています。
実際の契約では、本人から求められるたびに報告するだけでなく、定期的な報告方法を決めておくと安心です。
例えば、
毎月の収入と支出を記録する
領収書や振込明細を保管する
定期的に収支を報告する
通帳の残高と管理記録を照合する
重要な支出については事前に本人の確認を受ける
といった方法です。
財産管理で大切なのは、本人のお金が本人のために使われていることを確認できる仕組みです。
本人が認知症になったら、契約はどうなる?
ここが今回の最も重要なポイントです。
例えば、75歳の女性が財産管理委任契約を結び、銀行での手続きや公共料金の支払いを依頼していたとします。
契約した当時は判断能力が十分にありました。
ところが、数年後に認知症と診断され、財産管理の内容を理解することが難しくなってきました。
この場合、契約はどうなるのでしょうか。
実は、認知症と診断されたことだけを理由として、財産管理委任契約が当然に終了するわけではありません。
また、認知症という診断名だけで、すべての法律行為について判断能力がないと決まるわけでもありません。
ただし、本人の判断能力が低下すると、財産管理の状況を確認したり、受任者へ適切に指示したりすることが難しくなる場合があります。
金融機関などでの代理手続きにも支障が生じることがあります。
そのため、契約が形式上続いているとしても、それだけで安全に財産管理を続けられるとは限らないのです。
認知症になっても、そのまま任せ続けていい?
例えば、受任者が本人の預金通帳を管理している場合です。
本人の判断能力が低下し、通帳から引き出されたお金について説明を受けても、十分に理解できなくなってきました。
こうした場合には、財産管理を監督する仕組みが十分に働かなくなるおそれがあります。
通常の財産管理委任契約では、任意後見制度のように家庭裁判所が任意後見監督人を選任する仕組みはありません。
そのため、判断能力が低下した後も従来と同じ方法で財産管理を続けることには注意が必要です。
本人の判断能力が低下してきた場合には、契約をそのまま続けることだけを考えるのではなく、必要な支援の仕組みを見直すことが大切です。
任意後見契約を一緒に結んでいた場合は?
財産管理委任契約と任意後見契約を組み合わせる方法があります。
例えば、判断能力がある間は財産管理委任契約に基づいて支援を受け、将来、判断能力が不十分になった場合には任意後見制度を利用する方法です。
このような契約形態は、一般に「移行型」と呼ばれます。
ただし、財産管理委任契約から任意後見契約に自動的に切り替わるわけではありません。
本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに、任意後見契約の効力が生じます。
そのため、判断能力の低下が認められる場合には、適切な時期に任意後見監督人選任の申立てを検討する必要があります。
また、財産管理委任契約についても、任意後見が開始したときに終了するよう、あらかじめ契約で定めておくことがあります。
任意後見契約を結んでいなかった場合は?
財産管理委任契約は結んでいたものの、任意後見契約は結んでいなかった場合です。
その後、本人の判断能力が低下し、財産管理に必要な法律行為を行うことが難しくなった場合には、法定後見制度の利用を検討することがあります。
法定後見制度には、判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3つの類型があります。
家庭裁判所への申立てを行い、本人の状況に応じて必要な支援を受ける仕組みです。
ただし、どの制度を利用するかは、本人の判断能力や財産の状況、必要な支援の内容によって異なります。
財産管理委任契約があるから成年後見制度は不要、というわけではありません。
契約を途中でやめることはできる?
財産管理委任契約を結んだ後、
「自分で管理できるようになった」
「別の人にお願いしたい」
「管理の方法を変更したい」
と考えることもあるでしょう。
民法第651条では、委任は原則として各当事者がいつでも解除できると定められています。
ただし、解除する時期や契約の内容によっては、損害賠償などが問題になる場合があります。
また、契約を終了する場合には、受任者が管理していた通帳や書類などの返還、収支の報告、預り金の精算なども必要になります。
そのため、契約書には、終了するときの手続きについても定めておくことが望ましいでしょう。
契約する前に確認したい5つのこと
財産管理委任契約を検討するときには、次の点を確認しておきましょう。
① 誰に財産管理を任せるのか
親族なのか、専門家なのか、長期間にわたって適切に対応できる人なのかを確認します。
② 何を任せるのか
預貯金の管理、支払い、不動産管理など、委任する事務を具体的に決めます。
③ 費用はいくらかかるのか
契約時の費用、毎月の報酬、交通費などの実費、追加費用を確認します。
④ 財産管理の状況をどう確認するのか
収支報告の頻度や、領収書・通帳などの管理方法を決めます。
⑤ 判断能力が低下したらどうするのか
任意後見契約や法定後見制度への移行など、将来の対応を検討します。
こうした点を十分に確認せずに契約してしまうと、後から思わぬ問題が生じる可能性があります。
まとめ 財産管理委任契約は、将来の備えも大切!
財産管理委任契約は、本人に判断能力がある段階から、財産管理や生活に必要な事務を信頼できる人に任せるための契約です。
ただし、契約内容によって費用は異なり、毎月の報酬や実費が必要になる場合があります。
また、本人のお金を適切に管理するためには、収支の記録や定期的な報告などの仕組みも重要です。
さらに、本人が認知症などによって判断能力を低下させた場合には、従来の財産管理委任契約だけでは対応が難しくなることがあります。
「財産管理を誰かに任せたい」
「契約の費用がどのくらいかかるのか知りたい」
「将来、認知症になった場合が心配」
そんな場合には、現在の困りごとだけでなく、将来どのような支援が必要になるのかも含めて考えてみましょう。
大切なのは、財産を任せることだけではなく、本人の意思と財産が適切に守られる仕組みを整えておくことです。
