2026年10月29日木曜日

相続のこんなときどうする?~ケース別・相続手続きの進め方~第一弾⑩  亡くなった父が友人にお金を貸していた。返してもらえる?

 


亡くなった父が友人にお金を貸していた。返してもらえる?

「父の遺品を整理していたら、友人に200万円を貸したという借用書が見つかった」

「父が亡くなっていても、子どもが代わりに返してもらえるの?」

「相手は『もう返した』と言っているけれど、どうすればいい?」

親が亡くなった後、預貯金や不動産などの相続財産を調べていると、思いがけない財産が見つかることがあります。

その一つが、亡くなった親が誰かにお金を貸していたという場合です。

例えば、父が友人や知人に生活費や事業資金などを貸していたものの、まだ返してもらっていなかった場合です。

このようなお金は、父の銀行口座に残っているわけではありません。

しかし、貸したお金を返してもらう権利も、相続財産になる場合があります。

そのため、父が亡くなったからといって、友人がお金を返さなくてもよくなるわけではありません。

一方で、相続人が複数いる場合には、誰が返済を請求するのかという問題があります。

また、借用書が見つからなかったり、相手が貸し借りを否定したりすることもあります。

さらに、長期間返済されていなかった場合には、消滅時効の問題も生じます。

今回は、亡くなった親が友人や知人にお金を貸していた場合、相続人が返済を請求できるのか、借用書がない場合にはどうするのか、相続人が複数いる場合の取扱い、消滅時効などについて、具体的な事例をもとに説明します。


① 81歳の父が亡くなり、200万円の借用書が見つかった

例えば、次のような家庭を考えてみましょう。

  • 父:81歳。芦屋市内で一人暮らし

  • 長男:55歳。西宮市在住

  • 長女:51歳。神戸市在住

  • 母:すでに死亡

父は長年会社員として働き、退職後は年金を受け取りながら生活していました。

大きな借金はなく、自宅は賃貸住宅でした。

父が亡くなった後、長男と長女が自宅を整理していると、机の引き出しから一枚の書類が見つかりました。

そこには、次のような内容が書かれていました。

「金200万円を借り受けました。2025年12月末日までに返済します」

書類には、借主の住所と氏名が記載され、署名と押印もありました。

日付は2023年7月です。

借主は、父が長年付き合っていた友人でした。

長男が通帳を確認すると、2023年7月に父の銀行口座から、その友人の口座へ200万円が振り込まれていました。

さらに、2024年には友人から父へ10万円ずつ4回、合計40万円が振り込まれていました。

しかし、その後の返済記録は見つかりません。

長男は長女に尋ねました。

「父は友人に200万円を貸していたみたいだね。40万円は返してもらったようだけど、残り160万円はどうなったんだろう?」

長女も驚きました。

「そんな話、聞いたことがないわ。父が亡くなっていても、返してもらえるのかな?」

そこで長男は、父の友人へ連絡することにしました。

このような場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

② お金を貸していた権利も相続財産になる?

まず、父が友人にお金を貸していた場合、そのお金を返してもらう権利はどうなるのでしょうか。

お金を貸した人が借りた人に対して返済を求める権利を「貸金返還請求権」といいます。

これは、法律上の「債権」の一つです。

例えば、父が友人に200万円を貸し、友人がまだ160万円を返していなかった場合です。

父は友人に対し、原則として残り160万円の返還を求める権利を持っていることになります。

そして、民法第896条では、相続人は亡くなった方の財産に属する権利義務を原則として承継すると定めています。

そのため、貸金返還請求権も原則として相続の対象になります。

つまり、父が亡くなったからといって、友人が借りていたお金を返さなくてもよくなるわけではありません。

また、借用書に「父が亡くなったら借金はなくなる」などの特別な約束がない限り、通常は父の死亡によって貸金返還請求権が消滅することもありません。

亡くなった親が誰かにお金を貸していた場合、その返済を求める権利は、預貯金や不動産などと同じように相続財産になることがあります。

③ 借用書があれば、必ず返してもらえる?

今回の父の自宅からは、200万円の借用書が見つかりました。

しかも、通帳には200万円の振込記録も残っています。

このような場合、貸し借りを証明するための重要な資料になります。

ただし、借用書が見つかったからといって、必ずその記載金額の全額を返してもらえるとは限りません。

例えば、父が200万円を貸した後、友人がすでに一部を返済していた場合です。

借用書には200万円と記載されていても、その後40万円が返済されていれば、元本の残額は原則として160万円になります。

また、父が友人から現金で返済を受けていた場合には、通帳だけでは返済状況を確認できないことがあります。

そのため、次のような事項を確認する必要があります。

  • 借用書に記載された金額

  • お金を貸した日

  • 返済期限

  • 利息についての約束

  • これまでの返済状況

  • 返済金の受領記録

  • 残っている元本

  • 消滅時効の問題がないか

さらに、借用書が古い場合には、すでに借金が完済されている可能性もあります。

借用書は重要な証拠ですが、借用書に記載された金額がそのまま現在の貸金残高になるとは限りません。

④ 借用書が見つからない場合はどうする?

例えば、父の通帳に友人へ200万円を振り込んだ記録があるものの、借用書が見つからなかった場合です。

このような場合、借用書がないという理由だけで、貸金返還請求ができなくなるわけではありません。

金銭の貸し借りについては、必ずしも借用書を作成しなければ契約が成立しないというわけではありません。

通常の金銭消費貸借契約では、返還の約束と金銭の交付などによって契約が成立します。

ただし、借用書がない場合には、貸し借りがあったことを証明するのが難しくなることがあります。

例えば、次のような資料が手掛かりになります。

  • 銀行口座の振込記録

  • 父と友人がやり取りした手紙

  • メールやLINEの記録

  • 返済を約束したメッセージ

  • 友人からの返済記録

  • 父が残していたメモ

  • 友人が借入れを認めた書類

  • 貸し借りの事情を知る人の説明

例えば、友人から父へ毎月2万円ずつ振り込まれていた記録があれば、継続的に返済していたことを示す事情になる場合があります。

また、LINEなどに「借りたお金は来月から返します」というやり取りが残っていれば、貸し借りの存在を確認する資料になることがあります。

ただし、これらの資料があれば必ず貸金返還請求が認められるというわけではありません。

資料の内容やほかの事情と合わせて判断する必要があります。

借用書がない場合でも、銀行の振込記録やメッセージなどから、貸し借りを確認できることがあります。

⑤ 銀行の振込記録だけで、お金を貸したことを証明できる?

ここは特に注意したいところです。

例えば、父が友人へ200万円を振り込んでいた場合です。

長男は「200万円を振り込んでいるのだから、貸したお金に違いない」と考えました。

しかし、銀行の振込記録だけで、そのお金が必ず貸付金だったと判断できるわけではありません。

なぜなら、お金を振り込む理由は一つではないからです。

例えば、次のような可能性があります。

  • お金を貸した

  • お金を贈与した

  • 商品などの購入代金を支払った

  • 立て替えてもらった費用を精算した

  • 以前に借りたお金を返済した

そのため、振込記録があるだけでは、返還の約束があったことまで当然に証明できるわけではありません。

貸金返還請求では、原則として、お金を返すという合意があったことなどが重要になります。

例えば、友人が「200万円はお祝いとしてもらったお金だ」と主張した場合です。

このような場合には、父と友人との間で、贈与ではなく貸付けを行う約束があったことを確認する必要があります。

振込記録はお金の移動を示す資料ですが、それだけで貸金契約の成立が証明されるとは限りません。

⑥ 相続人が二人いる場合、誰が返済を請求できる?

今回の相続人は、長男と長女の二人です。

父の貸金残高は160万円とします。

この場合、長男と長女のどちらが友人へ返済を請求できるのでしょうか。

一般的な貸金返還請求権のように、金銭で分割することができる債権は「可分債権」と呼ばれます。

可分債権については、原則として、相続開始と同時に法定相続分に応じて分割され、それぞれの相続人へ承継されます。

例えば、長男と長女が相続人で、それぞれの法定相続分が2分の1の場合です。

父が持っていた160万円の貸金返還請求権は、原則として次のようになります。

  • 長男:80万円の貸金返還請求権

  • 長女:80万円の貸金返還請求権

つまり、長男と長女は、それぞれの法定相続分に応じて、友人へ返済を求める権利を取得することになります。

ここで注意したいのは、預貯金との違いです。

最高裁判所は、2016年12月19日の大法廷決定などにおいて、共同相続された普通預金などの預貯金債権については、原則として遺産分割の対象になると判断しています。

一方、通常の貸金返還請求権については、預貯金債権と同じ取扱いになるわけではありません。

貸金返還請求権は、原則として法定相続分に応じて各相続人へ分割承継される点が重要です。

⑦ 長男が160万円全額を請求することはできる?

長男は、父の友人と面識がありました。

一方、長女は友人と会ったことがありません。

そのため、長男は次のように考えました。

「自分が窓口になって、160万円をまとめて返してもらおう」

このような方法は可能なのでしょうか。

長男自身が相続によって取得した貸金返還請求権は、原則として80万円です。

そのため、長男が自分の権利だけを根拠として、当然に160万円全額を請求できるわけではありません。

ただし、長女から適切な委任を受けて、長男が返済金をまとめて受け取る方法は考えられます。

例えば、長女が長男に対して、自分の80万円分についても返済金の受領を委任する場合です。

この場合には、友人に対して、長男が長女の分も受け取る権限を持っていることを明らかにする必要があります。

また、相続人間の合意によって貸金債権を長男に集約する方法も考えられます。

ただし、その場合には、長女の権利を長男へ移すための法律関係や、債務者である友人に対する対抗要件などに注意が必要です。

相続人の一人が全額を受け取る場合には、ほかの相続人の権利をどのような根拠で取り扱うのか、明確にしておくことが大切です。

⑧ 遺産分割協議で、貸金債権を長男が取得することにできる?

例えば、長男と長女が話し合い、父の貸金返還請求権160万円を長男が取得することにした場合です。

一般的な可分債権は、原則として法定相続分に応じて当然に分割承継されます。

しかし、相続人全員が合意することで、貸金債権を一人の相続人に取得させることも考えられます。

例えば、次のような内容です。

「被相続人が友人Aに対して有する貸金返還請求権については、長男が取得する」

ただし、このような合意をすれば、それだけですべての問題が解決するわけではありません。

長男が法定相続分を超えて貸金債権を取得する場合には、その取得を債務者である友人に対して主張するための手続きが問題になります。

例えば、債権譲渡に準じた通知や承諾などの対抗要件を確認する必要があります。

また、遺産分割による債権の承継については、民法第899条の2の規定も関係します。

そのため、貸金債権を一人にまとめて取得させる場合には、相続人間の合意だけでなく、借主に対してその権利の取得をどのように示すかも整理する必要があります。

貸金債権を一人の相続人が取得する場合には、相続人間の合意と、借主に対する対抗要件を分けて考えることが重要です。

⑨ 借主に連絡するときは、何を伝えればよい?

今回の長男は、父の友人へ連絡しようと考えています。

しかし、父が亡くなったことを友人が知らない可能性もあります。

そのため、最初から強い口調で返済を求めるのではなく、まず貸金の内容を確認することが考えられます。

例えば、次のような事項を伝えます。

  • 父が亡くなったこと

  • 自分が父の相続人であること

  • 父の遺品から借用書が見つかったこと

  • 借用書には200万円の貸付けが記載されていること

  • 通帳には40万円の返済記録があること

  • 現在の返済状況を確認したいこと

例えば、友人から次のような返事があるかもしれません。

「確かに200万円を借りました。40万円は銀行振込で返しましたが、残りはまだ返していません」

このような場合には、貸金の存在や残額について、双方の認識が一致することになります。

一方、友人が次のように答える場合もあります。

「残りのお金は、亡くなる前に現金で返しました」

この場合には、返済の有無について確認する必要があります。

最初の連絡では、相続人であることを伝えたうえで、貸し借りの内容と返済状況を確認することが重要です。

⑩ 相手が「もう返した」と言っている場合は?

今回の友人が、残り160万円について次のように説明した場合です。

「去年、現金で全部返しました」

しかし、長男が調べても、返済されたことを示す記録は見つかりません。

このような場合には、返済の事実について確認する必要があります。

例えば、次のような事項です。

  • いつ返済したのか

  • どこで返済したのか

  • 誰に返済したのか

  • いくら返済したのか

  • 領収書はあるのか

  • 現金を引き出した記録があるのか

  • 返済に立ち会った人がいるのか

一般に、貸金の返済を受けたかどうかが争いになった場合には、貸し借りの成立と返済の事実について、それぞれの当事者が証拠を示す必要があります。

例えば、友人が160万円を全額返済したと主張している場合には、その返済を裏付ける資料の有無が重要になります。

ただし、領収書がないという理由だけで、返済していないと断定できるわけでもありません。

父が現金を受け取ったものの、領収書を交付していなかった可能性もあります。

また、現金による返済について、父が家族に伝えていなかったことも考えられます。

そのため、相手が返済済みと主張する場合には、双方の資料を確認しながら慎重に判断する必要があります。

⑪ 借主が「贈与してもらった」と主張した場合は?

例えば、友人が次のように説明した場合です。

「確かに200万円を受け取りましたが、借りたのではありません。お父さんからもらったお金です」

このような場合には、貸付けだったのか、贈与だったのかが問題になります。

貸付けであれば、原則として返済義務があります。

一方、贈与として受け取ったお金であれば、通常は返済義務がありません。

そのため、父と友人との間で、どのような約束があったのかを確認する必要があります。

例えば、父が友人から署名入りの借用書を受け取っていた場合です。

このような書類は、貸し借りがあったことを示す重要な資料になります。

一方、借用書がなく、振込記録だけが残っている場合には、貸付けと贈与の区別が難しくなることがあります。

また、父が友人へ何度も生活費を援助していた場合などには、個々の金銭の移動について確認が必要になることがあります。

貸したお金か、贈与したお金かによって、相続人が返済を請求できるかどうかが大きく変わります。

⑫ 返済期限が書かれていない場合は?

例えば、父の友人が200万円を借りたことは認めているものの、借用書には返済期限が書かれていなかった場合です。

このような場合、返済期限が決まっていないからといって、借主が一生返済しなくてもよいわけではありません。

民法第591条では、当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができると定めています。

例えば、父が友人に200万円を貸し、「余裕ができたら返してくれればいい」と話していた場合です。

このような場合には、当事者がどのような返済条件を約束していたのかを確認する必要があります。

返済期限が明確でない場合でも、相続人が貸主の地位を承継し、必要な催告を行うことが考えられます。

ただし、返済期限の定めがない契約では、消滅時効の起算点についても注意が必要です。

「まだ請求していないから時効は進まない」と単純に考えることはできません。

返済期限が書かれていない場合には、契約内容を確認したうえで、返済の催告や消滅時効について検討する必要があります。

⑬ 貸したお金には、利息も請求できる?

今回の借用書には、200万円を貸したことと、返済期限が記載されていました。

しかし、利息については何も書かれていません。

この場合、長男と長女は友人へ利息を請求できるのでしょうか。

民法第589条では、貸主は特約がなければ、借主に対して利息を請求することができないと定めています。

そのため、一般的な個人間の貸し借りでは、利息についての約束がなければ、当然に貸付利息を請求できるわけではありません。

例えば、父が友人へ無利息で200万円を貸していた場合です。

この場合、原則として、貸付期間中の利息を請求することはできません。

一方で、返済期限を過ぎても借主が返済しなかった場合には、遅延損害金が問題になることがあります。

遅延損害金は、約束した返済時期に返済しなかったことによって発生する損害賠償です。

そのため、貸付利息とは異なります。

ただし、遅延損害金がいつから発生するのか、どの利率が適用されるのかについては、契約内容や適用される法律によって異なります。

利息の約束がない場合でも、返済期限を過ぎたときには遅延損害金が問題になることがあります。

⑭ 何年も返済されていなかった場合、時効になる?

例えば、父が友人にお金を貸したのは15年前だった場合です。

その後、長い間返済されておらず、父も請求していませんでした。

このような場合には、消滅時効が問題になります。

消滅時効とは、一定の期間、権利が行使されない場合に、法律上の要件に従って権利が消滅する制度です。

現在の民法第166条では、債権について、原則として次の期間が定められています。

  • 債権者が権利を行使できることを知った時から5年間

  • 権利を行使することができる時から10年間

いずれか早い方の期間が経過すると、消滅時効が完成することになります。

ただし、実際の時効期間は、いつ契約が成立したのか、いつ返済期限が到来したのかなどによって異なります。

特に、2020年4月1日より前に成立した契約については、改正前の民法の規定が適用される場合があります。

また、借主が途中で一部返済をした場合や、債務の存在を認めた場合などには、時効の更新が問題になることがあります。

さらに、時効期間が経過している場合でも、当然に債務が消滅するわけではありません。

消滅時効による利益を受けるためには、原則として時効を援用する必要があります。

古い貸金債権については、貸した日だけでなく、返済期限、途中の返済、債務の承認などを確認する必要があります。

⑮ 借主がお金を返してくれない場合は?

今回の友人が、貸し借り自体は認めているものの、残り160万円を返してくれない場合を考えてみましょう。

例えば、次のように説明した場合です。

「借りたお金が残っているのは分かっています。でも、今は生活が苦しくて返せません」

このような場合には、まず現在の返済能力や、今後の返済見込みなどを確認することが考えられます。

ただし、相手が返済できないという事情だけで、貸金返還請求権が当然に消滅するわけではありません。

また、相続人が一方的に返済条件を変更できるわけでもありません。

例えば、友人が毎月2万円ずつであれば返済できると説明している場合です。

相続人がその内容を受け入れるのであれば、返済条件を書面で確認することが考えられます。

一方、借主が貸し借りそのものを否定している場合や、返済金額について争いがある場合には、問題が複雑になります。

このような場合には、必要に応じて法的手続きについて検討することになります。

例えば、裁判所への支払督促の申立てや、貸金返還請求訴訟などが考えられます。

ただし、どの手続きを選ぶべきかは、請求額や証拠の状況、借主の主張などによって異なります。

また、請求できる権利があっても、借主に財産がなければ、実際に回収することは難しくなる場合があります。

返済を請求できることと、実際にお金を回収できることは別の問題です。

⑯ 貸金債権も相続税の対象になる?

亡くなった父が友人へお金を貸していた場合、その貸金返還請求権も財産的価値を持つ権利です。

そのため、相続税の計算でも、原則として相続財産として評価する必要があります。

例えば、父が友人へ200万円を貸しており、死亡時点で160万円が残っていた場合です。

この160万円の貸金債権について、相続税の評価が問題になります。

国税庁の財産評価基本通達第204項では、貸付金債権等について、原則として返済されるべき元本の価額と、課税時期における既経過利息の価額を合計して評価するとしています。

ただし、借主が破産している場合など、債権の回収が不可能または著しく困難であると見込まれる場合には、別の取扱いが問題になることがあります。

例えば、友人がすでに破産手続を行っており、貸金を回収できる見込みがない場合です。

このような場合には、相続税の評価において、貸金債権の全部または一部をどのように評価するか検討する必要があります。

一方、友人が経済的に苦しいと話しているというだけで、当然に貸金債権の評価額をゼロにできるわけではありません。

また、貸金債権の評価が問題になることと、実際に相続税の申告が必要になることも別です。

相続税の申告が必要かどうかは、貸金債権以外の財産も含めて判断することになります。

貸していたお金が回収できていなくても、相続税の計算では財産として評価する必要がある場合があります。

⑰ 遺産整理受任者や遺言執行者が回収する場合は?

例えば、相続人が遠方に住んでおり、父が友人に貸していたお金の回収について、専門家へ遺産承継業務を依頼した場合です。

また、父が遺言書を残し、遺言執行者が指定されている場合もあります。

このような場合には、貸金債権の存在や、回収に関する権限を確認する必要があります。

例えば、遺産整理受任者が相続人から委任を受ける場合です。

まず、相続人が誰なのか、貸金債権が誰に帰属しているのかを確認します。

そのうえで、委任契約の内容や権限の範囲を踏まえて、貸金債権に関する資料の整理や、回収金の管理などを行うことが考えられます。

また、遺言執行者がいる場合には、遺言内容に基づき、遺言執行者がどのような権限を持っているのかを確認する必要があります。

ただし、遺言執行者であるという理由だけで、すべての貸金債権を自由に回収・処分できるわけではありません。

例えば、特定の相続人へ貸金債権を相続させる遺言がある場合には、その権利の帰属や対抗要件についての検討が必要になることがあります。

さらに、借主が返済を拒否したり、貸し借りの存在を争ったりしている場合には、紛争性のある法律事件として、専門家が取り扱える業務範囲にも注意が必要です。

遺産承継業務や遺言執行の中で貸金債権を扱う場合には、債権の帰属、委任された権限、紛争の有無を確認することが重要です。

⑱ 今回のケースでは、どのように進めればよい?

最後に、最初の事例を整理してみましょう。

81歳の父が亡くなり、遺品整理の際に200万円の借用書が見つかりました。

借主は父の友人です。

借用書には、2025年12月末日までに返済するという記載がありました。

父の通帳を確認すると、200万円の振込記録と、合計40万円の返済記録が残っていました。

そのため、残額は160万円と考えられます。

相続人は長男と長女の二人です。

このような場合には、次のような順番で進めることが考えられます。

1.借用書を確認する

まず、貸した金額、借主、返済期限、利息の約束などを確認します。

借用書の原本は大切に保管します。

2.父の通帳や取引履歴を確認する

200万円が実際に振り込まれていることを確認します。

また、友人からの返済記録がどの程度あるかを調べます。

3.現在の貸金残高を整理する

借用書に記載された200万円から、確認できた返済額40万円を差し引きます。

ただし、現金で返済を受けていた可能性もあるため、友人への確認が必要です。

4.相続人の範囲を確認する

今回の相続人は長男と長女の二人です。

一般的な貸金返還請求権は、原則として法定相続分に応じて分割承継されます。

そのため、長男と長女はそれぞれ80万円の債権を取得することになります。

5.誰が返済を請求するか整理する

長男と長女がそれぞれ請求する方法のほか、長男を窓口として返済を受ける方法などを検討します。

その場合には、委任の内容や必要な対抗要件について確認します。

6.友人へ貸金の内容を確認する

父が亡くなったことを伝え、借用書の内容と現在の返済状況について確認します。

友人が返済済みと説明する場合には、その根拠となる資料を確認します。

7.消滅時効について確認する

返済期限や途中の返済状況などを確認し、消滅時効の問題がないかを検討します。

8.返済方法を決める

友人が返済に応じる場合には、誰の口座へ、どのように返済するのかを整理します。

返済金を一人の相続人が受け取る場合には、その権限について明確にしておきます。

9.返済金を適切に管理する

回収したお金については、相続人間の権利関係に従って管理・精算します。

必要に応じて、受領記録などを残しておきます。

10.争いがある場合には、法的対応を検討する

友人が貸し借りを否定したり、返済を拒否したりする場合には、証拠の状況を確認し、必要に応じて法律専門家へ相談します。

今回のケースでは、父が200万円を貸したことを示す借用書があり、銀行口座にも振込記録が残っています。

そのため、貸し借りの存在を確認するうえで重要な資料がそろっています。

ただし、160万円の残額については、友人が現金で返済していた可能性もあります。

また、相続人が二人いるため、誰が返済を受け取るのかを明確にしておく必要があります。

まずは借用書と通帳を確認し、相続人間で方針を整理したうえで、友人へ返済状況を確認することが大切です。


まとめ

亡くなった親が友人や知人へお金を貸していた場合、その貸金返還請求権は原則として相続財産になります。

親が亡くなったという理由だけで、借主が返済しなくてもよくなるわけではありません。

今回のポイントを整理すると、

  • 貸金返還請求権も原則として相続財産になる

  • 親が亡くなっても、貸金返還請求権が当然に消滅するわけではない

  • 借用書があれば、貸し借りを確認する重要な資料になる

  • 借用書に記載された金額が、現在の貸金残高とは限らない

  • 借用書がなくても、振込記録やメッセージなどから貸し借りを確認できる場合がある

  • 銀行の振込記録だけでは、貸付けだったことを必ずしも証明できない

  • 一般的な貸金返還請求権は、原則として法定相続分に応じて分割承継される

  • 貸金返還請求権と預貯金債権では、相続における取扱いが異なる

  • 相続人の一人が全額を受け取る場合には、適切な権限が必要になる

  • 貸金債権を一人の相続人へ集約する場合には、対抗要件に注意する

  • 借主へ連絡する際には、まず貸金の内容と返済状況を確認する

  • 借主が返済済みと主張する場合には、返済を裏付ける資料を確認する

  • 借主が贈与だったと主張する場合には、返還の約束があったかどうかが問題になる

  • 返済期限の定めがない場合には、民法第591条に基づく催告が問題になる

  • 利息の約束がない場合には、原則として貸付利息を請求できない

  • 返済期限を過ぎた場合には、遅延損害金が問題になることがある

  • 長期間返済されていない場合には、消滅時効に注意する

  • 貸金債権も、原則として相続税の評価対象になる

  • 貸金を返してもらう権利があっても、実際に回収できるとは限らない

  • 遺産整理受任者や遺言執行者が関与する場合には、権限や紛争の有無を確認する

ということになります。

親が亡くなった後、思いがけず借用書が見つかると、家族は戸惑うかもしれません。

特に、親が誰かにお金を貸していたことを家族が知らなかった場合には、借主へどのように連絡すればよいのか迷うことがあります。

しかし、お金を貸していた権利も財産の一つです。

そのため、親が亡くなった後も、相続人が返済を求めることができる場合があります。

ただし、借用書があるからといって、必ず記載金額の全額を回収できるわけではありません。

すでに一部が返済されている可能性もありますし、貸付けではなく贈与だったと主張される場合もあります。

また、相続人が複数いる場合には、誰がどの範囲で返済を請求できるのかについても確認する必要があります。

そのため、最初から返済を強く求めるのではなく、まず貸し借りの内容や返済状況を整理することが重要です。

亡くなった親がお金を貸していたことが分かった場合には、借用書や通帳などの資料を確認し、相続人が取得した権利を整理したうえで、借主へ適切に返済を求めていくことが大切です。


参考資料

民法|e-Gov法令検索

法テラス|債務・貸付に関する法律相談

国税庁|財産評価基本通達・第8章 その他の財産

国税庁|相続預金に対する滞納処分上の諸問題

法務省|債権譲渡登記制度とは?

裁判所|支払督促

裁判所|民事訴訟