亡くなった親の年金が振り込まれた。返さないといけない?
「父が亡くなったあと、年金が口座に振り込まれていた」
「もう亡くなっているのに、もらってよかったの?」
「返さないといけない年金と、受け取れる年金の違いがよく分からない」
親が亡くなったあと、預貯金の相続手続きや葬儀後の片付けをしていると、亡くなった親の口座に年金が振り込まれていることがあります。
家族としては、「亡くなったあとに振り込まれたのだから、全部返さないといけないのではないか」と不安になるかもしれません。
一方で、「亡くなる直前まで生活していたのだから、ある程度は受け取れるのではないか」と思う方もいるでしょう。
実際には、年金には、返す必要があるものと、遺族が請求して受け取れるものがあります。
また、年金は毎月その月分が支払われるのではなく、後からまとめて支払われる仕組みです。
そのため、亡くなったあとに振り込みがあっても、直ちに「もらい過ぎ」とは限りません。
今回は、亡くなった親の年金が口座に振り込まれた場合に、どこまで受け取れるのか、どこから返還が必要になるのか、未支給年金の手続き、死亡届、遺族年金との関係などを、具体的な事例をもとに説明します。
① 79歳の父が亡くなったあと、口座に年金が振り込まれた
例えば、次のような家庭を考えてみましょう。
父:79歳。芦屋市内で一人暮らし
長男:55歳。西宮市在住
長女:52歳。神戸市在住
母:すでに死亡
父は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取りながら暮らしていました。
年金は、父名義の銀行口座に振り込まれていました。
父は9月20日に亡くなりました。
葬儀や役所の手続きが一段落したあと、長男が父の通帳を確認すると、10月15日に年金が振り込まれていました。
長男は驚きました。
「父はもう亡くなっているのに、どうして年金が入っているんだろう」
長女も不安になりました。
「このお金を使ってしまうと、あとで返せと言われるのかな?」
さらに、年金事務所からは、死亡に関する手続きの案内も届いています。
長男と長女は、何を返して、何を受け取れるのかが分からず困ってしまいました。
このような場合、まず年金の支払の仕組みを知っておくことが大切です。
② 年金は、亡くなった月まで受け取れる?
まず基本から確認しましょう。
公的年金は、年金を受ける権利がある限り支給されます。
親が亡くなった場合、その方の老齢年金などは、原則として亡くなった月分まで支給されます。
例えば、父が9月20日に亡くなった場合です。
このとき、9月分の年金までは支給の対象になります。
一方で、10月分以後の年金は、父自身が受け取ることはできません。
ここで注意したいのは、「亡くなったあとに振り込まれた」ことと、「亡くなったあとの月の年金」かどうかは別だという点です。
年金は後払いなので、死亡後に口座へ入金されたとしても、その中身が死亡月までの年金であれば、本来受け取るべき年金ということになります。
したがって、亡くなったあとに入金された年金のすべてが直ちに返還の対象になるわけではありません。
③ 年金は、いつ支払われる?
年金が分かりにくいのは、支払のタイミングに特徴があるからです。
公的年金は、原則として偶数月の15日に支払われます。
そして、そのときに支払われるのは、原則として前月までの2か月分です。
例えば、10月15日に振り込まれる年金は、通常、8月分と9月分です。
そのため、9月20日に亡くなった父の口座に10月15日に年金が振り込まれていたとしても、それは8月分と9月分の年金である可能性があります。
この場合、9月分までは支給対象なので、内容をきちんと確認する必要があります。
反対に、12月15日に10月分と11月分の年金が振り込まれていた場合には、9月に亡くなっている父については、本来受け取ることができない年金が含まれている可能性があります。
振り込まれた日だけで判断せず、その年金が「何月分」なのかを確認することが大切です。
④ 亡くなったあとに振り込まれた年金は、全部返すの?
今回の長男は、「死亡後に振り込まれた年金だから、全部返すものだ」と思っていました。
しかし、そうとは限りません。
例えば、父が9月20日に亡くなり、10月15日に8月分と9月分の年金が振り込まれた場合です。
この場合、8月分と9月分は、父が受け取る権利のあった年金です。
ただし、父はすでに亡くなっているため、そのまま父本人が受け取ることはできません。
そこで、一定の遺族が未支給年金として請求することになります。
一方で、父が亡くなったあとに、10月分以後の年金まで振り込まれてしまった場合には、その部分は本来支給されない年金であり、後日返還が必要になることがあります。
つまり、
亡くなった月分までの年金 → 未支給年金として請求できる可能性がある
亡くなった翌月分以後の年金 → 原則として返還が必要
という整理になります。
ここを混同しないことが大切です。
⑤ 未支給年金とは、どういうもの?
未支給年金とは、年金を受けていた方が亡くなったときに、まだ受け取っていなかった年金のことです。
日本年金機構では、例えば次のようなものを未支給年金として説明しています。
まだ振り込まれていない年金
亡くなった日より後に振り込まれた年金のうち、亡くなった月分までの年金
つまり、父が亡くなった時点で受け取る権利があった年金について、一定の遺族が請求して受け取る仕組みです。
今回の父の例でいえば、10月15日に振り込まれた8月分と9月分の年金がこれに当たる可能性があります。
ただし、これは「父の口座に入ったからそのまま相続財産になる」と単純に考えればよいわけではありません。
年金には、未支給年金としての手続きが用意されており、所定の請求が必要です。
⑥ 未支給年金を受け取れるのは誰?
未支給年金は、誰でも請求できるわけではありません。
日本年金機構では、亡くなった方と生計を同じくしていた遺族が請求できると案内しています。
請求できる順位は、原則として次の順です。
配偶者
子
父母
孫
祖父母
兄弟姉妹
そのほか3親等内の親族
例えば、父が一人暮らしで、長男と長女は別居していた場合です。
このとき、ただ子であるというだけで当然に未支給年金を受け取れるとは限りません。
「生計を同じくしていた」といえるかどうかが問題になります。
一方で、配偶者が同居していた場合には、その配偶者が優先します。
また、同順位者が複数いる場合には、そのうち1人が代表して請求することになります。
単に法定相続人であることと、未支給年金を請求できることは、必ずしも同じではありません。
⑦ 別居していた子どもでも請求できる?
ここは実務でも迷いやすいところです。
例えば、長男は西宮市、長女は神戸市に住んでおり、父とは別居していました。
父は芦屋市で一人暮らしです。
このような場合、長男や長女が未支給年金を請求できるかどうかは、「生計を同じくしていた」といえるかどうかが問題になります。
同居していれば分かりやすいのですが、別居していても、生活費の仕送りや日常的な扶養の状況などによっては、生計同一と判断される場合があります。
逆に、親子であっても、長年ほとんど行き来がなく、経済的な支えもなかったような場合には、生計同一といえないこともあります。
この点は、単に戸籍上の親子関係があるだけで決まるわけではありません。
実際の生活状況をもとに判断されるため、必要に応じて住民票や生計同一に関する書類などを確認することになります。
⑧ 未支給年金の手続きには、何が必要?
未支給年金を受け取るには、手続きが必要です。
日本年金機構では、「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」を提出する方法を案内しています。
一般に、必要になるのは次のようなものです。
所定の請求書
亡くなった方の年金証書
請求する方の本人確認関係書類
亡くなった方との続柄が分かる書類
生計同一が分かる書類
受取口座の分かるもの
ただし、必要書類は状況によって異なります。
また、障害基礎年金や遺族基礎年金だけを受けていた方については、市区町村の窓口での手続きが必要になる場合もあります。
そのため、最初に年金事務所や日本年金機構の案内を確認することが大切です。
⑨ 死亡届は必ず出さないといけない?
年金を受けている方が亡くなった場合には、年金に関する死亡の手続きが問題になります。
日本年金機構では、未支給年金を受け取れる遺族がいる場合には、先ほどの「死亡届兼未支給年金請求書」を提出する方法を案内しています。
一方で、未支給年金を受け取れる遺族がいない場合や、未払いの年金が発生しない場合には、「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出します。
ただし、日本年金機構にマイナンバーが収録されている方については、原則として死亡届を省略できる場合があります。
もっとも、死亡届が省略できる場合でも、未支給年金の請求まで自動的に済むわけではありません。
そのため、「マイナンバーがあるから何もしなくてよい」と考えないよう注意が必要です。
⑩ 届出が遅れると、どうなる?
年金の死亡手続きが遅れると、亡くなった方の口座に、その後も年金が振り込まれてしまうことがあります。
例えば、父が9月に亡くなったのに、手続きが遅れて12月にも年金が振り込まれてしまった場合です。
12月に振り込まれる10月分・11月分の年金は、父が受け取ることのできない年金なので、後日返還を求められることがあります。
日本年金機構も、届出が遅れ、亡くなった日の翌日以後に年金を受け取ったときは、その分を後日返すことになると案内しています。
つまり、手続きを後回しにしていると、
本来受け取れる未支給年金の手続きが遅れる
返さなければならない年金が増える
という二重の問題が起きる可能性があります。
⑪ すでに振り込まれた年金を使ってしまったら?
例えば、父の葬儀費用や当面の生活費のために、長男が父の口座に振り込まれていた年金を引き出して使ってしまった場合です。
この場合でも、亡くなった翌月分以後の年金が含まれていれば、その部分について返還が求められる可能性があります。
「すでに使ってしまったから返さなくてよい」ということにはなりません。
また、年金が振り込まれた口座は、その後、金融機関側で相続の開始を把握すると凍結されることがあります。
その前に引き出したからといって、法律関係が変わるわけではありません。
そのため、振り込まれたからといって、内容を確認せずに使ってしまうのは避けた方が安全です。
まずは、その入金が何月分なのか、未支給年金として請求できるものなのか、返還が必要なものなのかを確認しましょう。
⑫ 年金が入る口座は、相続手続きでどうなる?
父名義の口座に年金が振り込まれていた場合、その口座自体は銀行預金ですから、相続手続きの対象になります。
ただし、その口座に入ったお金の中には、
もともとの預金
未支給年金に関係するお金
返還すべき過払い年金
などが混ざっていることがあります。
このため、単に「通帳残高がいくらあるから全部遺産分割の対象だ」と考えると、あとで混乱することがあります。
例えば、父の死亡後に振り込まれた年金のうち、未支給年金に当たる部分は、一定の遺族が請求することになります。
一方で、亡くなった翌月分以後の年金は返還の問題になります。
そのため、金融機関の相続手続きと、年金の手続きは分けて考えることが大切です。
⑬ 遺族年金とは何が違う?
亡くなった方の年金の話になると、未支給年金と遺族年金が混同されやすいです。
しかし、これは別のものです。
未支給年金は、亡くなった方が生前に受け取るはずだった年金のうち、まだ受け取っていなかった分です。
これに対して遺族年金は、一定の遺族が、亡くなった方の死亡によって新たに受けることができる年金です。
例えば、父が厚生年金の被保険者または受給者で、一定の要件を満たす配偶者や子がいる場合には、遺族厚生年金が問題になることがあります。
また、子のある配偶者などには、遺族基礎年金が関係することもあります。
今回の長男と長女のように、すでに独立した成人の子だけが相続人である場合には、遺族年金の対象にならないことも多いですが、家族構成によっては別途確認が必要です。
未支給年金の請求をしたからといって、遺族年金の手続きまで終わるわけではありません。
⑭ 相続放棄を考えている場合はどうする?
例えば、父に借金があり、長男と長女が相続放棄を検討している場合です。
このとき、父の口座に年金が振り込まれていたからといって、安易に引き出したり使ったりするのは慎重に考える必要があります。
相続放棄を検討している段階では、亡くなった方の財産を勝手に処分したとみられないよう注意が必要になることがあるからです。
一方で、未支給年金については、相続財産そのものとは少し性質が異なるため、一般の預金と同じ感覚で扱うべきではありません。
もっとも、具体的な場面では、相続放棄との関係で慎重な判断が必要です。
特に、
亡くなった方の口座からお金を引き出す
過払い年金を生活費に使う
年金の返還や請求をどう整理するか
といった点は、状況によって対応が変わることがあります。
そのため、相続放棄を視野に入れている場合には、年金の入金があっても、すぐに動かず内容を確認しながら対応することが大切です。
⑮ 親が施設に入っていた場合でも同じ?
年金の手続きでは、「生計を同じくしていたか」が問題になるため、亡くなった方が施設に入っていた場合に迷うことがあります。
例えば、父が亡くなる前の1年間、介護施設に入所しており、長男が費用の一部を負担していた場合です。
このようなケースでは、単に同居していなかったから請求できないと即断するのではなく、実際の生活関係を確認する必要があります。
入所中であっても、家計や扶養の実態によっては、生計同一と考えられる場合があります。
逆に、長年別居し、経済的なつながりもほとんどなかった場合には、生計同一が認められにくいこともあります。
施設入所や入院がある場合には、一般の同居・別居の事例よりも少し丁寧な確認が必要です。
⑯ 年金を受け取れる家族がいないときは?
亡くなった方と生計を同じくしていた遺族がいない場合には、未支給年金を受け取れないことがあります。
例えば、父は一人暮らしで、子どもたちとは長く別居しており、生活上の扶養関係もなかったという場合です。
このようなケースでは、未支給年金の請求ができる人がいないことも考えられます。
その場合には、未支給年金として受け取る手続きではなく、死亡の届出を行うことになります。
また、死亡後に振り込まれた年金に過払いがあれば、その返還の問題が別途生じます。
「相続人がいること」と「未支給年金を受け取れること」は、いつも一致するわけではない点に注意が必要です。
⑰ 今回のケースでは、どのように進めればよい?
最初の事例に戻ってみましょう。
79歳の父が9月20日に亡くなり、10月15日に父の口座へ年金が振り込まれていました。
相続人は長男と長女の二人です。
このような場合には、次のような順番で進めることが考えられます。
1.振り込まれた年金が何月分か確認する
まず、10月15日の入金が、通常どおり8月分と9月分なのかを確認します。
2.父の死亡日を前提に、どこまで支給対象か整理する
9月20日に亡くなっているので、原則として9月分までは対象になります。
3.死亡に関する年金手続きが必要か確認する
マイナンバーの収録状況や、未支給年金を請求するかどうかによって必要な手続きが変わります。
4.未支給年金を請求できる人を確認する
長男・長女が別居している場合には、生計同一といえるかどうかも確認します。
5.必要書類を準備して、年金事務所などへ相談する
年金証書、続柄の分かる書類、生計同一の関係書類、本人確認書類などを確認します。
6.12月以後の入金がないか注意する
もし12月15日に10月分・11月分の年金まで振り込まれた場合には、返還の問題が生じます。
7.父の口座のお金をすぐに使わない
内容が整理できるまでは、年金の入金を一般の預金と同じように使わない方が安全です。
このように、亡くなったあとに年金が振り込まれていても、直ちに「全部返還」でもなければ、「全部自由に使ってよい」でもありません。
何月分の年金なのか、誰が請求できるのか、返還が必要なものはないかを分けて考えることが大切です。
まとめ
親が亡くなったあと、その口座に年金が振り込まれていると、家族は戸惑いやすいものです。
しかし、年金の支払の仕組みを知れば、整理しやすくなります。
今回のポイントを整理すると、
年金は原則として亡くなった月分まで支給される
年金は原則として偶数月の15日に、前2か月分が後払いされる
死亡後に振り込まれたからといって、すべてが返還対象になるわけではない
亡くなった月分までの年金は、未支給年金として請求できる場合がある
亡くなった翌月分以後の年金は、原則として返還の問題が生じる
未支給年金を受け取れるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた遺族である
法定相続人であることと、未支給年金を請求できることは同じではない
同順位者が複数いる場合には、そのうち1人が代表して請求する
手続きには死亡届兼請求書、年金証書、続柄や生計同一が分かる書類などが必要になる
マイナンバーが収録されている場合には、死亡届を省略できることがある
ただし、未支給年金の請求まで自動で済むわけではない
届出が遅れると、返還すべき年金が増えることがある
振り込まれた年金を内容確認前に使うのは避けた方が安全である
未支給年金と遺族年金は別の制度である
相続放棄を考えている場合には、口座からの引出しや使い方に注意が必要である
施設入所中でも、生計同一が認められる場合がある
受け取れる遺族がいない場合には、未支給年金を受け取れないことがある
ということになります。
親の死亡後に年金が振り込まれていると、家族としては「返すべきか、受け取れるのか」が分からず不安になるかもしれません。
ですが、まず確認すべきなのは、そのお金が何月分なのかということです。
そこを確認すれば、未支給年金として受け取れる可能性があるのか、それとも返還が必要なのかを整理しやすくなります。
また、死亡届の省略ができる場合でも、未支給年金の請求や遺族年金の確認は別途必要になることがあります。
亡くなった親の年金が振り込まれていたときは、すぐに使ったり返したりせず、まず支払対象月と手続きの種類を確認し、未支給年金と返還年金をきちんと分けて対応することが大切です。
参考資料
日本年金機構|年金受給者が亡くなりました。何か手続きは必要ですか。
日本年金機構|年金受給者が亡くなりましたが、まだ受け取っていない年金があります。どうすればいいですか。
