外国籍の方が亡くなったら?日本での相続手続きの基本
「韓国籍の父が亡くなったけれど、日本で相続手続きはできるの?」
「日本に何十年も住んでいた外国籍の人の相続には、日本の法律が適用される?」
「外国籍の人には日本の戸籍がないけれど、相続人はどうやって調べるの?」
外国籍の方が日本で亡くなった場合、相続手続きをどのように進めればよいのか、戸惑うことがあります。
特に、日本で長年生活していた方の場合、預貯金や不動産などの財産が日本国内にあることも少なくありません。
また、亡くなった方が外国籍であっても、配偶者や子どもは日本国籍というケースもあります。
このような相続では、通常の相続手続きと共通する部分がある一方、外国籍の方ならではの確認事項があります。
例えば、どこの国の法律が適用されるのか、相続人をどのような書類で証明するのかといった問題です。
今回は、外国籍の方が亡くなった場合の日本での相続手続きについて、基本的な考え方と全体の流れを説明します。
① 外国籍の方が日本で亡くなった場合も相続手続きは必要?
もちろん必要です。
外国籍の方であっても、日本国内に預貯金や不動産などの財産を所有していれば、その財産について相続手続きを行う必要があります。
例えば、韓国籍の父が日本で亡くなり、次のような財産を残していた場合です。
日本の銀行にある預貯金
日本国内の自宅の土地建物
株式や投資信託
自動車
その他の財産
こうした財産について、相続人が承継したり、必要に応じて名義変更や払戻しなどの手続きを行ったりすることになります。
ただし、外国籍の方の相続では、最初に確認しなければならないことがあります。
それは、どこの国の法律に基づいて相続手続きを進めるのかという点です。
② 日本に住んでいたら、日本の相続法が適用される?
ここは、外国籍の方の相続で特に重要なところです。
日本では、「法の適用に関する通則法」という法律によって、国際的な法律関係にどこの国の法律を適用するのかが定められています。
その第36条には、次のように規定されています。
「相続は、被相続人の本国法による。」
被相続人とは、亡くなった方のことです。
つまり、日本で相続手続きを行う場合でも、相続については原則として亡くなった方の国籍に応じた法律が適用されます。
例えば、韓国籍の父が日本で50年間生活し、日本国内に自宅と預貯金を所有していた場合です。
この場合、日本に長年住んでいたという理由だけで、日本の民法が当然に適用されるわけではありません。
原則として、韓国の相続法を確認する必要があります。
ただし、外国の法律の定め方によっては、日本法が適用される場合もあります。
このように、外国籍の方の相続では、まず適用される法律を確認することが重要です。
③ 亡くなった方の国籍は、いつの時点で判断する?
相続に適用される法律を考える際には、原則として亡くなった時点の国籍が重要になります。
例えば、もともと外国籍だった方が、亡くなる前に日本へ帰化していた場合です。
この場合、死亡時には日本国籍を取得しているため、原則として日本法が相続に適用されます。
一方、日本で生まれ、日本で一生を過ごした方であっても、死亡時に外国籍であれば、その国籍を踏まえて相続に適用される法律を判断します。
また、複数の国籍を有する場合や、国籍が明確でない場合には、別の確認が必要になることがあります。
生まれた場所や生活していた場所だけでなく、死亡時の国籍を確認することが大切です。
④ 永住者や特別永住者の場合は?
日本には、永住者や特別永住者として長年生活している外国籍の方もいます。
例えば、韓国籍の特別永住者として、日本で生まれ育ち、長年生活していた方です。
このような場合でも、永住者や特別永住者という在留上の地位だけで、相続に適用される法律が決まるわけではありません。
永住者や特別永住者であることと、日本国籍を有していることは別の問題だからです。
したがって、韓国籍の特別永住者が亡くなった場合には、原則として韓国法を確認する必要があります。
一方、その方が日本国籍を取得していた場合には、原則として日本法が適用されます。
在留資格と国籍を混同しないことが重要です。
⑤ 外国籍の方が亡くなった場合の死亡届は?
外国籍の方が日本国内で亡くなった場合も、日本の市区町村役場に死亡届を提出する必要があります。
死亡届は、原則として死亡の事実を知った日から7日以内に提出します。
通常は、医師が作成した死亡診断書または死体検案書が必要です。
例えば、韓国籍の父が兵庫県内の病院で亡くなった場合です。
この場合も、日本人が亡くなったときと同様に、市区町村役場へ死亡届を提出します。
また、外国籍の方については、在留カードや特別永住者証明書の返納など、別途必要になる手続きもあります。
さらに、本国の制度によっては、外国の大使館や領事館への届出などが必要になる場合もあります。
日本で死亡届を提出したことだけで、本国側のすべての手続きが完了するとは限りません。
⑥ 外国籍の方には日本の戸籍がない?
日本国籍の方が亡くなった場合、通常は戸籍謄本などによって相続人を調査します。
例えば、父が亡くなった場合には、父の出生から死亡までの戸籍を集めて、配偶者や子どもなどを確認します。
しかし、外国籍の方は、原則として日本の戸籍に本人を戸籍の構成員として記載する制度の対象ではありません。
そのため、日本人と同じように、亡くなった方の出生から死亡までの日本の戸籍を取得することはできません。
ただし、日本人の配偶者や子どもがいる場合には、その日本人の戸籍に外国籍の方との婚姻や親子関係などが記載されていることがあります。
これらの戸籍は相続関係を確認する資料になりますが、それだけで亡くなった外国籍の方の相続人全員を証明できるとは限りません。
そこで、国籍のある国が発行する身分関係の証明書などを利用して、相続人を確認することになります。
⑦ 相続人を調べるにはどんな書類が必要?
必要な書類は、亡くなった方の国籍によって異なります。
例えば、韓国籍の方であれば、次のような証明書を利用することがあります。
基本証明書
家族関係証明書
婚姻関係証明書
除籍謄本
その他、相続関係を確認できる書類
ただし、これらすべてが必ず必要になるわけではありません。
また、家族関係証明書だけで、過去のすべての婚姻関係や子どもの存在を確認できるとは限りません。
そのため、過去の除籍記録などを含めて調査する場合があります。
韓国籍以外の方についても、本国の制度に応じた出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書などを利用することがあります。
日本の戸籍と同じような制度がない国もあるため、必要な書類の種類はさまざまです。
外国籍の方の相続では、どのような書類によって家族関係を証明できるのかが重要になります。
⑧ 相続人が日本国籍でも外国の法律が適用される?
例えば、次のような家族を考えてみましょう。
父:韓国籍
母:日本国籍
長男:日本国籍
長女:日本国籍
父が亡くなり、日本国内に預貯金や不動産を残していた場合です。
このとき、相続人である母・長男・長女が全員日本国籍であっても、それだけで日本の相続法が適用されるわけではありません。
相続に適用される法律は、原則として亡くなった父の本国法によって判断するからです。
そのため、韓国法が適用される場合には、韓国法に基づいて相続人の範囲や相続分などを確認する必要があります。
ただし、婚姻や親子関係の成立については、相続とは別の法律上の検討が必要になることもあります。
相続人の国籍ではなく、まず亡くなった方の国籍を確認することが基本です。
⑨ 相続人や相続分は日本と同じ?
必ずしも同じではありません。
国によって、相続人になる人の範囲や法定相続分などの定めが異なることがあります。
例えば、配偶者と子どもが相続人になる場合でも、日本の民法と外国の相続法で相続割合が異なることがあります。
また、兄弟姉妹や直系尊属が相続人になる場合にも、国によって取扱いが異なることがあります。
そのため、外国籍の方の相続では、日本の民法に定められている法定相続分をそのまま当てはめないように注意する必要があります。
例えば、日本法では配偶者と子どもが相続人になる場合、配偶者の法定相続分は2分の1です。
しかし、外国法が適用される場合に、必ず同じ割合になるとは限りません。
遺産分割協議を行う場合にも、まずどの法律が適用され、誰が相続人になるのかを確認することが大切です。
⑩ 日本の銀行預金はどうやって相続する?
外国籍の方が日本の銀行に預貯金を残していた場合、日本の金融機関で相続手続きを行います。
例えば、韓国籍の父が日本の銀行に500万円を預けていた場合です。
父の死亡後、相続人がその預貯金の払戻しなどを行うことになります。
ただし、金融機関では、相続人の範囲や権限を確認する必要があります。
そのため、一般的には次のような資料が必要になることがあります。
亡くなった方の死亡を証明する書類
亡くなった方の国籍を確認できる資料
相続人の範囲を確認できる証明書
相続人の本人確認書類
遺産分割協議書など
外国語の書類についての日本語訳
必要な書類は、金融機関や相続関係によって異なります。
また、海外に相続人が住んでいる場合には、署名や本人確認の方法などについて、別途確認が必要になることがあります。
外国籍の方だから日本の預貯金を払い戻せないというわけではありませんが、通常の相続手続きよりも確認資料が多くなる場合があります。
⑪ 日本に不動産がある場合は?
外国籍の方が日本国内に不動産を所有していた場合、その不動産について相続登記を行う必要があります。
例えば、韓国籍の父が芦屋市に自宅の土地建物を所有していた場合です。
父が亡くなり、長男がその不動産を取得することになったとします。
この場合、日本国内の不動産について、所有権を長男に移転する相続登記を申請することになります。
登記の申請先は、その不動産を管轄する法務局です。
ここで注意したいのは、相続に適用される法律と、不動産の登記手続きに適用される法律は区別して考える必要があるという点です。
相続人の範囲や相続分については外国法の確認が必要な場合でも、日本国内の不動産の登記は、日本の不動産登記制度に従って行います。
そのため、外国の身分関係の証明書や相続関係を説明する資料などを準備し、日本の法務局へ申請することになります。
⑫ 外国籍の方にも相続登記の義務化は関係する?
関係します。
2024年4月1日から、日本国内の不動産について相続登記が義務化されています。
相続によって不動産を取得したことを知った場合には、原則として、そのことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
この義務化は、日本国籍の方だけを対象とした制度ではありません。
外国籍の方が日本国内の不動産を相続した場合にも、対象になります。
また、日本国外に住んでいる相続人が日本の不動産を相続した場合も同様です。
ただし、相続に適用される法律や権利の取得関係によって、具体的な確認が必要になる場合があります。
そのため、外国籍の方の相続では、相続関係や必要書類の調査に時間がかかることも考え、早めに準備することが大切です。
⑬ 法定相続情報一覧図は利用できる?
日本人の相続では、法務局の法定相続情報証明制度を利用することがあります。
この制度は、戸籍などによって法定相続人の関係を確認し、一覧図として証明するものです。
しかし、外国籍の方の相続では注意が必要です。
法務局では、被相続人や相続人が日本国籍を有しないなどの理由で、必要な戸除籍謄抄本を提出できない場合には、この制度を利用できないと案内しています。
例えば、外国籍の父について、日本の戸籍で出生から死亡までの相続関係を証明できない場合です。
このようなケースでは、通常の法定相続情報証明制度を利用できないことがあります。
そのため、外国籍の方の相続では、外国の証明書などによって相続関係を確認し、金融機関や法務局が必要とする資料を準備することになります。
外国籍の方の相続では、日本人の相続で一般的に利用される制度が、そのまま利用できるとは限りません。
⑭ 外国語の書類は日本語に翻訳する必要がある?
外国籍の方の相続手続きでは、外国の公的機関が発行した証明書などを使用することがあります。
例えば、韓国籍の方の相続であれば、韓国語で作成された家族関係証明書などです。
日本の法務局へ外国語の書類を提出する場合には、原則として日本語の翻訳文が必要になります。
また、金融機関でも日本語訳の提出を求められることがあります。
ただし、翻訳文に求められる形式や、原本の提出・還付の取扱いなどは、手続き先によって異なる場合があります。
さらに、国や書類によっては、証明書の認証などが必要になることもあります。
そのため、外国の証明書を取得する際には、日本でどのような手続きに使用するのかを確認しておくことが重要です。
⑮ 海外にも財産がある場合は?
亡くなった方が日本国内だけでなく、外国にも財産を所有していた場合があります。
例えば、韓国籍の父が日本に自宅と預貯金を所有し、韓国にも不動産や預貯金を所有していた場合です。
このような場合には、日本国内の財産についての相続手続きに加えて、韓国にある財産についても手続きが必要になります。
ただし、海外の財産については、現地の法律や登記制度、金融機関の手続きなどを確認する必要があります。
日本で作成した遺産分割協議書などが、そのまま外国の手続きで使用できるとは限りません。
また、外国の公的機関が発行する証明書や、その国の専門家による手続きが必要になる場合もあります。
そのため、日本国内の財産と海外の財産を分けて整理することが大切です。
⑯ 遺言書がある場合はどうなる?
外国籍の方が遺言書を残している場合には、その内容についても確認する必要があります。
例えば、韓国籍の父が、日本国内にある自宅を長男に相続させる内容の遺言書を残していた場合です。
このような場合、まず遺言書の方式や内容の有効性などを確認する必要があります。
日本の「法の適用に関する通則法」第37条では、遺言の成立および効力について、遺言が成立した当時の遺言者の本国法によると定められています。
ただし、遺言書の方式については別の法律上の取扱いがあります。
したがって、日本で作成した遺言書であっても、外国籍の方の場合には、適用される法律について確認が必要になることがあります。
また、遺言書があっても、外国法上の遺留分などの制度が問題になる場合もあります。
遺言書があるからといって、適用される法律の確認が不要になるわけではありません。
⑰ 相続放棄を考える場合は?
外国籍の方が亡くなり、借金が残されていた場合には、相続放棄が問題になることもあります。
ただし、外国籍の方の相続では、相続放棄についても適用される法律や手続き先を確認する必要があります。
例えば、日本法が適用され、日本の家庭裁判所で相続放棄の申述を行う場合には、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きを行います。
しかし、外国法が適用される場合には、その国の相続制度における承認や放棄の仕組みなどを確認する必要があります。
また、日本の家庭裁判所で手続きができるかどうかも、国際裁判管轄などに関係します。
そのため、外国籍の方の相続について、日本人の相続と同じように3か月以内に日本の家庭裁判所へ申述すればよいと、単純に判断することはできません。
借金がある可能性がある場合には、早い段階で適用される法律と必要な手続きを確認することが大切です。
⑱ 外国籍の方の相続手続きは、どの順番で進める?
外国籍の方が日本で亡くなった場合には、次のような順番で整理すると、手続きの全体像が分かりやすくなります。
1.亡くなった方の国籍を確認する
死亡時の国籍を確認し、相続に適用される法律を検討します。
2.死亡届などを行う
日本国内で亡くなった場合には、市区町村役場への死亡届など、必要な手続きを行います。
3.遺言書の有無を確認する
遺言書がある場合には、方式や効力などを確認します。
4.相続人を調査する
亡くなった方の国籍や家族関係に応じて、本国の証明書などを取得します。
5.相続財産を調査する
日本国内の預貯金、不動産、有価証券、借金などを確認します。
6.海外の財産も確認する
外国に預貯金や不動産などがないかを確認します。
7.必要な協議や手続きを進める
適用される法律に基づき、遺産分割協議など、必要な手続きを行います。
8.金融機関や法務局で手続きを行う
預貯金の払戻し、不動産の相続登記などを進めます。
9.必要に応じて海外の手続きも行う
外国の財産については、現地の制度に基づく手続きを確認します。
このように、外国籍の方の相続では、最初に国籍と適用される法律を確認し、そのうえで相続人や財産を調査することが基本になります。
まとめ
外国籍の方が日本で亡くなった場合にも、日本国内にある預貯金や不動産などについて相続手続きが必要です。
ただし、日本人の相続とは異なり、国籍や適用される法律、相続人を証明する書類などについて、確認しなければならない事項があります。
今回のポイントを整理すると、
外国籍の方でも、日本国内の財産について相続手続きが必要
相続には原則として亡くなった方の本国法が適用される
日本に長年住んでいても、当然に日本の相続法が適用されるわけではない
永住者や特別永住者であることと、日本国籍であることは異なる
外国籍の方が日本国内で亡くなった場合も死亡届が必要
外国籍の方の相続人調査では、本国の証明書などを利用する
相続人が日本国籍であっても、亡くなった方の国籍が重要になる
国によって相続人の範囲や法定相続分が異なることがある
日本国内の預貯金については、日本の金融機関で相続手続きを行う
日本国内の不動産については、日本の法務局で相続登記を行う
外国籍の方が日本の不動産を相続した場合にも、相続登記の義務化は関係する
法定相続情報証明制度を利用できない場合がある
外国語の証明書には日本語訳などが必要になることがある
海外にも財産がある場合には、現地の法律や手続きを確認する必要がある
ということになります。
外国籍の方の相続は、日本で生活していたという理由だけで、すべて日本人と同じ方法で進められるわけではありません。
一方、日本国内に財産がある場合には、日本の金融機関や法務局で必要な手続きを行うことになります。
そのため、外国籍の方の相続では、**「どこの国の法律が適用されるのか」「誰が相続人になるのか」「どのような書類で証明できるのか」**という3つの点を整理することが重要です。
まずは亡くなった方の国籍と財産の所在地を確認し、必要な相続関係の調査を進めることが、相続手続きの第一歩になります。
参考資料
