遺言制度が変わります|押印不要・新しい「保管証書遺言」(デジタル遺言)とは?
ここ数回、自筆証書遺言、公正証書遺言、自筆証書遺言書保管制度についてご紹介してきました。
そして2026年、遺言制度そのものを大きく見直す法律が成立しました。
2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されています。
遺言制度については、大きく分けて、
・自筆証書遺言などの押印要件の見直し
・電子データなども利用できる新しい「保管証書遺言」(デジタル遺言)の創設
などが行われます。
ただし、ここで注意が必要です。
2026年9月現在、これらの改正はまだ全面的には施行されていません。
今回は、「現在はどうなっているのか」と「今後どう変わるのか」を分けて説明します。
改正法は成立しましたが、まだ現在のルールが適用されます
今回の遺言制度の改正は、内容によって施行時期が違います。
法務省によると、
押印の任意化等
→ 2026年6月24日の公布から1年を超えない範囲内で、政令で定める日
新しい保管証書遺言(デジタル遺言)の創設等
→ 公布から3年を超えない範囲内で、政令で定める日
に施行されます。
したがって、2026年9月現在、
「もう自筆証書遺言には印鑑を押さなくていい」
というわけではありません。
現在、自筆証書遺言を作成する場合には、従来どおり現在の法律に従って作成する必要があります。
現在の自筆証書遺言はどう作る?
2026年9月現在、自筆証書遺言では、
・遺言書の全文
・作成日付
・氏名
を遺言者本人が自書し、押印する必要があります。
財産目録についてはパソコンで作成したり、登記事項証明書や通帳のコピーを利用したりすることができますが、自書しない財産目録には現在、署名と押印が必要です。
つまり、今遺言書を作る方は、まだ現行のルールに従う必要があります。
改正後は自筆証書遺言の押印が不要になります
今回の改正では、自筆証書遺言の押印要件がなくなります。
改正後の民法では、自筆証書遺言について、
遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書する
という基本的なルールは残ります。
一方で、現在必要となっている押印要件がなくなる仕組みです。財産目録などについての押印要件も見直されます。
ここは今回の改正で誤解しやすいところです。
自筆証書遺言がパソコンで作れるようになるわけではありません
押印が不要になることと、自筆証書遺言をパソコンで作れるようになることは別の話です。
改正後も「自筆証書遺言」については、
本文・日付・氏名を本人が自書する
という基本的な仕組みは残ります。
したがって、
「2026年の改正で、自筆証書遺言を全部Wordで作れるようになる」
という理解は正しくありません。
パソコンや電子データを利用できるようになるのは、今回新たに創設される「保管証書遺言」(デジタル遺言)という別の方式です。
新しい「保管証書遺言」(デジタル遺言)とは?
今回の改正で、新しい普通方式の遺言として保管証書遺言(デジタル遺言)が創設されます。
これは、自筆証書遺言とは別の遺言方式です。
大きな特徴は、遺言の全文について、
・書面で作成する方法
・電子データで作成する方法
のいずれも利用できる仕組みが予定されていることです。
そして、作成した遺言を法務局の遺言書保管制度と組み合わせることで遺言として成立させます。
パソコンで遺言内容を作成できるようになります
保管証書遺言(デジタル遺言)では、従来の自筆証書遺言のように全文を手書きする必要はありません。
例えば、パソコンなどを使って遺言内容を作成し、
・その内容を印刷した書面
・電子データ
による方法が利用できる仕組みになります。
高齢になって長い文章を手書きすることが負担になっている方にとっては、遺言を作成する選択肢が増えることになります。
ただし「Wordで作って保存」だけでは遺言になりません
ここは非常に重要です。
将来、保管証書遺言(デジタル遺言)が施行されたとしても、
パソコンで遺言を書いて、自宅のパソコンに保存しておくだけで有効な遺言になるわけではありません。
保管証書遺言(デジタル遺言)として成立させるためには、法律で定められた方法によって作成し、法務局に保管を申請する手続きが必要になります。
つまり、
「デジタル遺言=パソコンやスマートフォンにデータを残しておけばいい」
という制度ではありません。
本人確認や遺言内容の口述も行われます
保管証書遺言(デジタル遺言)では、本人の意思に基づいて作成された遺言であることを確認する仕組みも設けられます。
法務省の資料では、遺言書保管官による本人確認に加え、原則として遺言者が遺言の全文を口述する手続きが設けられています。
口述が難しい方については、通訳人による申述や自書など、代替方法も規定されることになっています。
単にデータを法務局へ送信するだけではなく、本人の真意を確認する仕組みが組み込まれているわけです。
電子データの場合はどうなる?
保管証書遺言(デジタル遺言)では、電子データによる遺言も予定されています。
法務省の制度資料では、電子データの場合、署名に代わる措置として電子署名を用いることなどを法務省令で定めることが想定されています。
ただし、
・具体的なファイル形式
・データ容量
・電子署名の具体的方法
・本人確認の詳細
などについては、省令等で定められる部分があります。
そのため、2026年9月現在、
「このWordファイルを作ればいい」
「この電子署名を使えばいい」
という実務的なところまで決まっているわけではありません。
施行までに公表される省令や運用を確認する必要があります。
ウェブ会議を利用できる場合もあります
保管証書遺言(デジタル遺言)では、遺言者から申出があり、遺言書保管官が相当と認めた場合には、映像と音声を利用したウェブ会議方式によって、本人確認や遺言内容の口述などを行える仕組みも設けられています。
ただし、
「誰でも自宅からオンラインだけで遺言を完成できる」
と決まっているわけではありません。
ウェブ会議を利用できる条件や具体的な運用については、今後定められる省令等を確認する必要があります。
現在の「自筆証書遺言書保管制度」とは別の制度です
前回の記事で紹介した自筆証書遺言書保管制度は、すでに現在利用できる制度です。
現在の制度は、
自筆証書遺言を自分で作成
↓
法務局に保管してもらう
という制度です。
法務局に保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認が不要になるなどのメリットがあります。
ただし、現在はあくまで有効な自筆証書遺言を作ったうえで法務局に預ける制度です。現在の制度では、全文・日付・氏名の自書や押印など、自筆証書遺言の要件を満たす必要があります。
新しい「保管証書遺言」(デジタル遺言)は何が違う?
これに対して、新しく創設される保管証書遺言は、
法務局での保管手続きまで含めて、新しい遺言方式そのものを構成する点が大きく違います。
整理すると、
現在の自筆証書遺言書保管制度
自分で自筆証書遺言を作る
↓
法務局に預ける
将来の保管証書遺言(デジタル遺言)
書面または電子データで遺言を作る
↓
本人確認・口述など所定の手続きをする
↓
法務局で保管する
↓
新しい方式の遺言として成立
という違いがあります。
名前が似ているので、今後は特に混同しないよう注意が必要だと思います。
押印の見直しと保管証書遺言(デジタル遺言)は施行時期も違います
これも重要です。
自筆証書遺言などの押印の任意化は、
公布から1年以内
の政令で定める日に施行されます。
一方、保管証書遺言については、新しいシステムを整備する必要があるため、
公布から3年以内
の政令で定める日に施行されます。
つまり、
押印のルールが先に変わり、その後に保管証書遺言(デジタル遺言)が始まる可能性があります。
「遺言制度の改正」と一括りにしてしまうと分かりにくいところです。
今は改正を待って遺言を作らない方がいい?
新しい制度ができると聞くと、
「それなら新制度が始まるまで待った方がいいのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
遺言は、本人が遺言能力を有しているうちに作成する必要があります。
現在でも、
・自筆証書遺言
・自筆証書遺言書保管制度
・公正証書遺言
という選択肢があります。
家族関係や財産の内容によっては、現在の制度で十分対応できるケースも多くあります。
将来制度が変わるからという理由だけで、必要な遺言の作成を何年も先延ばしにする必要はないでしょう。
遺言書は「作り方」だけでなく「内容」が重要です
今回の改正によって、遺言を作る方法は今までより利用しやすくなっていくと思われます。
しかし、方式が簡単になったとしても、
・どの不動産を誰に取得させるのか
・預貯金をどのように分けるのか
・相続人以外への遺贈があるのか
・遺言執行者を指定するのか
・遺留分との関係はどうなるのか
といった遺言内容そのものの問題がなくなるわけではありません。
遺言で一番大切なのは、
「作ること」だけではなく、亡くなった後にその内容をきちんと実現できるようにしておくこと
だと思います。
芦屋市で遺言をお考えの方へ
松岡司法書士事務所では、芦屋市を中心に、西宮市・神戸市東灘区などで遺言に関するご相談を承っています。
「今の制度で遺言を作った方がいいのか」
「自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがいいのか」
「法務局の保管制度を利用したい」
「2026年の改正で自分の遺言はどう変わるのか知りたい」
という段階からでもご相談いただけます。
制度の改正を待つべきなのか、現在利用できる制度で作成した方がよいのかも、ご家族の状況や財産内容によって変わります。
初回相談は無料です。
ご自宅などへの出張相談にも対応しています。
電話でいきなり相談するのが苦手という方は、メールからでもお気軽にお問い合わせください。
詳しくは、松岡司法書士事務所のホームページをご覧ください。
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遺言・公正証書遺言・相続登記・成年後見・死後事務などのご相談を承っています。
