外国籍の方の相続では、どこの国の法律が適用される?
「韓国籍の父が日本で亡くなった場合、日本と韓国のどちらの法律が適用されるの?」
「日本に何十年も住んでいたのだから、日本の民法で相続できるのでは?」
「日本にある不動産については、日本の法律が適用される?」
外国籍の方が亡くなった場合、相続手続きを進める前に確認しておきたいことがあります。
それは、どこの国の法律が適用されるのかという問題です。
日本人が日本で亡くなった場合には、通常、日本の民法に基づいて相続手続きを進めます。
しかし、亡くなった方が外国籍の場合には、必ずしも日本の民法が適用されるとは限りません。
例えば、韓国籍の方が日本で50年間生活し、日本国内に預貯金や不動産を所有していた場合でも、原則として韓国の相続法を確認する必要があります。
今回は、外国籍の方の相続に適用される法律の考え方と、日本法が適用される場合、韓国籍の方の相続で注意したい点について説明します。
① 相続に適用される法律を「準拠法」という
外国籍の方の相続では、「準拠法」という言葉が出てきます。
準拠法とは、ある法律問題を判断するときに、どこの国の法律を適用するのかということです。
例えば、韓国籍の父が亡くなり、日本国籍の妻と子ども2人が相続人になる場合です。
このとき、次のような問題が生じます。
誰が相続人になるのか
相続人の法定相続分はいくらか
配偶者と子どもの相続割合はどうなるのか
相続放棄はどのように扱われるのか
遺留分は認められるのか
これらの問題について、日本の民法と韓国の民法では取扱いが異なる場合があります。
そのため、最初にどこの国の法律を適用するのかを判断する必要があります。
相続の準拠法を確認することは、外国籍の方の相続手続きの出発点になります。
② 日本では亡くなった方の本国法が原則
日本では、「法の適用に関する通則法」という法律によって、国際的な法律関係にどこの国の法律を適用するかを定めています。
相続については、第36条に次のような規定があります。
「相続は、被相続人の本国法による。」
被相続人とは、亡くなった方のことです。
本国法とは、基本的にはその方が国籍を有する国の法律を意味します。
例えば、
日本国籍の方が亡くなった場合:原則として日本法
韓国籍の方が亡くなった場合:原則として韓国法
となります。
ただし、複数の国籍がある場合や、外国の法律が別の国の法律を指定している場合などには、さらに確認が必要です。
したがって、亡くなった方の国籍を確認することが、相続手続きの第一歩になります。
③ 日本に長年住んでいても日本法にはならない?
例えば、次のような方が亡くなった場合を考えてみましょう。
国籍:韓国
出生地:日本
居住地:日本
日本での生活期間:70年以上
相続財産:日本国内の自宅と預貯金
この方は、日本で生まれ、日本で生活してきました。
しかし、死亡時の国籍は韓国です。
この場合、日本で長年生活していたという理由だけで、日本の民法が当然に適用されるわけではありません。
原則として韓国法を確認することになります。
また、永住者や特別永住者であったとしても、それだけで相続に日本法が適用されるわけではありません。
永住者や特別永住者という在留上の地位と、国籍は別の問題だからです。
ただし、韓国法には、一定の条件の下で相続に適用する法律を指定できる規定があります。
そのため、日本で生活していた韓国籍の方について、日本法が適用される場合もあります。
④ 相続人が全員日本国籍でも外国法が適用される?
例えば、次のような家族を考えてみましょう。
父:韓国籍
母:日本国籍
長男:日本国籍
長女:日本国籍
父が亡くなり、日本国内に預貯金と自宅を残していた場合です。
相続人である母・長男・長女は全員日本国籍です。
しかし、相続人が全員日本国籍であるからといって、当然に日本の民法が適用されるわけではありません。
相続に適用される法律は、原則として亡くなった父の本国法を基準に判断するからです。
この場合、原則として韓国法を確認することになります。
つまり、相続人の国籍ではなく、亡くなった方の国籍が基本になるということです。
ただし、相続人に当たるかどうかの前提となる婚姻や親子関係については、相続とは別の法律の確認が必要になる場合もあります。
⑤ 死亡する前に日本へ帰化していたら?
もともと外国籍だった方が、亡くなる前に日本へ帰化していた場合はどうでしょうか。
例えば、次のようなケースです。
生まれたときの国籍:韓国
50歳で日本へ帰化
80歳で死亡
この場合、亡くなった時点では日本国籍です。
そのため、原則として日本の民法が相続に適用されます。
外国籍だった期間が長いからといって、当然に以前の国籍の法律が適用されるわけではありません。
ただし、過去の婚姻関係や親子関係などを調査する際には、帰化前の外国の証明書が必要になる場合があります。
また、以前の相続によって取得した財産が未登記のまま残っている場合には、その相続が発生した時点の法律関係を別途確認する必要があります。
現在の相続の準拠法と、過去の相続の準拠法が異なる場合もあるということです。
⑥ 韓国籍の方の相続には韓国法が適用される?
韓国籍の方が亡くなった場合、日本の通則法第36条によって、原則として韓国法が適用されます。
韓国にも、日本の通則法に相当する「国際私法」という法律があります。
韓国の国際私法第77条第1項では、相続について、原則として死亡当時の被相続人の本国法によると定められています。
そのため、亡くなった方が韓国籍であれば、基本的には韓国の相続法が適用されます。
ただし、韓国の国際私法には例外的な規定があります。
それは、遺言によって、一定の条件の下で相続に適用する法律を指定できるというものです。
この制度を利用できる場合には、韓国籍の方であっても、日本の民法が適用されることがあります。
⑦ 韓国籍の方が遺言で日本法を指定できる?
韓国の国際私法第77条第2項では、遺言に適用される方式によって明示的に一定の法律を指定した場合、原則と異なる法律を相続に適用できることが定められています。
例えば、韓国籍の方が日本に長年居住しており、日本で遺言書を作成する場合です。
その遺言書に、相続について日本法を適用する旨を明確に記載することが考えられます。
ただし、単に「日本法を適用する」と書けば、必ず日本法が適用されるわけではありません。
韓国の国際私法では、次のような条件が設けられています。
1.常居所地法を指定する場合
遺言によって、指定当時の常居所がある国の法律を選択できます。
ただし、死亡時までその国に常居所を維持している必要があります。
2.不動産所在地法を指定する場合
不動産の相続について、その不動産が所在する国の法律を選択できます。
例えば、日本国内の不動産について、日本法を指定することが考えられます。
このように、韓国籍の方には、一定の条件で相続の準拠法を指定する仕組みがあります。
ただし、この制度は韓国の国際私法に基づくものです。
外国籍の方なら誰でも、遺言書に好きな国の法律を書くだけで自由に選択できるという意味ではありません。
⑧ 「反致」とは?
外国籍の方の相続では、「反致(はんち)」という言葉が出てくることがあります。
反致とは、外国法を適用することになったものの、その外国の国際私法が日本法を指定している場合に、日本法を適用する仕組みです。
日本の通則法第41条に規定されています。
例えば、韓国籍の方の相続を考えてみましょう。
まず、日本の通則法第36条によって、原則として韓国法が指定されます。
しかし、韓国の国際私法に基づき、有効な遺言によって日本法が相続の準拠法として指定されていたとします。
このような場合、日本の通則法第41条の反致によって、日本法が適用されることがあります。
つまり、日本の法律によって外国法が指定されても、最終的に日本法が適用される場合があるということです。
ただし、反致が認められるかどうかは、指定された外国の国際私法の内容や個別の事情によって判断されます。
⑨ 日本の不動産なら必ず日本法が適用される?
ここは誤解しやすいところです。
例えば、韓国籍の父が、日本国内に自宅の土地建物を所有していた場合です。
このとき、
「日本にある不動産だから、日本の相続法が適用されるのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、日本国内の不動産であるという理由だけで、当然に日本の相続法が適用されるわけではありません。
日本の通則法では、相続について原則として被相続人の本国法を指定しているからです。
そのため、韓国籍の父が亡くなった場合には、日本国内の不動産についても、原則として韓国法を確認する必要があります。
ただし、韓国の国際私法では、不動産所在地法を相続の準拠法として遺言で指定できる場合があります。
したがって、条件を満たして日本法が指定されていれば、日本法が適用されることがあります。
ここで重要なのは、不動産が日本にあることと、相続に日本法が適用されることは、必ずしも同じではないという点です。
⑩ 相続に外国法が適用されても、日本の法務局で登記する?
例えば、韓国法が適用される相続で、日本国内の不動産を長男が取得する場合です。
このとき、相続人の範囲や相続による権利の承継については、韓国法を確認することになります。
しかし、日本国内の不動産について所有者の名義を変更する場合には、日本の不動産登記制度に従って手続きを行います。
登記の申請先は、その不動産を管轄する日本の法務局です。
つまり、次の2つを区別する必要があります。
相続に適用される法律
誰が相続人になるのか、相続によってどのような権利を取得するのかなどを判断する法律です。
不動産登記の手続き
日本国内の不動産について、日本の不動産登記制度に従って申請する手続きです。
外国法が適用される相続であっても、日本国内の不動産の登記を外国の登記所で行うわけではありません。
また、外国法の内容や相続関係を明らかにするため、外国の証明書やその翻訳文などが必要になることがあります。
⑪ 国によって相続人や相続分は違う?
相続にどこの国の法律が適用されるかによって、相続人の範囲や法定相続分が変わることがあります。
例えば、日本の民法では、配偶者と子どもが相続人になる場合、配偶者の法定相続分は2分の1、子ども全員の法定相続分は合計2分の1です。
一方、韓国の民法では、配偶者と子どもが共同相続人になる場合、配偶者の相続分について、子ども1人当たりの相続分の5割を加算する仕組みがあります。
そのため、配偶者と子どもが相続人になる場合でも、日本の民法と韓国の民法では相続割合が異なることがあります。
また、相続人の順位や、兄弟姉妹などが相続人になる条件についても、国によって異なる場合があります。
したがって、外国籍の方の相続について、日本の民法の相続分をそのまま使わないように注意する必要があります。
誰が相続人になるのか、どのような割合で相続するのかは、適用される法律を確認して判断することが重要です。
⑫ 遺言書についても本国法が適用される?
外国籍の方が遺言書を作成していた場合には、遺言の効力などについても準拠法の確認が必要です。
日本の通則法第37条では、遺言の成立および効力について、遺言が成立した当時の遺言者の本国法によると定められています。
また、遺言の取消しについては、取消し当時の本国法によります。
例えば、韓国籍の方が日本で遺言書を作成した場合です。
日本で作成したからといって、遺言の成立や効力について当然に日本法が適用されるわけではありません。
ただし、遺言書の方式については別の法律が適用されます。
日本には「遺言の方式の準拠法に関する法律」があります。
この法律では、一定の条件を満たす場合に、遺言を作成した場所の法律や、遺言者の国籍を有する国の法律などに従った方式を認めています。
そのため、日本で作成した遺言書について、方式上有効と判断される場合があります。
遺言書の方式が有効かどうかと、遺言の内容にどこの国の法律が適用されるかは、分けて考える必要があります。
⑬ 相続放棄も外国の法律で判断する?
外国籍の方の相続では、借金が残されている場合の相続放棄についても注意が必要です。
例えば、韓国籍の父が亡くなり、日本国内に預貯金と借金を残していた場合です。
このとき、相続について韓国法が適用されるなら、相続の承認や放棄についても韓国法の確認が必要になります。
日本の民法では、相続放棄は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する仕組みです。
しかし、外国法が適用される場合には、その国の相続放棄の要件や効果、必要な手続きを確認する必要があります。
また、外国法が適用される場合に、日本の家庭裁判所でどのような手続きが可能なのかについては、国際裁判管轄などの問題もあります。
そのため、外国籍の方の相続では、日本人の場合と同じ方法で相続放棄を進めてよいとは限りません。
借金がある可能性がある場合には、早い段階で準拠法と必要な手続きを確認することが大切です。
⑭ 複数の国籍がある場合は?
亡くなった方が複数の国籍を持っていた場合には、どこの国の法律を本国法として扱うのでしょうか。
日本の通則法第38条では、複数の国籍を有する場合の本国法について定めています。
原則として、国籍を有する国のうち、常居所がある国の法律などを基準に判断します。
ただし、複数の国籍の中に日本国籍が含まれている場合には、日本法を本国法とすると定められています。
例えば、日本国籍と外国国籍の両方を有する方が亡くなった場合です。
この場合、日本の通則法上は日本法が本国法になります。
また、国籍を有しない方については、原則として常居所地法を基準とする規定があります。
このように、国籍が一つとは限らない場合や、国籍が明確でない場合には、通則法の規定に従って確認する必要があります。
⑮ 「朝鮮」と表示されている場合は?
日本には、在留カードや特別永住者証明書の国籍・地域欄に「朝鮮」と表示されている方もいます。
この場合も、相続の準拠法を判断する際には注意が必要です。
日本政府は、外国人登録などにおける「朝鮮」の表示について、朝鮮半島出身者などを示すものであり、それ自体が特定の国の国籍を示すものではないと説明しています。
そのため、「朝鮮」と表示されていることだけを理由に、韓国法や北朝鮮の法律が当然に適用されると判断することはできません。
具体的な国籍や本国法については、本人の身分関係、国籍に関する資料、そのほかの事情などを確認して判断する必要があります。
また、死亡時の国籍が確認できない場合などには、通則法の関連規定も検討する必要があります。
国籍・地域欄の表示と、相続の準拠法を決めるための本国法は、必ずしも同じものではありません。
⑯ 海外に財産がある場合も同じ法律になる?
外国籍の方が、日本と外国の両方に財産を所有している場合があります。
例えば、韓国籍の父が次のような財産を残していた場合です。
日本国内の自宅
日本の銀行預金
韓国国内の不動産
韓国の銀行預金
このような場合、日本で相続の準拠法を判断する際には、原則として被相続人の本国法を基準に考えます。
しかし、海外の不動産や預貯金について、実際に名義変更や払戻しを行う場合には、財産が所在する国の手続きも確認する必要があります。
また、外国の国際私法では、財産の所在地によって相続に適用される法律が異なる場合もあります。
そのため、日本での相続手続きに使用した書類が、そのまま外国でも使用できるとは限りません。
海外に財産がある場合には、相続に適用される法律と、財産が所在する国で必要になる手続きをそれぞれ確認することが大切です。
⑰ 相続税も本国法で決まる?
ここは、相続に適用される法律と混同しやすいところです。
例えば、韓国籍の方が日本で亡くなり、相続について韓国法が適用される場合です。
このとき、相続に韓国法が適用されるからといって、当然に日本の相続税がかからなくなるわけではありません。
相続人の範囲や相続分を決める法律と、相続税を課税する法律は別の問題だからです。
日本の相続税については、被相続人や相続人の住所、国籍、財産の所在地など、税法上の条件に従って課税関係を判断します。
そのため、民法上の相続について外国法が適用される場合でも、日本の相続税が問題になることがあります。
また、海外に財産がある場合には、外国での課税関係も確認する必要が生じることがあります。
相続の準拠法と相続税の課税関係は、別々に考える必要があります。
⑱ 準拠法を確認するときの進め方
外国籍の方の相続では、次のような順番で確認すると、問題を整理しやすくなります。
1.死亡時の国籍を確認する
亡くなった方がどこの国の国籍を有していたのかを確認します。
2.日本の通則法を確認する
原則として、亡くなった方の本国法が指定されます。
3.本国の国際私法を確認する
外国の法律が、日本法など別の国の法律を指定していないかを確認します。
4.遺言書の有無を確認する
遺言書で相続の準拠法を指定できる制度がある場合には、指定の有無や要件を確認します。
5.相続人の範囲や相続分を確認する
最終的に適用される法律に従い、誰が相続人になるのかを判断します。
6.財産の所在地を確認する
日本国内の財産と海外の財産を整理します。
7.具体的な相続手続きを確認する
預貯金の払戻し、不動産の相続登記、海外の財産についての手続きなどを確認します。
このように、外国籍の方の相続では、相続人や財産の調査を進めるだけでなく、法律の適用関係を最初に整理しておくことが重要です。
まとめ
外国籍の方が亡くなった場合、相続には必ずしも日本の民法が適用されるわけではありません。
日本の通則法第36条では、相続は原則として亡くなった方の本国法によると定められています。
今回のポイントを整理すると、
相続に適用される法律を準拠法という
日本では原則として亡くなった方の本国法が適用される
日本に長年住んでいても、当然に日本法が適用されるわけではない
相続人が全員日本国籍でも、亡くなった方が外国籍であれば外国法が適用されることがある
死亡前に日本へ帰化していれば、原則として日本法が適用される
韓国籍の方の相続には、原則として韓国法が適用される
韓国法では、一定の条件で遺言によって相続の準拠法を指定できる
外国の国際私法によって日本法が指定され、反致が認められる場合もある
日本国内の不動産でも、相続には外国法が適用される場合がある
日本国内の不動産の登記は、日本の不動産登記制度に従って行う
国によって相続人の範囲や法定相続分が異なることがある
遺言書の方式と遺言の効力では、適用される法律の考え方が異なる
複数国籍の場合や、国籍が明確でない場合には別の確認が必要
相続に適用される法律と、相続税の課税関係は別の問題
ということになります。
外国籍の方の相続では、日本国内に財産があることや、日本で長く生活していたことだけで、適用される法律を判断することはできません。
また、外国法が指定されても、その国の国際私法によって日本法が適用される場合があります。
そのため、亡くなった方の国籍を確認し、日本の通則法と本国の国際私法を調べたうえで、最終的にどこの国の法律が適用されるのかを判断することが重要です。
相続人の範囲や相続分などを確認する際にも、まず準拠法を整理しておくことが、外国籍の方の相続手続きを進める基本になります。
参考資料
