『シャイロックの子供たち』原作・ドラマ・映画、3つの結末。
池井戸潤さんの『シャイロックの子供たち』。映画版がネットフリックスで再度配信されたので何度もBGVで見てましたが、あらためてみました。
銀行を舞台に、お金をめぐる人間模様を描いた作品です。
原作小説のほか、2022年には井ノ原快彦さん主演でWOWOWのドラマになり、2023年には阿部サダヲさん主演の映画と3つあります。
そして、この作品、原作・ドラマ・映画でそれぞれ結末が違います。
同じ作品なのに、最後の描き方が違うだけで、ずいぶん印象が変わるものです。
3つとも楽しめましたが、個人的には映画版が一番好きでした。司法書士がでてくるからというのもありますがw
※結末の具体的な内容には触れずに書いています。
原作は、何ともすっきりしない結末
原作は、銀行で働く人たちの姿を描いた連作短編集です。
一つひとつの物語が少しずつつながり、人間関係や事件の背景が見えてきます。
そして迎える結末。これが何ともすっきりしない。
すべての謎がきれいに解決するわけではなく、読み終わってからも、あれはどういうことだったのだろうと考えてしまいます。
ただ、お金に翻弄される人間の姿を描いた作品としては、逆にこういう終わり方がいいのかもしれません。
ドラマ版は、また違った印象
WOWOWのドラマ版では、井ノ原快彦さんが西木雅博を演じています。
原作の雰囲気を残しながらも、独自の展開が加えられています。
原作と比べると、人間関係や家族とのつながりが印象に残る作品でした。
結末にも比較的温かみがあります。
これはこれでよかったのですが、個人的には少しきれいにまとまりすぎているようにも感じました。ドラマって感じです。
映画版は、結局みんなお金に振り回されている
そして、阿部サダヲさん主演の映画版。
こちらは原作やドラマとは大きく異なるオリジナルストーリーです。
私が映画版を一番好きだったのは、お金に振り回される人間の姿が、とても分かりやすく描かれているからです。
いきなりヴェニスの商人の舞台からはじまります。最初に女優さんがシャイロックよりもお金を返さないほうもわるいのではないかというテーマを与えてくれます。
銀行員としての立場、出世、生活、家族、そして自分自身の利益。
登場人物たちは、それぞれの事情を抱えながら行動します。
正しいことをしたいという気持ちがあっても、お金が絡むと簡単には割り切れません。
銀行という、お金を扱うことを仕事にしている人たちが、逆にお金によって人生を振り回されていく。
考えてみれば、何とも皮肉な話です。
そして、この視点でもう一度映画を見てみると、最初に見たときとは違った面白さがありました。
登場人物の言葉や行動も、単なる善悪だけでは判断できなくなってきます。
結局、人間は正義だけでは生きられない。
そんな現実的なところが、映画版の魅力なのかもしれません。
映画版には司法書士も登場する
ちなみに、映画版には司法書士も登場します。
不動産取引に関わる場面で登場するのですが、司法書士という仕事をしている私には、これも興味深いところでした。
普段、自分が関わっている仕事が映画の中に出てくると、どうしても気になってしまいます。
もっとも、その場面について詳しく書くと物語の展開に触れてしまうので、ここでは控えておきます。
司法書士がどんな形で登場するのか、そんなところにも注目してみると面白いかもしれません。
そもそも「シャイロック」もお金に振り回された人物?
ところで、タイトルにある「シャイロック」は、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に登場する金貸しの名前です。
お金を返せなければ、担保として肉1ポンドを切り取る。
そんな恐ろしい契約を結ぶ人物です。
この『ヴェニスの商人』の結末も、個人的にはどうも納得できません。
シャイロックはお金を貸した側です。
借りた側が約束を守れなかったのに、最後にはシャイロック自身が厳しい立場に追い込まれてしまいます。
もちろん、人間の肉を切り取るような契約が許されるはずはありません。
現代の日本法なら、そのような特約は公序良俗に反して無効になると考えられます。
ただし、だからといって借りたお金まで返さなくてよいという話には、通常なりません。
もっとも、シャイロック自身も、最後にはお金を取り戻すことより復讐にこだわってしまいます。
お金の問題から始まった争いが、いつの間にか意地や憎しみの問題に変わっているのです。
お金を貸した側も、借りた側も、結局は争いに振り回されている。
そう考えると、『シャイロックの子供たち』という題名も、なかなか意味深いものに思えてきます。
お金と人間の関係は、昔も今も変わらない
『ヴェニスの商人』のシャイロックも、『シャイロックの子供たち』に登場する銀行員たちも、お金をめぐってさまざまな問題を抱えています。
お金は生活に必要なものですし、決して悪いものではありません。
ただ、そのお金のために人間関係が壊れたり、人生が大きく変わってしまうこともあります。
原作は、人間の怖さを感じさせる結末。
ドラマは、人とのつながりに救いを感じさせる結末。
映画は、正義と欲が入り交じった、人間らしい結末。
どれが正解というものでもありません。
ただ、私には映画版が一番しっくりきました。
結局、人間はいつの時代もお金に振り回されるものなのかもしれません。
そんなことを考えながら映画をもう一度見てみると、また違った面白さがありました。
