2026年10月27日火曜日

相続人と連絡が取れないとき① 疎遠な兄弟姉妹がいる場合、遺産分割はどう進める?

 


疎遠な兄弟姉妹がいる場合、遺産分割はどう進める?

「父が亡くなったけれど、兄とはもう20年以上連絡を取っていない」

「相続人の一人がどこに住んでいるのか分からない」

「ほかの家族だけで遺産分割を進めることはできないの?」

相続手続きを始めようとしたとき、このような問題が出てくることがあります。

親族だからといって、全員が日頃から連絡を取り合っているとは限りません。

兄弟姉妹でも長年疎遠になっていたり、結婚や転居をきっかけに連絡先が分からなくなっていたりすることがあります。

しかし、相続手続きでは、普段付き合いがない親族が法律上の相続人になることもあります。

相続人の一人と連絡が取れない場合、遺産分割はどうすればよいのでしょうか。

今回は、まず確認しておきたいことと、相続手続きを進めるための基本的な考え方を整理します。


① 長年付き合いのない兄弟姉妹も相続人になる?

例えば、次のようなケースを考えてみます。

父が亡くなり、相続人は長男・次男・長女の3人です。母はすでに亡くなっています。

長男と長女は普段から連絡を取り合っていますが、次男とは20年以上交流がありません。

父が残した財産は、

  • 実家の土地と建物

  • 銀行預金

  • その他の財産

です。

長男と長女は、実家を長男が取得し、預貯金を分ける方向で考えています。

しかし、次男とは連絡が取れません。

この場合、長男と長女の2人だけで遺産分割協議を成立させることはできるのでしょうか。

原則として、できません。

次男も法律上の相続人だからです。

長年交流がなかったことや、相続手続きに協力してくれないことだけを理由に、その人を遺産分割協議から除外することはできません。


② 遺産分割協議には相続人全員の合意が必要

遺産分割協議とは、亡くなった方の財産を誰がどのように取得するのか、相続人の間で話し合って決めることです。

原則として、相続人全員の合意が必要になります。

例えば、相続人が3人いる場合、2人が賛成していても、残りの1人の意思を確認せずに協議を成立させることはできません。

また、次のような理由だけで、相続人の権利がなくなるわけでもありません。

  • 何十年も会っていない

  • 親の介護をしていなかった

  • 葬儀に参列しなかった

  • 親族間で仲が悪かった

  • 相続について何も連絡してこない

こうした事情があっても、相続人であることに変わりはありません。

ただし、有効な遺言書があり、その内容によって遺産分割協議をする必要がない場合などは別です。

そのため、最初に遺言書の有無も確認しておく必要があります。


③ 「連絡が取れない」にもいくつかのケースがある

ここで整理したいのが、連絡が取れない理由によって、必要な対応が異なるという点です。

大きく分けると、次の3つのケースが考えられます。

状況最初に考えること
住所も電話番号も分からない   戸籍などによる住所調査
住所は分かるが返事がない 書面による連絡や協議の進め方
長年行方不明で所在が分からない 不在者財産管理人などの制度

例えば、単に電話番号が分からない場合と、何十年も行方不明になっている場合とでは、事情が異なります。

また、住所は分かっているものの、相続手続きへの協力を拒否している場合もあります。

すべてを同じように考えるのではなく、現在どのような状況なのかを確認することが、手続きの第一歩になります。


④ まずは相続人を正確に確認する

連絡を取る前に確認しておきたいのが、そもそも誰が法律上の相続人なのかということです。

例えば、父が亡くなった場合でも、家族が把握している子どもだけが相続人とは限りません。

過去の婚姻関係や養子縁組などによって、家族が十分に把握していない相続人がいる可能性もあります。

そのため、一般的には、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍などを収集して相続関係を確認します。

また、相続人と思っていた方がすでに亡くなっている場合には、代襲相続や数次相続が発生していることもあります。

親族の記憶だけで相続人を判断せず、戸籍によって確認することが大切です。


⑤ 住所が分からない場合はどうする?

相続人であることは分かっていても、現在の住所が分からない場合があります。

例えば、

「弟が結婚して家を出てから、どこに住んでいるのか分からない」

というケースです。

このような場合、住所を調べるために利用される書類の一つが戸籍の附票です。

戸籍の附票には、その戸籍に在籍している方の住所の履歴などが記録されています。

相続手続きなどの正当な理由があり、法令上の請求要件を満たす場合には、必要な戸籍の附票などを取得できることがあります。

ただし、相続人だからといって、ほかの相続人の個人情報を無条件に取得できるわけではありません。

請求する目的や必要性などに応じて判断されます。

また、戸籍の附票から確認できた住所に、現在も本人が住んでいるとは限りません。

住所を調べることと、本人に連絡がつくことは別の問題です。


⑥ 住所が分かったら、いきなり遺産分割協議書を送る?

長年連絡を取っていなかった相続人の住所が分かった場合、最初から遺産分割協議書を送り、実印での押印や印鑑証明書の返送を求める方法は、慎重に考えたいところです。

受け取った相手からすると、

「何年も連絡がなかったのに、突然書類が届いた」

「何の財産があるのか分からない」

「自分の取り分はどうなっているのだろう?」

と戸惑うかもしれません。

まずは、相続が発生したことや、現在どのような手続きを考えているのかを説明する方がよい場合があります。

例えば、最初の手紙には次のような内容を盛り込むことが考えられます。

  • 誰がいつ亡くなったのか

  • 相続人として連絡している理由

  • 現在把握している相続財産の概要

  • これから必要になる手続き

  • 連絡を希望する場合の連絡先

相続人としての権利を尊重しながら、事情を説明することが大切です。


⑦ 相続人全員が集まらないと協議できない?

遺産分割協議というと、相続人全員が同じ場所に集まり、話し合わなければならないと思われることがあります。

しかし、必ずしも全員が一か所に集まる必要はありません。

遠方に住んでいる場合などには、電話や書面などで協議を進めることもできます。

協議内容について全員の合意が成立すれば、遺産分割協議書を郵送でやり取りする方法もあります。

例えば、相続人が3人いる場合に、それぞれが同じ内容の協議書に署名・押印する方法や、協議書を順番に回して署名・押印してもらう方法などが考えられます。

つまり、相続人同士が普段から交流していなくても、本人の意思が確認でき、必要な合意が得られれば、手続きを進められる場合があります。


⑧ 手紙を送っても返事がない場合は?

住所が分かり、手紙を送ったものの、返事がない場合もあります。

このとき注意したいのは、返事がないことを、遺産分割協議への同意と扱うことはできないという点です。

例えば、

「2週間以内に返事がなければ、こちらの案に同意したものとします」

と一方的に通知しても、それだけで遺産分割協議が成立するわけではありません。

また、長年連絡が取れないからといって、本人に無断で署名や押印をすることもできません。

まずは連絡した経緯を整理し、相続人本人に意思を確認する方法を考える必要があります。

それでも話し合いが進まない場合には、家庭裁判所での遺産分割調停などを検討することになります。


⑨ 本当に行方不明の場合は?

単に返事がないのではなく、住所や居所が分からず、長年にわたって行方不明になっている場合もあります。

このような場合に利用を検討できる制度の一つが、不在者財産管理人です。

これは、従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みのない方について、家庭裁判所が一定の要件のもとで財産管理人を選任する制度です。

不在者財産管理人は、家庭裁判所の必要な許可を得ることによって、不在者に代わって遺産分割協議に参加できる場合があります。

ただし、単に連絡が取れない、手紙の返事がないというだけで、直ちに不在者財産管理人を選任できるわけではありません。

本当に所在が分からないのか、調査を行う必要があります。

「返事をしない相続人」と「所在不明の相続人」は、区別して考えることが重要です。


⑩ 相続登記の期限にも注意したい

相続財産に不動産がある場合には、相続登記の義務化にも注意が必要です。

2024年4月1日から、相続登記が義務化されています。

相続によって不動産を取得したことを知った方は、原則として、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。

また、2024年4月1日より前に相続による取得を知っていた不動産で、相続登記が未了の場合には、原則として2027年3月31日までが期限です。

相続人との連絡が取れず、遺産分割協議がまとまらない場合でも、期限を意識しておく必要があります。

こうした場合には、相続人申告登記という制度もあります。

相続人申告登記は、一定の要件を満たす申出によって、申出をした相続人について相続登記の基本的な申請義務を履行できる制度です。

ただし、相続人申告登記だけで遺産分割が成立したり、不動産を希望する人の単独名義にできたりするわけではありません。

相続登記の期限への対応と、実際の遺産分割は分けて考える必要があります。


⑪ 最初に確認しておきたい5つのこと

相続人の一人と連絡が取れない場合には、次の5点を整理しておきたいところです。

1.誰が法律上の相続人なのか

戸籍によって正確に確認します。

2.遺言書は残されていないか

有効な遺言書がある場合には、遺産分割協議を必要としないこともあります。

3.連絡の取れない人の住所は分かっているか

住所が不明な場合と、住所は分かるものの返事がない場合とでは対応が異なります。

4.どのような相続財産があるのか

不動産だけでなく、預貯金や有価証券なども確認します。

5.手続きの期限はいつなのか

相続登記の義務化のほか、相続税申告などの期限が関係する場合もあります。

最初にこれらを整理しておくことで、何から取り組めばよいのかが見えてきます。


まとめ

相続人の一人と長年連絡を取っていない場合でも、相続手続きを進める方法を検討することはできます。

今回のポイントを整理すると、

  • 疎遠な兄弟姉妹でも、法律上の相続人になる場合がある

  • 遺産分割協議は、原則として相続人全員の合意が必要

  • まず戸籍で相続人を正確に確認する

  • 住所が分からない場合には、戸籍の附票などによる調査を検討する

  • 相続人全員が直接集まらなくても、遺産分割協議はできる

  • 手紙の返事がないことを同意と扱うことはできない

  • 本当に所在不明の場合には、不在者財産管理人などの制度がある

  • 不動産がある場合には、相続登記の期限にも注意する

ということになります。

相続人の一人と連絡が取れないからといって、すぐに手続きを諦める必要はありません。

ただし、状況によって利用できる方法は異なります。

住所が分からないのか、返事がないのか、それとも本当に行方不明なのか。

まずはその違いを確認し、相続関係と財産の内容を整理することが大切です。

相続手続きや相続人調査については、こちらのページでも紹介しています。

▶ 相続手続きについて(松岡司法書士事務所)

また、不動産の相続登記に関する具体例はこちらでも取り上げています。

▶ 相続人の一人と連絡が取れなかったら?不動産の名義変更はどうする?