2026年10月25日日曜日

相続放棄③ 亡くなった親の預金を使ったら相続放棄できない?

 


亡くなった親の預金を使ったら相続放棄できない?

親が亡くなった後、銀行口座からお金を引き出してしまった。

その後になって借金が見つかり、「相続放棄をしたいけど、もうできないの?」と心配になることがあります。

また、葬儀費用を亡くなった方の預金から支払った場合や、遺品整理をした場合はどうなるのでしょうか。

実は、相続放棄を考えているときには、亡くなった方の財産の扱いに注意が必要なんです。

今回は、相続放棄ができなくなる可能性のある行為についてご紹介します。


財産を処分すると相続放棄できなくなる?

民法では、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、原則として相続を承認したものとみなされます。

これを「法定単純承認」といいます。

少し難しい言葉ですが、簡単にいうと、相続するつもりで財産を処分したと評価されるような場合には、後から相続放棄をすることができなくなるということです。

例えば、亡くなった親の預金を引き出して、自分の生活費や買い物に使ってしまった場合です。

このような行為は、相続財産を自分のために使ったものとして、法定単純承認に該当する可能性が高くなります。

相続放棄を検討しているのであれば、安易に亡くなった方の財産を使わないことが大切です。


預金を引き出しただけでもダメ?

ここは少し注意が必要です。

亡くなった方の預金を引き出した場合でも、引き出したという事実だけで、必ず相続放棄ができなくなるとは限りません。

例えば、預金を引き出したものの、まったく使わず、亡くなった方の財産として区別して保管している場合です。

このような場合には、引き出した目的や保管状況などを含めて判断する必要があります。

一方、引き出したお金を自分のために使ってしまった場合には、問題になる可能性があります。

つまり、預金を引き出したかどうかだけではなく、その後どのように扱ったのかも重要になるんですね。

もっとも、相続放棄を考えているのであれば、そもそも預金の引出し自体を慎重に判断した方がよいでしょう。


葬儀費用を亡くなった方の預金から支払った場合は?

親が亡くなると、葬儀費用など、すぐにまとまったお金が必要になることがあります。

そのため、亡くなった方の預金を葬儀費用に充てることも考えられます。

では、その後に借金が見つかった場合、相続放棄はできないのでしょうか。

実は、葬儀費用については、社会的に相当な範囲の支出であれば、法定単純承認には当たらないと判断した裁判例があります。

葬儀は、亡くなった方を弔うための社会的な儀式であり、通常、一定の費用が必要になるからです。

ただし、葬儀費用なら、いくら使っても大丈夫というわけではありません。

支出した金額や内容、その他の事情によって判断が異なります。

また、葬儀費用以外の支出まで一緒に扱ってしまうと、問題が複雑になることもあります。

相続放棄を考えている場合には、葬儀費用についても慎重に対応したいところです。


亡くなった方の借金を返済した場合は?

亡くなった親のところに借金の請求書が届いた場合はどうでしょうか。

「早く支払わないといけないのでは?」と思うかもしれません。

しかし、相続放棄を検討しているのであれば、慌てて支払う必要があるのか、まず確認することが大切です。

特に、亡くなった方の預金から返済する場合には、相続財産を処分したことになるのかが問題になります。

一方、自分自身のお金から支払った場合には、亡くなった方の相続財産を処分したことにはならないため、通常、それだけで法定単純承認に該当するわけではありません。

ただし、そもそも相続放棄をするつもりであれば、自分のお金であっても、急いで返済する前に状況を確認した方がよいでしょう。

借金の請求書が届いたからといって、すぐに亡くなった方の預金から支払ってしまうのは避けたいところです。


遺品整理をしたら相続放棄できない?

親が亡くなった後、部屋を片付けたり、家具や衣類を整理したりすることもありますよね。

では、遺品整理をすると相続放棄ができなくなるのでしょうか。

これも、何をどのように扱ったのかによって異なります。

例えば、経済的な価値がほとんどない日用品を整理することと、価値のある貴金属や骨董品を売却して代金を受け取ることでは、事情が違います。

特に、高価な財産を売却したり、自分のものとして処分したりすると、法定単純承認に該当する可能性があります。

一方、相続財産の価値を維持するための保存行為は、原則として法定単純承認には当たりません。

ただし、何が保存行為に当たるのかは、個別の事情によって判断が必要です。

相続放棄を考えている間は、価値のありそうな遺品を勝手に売却したり、処分したりしない方が安心ですね。


すでにお金を使ってしまった場合は?

ここまで読んで、

「もう預金を引き出してしまった」

「葬儀費用に使ってしまった」

という方もいらっしゃるかもしれません。

でも、すでにお金を使っているからといって、必ず相続放棄ができないと決まるわけではありません。

大切なのは、どのような目的で、何に、いくら使ったのかということです。

例えば、葬儀費用として支払ったのであれば、その内容や金額を確認する必要があります。

領収書や請求書、通帳の記録などが残っていれば、支出の内容を説明する資料になります。

また、引き出した預金を使わずに保管しているのであれば、その保管状況なども重要になるでしょう。

相続放棄が可能かどうかは、個別の事情を踏まえて判断する必要があります。

なお、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理された場合でも、後から債権者などとの間で相続放棄の効力が争われる可能性はあります。

そのため、すでに財産を使ったり処分したりしている場合には、事実関係を正確に整理することが大切です。


相続放棄を考えている間は、まず財産を調べること

相続が発生すると、葬儀、役所への届出、銀行の手続き、住まいの片付けなど、やらなければならないことが次々と出てきます。

そんな中で、亡くなった方の借金まで調べるのは大変だと思います。

ただ、借金があるかもしれない場合には、財産を使ったり処分したりする前に、まず状況を確認することが重要です。

預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金や保証債務などがないかも確認したいところです。

そして、相続放棄をするかどうか判断できない場合には、前回ご紹介した熟慮期間の伸長という制度もあります。

相続放棄を考えているときは、「とりあえず使う」「とりあえず処分する」を避けること。

これが大切なんですね。


まとめ

亡くなった方の財産を処分すると、法定単純承認に該当し、相続放棄ができなくなる場合があります。

ただし、預金を引き出したことや、葬儀費用を支払ったことだけで、必ず相続放棄ができなくなるわけではありません。

何を、どのような目的で行ったのかによって、判断が異なります。

また、遺品整理についても、日用品の整理と価値のある財産の処分とでは、注意すべき点が違います。

相続放棄を考えている場合には、亡くなった方の財産を安易に使わず、まず財産や借金の状況を確認することが大切です。

次回は、「自分が相続放棄したら、兄弟姉妹に借金が移る?」をテーマに、相続放棄と相続人の順位についてご紹介します。