遺産分割協議書とは?いつ必要で、誰が作る?
「父が亡くなったけれど、遺産分割協議書を作らなければならないの?」
「兄弟で財産の分け方は決まっているけれど、書類が必要なの?」
「遺産分割協議書は自分たちでも作れる?」
相続手続きを進めると、「遺産分割協議書」という書類が必要になることがあります。
特に、不動産の相続登記や預貯金の解約・払戻しを行う際に、提出を求められることがあります。
しかし、すべての相続で遺産分割協議書が必要になるわけではありません。
また、作成する場合にも、相続人の範囲や財産の内容などを正確に確認しておく必要があります。
今回は、遺産分割協議書とはどのような書類なのか、いつ必要になるのか、誰が作成できるのかについて整理します。
① 遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、亡くなった方の財産を誰がどのように取得するのかについて、相続人などの間で合意した内容を書面にまとめたものです。
例えば、父が亡くなり、相続人が母・長男・長女の3人だったとします。
父が残した財産は、次のとおりです。
自宅の土地と建物
A銀行の普通預金
B信用金庫の定期預金
相続人3人で話し合い、
「自宅は母が取得する」
「A銀行の預金は長男が取得する」
「B信用金庫の預金は長女が取得する」
という内容で合意したとします。
この合意内容を書面にまとめたものが、遺産分割協議書です。
遺産分割協議書を作成することで、誰がどの財産を取得することになったのかを明確にできます。
また、不動産の相続登記や金融機関での相続手続きでも利用することができます。
② 遺産分割協議には相続人全員の合意が必要
遺産分割協議で重要なのは、原則として相続人全員の合意が必要になるということです。
例えば、父の相続人が母・長男・長女の3人だったとします。
母と長男が、
「自宅は母が取得しよう」
と合意していても、長女が協議に参加していなければ、原則として有効な遺産分割協議は成立しません。
また、次のような事情があっても、相続人を勝手に除外することはできません。
長年連絡を取っていない
遠方に住んでいる
亡くなった方の介護をしていなかった
葬儀に参加していなかった
財産を取得するつもりがないと言っている
法律上の相続人である以上、原則として遺産分割協議に参加する必要があります。
ただし、家庭裁判所で相続放棄をした方は、初めから相続人でなかったものとみなされます。
そのため、適法に相続放棄をした方は、通常、その相続についての遺産分割協議には参加しません。
また、相続人の中に未成年者や判断能力が十分でない方がいる場合などには、代理人の選任など、別の手続きが必要になることがあります。
③ 遺産分割協議書は必ず作らなければならない?
ここは、よく誤解されるところです。
相続が発生したからといって、必ず遺産分割協議書を作成しなければならないわけではありません。
例えば、次のような場合です。
【相続人が一人しかいない場合】
亡くなった方の相続人が一人だけであれば、ほかの相続人と財産の分け方を話し合う必要はありません。
そのため、通常は遺産分割協議書を作成する必要はありません。
【有効な遺言書によって財産の取得者が決まっている場合】
例えば、
「自宅の土地建物は長男に相続させる」
という有効な遺言書がある場合です。
その不動産について、遺言の内容に従って相続登記を行うのであれば、原則として遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、遺言書に記載されていない財産がある場合や、遺言の内容によっては、別途遺産分割協議が必要になることがあります。
【法定相続分のとおりに相続登記する場合】
不動産について、法律で定められた法定相続分のとおりに共有名義で相続登記する場合には、通常、遺産分割協議書は必要ありません。
ただし、法定相続分で共有登記をすることが、将来の管理や売却にとって適切かどうかは別の問題です。
【金融機関所定の書類で手続きできる場合】
預貯金の相続手続きでは、金融機関所定の相続届などに相続人全員が必要な署名・押印をすることで、別途遺産分割協議書を作成せずに手続きできる場合があります。
このように、必要性は相続の内容によって異なります。
④ どんなときに遺産分割協議書が必要になる?
遺産分割協議書が必要になる代表的な場面を考えてみましょう。
1.不動産を特定の相続人の名義にする場合
例えば、父名義の自宅を母の単独名義に変更したい場合です。
相続人全員で母が取得することに合意したときには、その内容を記載した遺産分割協議書を作成し、相続登記に利用します。
2.預貯金を特定の相続人が取得する場合
例えば、A銀行の預金は長男、B銀行の預金は長女が取得すると決めた場合です。
金融機関によっては、その内容を確認するために遺産分割協議書の提出を求めます。
3.複数の財産をまとめて分割する場合
例えば、不動産、預貯金、株式などがある場合です。
どの相続人がどの財産を取得するのかを一つの協議書にまとめておけば、相続財産全体の分け方を明確にできます。
4.相続人の一人が財産を取得し、ほかの相続人に代償金を支払う場合
例えば、長男が自宅を取得する代わりに、長女へ500万円を支払う場合です。
このような分割方法を「代償分割」といいます。
代償金の金額や支払方法などについても、遺産分割協議書に明確に定めておくことが重要です。
⑤ 遺産分割協議書には何を書く?
遺産分割協議書には、一般的に次のような内容を記載します。
亡くなった方の氏名
亡くなった年月日
相続人全員で遺産分割協議を行ったこと
誰がどの財産を取得するのか
協議に参加した方の住所・氏名
協議書の作成日など
特に重要なのは、財産と取得者を明確にすることです。
例えば、不動産の場合には、単に「父の自宅」と記載するだけでは、登記手続きに利用するうえで不十分なことがあります。
土地であれば所在・地番・地目・地積、建物であれば所在・家屋番号・種類・構造・床面積など、登記記録に基づいて正確に表示する方法があります。
また、預貯金の場合には、金融機関名・支店名・預金種別・口座番号などを記載することが考えられます。
財産を特定できない記載になっていると、金融機関や法務局で追加の確認が必要になる場合があります。
⑥ 遺産分割協議書には実印が必要?
遺産分割協議書を作成する際には、一般的に相続人全員が署名または記名し、実印で押印します。
また、不動産の相続登記では、原則として遺産分割協議書に押印した方の印鑑証明書が必要になります。
例えば、母・長男・長女の3人で遺産分割協議を成立させた場合です。
協議書には、3人の氏名などを記載し、それぞれ実印を押印します。
ただし、協議書の作成方法によっては、相続人全員が同じ1通の書面に押印するのではなく、同じ内容の書面をそれぞれ作成して押印する方法もあります。
なお、遺産分割協議そのものは、法律上、必ず書面で行わなければ成立しないというものではありません。
しかし、不動産の相続登記や預貯金の相続手続きで合意内容を証明するためには、書面を作成しておくことが重要です。
また、金融機関によっては、印鑑証明書の発行日について独自の条件を設けている場合があります。
協議の成立と、その内容を証明するための書類の要件は、区別して考える必要があります。
⑦ 遺産分割協議書は自分たちでも作れる?
遺産分割協議書は、必ず専門家に作成してもらわなければならないわけではありません。
相続人自身で作成することもできます。
また、手書きでなければならないという決まりもなく、パソコンで作成することもできます。
例えば、相続人が2人で、財産が自宅と預貯金だけの場合です。
相続人の間で財産の分け方が決まっており、必要な情報を正確に確認できれば、自分たちで協議書を作成することも考えられます。
ただし、次のような場合には注意が必要です。
相続人が多数いる
亡くなった方の相続登記が長年放置されている
相続人の一人がすでに亡くなっている
不動産が複数ある
代償分割を行う
海外に住んでいる相続人がいる
協議後に見つかった財産の取扱いも決めておきたい
こうした場合には、相続関係や財産の内容に応じた記載が必要になります。
⑧ 司法書士に遺産分割協議書の作成を依頼できる?
相続登記に必要な遺産分割協議書などの書類については、司法書士に作成を依頼することができます。
例えば、
「父名義の自宅を長男の名義に変更したい」
「相続人全員で取得者は決まっているが、登記に使う協議書の書き方が分からない」
という場合です。
このようなときには、戸籍による相続人の確認や不動産の登記記録の確認などを行い、合意内容に沿った書類を作成する方法があります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
司法書士が遺産分割協議書を作成できることと、相続人の代理人として遺産分割の交渉を行えることは別です。
例えば、
「兄が自宅を取得することに反対しているので、説得してほしい」
「ほかの相続人に相続分を譲るよう交渉してほしい」
といった紛争に関する代理交渉は、原則として司法書士の業務範囲外です。
このような場合には、弁護士への相談を検討する必要があります。
⑨ 遺産分割協議書を作る前に確認したいこと
遺産分割協議書の作成前には、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
1.相続人は全員確認できているか
亡くなった方の出生から死亡までの戸籍などを収集し、相続人を確認します。
2.遺言書は残されていないか
有効な遺言書がある場合には、通常の遺産分割協議とは異なる手続きになることがあります。
3.どのような相続財産があるか
不動産や預貯金、有価証券などを確認します。
4.財産を誰が取得するか決まっているか
相続人全員の合意内容を整理します。
5.相続人の中に特別な手続きが必要な方はいないか
未成年者や判断能力に問題のある方、行方不明者などがいる場合には、代理人の選任などが必要になることがあります。
6.相続税や相続登記の期限に問題はないか
遺産分割協議に時間がかかる場合でも、別の手続きの期限が進んでいることがあります。
例えば、不動産の相続登記は2024年4月1日から義務化されています。
また、相続税の申告が必要な場合には、遺産分割が終わっていなくても、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告する必要があります。
協議書を作成することだけに気を取られず、相続手続き全体の期限にも注意しておきたいところです。
⑩ 遺産分割協議書は一度作れば何にでも使える?
遺産分割協議書は、不動産の相続登記や預貯金の相続手続きなど、さまざまな場面で利用できます。
しかし、一つ作成すれば、どのような手続きにも必ず使えるというわけではありません。
例えば、不動産の記載が不正確であれば、相続登記に利用できない場合があります。
また、金融機関によっては、遺産分割協議書とは別に、所定の相続届や払戻請求書などが必要です。
さらに、協議書に記載されていない財産が後から見つかった場合には、その財産について改めて協議が必要になることもあります。
そのため、協議書を作成するときには、何の手続きに利用するのか、どの財産について合意するのかを確認しておくことが大切です。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人などが財産の分け方について合意した内容を記録する書類です。
今回のポイントを整理すると、
遺産分割協議書は、誰がどの財産を取得するのかを明確にする書類
遺産分割協議には、原則として相続人全員の合意が必要
すべての相続で遺産分割協議書が必要になるわけではない
不動産の相続登記や預貯金の相続手続きで必要になることがある
財産と取得者を正確に記載することが重要
相続登記に利用する場合は、原則として実印の押印や印鑑証明書が必要
相続人自身で作成することもできる
相続登記に必要な協議書などの書類作成は、司法書士に依頼できる
紛争がある場合には、弁護士への相談が必要になることがある
ということになります。
遺産分割協議書は、単に相続人全員が名前を書いて印鑑を押せばよいというものではありません。
誰が相続人になるのか、どのような財産があるのか、誰が何を取得するのかを正確に整理することが重要です。
また、作成した協議書は、不動産の相続登記や預貯金の相続手続きなどに利用することがあります。
後から手続きが進められなくなることのないよう、相続の内容に合った遺産分割協議書を作成しておきたいところです。
相続登記や遺産分割協議書の作成については、こちらのページでも紹介しています。
